第14話 群青と快晴
あっという間に日曜日です。
天気は快晴。
ずうっと考えていたのは服装についてです。
お気に入りの白のブラウスはきっと、汚れてしまうし、かといってラフすぎても似合わないかな…と逡巡するうちに、週末急行はあっという間に金曜日と土曜日を通過してもう当日です。
結局、地味めの色のパーカーに、長めのスカートという構成になりました。
こういうシンプルな服装でもかわいいとか思われたいとかいう気持ちは、タンスにうまく仕舞えたハズです。
優二は、普段被らない帽子なんか被って、Tシャツ短パン姿です。
それも、本人がいわゆる勝負時、に着るようなシャツです。
そんなバレバレな優二を後目に、お父さんの車は出発します。
「優妃、優二、忘れ物ないかー。」とお父さん。
はーい、と私たちが返すと、微笑んで車のエンジンをスタートさせます。
優二は助手席に、私は後部座席の一番左に乗ります。
「ここ、でいいかな。」
お父さんが車を止めると、瑠々ちゃんの家の前で、羽村さんと瑠々ちゃんが二人で待っていました。
ウインドウを開けて、私が顔を出すと、二人はすぐに気付いて、
「おはよー!冬井さん!」「優妃ちゃん、おはよー。」
と言うので、
「待たせてごめんね。」と返します。
遅れた理由が服装に悩んでいたからなんて言えません。
いっぽう、二人の服装はというと、
羽村さんは、キャップを被って、Gジャンを羽織っています。下は、長めのスカート。いわゆる甘辛コーデというやつです。私服も素敵です…。
瑠々ちゃんは、ぴちっとしたTシャツに、長めのボトムスです。細い、細すぎる…
二人とも、「らしい」服装にくすっ、ときました。
二人がお父さんと優二に挨拶をして、車に乗り込みます、
私はいったん降りて、二人が乗った後部座席は、
左から、私、羽村さん、瑠々ちゃん となりました。
今日の羽村さんは、なんだか甘い香りがします。
瑠々ちゃんは瑠々ちゃんで、髪を巻き巻きにして、さながらパーマのごとくセットしています。すごい。私はいつもの通り、ストレートです。
まっすぐすぎる髪がたまにいやになるくらいストレートヘアなのです。
「じゃ、ここに止めるか。」独り言のように、お父さんがつぶやきます。
お父さんが車を駐車場に止めて、川のキャンプ場に着きました。
「こんな近くにこんな大きい川あったの!?」と驚く羽村さん。
確かに、車で少し走っただけの場所です。
瑠々ちゃんと私はそんな羽村さんの無邪気な姿を見て、思わず吹き出しました。
「もー、なんで笑うの!」と膨らませる頬に、帽子のつばが影を落とします。
お父さんが網台の設置をしてくれていました。
その間、私たち(優二も)は、川に向かって石を投げて何回跳ねるか、なんて遊んでいました。
私はゼロ回。
「ねーちゃん…。」と、いつもなら何かイヤミでも言いそうな優二が今日はニヤニヤと笑っていました。
「ま、まあ体調とかさ、あるよね。」とフォロー?する羽村さん。
「いや、石とかの問題だよ、羽村ちゃん…」と冷静にツッコむ瑠々ちゃん。
そして瑠々ちゃん。
瑠々ちゃんもゼロ回でした。
私と瑠々ちゃんは顔を見合わせて、ゼロ回同盟でも結成しようか…と話しました。
そうして優二、期待の中学二年生です。
ゲームで鍛えた筋肉?でどこまでいけるのか!
記録…3回。
年下に負けちゃったよ、オロローン…。
優二は何も言わず、ドヤ顔をして私たちの元に帰ってきます。
さてもさても我らが高校生チーム最後の希望、羽村さん。
「羽村さん!負けないで!」 「羽村ちゃん!高校生の誇りを見せてやって!」
「よーし!」と張り切って振りかぶる羽村さん。
「おーい、準備できたよー。」と遠くからお父さんの声。
羽村さんはパッと後ろを振り返って、石を持ったまま走って行きます。
「羽村さん!」「石、石!」と私と瑠々ちゃんが言うまで気付いていない様子でした。
石投げは優二の優勝でした。悔しいけれど仕方ありません。
「で、玉ねぎ、ウインナー、あと牛肉、それとトウモロコシ。あとピーマン。」
ピーマン、と言うとき、わざと優二の顔を見るお父さんは、少しイジワルです。
いつもナポリタンが出るとピーマンだけ残す優二。
「あ、あの!」と瑠々ちゃん。
他の三人が振り返って、瑠々ちゃんの大きな目を見つめます。
瑠々ちゃんの手には、大量のマシュマロ…!
