涼 と 湊 と いただきます
:みんなーサングラスは用意したかー?
:もちろんだースチャ
:もう輝くことが約束されてるもんなスチャ
:スチャ
:よしゅう ずみです すちや
:海外ニキがわざわざ日本語で!ww
:サングラスとかスチャとかなんなん?
:涼が旨いメシ食うのを見るのはじめてか?ほらお前みたいなやつの為に予備のサングラスを用意してある使え
:あ、はい。ありがとうございまスチャ
:お前本当にはじめてか?
前回同様にスチャスチャというコメントが増えていくのも気にせずに、涼は待ちきれないように身体を揺らしている。
出来上がったネギ魔導のローストは、テツやスタッフが手分けして涼たちやスタッフたちに配られていく。
涼たちのメインメンバーの分は一皿まるまるだが、スタッフなどには二切れくらいずつの形になっている。
「え? 心愛ちゃんたちも食べていいんですかッ!? ありがと~~ございま~~す!」
いつの間にやら戻ってきたらしい心愛がうれしそうに声をあげ、その横にいる芹逢もやや気後れした様子で頭を下げていた。
:今チラっと映ったここあちゃんの横にとんでもないのがいて思わずグラサン外した
:もしかしてセリア様料理に恐縮して頭下げたんじゃなくてココアたんがトンデモを連れて戻ってきたことへの謝罪??
:ふつうにギャラリーやスタッフに混じるエンドリーパーis何?サングラス外して二度見したわ
:スタッフさんがおっかなびっくりここあちゃんたちにサーブしてるww
:いやあれにおっかなびっくりせずに料理渡すの無理だろ
:っていうか料理食べるのエンドリーパー?
「そういえばエンちゃんって~~、ふつうに料理食べれるの~~??」
:それ知りたい
:グイっといったなココアたん!?
心愛のその声に、ディアはカメラに向かって視線を投げ、そのカメラはうなずくような動きをしたあと、心愛とエンドリーパーに向いた。
「残念ながら無理だ。
我は人間や動物のような栄養の経口接種は不可能ゆえ、心遣いだけ頂いておく。それはほかの者へと渡すが良い」
「じゃあボクが頂きます!」
自分の前にあるローストに目を輝かせていた涼が、唐突に手を挙げて立候補してくる。
それに対して――
「涼は少し黙っとけ」
「涼さんは少し黙りましょうか」
「涼ちゃん少し黙ってようか」
――何人かの声が唱和して、涼はしょんぼりと席に座り直した。だが目の前のローストを思い出して即座に顔が光り出す。
:しょんぼりからの回復がハイスピードwww
:今日のコラボ主役二人の扱い悪くて草
:エンちゃんにビックリして外したサングラス涼ちゃんみて付けなおしたスチャ
:言われてみればなんかこう事件やゲストや周囲の人たちに色々ともってかれてるな
:二人の場合それが不快にならないというか二人でどうぞどうぞしているせいで文句言いづらいんだよなw
:今日はサングラスの付け外しが忙しいぜ笑笑
:出たがり部長とかもそれなw
:そんなことよりココアのエンちゃん呼びを誰もツッコミ入れないのなんで????
「我――というよりもお前たちが……モンスターと呼ぶ我ら……ピースの主食は人間の感情である。
ダンジョンとは……精神と物質の狭間にある世界ゆえ、数多の人間の感情が……ダンジョンへとと流れ込む。
人型や動物型のピースたちならば……一つの娯楽として物質の経口接種を楽しめるが……そうでないピースは、流れ込む感情を喰らうしかない。
ゆえ、ピースが人を襲うのは新鮮な感情を求めているから――というのもある。死にゆく生き物の……絶望や恐怖を味わいたいのだろうな」
:それを聞くとモンスター怖いな
:さらっとまた重大情報垂れ流したぞこの死に神
エンドリーパーの語る話に、現場もコメント欄もやや固まる。
だが、そんな空気などまったく気にしない鳥人間もとい鳥好き人間がここにはいる。
「エンドリーパーさん、その話まだ続きます?
