涼 と 湊 と ブロシアしゃぶしゃぶ


「背中に桜の木の生えたドラゴン……というかトカゲと首長竜の合いの子のようなモンスターであるブロシアのお肉。

 料理を考える上で先に試食しましたけど、華やかな桜の香りのするお肉でした」


 そう言いながら、テツはブロシアの肉を薄切りにしていく。

 透き通った宝石を思わせる桜色の肉は、置かれた板の色が透けて見えるほどだ。


「ユニーク系だと思われる為、ドレイク同様に今日以降はもう食べるコトができないだろうお肉なので料理するのも緊張します」


:ドレイクのような力強いインパクトはないけど綺麗な肉だな

:焼いた香りだけでスタジオの全員を魅了したドレイクは間違いなくパワー型

:丁寧な薄切りがなんとも繊細な肉なんだなぁって感じ


「ちなみに私たちも事前にステーキで食べましたけど、食感は牛肉で味は鶏肉に近い感じだったかな。

 それはそれで美味しかったんだけど、しっかり焼いたらお肉が持つ桜の香りがだいぶ飛んじゃったんだよねぇ」

「味が鶏肉なせいですごい混乱しながら食べました


 ディアと涼が補足する。


:ワニやカエルも鶏肉っぽいと聞くし爬虫類の肉って鳥っぽいのかもな

:ドラゴンって爬虫類でいいの?

:まぁでっかいトカゲやん?

:しっかり火を通すと香りが飛んじゃうのは勿体ないな


「ちなみに今日はブロシアの肉で何を作るのかは聞いてないので、すごい楽しみだったりします」

「ところで、鴨のローストかサラダチキンか……おかわりあります?」

「涼ちゃん食べるの早すぎ。あと今、次を作ってくれてるんだから静かに待つ」

「……はい」


:食べ盛りの幼児とお母さんかw

:いつもの

:二人は同い年です

:相変わらず可愛いやりとり笑


「涼ちゃんが待ちわびてるのでスピードアップしましょう」


:テツさん気にしてくれてるじゃん

:まぁテツさんもチキンらしいしなw


 肉を必要量切り終えたテツは、透き通った緑色の液体を取り出してそれを鍋に注ぐ。


「これはお店で作ってきたダシですね。

 ダンジョン産ではなく、ふつうに市販されている玉露ベースなんで申し訳ないんですが」


:そういやダンジョン産のお茶って聞いたことないな

:玉露ベースのダシ……?


「お茶ってかなり旨み成分含んでるんで使い方次第では美味しいダシになるんですよ。

 今回はお肉の香りとダシの香りがケンカしないような組み合わせを考えた結果が、こうなりました」


 玉露ダシを温めながら、テツはキャベツを取り出す。


「こちらはディアちゃん提供の人喰いキャベツです」

「草原や森の茂みに植わってて、近づくと飛び上がって噛みついてくるんだよね、人喰いキャベツ。モンスターとしては弱いんだけど、傷つけずに倒すのが結構難しい」

「ちなみに下側の芯みたいな部分が弱点というかコアみたいになってるので、気配を消して背後から近づいて持ち上げつつ、ナイフで軽く芯を傷つければイチコロです」


:そのイチコロは常人には難しい

:見た目キャベツなのに凶悪な口と小さな手足がついてやがる

:食べられるんだと分かってても食べるのためらうビジュアルだw


「どういう構造なのか不明ですが、口や手足のついている葉っぱを剥がすと、その下には何もなく、ふつうのキャベツっぽくなります」


:本当にどういう構造してんだ・・・?

:肉食なのに内蔵がないの?

:《翻鶏》内蔵が無いゾー?

:ダジャレはギルティ

:親父ギャク罪で逮捕

:誤字ってるのでスリーアウトどころかフォーアウト

:TCはリアルタイム翻訳だけしててもうろて

:《翻鶏》みんなひどい…


「口や手足のついてない葉っぱを剥がして、温まったダシでしゃぶしゃぶ……と。色が鮮やかになったから軽く水気を切ってお皿に盛っていきます」


:美味しいダンジョン野菜でしゃぶしゃぶだと……!