さすが夏のビンゴを提案しただけあります、そして瑠々ちゃんが持つとすごく大きく見えます…、いいえ、そもそも、見ると某スーパーの何キロもある物でした。大きいはずです。
「た、食べられるの…、」とお父さんが流石に心配そうに尋ねます。
そうだよねお父さん…私も、羽村さんでさえも、瑠々ちゃんの食べっぷりには度肝を抜いたんだから…。
「もちろんです!」と得意げな瑠々ちゃん。流石の自信です。
「それじゃ。そろそろ焼いていくかな、」とお父さん。
ウェットティッシュで手を拭いて、ワクワクで待っています。
「じゃあ…、」と瑠々ちゃん。
「マシュマロは最後でしょ!」と私と羽村さんのツッコミが同時になって、三人で笑いました。
「俺は、別にマシュマロでもいいけど。」と優二。
甘いのがまだ好きなのです。それか、瑠々ちゃんへのその不器用なやさしさか。お姉ちゃんはイジワルして尋たりしません。お父さんや優二と違って。笑
「はい、火傷しないようにね。」
と取り分けるお父さん。さすが料理の腕は一流?です。
テーブルに並べられたオレンジジュース、ウーロン茶、そしてコーラ。
ちなみにコーラは瑠々ちゃんが買ってきてくれたものです。
ごくごく、とコーラを飲み干す瑠々ちゃん。
「ぷはー…!生き返る!」
「なんかビールのCMみたい!」「瑠々、雑誌の次はCM!?」
二人で囃し立てると、「狙っちゃおうかな」と言って得意げに微笑む瑠々ちゃん。
取り皿のお肉を、もぐもぐと食べていると、
優二がピーマンを食べています、激レアシーンです。
その横で、羽村さんは何やら気まずそうな顔をしています。
「羽村ちゃん、どったの?」
と瑠々ちゃんが明るく尋ねると、
「ういね、実はあんまりピーマン食べられないの…。」
との告白。優二に子供っぽいとか思っていてごめんね、羽村さん。
なんでも明け透け言える羽村さんが言い出せなかったのは、私のお父さんがせっかく用意してくれたからでしょう。
「実はぼ、僕もなんですよね…。」と優二。
羽村さんの正直さに負けて、もう噓はつけない、と思ったのか、はたまた何なのか。
「だよね!優二くん分かる~!」と目を輝かせて優二にとっておきの笑顔を向ける羽村さん。
ピーマン、私も嫌いだったらよかったな…と思いながら、もぐもぐ、とその苦みを嚙み締めます。
瑠々ちゃんは瑠々ちゃんで、お父さんが用意した具材をどんどんと食べています。
「さーて、焼きマシュマロタイムでございますー!」と司会をする瑠々ちゃん。
マジシャンみたいに焼き方を教えてくれます。
「おおー。」と私たち。お父さんまで関心する焼き加減です。
「はじめて食べたかも。」と羽村さん。
「なんか別のお菓子みたい!」とはしゃいでいます。笑顔で首をかしげて、帽子からポニーテールが揺れます。
マシュマロの焼ける匂いと、羽村さんのなんだか甘い香りが混ざった風がさわやかに吹き抜けます。
「あれ、もうなくなっちゃった。」と瑠々ちゃん。
瑠々ちゃんがバーベキューの具材をほとんど食べてしまったので、皆マシュマロを食べきってしまったのです。
お父さんは、焦がしてしまった肉を、黙って食べていました。
「それじゃ、お父さん後片付けするから。」
と、すっかりお腹いっぱいになった私たち(瑠々ちゃんはどうかな…)
は、ふたたび、川べりに来たのでした。
「さっきの続き!しようよ!」と瑠々ちゃん。
あれだけ食べたのにまだまだ元気です。
「よーし!」と意気込む羽村さん。
そっぽを向きながら黙って、多分負けたくない優二。
振りかぶる羽村さん。
サイドスローの姿勢から繰り出されるその石。
ちょん、ちょん、ちょん、ちょん、ちょん。
5回!
圧倒的大逆転!高校生チームの逆転満塁ホームランです!
「ふふーん。」と鼻の下をこする羽村さん。
「実はういね、香川にいたときよくやってたんだよ!」とのこと。
もー、なんで黙ってたの!と笑う瑠々ちゃん。
ゼロ回の私と瑠々ちゃんからすれば、もうその才能が面白くて仕方ありませんでした。
負けた優二は悔しさは見せませんでした。
格好悪いと思ったのでしょうか。
それとも、なにか別の理由が、いやないか。
「そろそろ行くよー。」
とお父さん。黄昏に染まる川は、橙色に反射して、とても美しいです。
昔の人が、川で沢山詩を詠んだのも分かる気がしました。
車に乗り込んで、三人で話します。
「優二くん、寝ちゃったね、」と羽村さん。
「ほんと子供っぽいよね、さっきオレンジジュース飲み過ぎたのかな。」と私。
「でもさ、優二くん、いい子だよね。」と瑠々ちゃんが呟きます。
「え!もしかして瑠々…。」と羽村さん。口をあんぐりして驚いています。
下を向いているけれど私も驚いています。
「いやいや!そういう意味じゃない。笑」と瑠々ちゃん。
なあんだ、と言った顔の後部座席二人。
優二、本当に寝ていますように。いろいろな意味で。
「羽村さん、うちまで送ろうか。」とお父さん。
「いえ、瑠々の家、近所なので、一緒で大丈夫です。」と羽村さん。
近所なんだ…。うすうす、感づいてはいたものの、そんなに近いのかな。
瑠々ちゃんの玄関のライトが見えてきたとき、唐突に、
「夏ビンゴ一つ目、大成功だね!」と瑠々ちゃんがピースサインをして言いました。
「イエーイ!」と例のごとく、私と羽村さんもピースを返します。
「今日はありがとうございました。」と二人がお父さんにお礼を言って、車を降りました。
そういえば、羽村さんの香りに気づいたのって隣に座ったから…?
それともいつも学校では付けていない香水?
そんなことを考えながら車に揺られていると、私も眠ってしまいました。
どうやらまだまだ、私だって子供のようです。
夏のビンゴ、真ん中のマスが空きました。
つづきます
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