L / R

 君は僕の法則を無視している。


 君は僕に従おうとしないでただひたすら、


 虚空を眺めながら、


 好きでもないや、


 に耳を澄ませている。


 彼女の趣味であるところのに。


 に。


 左耳を貸している。


 


 なあ。


 君のしていることは実に不可解だ。


 君が左耳に嵌めているそれは、


 線で繋がれて彼女のそれと一体となっているそれは。


 右の音を拾って、


 本当なら、


 君の寂しがっている右耳に繋がれていたはずだろう。


 君はいま、


 右耳に入れるべき音を左耳に入れて、


 君の彼女もいま、


 左耳に入れるべき音を右耳に入れて、


 互いが互いに錯誤し合って、


 まるで二重否定をするかのように、


 対称なふたりになっているようだ。


 


 それは線対称でもなく。


 点対称でもなく。


 空間対称と言うべきなのだろうか。




 いや違う。


 君は乗り気ではないけれども、


 確かに彼女と同じものを共有していて。


 しかし耳という仕組みは共有を妨げるようにできていて、


 いや、


 というよりは。


 身体という障壁が、


 右は右、左は左という常識にイタズラに介入して、


 恋する二人を左右盲にしているのだろう。




 ああ、


 この瞬間において対称はいとも簡単に崩れ去ったかに見えたけれども。


 片耳の非対称は却って、


 右は左、左は右として、


 恋という繊細な天秤の重しとなって。


 奇妙な釣り合いをみせて、


 複雑怪奇な対称性を僕に見せつけてきた。

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