:まさかブロシアの肉も!?


「コメントの通りです。

 キャベツをお皿に盛りつけたら、今度はこのブロシアのお肉をしゃぶしゃぶします。

 火を通しすぎると真っ白い肉になっちゃうので、桜色がもっとも鮮やかに見えるギリギリの感じでしゃぶしゃぶ……と」


:本気でキラキラしてきた

:お茶のダシでしゃぶしゃぶというだけの未知の領域なのになんだあの綺麗な肉…


 キャベツを持った皿にブロシアの肉を六枚ほど(涼の分だけ十枚くらい)盛りつける。


「お肉と一緒に猛将ダケのタケノコの薄切りを添えましょう。これはアクが無くて生でもイケるんですがこれもしゃぶしゃぶします。

 左側の空いたスペースにダンジョン野菜のマドンナことお化け美脚の大根下ろしを添えます。

 その下も少しスペースあるので、ここには――ダン材じゃなくて申し訳ないんですが――クラッシュしたミックスナッツとスパイスを合わせたモノを」


:俺の知ってるしゃぶしゃぶと違う

:あれ?しゃぶしゃぶってこんなお洒落に盛られるもんだっけ?

:お化け美脚って何?

:美脚自慢の大根型モンスター

:料理もいいけど料理が盛られるにつれ言葉数が減って目が輝いていく涼ちんとディアちゃんの横顔もいいぞ

:余計なコト言うなよ俺が一人で見惚れてると思いこんでたのに

:それは無理な相談だぜ兄弟


 そうして、お洒落に盛りつけられたブロシアのしゃぶしゃぶが、涼たちの前に提供される。


「お茶のダシで作った付けダレと一緒にどうぞ」


:お茶のダシってだけで想像つかないのにこんなお洒落なしゃぶしゃぶの味なんて想像もできんぞ

:すごいキラキラ輝いてるなぁ


「さぁみんなサングラスを付け直せ~!」


 ディアはそう宣言すると手を合わせる。


「いただきます」


 そう告げた瞬間、横にいた涼の顔が光り輝く。


:もう光ってるww

:よい輝きだw

:そんだけ旨いんだろうなぁ


「これステーキで食べた時とは比べものにならないくらい美味しいです」


:マジで幸せそうな顔してる

:涼ちん完全にメシの顔


 涼の言葉を聞きながら、ディアは箸でブロシアの肉を一切れ持ち上げる。

 まずはタレを付けずに――と、左手を添えながら口に運んだ。


「んん~~!!」


:ディアちゃんのメシの顔いただきましたー!

:何もつけてないのに何も言わず身悶えだしちゃった

:美味しさで身悶えする姿は相変わらずえっちぃ

:食レポはよ!はよ!


「口に入れた瞬間は、お茶の渋みや苦みを感じるんですけど、桜の香りがふわっとそれを中和して、直後にお肉の旨みが一気に押し寄せてくるの!」


 ディアはそう説明しながら、二枚目のお肉を持ち上げて、今度はタレにつけてから口に運ぶ。


「タレをつけると、押し寄せてくる旨みがお肉だけじゃなくてダシからもいっぱいくるようになります! しかもタレの塩っ気が、お肉の甘みをハネあげて、桜の香りまで強くなったみたいです」

