涼 と 乱神林 と 鳥居の群れ


 ダンジョン名を微修正しました

 神林 → 乱神林


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 転移の鳥居をくぐると、目の前には神聖な雰囲気の綺麗な森が広がっている。


:綺麗な森なんだが

:なんだこのなんだ…

:なんとも言えない光景だな


 コメント欄が困惑しているのも無理はない。

 この綺麗な森の中で、やたらと赤い鳥居が目立っているのだ。


 それも一つや二つではない。


 基本ルートと呼ばれる道には、鳥居が乱雑に並んでいるし、そうでなくても森の木々よりも少し背の高い鳥居が、規則性もなく、木々の一つであるかのように乱立している。


「このよくわかんない鳥居の数と、森そのものは神聖な雰囲気を感じるコトから、鳥居の乱神林トリイノランシンリンと呼ばれる由来だそうです」


:納得

:鳥居が群れてるなぁ

:鳥居の数はともかく綺麗な森ではあるな

:道を外れれば絶景が期待できるかも?


 出入り口である黒い鳥居を背に、小道ようなところを歩いていくと、広場のような場所に出る。


「このダンジョンは、こういう広場というか部屋のようなエリアと、そのエリアをつなぐ小道のような廊下のような細い道で構成されているダンジョンですね。

 人によってはローグライクダンジョンっぽいと言えば通じるかもですけど、別に形は変わりません」


:入るたびに形の変わらないローグライクダンジョン

:それはローグと呼べないのでは?

:不思議じゃないダンジョンか

:そもそもリアルにダンジョンがある時点で不思議なんだよなぁ


「確かにダンジョンって不思議なところですよねぇ」


 わちゃわちゃと賑やかなコメント欄にそう返してから、涼は足を止めてドローンへと向き直る。


「さて、この部屋を出るとモンスターが出現しはじめるので、一度コメント欄を閉じますね」


:りょ

:OK


 軽い足取りで廊下へと踏みだし、涼が進んでいく。


「このダンジョン、1フロアが結構広いので、次のフロアへ行くための黒い鳥居探すの大変なんですよね」


 ドローンに話しかけつつ進んでいくと、次の部屋が見えてくる。

 そこへ出る前に、涼はドローンへと止まれと合図をした。


「次の部屋に早速モンスターの気配ありますね」


:来たか

:構造上、敵をかわしづらそうだよね


 コメントたちの不安をよそに、涼は気配を消しながらゆっくりと部屋に向かって歩いて行く。


 涼自体はコメントを見れていないが、コメントの言っていることも間違ってはいない。

 実際、部屋エリアの中は遮蔽物なども少なく、気配を消しても見つかってしまう可能性は高い。


(さて、どうしようか)


 もちろん涼自身もそれは自覚しているからこそ、突破方法を思案する。


(避けるよりも、相手が体勢を整える前に倒した方がいいかな)


 あるいは――


「あ。そうか。

 なんかダンジョンの形状のせいでゲーム的に考えすぎてた」


 涼はそう独りごちると、手近な茂みに飛び込んだ。


:あ

:www

:草の中に飛び込んでて草

:そうだよな涼ちんはこれがあるw

:《モカP》追跡しづらそうな場所を…

:がんばれモカP!


