第12話 こたえあわせ
ストーカー、いえ見守り隊の調査が終わった次の日。
チャイムが鳴って、お昼を食べようとしたとき、
「羽村ちゃ~ん!優妃ちゃん!」と瑠々ちゃんがいつになく元気な声で私たちを呼びました。羽村さんはキョトンとした表情です。
「瑠々どうしたのー。お昼に来るなんて珍しいじゃん。」と羽村さんはいつもの羽村さんです。何も知らない、純粋な羽村さん。
「購買一緒に行こうと、思ってさ。」瑠々ちゃん、完全にあやしい喋り方です。
瑠々ちゃんはこういう嘘が下手です。すぐに分かります。
「そ、そうだね!」と元気に応える私も、どうやらこういう嘘は下手みたいです。
階段を降りて購買へ向かう途中、先導する瑠々ちゃんが、急に羽村さんの方を振り返って言いました、
「あの…さ。」
羽村さんは首を小さくかしげました。
「なあに瑠々。」
「き、昨日、見たんだよね、ファミレス入っていくの。たまたま、本当たまたまなんだけどね。」バレバレの嘘が少しキュートな瑠々ちゃん。
「わ、私も一緒に帰ってたから見た!」と偶然を装って応えます。
「あ、あー…。」と羽村さん、肩を少し落として、ふっと笑います。
「アルバイトしてるんだ、あのお店で。」
やっぱり。転校してきたあの日にみた女の子は、羽村さんに違いありませんでした。
「で、でも見たことないかも。」と私。これはセーフですよね…。
「あ!キッチンの方だから、見えないと思う!」と羽村さん。
瑠々ちゃんと私は、目を見合わせて、笑いました。なあんだそういうことか。
「え、ういね何か変なこと言った!?」と私と瑠々ちゃんを交互に見やる羽村さん。ちょっとイジワルをして、私たちは私たちの秘密を優先しました。
羽村さん曰く、
隠していたのではなく、なんとなく恥ずかしかった、とのことです。
「でももったいないよね。」へ、瑠々ちゃん何を…。
「もったいないなあ。」と繰り返す瑠々ちゃん。
「ほんとうもったいない。」と羽村さんのことを凝視しながら言いました。
あ、そういうことか…確かに羽村さんが「いらっしゃいませー!」とか言っていたらすごく元気がもらえそうです。それに、あの、えっと、ね、なんていうか、ね。
「え、え、何何もったいないお化け?」とおどける羽村さん。
「何それー。」と言う瑠々ちゃんに、笑ってごまかす羽村さん。
この2人の会話はなんか長年連れ添った…あれ?なんかおかしいな。考えないように、大きく笑いました。
「え、瑠々ちゃん…。」「瑠々…。」
「ん?どうしたの?」
レジにはデジタル表示で\1000と出ていました。
「瑠々、まさかそれお昼ごはんじゃないよね。」と眉をひそめる羽村さん。
まったく同じ疑問を抱えて、私も瑠々ちゃんを見つめました。
「さすがに食べきれないよー。休み時間に食べる用と、お昼ごはん用。」
「なあんだ、それなら良かっ…食べ過ぎだよ瑠々!」と羽村さん。
「へへへー。」とにっこり笑う瑠々ちゃん。私も笑いました。
「じゃあねー。」と自分の教室に戻っていく瑠々ちゃん。
羽村さんと二人になるのは、まだあまり慣れません。瑠々ちゃんがいないと、上手く言葉も出てきません。
「瑠々ってあんなに食べる子だっけ…。」と上を向きながら独り言のように、羽村さんが言いました。
「この前遊んだ時はあんなに食べてなかったような…。」
羽村さん、瑠々ちゃんの食欲をご存じでない…?もうとっくの昔に知っていると思っていました。
「あ、あんなに細いのにね…。」と私も独り言のように呟くと、
「だよねー。」と羽村さんが小さくため息を吐きました。
私も、はあっ、と小さなため息を吐きました。
そうして、顔を見合わせて二人で力なく笑いました。
瑠々ちゃんだって、謎が多い女の子だなあ、いやもしかすると羽村さんよりもずっと、謎が多いかもしれないな…。
夕食の支度を手伝っていると、今日は部屋ではなくリビングで携帯ゲームをしている優二が、「あれ、ねーちゃんちょっと太った?」と笑いながら訊いてきました。
お父さんが「こら、優二。」と言って止めました。
お、お父さん嘘でもそこは「そんなことない」とか言ってよ…。
瑠々ちゃんのスリムボディを思い出して、息を大きく吸って今日一番大きなため息をつきました。なんだか少し笑えてきました。
「あれ、ねーちゃんだけ取り皿小さくない?」
我が弟よ、気付いてくれるな…。まったく、こんな優二に彼女さんがいるなんて、まだ信じられません。
今度は無視をして、黙食につとめました。
つづきます
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