新約・チョコレート戦争

@santiao

第一話

チョコレッタ六世參篠の野望


「宇宙一美味しいチョコレートを作る」


その為には人という生物の感情とやらが必要らしい。

參篠は自らチョコレッタの座を手放し,人となって


「チョコレート パティシエ」


として世界に降り立った。

その世界こそ

新耕・第千七百十八世界

だった

そこには人間がたくさんいたが,參篠はなるべく自分で

感情を作り出そうとした。

一番簡単に手に入ったのは

喜びのエッセンス

彼は全てのことに感謝し,

全てのことに対して喜んだ。

怒り

妬み

苦しみ

と,彼は順に手に入れたが

簡単なのはここまでだった

幸せ

悲しみ

このふたつがどうしても手に入らない。

彼は人を蹴落とすことで自ら

幸せ

のエッセンスを創り出し,

人を傷つけることで他人から悲しみ

のエッセンスを奪った。

材料を揃えた彼は早速

チョコレートを作り

周りの人間に食べさせた。

人間からは好評だった

そこで旧チョコレッタ五世に作ったチョコレートを

献上すると

「こんなものは

チョコレートではない」

と一蹴され,參篠は再び人間界に送り返された。

その旧チョコレッタ五世こそ

後の第二十二区宇宙統制局長官・蛟籠であった。



その頃チョコレッタ星は隣のエスキュレネル星との対外戦争の真っ只中だった。

チョコレッタ七世・懺註はまだ幼かったが,

一星の棟梁としての責任があった。

六世參篠は自らの夢を追って遠い星に行ってしまったので

懺註が頼れるのは旧五世蛟籠だけだった。


蛟籠はサラメプナ星の成立に貢献したこともあり,

サラメプナ棟梁・サラフィーユ二世と仲が良かったので,対エスキュレネルでの共闘を打診した。

だが,蛟籠の予想に反し,簡単には承諾を得ることはできなかった。

というのも,サラメプナは

最近成立したばかりで

その前に星を治めていた親エスキュレネルの

旧ロビンス十三世の残党がまだ多く,そのような決定を

しては内乱が避けられないということだった。

旧チョコレッタ五世の戦好きであったが,サラフィーユI世は談合の際にサラメプナの対エスキュレネル情勢を伝達しなかった。


しかしチョコレッタ星は次第にエスキュレネルに対し劣勢となり,外星の助けが不可欠となっていた。

焦った蛟籠は七世を置いて,旧ロビンス十三世の残党を

征伐するため、自らサラメプナへ乗り出していった。



蛟籠はサラメプナでも苦戦を強いられていた。サラフィーユ二世の極秘の援助もすぐにロビンスの残党に見つかり,初代サラフィーユの末裔が次々に攫われるという騒ぎが発生した。旧一世はほとんど権力を失ってしまっていたため,二世と蛟籠に残党を統制する力はもはや残されていなかった。

同様に,チョコレッタ星では七世懺註が苦戦していた。それを蛟籠に伝えると,自ら第1718世界に送り返した參篠を責め立て,至急チョコレッタに戻ってくるように命令した。

そんな中,チョコレッタ星の研究職士・ショコレラーヌたちの中では戦況を打破する為

「究極兵器」

の開発が進められていた。

その研究職士長・駱犀は蛟籠の古くからの友人で,彼が五世として現役だった頃,2人は国の中枢であった。


〜9年前〜

蛟籠「今月はどんな

感じだい?」

駱犀「おお,五世。新しい兵器を考えてみた。

まだ計画段階だが,こんな感じでだな、、、」

駱犀は畳んでおいた設計図を広げた。

蛟籠「これまた大きな、、、

予算は心配しないでいいが,宇宙統制局の制限は考慮してくれよな。さて、どれどれ?」



駱犀「ワームホール付近の

圧力変化を利用した加速装置と七方磁石性結晶を用いた

制動装置付きのエンジンが最たる新構造だ。」

蛟籠「ほう、機関部には

各世界からの優れた材料が使われているのだな。

セヨーレン,卿堹,タングステン,ナフェッジ、、、

こんなに異界から取り寄せて一体いくらかかるんだい?」

駱犀「予算は心配しないでいいんじゃなかったのかい、、?

2600万ショコラくらいかと。」

蛟籠「まあいいけどさ」

駱犀「それに,これは量産をしようと思って設計しているわけではなくてだな。

これは一機で全てが完結する

いわば『究極兵器』なんだ。」

蛟籠「しかし,ここまで見ていても少し強い兵器くらいにしか感じないのだが?」


駱犀は設計図に書かれた

『究極兵器』の幹のあたりをさして言った。

駱犀「本来ならここに

『アーティーファクト』

というものをはめ込む必要がある。またそれは総凡大界のどこかに住むといわれている感情を持つ生物に感情を込めて貰わなければならない。」

蛟籠「その

『アーティーファクト』

とは具体的には何なんだ?」

駱犀「何でもいいんだ。

感情さえ籠っていればね。

なにがいい?」



蛟籠「本当になんでもいいのか?

じゃあ、、、チョコレートでも大丈夫か?」

駱犀「ああ,大丈夫だ。五世がそれで良いならもうそれを前提に設計図を書き直したいのだが。」

蛟籠「じゃあそういうことで頼んだ。

アーティーファクトはこちらで用意する。」

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


丁度その頃,參篠が蛟籠の命令によりチョコレッタに帰って来た。すぐに懺註と今後について話し合ったが,戦況を打破する方法は見つからなかった。

 話し合いも終わり,參篠は王室の庭を眺めていた。日は西に傾きかけていて,日の行く先では昨晩着陸を許したエスキュレネルの精鋭部隊が中性兵器を使っているのがわかった。


 こうしてはいられないと思った參篠は,新兵器の開発を急ぐよう伝えるため,王室附属研究所を訪ねた。

參篠が研究所の入り口に近づくと,なにやら重い雰囲気で会議が開かれていることがわかった。


駱犀「エネルギーコアの進捗は?」


脩琢「現在8割ほどです。あとは磁力供給量の変化を観察する実験を行って最大出力レベルを基準より高くするのみです。」


駱犀「加速装置は?」


南帖「6割です。ひとつを除いてほぼ完成しているのですが,ワームホール検索機能の編集だけはどうしても苦戦しています。あと3ヶ月はかかりそうです。」


駱犀「アーティーファクトは?」


糾妄「恐縮ながら全く進んでいません。蛟籠様は參篠様に外界におつかいを命じたのですが,戦況の悪化により蛟籠様が計画の中断を命じたそうです。」


駱犀「まったく,どうしてチョコレートじゃなきゃいけないのか。何でもいいというのに。 まあ,わかった。私から蛟籠に相談する。」



參篠は驚いた。そのような兵器が作られようとしていたことも,自分がチョコレートを作らされていた目的がアーティーファクトだったことも,なにも參篠には知らされていなかったからである。參篠はしばらく立ち尽くしていた。


南帖「おや,參篠様,そんなところでなにをしているのです?」


參篠「い,いや,なにも。」


南帖「そうですか。もう暗くなりますから用が済んだら屋内に戻ってくださいね。」


參篠はなにか嫌な予感がした。

もし自分に内緒でこの兵器開発が進められていたならば,今それを知ったことを蛟籠に把握されてはなにをされるかわからないからだ。

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