第15話 惑星カオス


 「な!つ!ビ!ン!ゴ!キャンプたのしかったね!」

といつにもまして元気な羽村さん。私の瞳の中をまっすぐに見つめて、キラキラした目をさらにキラキラさせています。

 「うん、楽しかったね!瑠々ちゃんが一番楽しんでそうだったけど…」と思わず笑みがこぼれます。

 

 「たしかに!瑠々の食べっぷりはやっぱりすごいね…、でもおかげで私たちもカロリーは減ったし…多分…。」と羽村さん。

 「多分…ね…。」と私。どよーん。マシュマロ食べすぎちゃったなあ…。


 「おー!二人ともどうしたの、キャンプ翌日で疲れてる?表情暗いよ?」

瑠々ちゃんが気配もなく急に話しかけてきました。

 「い、いや別に…?」


 制服からのぞく、か細くて筋肉質な腕。スカートの下ではお人形さんの脚。

ため息が出ます。

 羽村さんが私をのぞき込んで、

 「ねぇ…?」とニヤリ。

 「ねぇ…?」私も返すと、


 「え?なにそれー!絶対なんか隠してるじゃんもうー…!」とむくれる瑠々ちゃん。

 「教えてよー!ずーるーい!」と駄々をこねます。


 「教えなーい!ね、冬井さーん?」となんだかルンルンな羽村さん。

 「う、うん、そうしよっか。」と私がかえすと、わざと二人でヒヒヒ…と笑いました。


 「いいもんね!私と冬井さんだって、ねぇ。」と瑠々ちゃん。

瑠々ちゃんのいじわる…、私と相合傘で帰ったことを秘密にしているのは私…

あれ、これ…


 「え?なになに!ういねも知りたい!」と羽村さん。

私をわくわく顔で見つめます。

 「ん…んと…」と動揺する私。こういうときは平気な顔をしないと、と思うほどの暗さは、二人の光の眩しさに照らされて、すっかり負けてしまいます、いつも。


「ごめんごめん、嘘。ちょっと反撃したくなっただけー。」と瑠々ちゃん。

「なんだー、、、ういねすっかり何かあるのかと…。」と肩を落とす羽村さん。


 私と瑠々ちゃんの秘密は本当に気になるのかな、ただの興味なのかな。

きっとそうだよね、だけど…。


 「羽村ー、ちょっと手伝ってくれー。」と唐突に先生が教室から顔を出しました。

 「はーい」、と教室に戻っていく羽村さん。


 瑠々ちゃんと私二人だけが廊下に取り残されました。


 瑠々ちゃんは、伏し目がちに、ぽつり、と話し始めました。

 「さっきはさ…あの、ごめんね。」

 「わ、私は別に大丈夫だよ…。」と私。瑠々ちゃんが結局、オチをつけてドラマからコントにしてくれたのですから。

 

 「ノリだったとはいえ、私から言っちゃった。やっぱり口軽いのかな、私。」

 そんなことない、と喉まで出かかったとき、

瑠々ちゃんはその手を私の耳に当てて、小さな声で囁きました。

 「でも優妃ちゃんだけは、話さないでいてくれると思ったから。」


耳にかかる息とその冷たい指に、何が宿っているのか、その言葉の意味はどういう…、でも訊くのは違う気がしました。

きっと瑠々ちゃんには瑠々ちゃんの…


 「もちろんです!」と胸を張る私。

 少し明るくなった瑠々ちゃんの表情。

 「さっすがー!」と瑠々ちゃん。


 廊下のみんながこっちを見てびっくりしていました。

 「ちょっと瑠々ちゃん、声おっきいよ!」と私がいうと、照れくさそうに笑いました。


 「羽村、悪いな、ありがとうなー。」と先生。

 「先生、羽村ちゃんを独占しててずるーい!」とヤジが飛ぶ廊下。

先生は苦い顔をしながら、

 「お前ら、社会科で羽村の独占禁止法でも習ったのか?」

と皮肉を返すと、廊下のみんなが笑いました。

 

 「じゃあ私たち、捕まっちゃうのかな、」と笑顔のまま瑠々ちゃんがこっちを見て笑います。

 「たしかに、かもね。」と私も笑いました。


 渦中の羽村さんは、少しぽかーんとしながら、でもつられて苦笑いしていました。


チャイムが鳴って、あっという間の昼休みが終わりました。


その後特に何もなく、一日は過ぎて、お家へ帰りました。 


ちょっと前までは、こんな風に廊下で他の子とお話することもなかったハズなのに、羽村さんが来てからというもの、瑠々ちゃんとも仲良く(きっと)なれたし、

たしかに独占禁止法、なのかな。


羽村さんは、ずっとみんなを照らす太陽であるべき、なのかな、そうだよね…。


太陽は、誰かのものになっちゃいけないもんね。


クマのぬいぐるみは、何も答えてくれません。


 「優妃ー、ご飯できたぞー。」とお父さんが部屋をノックします。


はーい、と返事をしてもずっと、頭の中は色々なごちゃまぜカオスでした。


四人で食卓を囲みます。


 「優二、彼女できたんだってー?」と八つ当たり。たまにはお姉ちゃんも反撃しないと、なんて言い訳していいわけない、ですが。

 「は?し、しらねーし、何?ねーちゃんどうした?え?」

と、分かりやすく動揺する優二。

 しめしめ、私だってやればできるんだぞ、弟よ。


 「嘘。冗談。ただ訊いてみただけだよー。」と、瑠々ちゃんのマネ。

 「優妃が珍しいな、なんかあったか?あったらなんでも父さんに…。」

 「お父さん、だから女の子は色々ね…。」

いつも通りの流れです。


いつも通り、そういつも通りがずっと続くのが、きっと幸せなのでしょう。

でもどこかにもっと幸せが、なんて探している私もいるのです。


つづきます

 

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