第4話  アップデート

 あの事件(?)があってから、羽村さんと私はたまに話す仲になった。

近くで見る羽村さんはとっても肌が白くて、向こう側が見えそうです。

「聞いてる?」つい見とれてしまう癖は、やっぱり簡単には直りそうもありません。

「うん、ちょっと考え事しててね。」と繕うことしか出来ません。私のバカ。


 「それでね、この子が…。」雑誌を指さす羽村さん。今まで読んでこなかった雑誌に私は、驚くことばかりでした。帰りにこっそり同じのを買おうかな。借りる…。のはなんか照れるし。


 「羽村ちゃーん!」他のクラスの子に呼ばれる羽村さん。「行ってくるね、」と雑誌を置いたまま、行ってしまいました。最近、羽村さんは「イケメン」「心が優男」と皆にバレてしまって、大人気なのです。

 クラス内外を問わず、ファンは沢山います。羽村さんが置いていった雑誌を見て、驚きました。たった今、羽村さんと話している女の子が、載っているのです。

 

 口をぽかん、と開けてその子のことを見ていると、その子は私に気付いたみたいで、目が合いました。だけれどその子の目力に気圧されて、私は視線をまた、雑誌に落としました。今度は雑誌の上のあの子と目が合いました。二戦二敗。また目をそらしました。


 「じゃ、次移動だからまたねー。」と言いながらその子は廊下に消えて行って、羽村さんは席に戻ってきました。「ここ!今の子載ってるでしょ!ほら!」と指をさす羽村さん。


 載っていた女の子は、ザ・女の子といった感じでした。ふわりと巻かれたグレージュのロングヘアに、お人形さんみたいにくるくる丸い目。丸顔。可愛いを濃縮したようでした。そして、ホットパンツから伸びるすらりとした脚。

 「も、モデルさんなの!?」と訊くと、「違う違う!この前一緒に渋谷歩いてたらさ、瑠々だけ、あ、この子の名前ね。カメラマンさんに声かけられてさー。」

 私だったら、羽村さんを撮ってただろうな、という言葉は飲みこんで。

 「スカウトみたいな感じ?すごいよねー。」と言う羽村さんの声は、嫉妬だとか、そういう感情には聞こえませんでした。


 ただ、嫉妬をしていたのは、私の方だけでした。

(いや、よく考えたら二人で渋谷!?あれだよね、デートですよね、もうそれ!)

 話しているだけで満足している自分。でも羽村さんは誰かのものになってしまったら…、そもそも私のものでもないけれど。

 

 曲の歌詞を思い出しました。

君の恋人になる人は きっと モデルみたいな人なんだろう


 そのまんまになったらどうしよう!私は気持ちをなるべく抑えて、

 「スゴイネー。カワイイネー。」と言いました。もう機械です。

 「やっぱり冬井さん、今日ちょっと変だよ。」と笑う羽村さんのえくぼに、私のいらない感情が、少し吸い込まれた気がしました。


 ライバル、登場?いや私は何なんだ??もう、哲学です。


 その日はなんだか一日中ぼうっとしてしまって、気付くと学校が終わって、雑誌を買うのも忘れて、いや多分、忘れようとして忘れて、家に帰ってきました。


 「ただいまー。」と私。「おかえりなさい。」とお母さん。

弟はずっと、ヘッドフォンで誰かとあーだこーだ言いながらゲームをしています。

いつもの光景。日常。

そうだ、何も変わっていないんだ、だから落ち込まずに…いやあんまり落ち込みすぎずに…がんばれ私。


 ご飯を食べて、お風呂に入っていると、弟がノックしてきました。

「ねーちゃんまだー?、新モンスター出て忙しいからはやくー。」


 新モンスター、登場。

なんだかその偶然に笑ってしまいました。

「なに笑ってんだよー。」と弟。


 お姉ちゃんも、頑張らなきゃな。


つづきます


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る