そんなコトよりはやく食べたいんですけど……!」
:そんなコトよりwwwww
:さすが涼ちゃんだ笑
:涼にとって鶏肉の前では全てが些事だもんなw
「む? すまんな……人と話をするというのが楽しくて……ついな。
リョウの楽しみを……奪うつもりはない。ここで一度黙ろうか。
我はお前たちの美食に舌鼓を打つ歓喜を食すゆえ、気にせず喰らうがよかろう」
:そして涼ちん推しの死神は涼ちんの為に黙るのであった笑
:待ってこの恐ろしい見た目のイケボ死神って涼推しなの?????
:涼ちゃんねるって普段どういう配信してるの???
:どうやったら死に神と仲良くなるの???????
:どうって配信中に死に神の方から話しかけてきたんだよなぁ
:涼ちゃんねるの普段の配信?道場で雑談したりダンジョン潜ったり?
:ダンジョン潜ったら崩落で入り口消えたり、並のダン配探索者じゃあ太刀打ちできないような強敵イレギュラーに襲われたり?
:もしかして涼ちゃんって幽霊?
:涼ちゃんって幽霊? ← その発想はなかった
:もしかしたらそうかもしれない
ディアーズキッチンしか知らない視聴者の素朴な疑問に、涼ちゃんねるを知っている視聴者たちが返信する光景を前にしても、涼の意識は完全にネギ魔導のローストに向いていた。
「まぁ涼ちゃんが待ちきれないみたいだし、食べちゃおうか!」
そして、状況を色々と考えた末に、軽く手を合わせて音を鳴らしてから、ディアが笑顔でそう告げる。
「さぁみんな改めてサングラスの準備はできてるかー!」
その一言で、理解しているスタッフたちはサングラスを用意するし、知らないスタッフや、よくわかってない面々には予備のサングラスが渡されていく。
:もちろんスチャ
:sucya
:外したグラサンかけ直すスチャ
:すちゃ
:スチャスチャしたくてコラボ見てるといっても過言ではない
:スチャ
「では、涼ちゃん」
「うん! いただきます!」
涼の言葉にあわせて全員がそれを口にして、おのおの口に運ぶ。
そして口に入れた瞬間、涼の顔が爆発的に輝いた。
:《モカP》おお!過去最大級の輝きかもしれん
:眩しさの向こう側にいるディアちゃんの顔も過去最大級にエロいかもしれない
「もう美味しい以外の言葉が出ないよこれ……」
「火加減のグラデーションがすごい……!」
「皮はパリっとしててお肉は柔らかいのに弾力があって噛みしめるたびに肉汁と一緒に旨みが溢れ出る……!」
「休ませる時に一緒に包んだ桜の葉っぱと、ソースから香る桜の香と風味も良い仕事してるよね」
:涼ちゃんとディアちゃんが交互に食レポしてる……!
「グレイブリーキもすごいね。これだけでメインを晴れるくらい美味しいよ。
甘くてジューシーで、焼く時につけたオイルに含まれてただろう香りも華やかで」
:出部長キター!
「鴨とネギだから一緒に食べた時の相性は言うまでもないぐらい、いい!」
:部長さんまた出しゃばりにきたな笑
:この人食レポうまいんだよなーw
「ディアさん……」
「え? どうしたの涼ちゃん、急に切なそうな声をだして……?
というか今の声が良すぎて溶けそう……」
:確かにいまの涼ちんの声がやばい……
:掠れたような助けを求めるような切ない声がやばすぎる
:呼ばれたディアちゃんが溶けかけてる・・・!
「もう、なくなっちゃいました……」
「うん。知ってた」
:本気で泣きそうだな涼ちゃんw
:溶けかけてたディアちゃんがすぐに素に戻って笑う
そこへ、まるで見計らったかのようにテツが新しい皿を持ってきた。
「涼ちゃんは食べるの早いのはわかっていたからね。
こちら次のメニュー。ダンジョン野菜の蒸しサラダです。グラスコッコの胸肉で作ったサラダチキンと、ダンジョン野菜のニンジンとタマネギで作ったドレッシグをかけてあります」
ウィンクを一つしてから、テツは涼の前と皿を置く。
:これはこれでうまそう
:ところでふつうのサラダじゃダメなん?