 コメント欄で愚痴をこぼしながらも、モカPは的確な操作でドローンを動かして涼を追いかけていく。


 茂みに飛び込んだ涼は、そのまま部屋エリアの外周に沿いながら進む。

 部屋エリアから大きく外れないように動いているのは、道に迷わないようにする為だ。


 絶景を探して道を外れるにしても、本来の道の位置は把握しておく必要がある。

 食材や寝顔を探すのなら、モンスターの姿を確認する必要もある。


「部屋にいるのは……」


 だるま的なシルエットでモコモコした毛皮のモンスターだ。

 毛皮に包まれたペンギンの羽のような手は、その先端に鋭い爪がある。

 足は鳥――というかペンギンそのもののようだ。

 猫のソレを思わせる形状の長い尻尾も持っている。

 顔はカモノハシに似ていて、太くて平たいくちばしがついていた。


「ダルマラティプスだっけ?」


 とぼけた顔のダルマラティプスは、ふつうにペタペタと歩いて疲れると、その場にぺたりと座る。その姿は愛嬌があってなかなかかわいい。


 一方で、戦闘になると尻尾を、バネのようにして大ジャンプして、空中から強襲するなど、結構アグレッシブなモンスターだ。

 何気に爪に毒があったり、爪を使ったアーツを使ってきたりと、結構攻撃的でもある。


「寝顔が可愛い予感がするけど……ちょっと難しいかな」


 茂みの陰から様子を伺いつつ、小さくつぶやく。

 ペタペタと足音を立てながら歩き、「くあ~」と大口を開けてあくびをする姿は、攻撃的な能力を持つモンスターとは思えない。


:なんか愛嬌ある可愛さだな

:あのマヌケ顔なんかクセになる

:寝顔は確かに見たいけど

:広場の中に三・四匹かぁ…


 広場エリアの中にいるのは複数体いるので、外から眠らせても撮影するのが難しい。

 隠れる場所も少ない上に、以前のネギ魔導のように誘導しても、他の個体に気づかれる可能性が高いのだ。


「とりあえずスルーして先に行きますね」


 そう宣言して部屋エリアを通り過ぎて、次の廊下へと静かに飛び出す。


「……飛び出さなくても良かった気がしますね」


:それはそう

:まぁモンスターがいないなら歩きやすい方がいいだろ

:モカPはふつうの道に喜んでそう


「一応、廊下でもモンスターと遭遇する時はあるんですけど」


:安全地帯ってワケでもないのか

:部屋エリアからふつうに廊下にモンスター出てくるんだ


 そのままゆっくりと廊下を進み、次の部屋をのぞき込む涼。


「……小さい鳥居がいくつかあるな……」


 小さく呟いた通り、その部屋は前の二部屋よりも広いのだが、中には赤い鳥居が五つほど無軌道に立てられている。


 大きさとしては、二メートルくらいだろうか。

 全部が同じ大きさではないが、平均的にそのくらいのようである。


「もしかしてアレ……トリイランナーかな?」


:鳥居ランナー?

:何その面白い名前のモンスター

:走るの?


「事前に調べた情報にあったんですよ。

 名前の通り、鳥居の姿をした物質系モンスターですね」


:あれが動く姿が想像できないんだけどw


「ガーゴイルやミミックなどの擬態系モンスターで、分類的には柱に擬態するエビルピラーなんかの亜種だそうです」


:柱扱いかぁ

:どうするの涼ちん?


 コメントを開いているワケではないのだが、涼は少し悩んだ素振りを見せて小さくうなずく。


「うん。やっぱりまた茂みから部屋の外周を進みましょう」


:ですよねぇ

:物質系は硬いの多いしなぁ

:攻撃系のブレスが使えないと面倒なんだよな

:探索者ニキたちの実感こもったコメントよ・・・


 視聴者としては動いている姿を見たいのだが、涼の安全には変えられない。


「では、まずスキルを改めて……」


 そう口にして、涼がシーク系のスキルを発動した時だ。


「にゃあああああ~~~~…………ッ!!」


 女性の悲鳴が、部屋の奥の廊下の方から聞こえてくる。


「もう何なんですのぉぉぉぉ~~……!!」


:他の探索者か?

:何かから逃げてる?

:こっちに近づいてきてるっぽいな


「ダメですわ皆様ッ、さすがにあの数は戦ってられませんわッ!!」


:あ。これ配信者だ

:絶対配信者だな

:コメント見ながら逃げるとは余裕な


 思わずチキンたちも反応する。

 コメントでは余裕そう――というワードが飛び交うが、実際のところ悲鳴はだいぶ切羽詰まって聞こえる。


「最近イレギュラーが増えてるって聞きますし」


 涼は愛用の大振りダガーを引き抜く。


「すみません。予定は変更になるかと思います」


:OK

:人命優先だもんな


 廊下からこちらへ向かって走ってくるのは、縦ロールの金髪――恐らくウィッグだろう――に、赤フレームのメガネをかけた女性だ。


 お世辞にも探索向きとは言えないドレスのような衣装に、探索用に改造されているのか頑丈そうなハイヒールを履いている。


 そんな女性が、どういうワケかウォーハンマーを右手に握り肩に乗せて爆走していた。


「あの重量武器を片手にハイヒールであの速度……なかなかすごい人ですね」


:一千万本松マハルかな?

:あの金髪ロールでお嬢様口調はそうだろうな

:元Vで探索者に転向?した人だっけ?