「ディアさんディアさん。たぶんこれ、タレにブロシアの桜の塩漬けを使ってますって。だからお肉の香りが強くなったように感じるんじゃないかと」


:さらっと涼ちゃんの補足がすごい

:ていうかもう味を説明されても分からないくらい未知の料理


「涼ちゃん。正解。

 タレ用の玉露ダシを作る時に一緒に塩漬けの葉っぱを刻んだものも一緒に煮て、その後に調味料と一緒に塩漬けの花を入れてみたんだ」

「だから香りを生かすためにタレには薄口醤油を使ってるんですね。塩漬けのお花で塩気がついてるから塩味えんみを濃く感じない程度に」

「ディアちゃんもディアちゃんでそこに気づいたのか、流石だね」


:メシの顔しながら分析完璧な舌のすごさよ

:旨そうなのに説明されても味が想像できない~~~

:わかる

:どっかで食えないかなブロシアの肉

:ふつうの豚肉だったとしても結構高いかもよこのしゃぶしゃぶは


「キャベツも甘くて柔らかくて美味しい! ダシとタレ、お肉と合わせても相性バッチシ」

「大根下ろしやナッツスパイスと合わせても美味しいです」

「ナッツはカリカリした食感が加わって楽しいですね。これも桜入ってます?」

「ブロシアのじゃないけどね。少しだけ桜塩を使ってる」

「これたぶんですけどこの桜尽くし、ふつうのダシでやったらしつこく感じちゃうかもですよね?」

「確かに! 涼ちゃんの言う通り――お茶の香りに、渋みと苦みのおかげで、桜の香りや甘みがクドいというかしつこくて途中で飽きちゃいそうなところを制御している気がするけど、その辺どう? テツさん?」

「それも正解。ダシを玉露にした理由はそれ」


:グルメバトルマンガにできてきそうな料理だというのは理解した

:奮発した日はファミレスの大盛りが精々の俺には理解が及ばないかもしれない

:分かってたけど涼ちゃんやディアちゃんすごいな

:うちの新作を試食してほしい

:考えてみたら紅茶や烏龍茶で煮るチャーシューとかあるもんな

:お茶すごいな

:お茶でダシとってタレやスープにするとか考えたコトもなかったな

:テツさんどこの人だろう ちょっと連絡取りたいな

:羨ましがるコメントの中になんか毛色の違うコメが混ざってんな

:料理やグルメのガチ勢がテツさんに目を付けた感じかこれw


 二人の食レポがそこでひと段落したところで、カメラが周囲をぐるりと動く。


 顔出しOKの面々を映す中、チラっと映る不思議な光景。


:チラっとうつるエンちゃん怖い

:わかるw ココアたんの横におとなしくたたずんでるだけで怖いw

:そんなことよりセリア様がブロシア肉を半分口にくわえたまま固まってたんだけど

:涼ちゃんの顔が輝くのと同じで美味しいと固まるのかも?

:そうだとしたら日常を送りづらそうで草


「さて、しゃぶしゃぶも好評のようだったし、次の料理に移りますか。

 これが最後の料理になる。そして涼ちゃんの為だけに考えて作ったので楽しみにしてて」

「それはもちろん! めっちゃ楽しみにして待ちます!」


 フンス――とばかりに両手を握りしめて、涼はうなずく。


「最後のメイン食材はこれ!」


 そうして、テツが調理台の上に乗せたのは、真っ黒なお肉だった。



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【Idle Talk】

シロナ

「そういえば出たがり部長は今日、前に出ないんですか?」


部長

「今日は周囲に目を惹く人たちが多くて二人が控えめに見えちゃってるからね。

 出たがり部長はタバスコやペッパーと一緒なんだ。あくまで調味料。主役が控えめな時にいっぱい掛けたら台無しになっちゃうからね?

 まぁこうやって美味しいご飯を頂けてるだけで役得だろう?」


シロナ

「役得なのは否定しません。

 ノンアルでもいいのでビール飲んでいいですか?」


部長

「ダメ。映り込んで視聴者の勘違いで炎上したら面倒だよ?」


シロナ

「美食家とチキンのみなさんは、気にしないでくれそうですが」


部長

「メイン視聴者が気にしなくても面白おかしく燃やす人はいるからね。隙はできるだけ減らしておこうよ。

 特に涼くんは、見えない敵が増えそうな気がするしね」




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