:緑色の肉がグラスコッコか
:野菜の緑と混ざって目立たないな
「すごいタイミングですね! いただきます!」
「どうぞどうぞ」
:やっぱり輝いたw
:ローストほどじゃないけどこれもすごい輝きだ
無言で食べまくってる涼に笑いかけながら、テツはカメラの方へと向く。
「視聴者の料理人ニキたちはどうして蒸し野菜? って思ってるかもしれないので解説するとだな……。
色々試したんだけど、涼ちゃん提供のダンジョン野菜は、これが一番美味しい食べ方だったんだよ。
焼いて、煮て、炒めて……どれも美味しかったけど、蒸しが一番美味しかったんで。試作期間の短さもあって蒸しサラダにしました」
:焼いて、煮て、炒めた結果が蒸しかぁ
:まぁ蒸すと旨みが凝縮するっていうしな
「これも美味しい……! 蒸し野菜でグラスコッコのお肉が美味しくなるんじゃなくて、グラスコッコのお肉で蒸し野菜が美味しくなってる感じ!」
「主役じゃなくても活躍できる鶏肉。さすが鶏肉!」
:涼ちゃんのはもはや食レポじゃなくて鶏肉褒めてるだけw
:主役が野菜で肉が引き立て役なのかポテンシャルすごいな
「テツさん次の料理は?」
すでにサラダを食べ終えた涼が、調理台の方へと顔を向ける。
すると、釜瀬がSAIから何かを取り出すところだった。
「釜瀬さんに預かっててもらったこれを使います」
カメラがその肉を映し出す。
それは美しい桜色をした肉の塊だった。
:綺麗な肉だな
:宝石の原石とかピンク岩塩とかに見える
「鶏肉じゃなくて涼ちゃんには申し訳ないですけど、これもまた涼ちゃんたちが倒したモンスターのお肉ですからね」
:もしかしなくても
:鱗だけじゃなくて肉も綺麗な桜色なのか
:え?涼ちゃんねるに出てきたモンスター?
:すごいな
「涼ちゃんが配信中に釜瀬さん、鳴鐘さんと協力して倒したイレギュラーモンスター・ブロシア。これからアイツの肉を調理していきたいと思います」
:やっぱりブロシア!
:鴨のローストに使ってた葉っぱや花びらってもしかせんでも
「こいつを料理していくので……待つ間に、レイク・コンソメをベースに作ったオニオングラタンスープでも食べて待っててね」
いつの間にやら作っていたらしいオニオンコンソメスープが、みんなの前にサーブされていく。
:何人かのスタッフが恍惚としたまま固まってたけど
:いやこのダン材料理攻勢が強すぎるんだよ
「さて、いきますか」
テツが気合いを入れて包丁を構えて、ブロシアの肉へと入れた時――スープを口にした涼の顔が綺麗に輝くのだった。
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【Idle Talk】
ココア
「セリア姉? サラダ来たよ~~?」
スタッフ
「あの、固まられてますけど大丈夫なんですか?」
ココア
「あ、はい。そこのセリア姉の分は置いておいてください」
スタッフ
「わかりました」
エンちゃん
「一口食べてから固まってしまっているが……お前の姉は大丈夫なのか……?」
ココア
「大丈夫大丈夫。セリア姉の中の美味しいの
美味しい高級食材を手間暇掛けて美味しく調理した料理なんて、たぶん初めて食べたんじゃないかな。
お世辞にもよい環境で生活してきたとは言えない人生送ってきたっぽいしね。
結構稼いでるはずの今でも、もやしとパスタが主食みたいだし~~……たまの贅沢はファミレスや定食屋の一番安いセットみたいだしなぁ~~……」
エンちゃん
「ふむ……ならばココア。お前はどうだ?」
ココア
「あたし? あたしはまぁ~~、セリア姉とは真逆かなぁ。
自慢じゃないけど恵まれた環境で育ってきたと思うし、こういう料理を食べるのにも慣れてるしね。
しかし美味しいねネギ魔導。だけど、ちょ~~っと、火入れミスってるよね。勿体ない。
まぁテツさんだけじゃなくて、ディアちゃんやスタッフさんが手分けして量産してるし、自分の厨房とは全然違う環境なら仕方ないか。
十分どころかめ~~っちゃ美味しいのは間違いないしね……みたいな?」
エンちゃん
「なるほど。真逆の反応だな」
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