:V活もまだしてるぞ

:マハル様の装備ウォーハンマーなんだな


「何かに追われてるみたいだけど……」


 涼は目を眇めて、その場で様子を伺っていると――


「にゃぁぁぁぁ!? この部屋にもいますのねぇぇぇぇぇ!?」


 ――その女性は、部屋へ踏み込むと同時に悲鳴を上げる。


 すると、部屋の中にいたトリイランナーが一斉に立ち上がった。


 埋まっていた柱の一番下の部分――台座が地面から引き抜かれるような形だ。

 その上の石材部分、藁座と相まって、ロボットの足のように見えなくもない。


:マジでそのまま動くのか

:シュールすぎるモンスター

:草はえる姿だけど状況が悪い


 涼は小さく息を吐いて前を見据えると、部屋エリアの中へと飛び込んでいく。


武技アーツ:バックスタブ」


 手近なトリイランナーへと向かいながら、自分の攻撃力を高めるバフを重ねていく。

 そして気配を薄めたまま一気に距離を詰めると、その手のダガーに黒いオーラを纏わせた。

武技アーツ黙礼モクレイ死告絶鳴シコクゼツメイ


 どこを攻撃すれ有効なのか涼には分からなかったので、高威力の技でもって片側の柱の中程を攻撃する。


「……!?!?」


:ナイス暗殺

:まだ死んでないけどな


 涼の一撃によって柱の片方を切断されたトリイランナーはバランスを崩し、焦ったようにもがく。

 だが、何が起きたかは分かっていないようだ。


 それを見据えながら、涼は容赦なく、額束がくづか――上部中央にある神社名などが書かれている板――を縦に両断するように、オーラを纏ったままのダガーを振るった。


「!?!?!?」


:あそこが弱点か

:結構面倒な位置にコアがあるな


 自分が攻撃したトリイランナーが沈黙したのを確認するなり、涼は女性に呼びかける。


「そこの人!」

「あ! 貴方は!?」

「話はあとです。あっちの廊下に!」

「はい!」


:やっぱマハル様か

:リアルも可愛いから困る


 廊下へと駆け込んでも、トリイランナーたちは追ってくる。


:バタバタしい動きだ

:なんか目の前の三匹の背後にもトリイランナーいない?

:マハルを追いかけてる連中か?


 涼は女性を伴って廊下を駆けていく。


「あの、わたくしは配信者でして、まだ映像が……」

「ボクも配信者です。お互いに撮影モードはそのままで」

「そのままですの?」

「緊急事態のようですので可能な限り撮影や配信をして情報を残します」

「わ、わかりましたわ」


:マハル様ってドローンもアシスタントもいないの?

:じゃあどうやって撮影してるんだ?

:《モカP》スキル連動型のカメラでしょうね 詳細は調べてください

:スキル連動・・・! そういうのもあるのか


 慌てて走っているせいでウィッグがズレているのか、女性の地毛らしき黒い髪が見えているのだが、涼はもちろん、チキンは指摘しない。


「何がありました?」

「黒いトリイランナーに襲われたのですわ」

「黒い……?」


:涼ちんまたユニークかネームド引き当てた?

:ブロシアみたいな変異系かな?


「周囲に赤いのもいっぱい集まってきたので対処しきれず、しかも囲まれそうだったので逃げてきたのですわ」

「それ正解です。一緒に逃げましょう」

「お手数おかけしますわ」


 状況を把握する為に言葉を交わしたあと、涼は背後に振り返りながらスローイングナイフを投げる。


 それで追いかけてくるトリイランナーの一匹の額束を破壊した。

 コアが壊れて崩れおちるトリイランナーに巻き込まれ、追ってくるトリイランナーたちが足を止める。


:うあ結構な数が追いかけてきてるぞ

:どんだけいるんだよ

:トリイランナーの数がシャレになってない


「今のうちに」

「はい! ですわ!」


 そのまま廊下を進み、部屋エリアが近づいてきたところで涼がそこを示しながら告げた。


「この先の部屋にはダルマラティプスがいますけど、基本は無視して突っ切ってください。貴方の足なら問題なく突破できるはずです。

 こちらから突入すると部屋の右手側に廊下があります。その廊下を進めば村とつながる黒い鳥居のある部屋に出ます」

「ありがとうですわ~~!!」

「お礼を言うのはそこについてからで!」


 そう言って涼は、女性と共にダルマラティプスのいる部屋を突っ切ると、廊下の途中で足を止めて振り返る。


「どうされました?」

「先に行って黒い鳥居をくぐっててください」

「……わかりましたわ……!」


 何か言いたそうだったが、彼女はそれを飲み込んで走り出す。

 その後ろ姿に軽く安堵しながら、涼は構えた。


:涼ちん?


 コメント欄が見えているワケではないのだが、恐らく疑問のコメントが流れているだろうと考えながら、涼は口を開く。


「情報収集をしたいので黒いトリイランナーを確認したいと思います」


 どうやらダルマラティプスは追いかけて来ていないらしい。

 トリイランナーだけなのは、涼としても助かる。


「さて、何か分かればいいんだけど」


 そう独りごちながら、涼は廊下を走ってくるトリイランナーの群れと対峙した。



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【Idle Talk】

 鳥居の部位の名称は細かく色々あるけど、ちゃんと語ると長いので割愛。


 左右の柱を足のように動かすトリイランナーは、片方のバランスを欠くと立ってられないという欠点がある。

 変に左右の同じ位置を切断するくらいなら、片方だけ切断した方が効果的。

 正確無比の剣士が綺麗な横一文字で左右の柱を同時に切断したところ、背が低くなっただけで普通に動いていたという報告もある。

 物質系らしくコアを破壊されると活動を停止する。コアは本文にあるように、額束である。 その為、バランスを欠かせることは出来ずとも、狙いやすい高さまで身長を下げることは決して悪いことではない。

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