テツ と 湊 と ダン材料理


「それじゃあテツさん、こちらをどうぞ!」

「ありがとうディアちゃん。SAIってホント便利なんだなぁ」


 ディアがSAIから切り出したお肉を取り出して見せると、テツは思わずそう漏らす。


:分かる

:実質ゲームのアイテム袋だもんな

:容量に差があるとはいえ小さくても剣が5・6本入るのすごい

:あれ?取り出された肉は個包装?


「テツさん、解説しながら料理お願いしますね」

「うわ緊張するけどがんばります」


:テツさんがんばってw

:実況動画とか作ろうとした奴はわかると思うけど普段やってる作業も喋って解説しながらだと難易度跳ね上がる

:知ってる 自分でやると難所とか絶対無言になるもん実況って

:そう考えると涼ちゃんの集中したいところでは事前に宣言して黙るって正解なのかも?


「大きい肉をここで切り出すと思ってた人すみません。

 お肉とか食材の一部は事前に一度見せて貰った上で味見とかさせてもらってるんです。

 その上で、時間のかかる準備はお店でしてきちゃいました」


:そりゃあ味も知らずに料理も難しいか

:なるほど

:ネギ魔導も鴨肉と言われてるけどふつうの鴨肉とは違う特性とかあったりする鴨だしな


「こちらのネギ魔導の肉は、肉の面にだけラップを巻いた状態で冷蔵庫にしばらくおいて、皮目だけ引き締めてきました」


:なにそれ?

:皮目をひきしめる???

:この時点でディアちゃんの全然違う

:ディアちゃんも料理うまいけどもテツさんはなんかもう違うことしてる感じ


「うちの店で提供するならもうちょっと大きく切り出しますけど、今日は人数もいますし、ほかにも料理があるので小さめにしてあります。

 これを焼く前にちょっと処理をしましょう。量があるんでディアちゃんにも手伝って貰っていいかな?」

「もちろん!」


 そうして、テツとディアは肉からラップを外し、取れる範囲で筋を取っていく。


「まぁ無理に全部取ろうとせず取れる範囲で邪魔そうなやつだけとってください」


:完全にプロ料理系配信だこれーww

:テツさんの手際は言うまでもないけどふつうにディアちゃんもすごいな

:ディアちゃんの料理の腕上がってる?


「最近、打ち合わせでテツさんのお店に行くと、帰りに少しだけ色々勉強させて貰ってました! その成果ですね!」


:探索だけでなく料理の勉強もしてるんだな

:ディアちゃんは外国語覚えたらもっと料理うまくなりそう


「外国語って何語です? 宇宙の言葉?」


:I alos strongly agree

:Studying Japanese is fun


「うわ宇宙語が急に!?」

「涼ちゃんねるの海外チキンさんたちですよ!」

「そうだった涼ちゃんは宇宙にも通じてるんだった」


:ディアちゃんさぁ…笑

:宇宙に通じてるのは知らなかったw


「外国語難しいっていうのに同意してる人と、日本語の勉強楽しいって言ってる人です」

「テツさんも宇宙語ができる……!?」

「ディアちゃんはマジでもうちょっと英語の勉強しようか。学校卒業できる?」

「宇宙と交信できる気はしないです」

「ボク、別に宇宙と交信してませんからね?」


 思わずツッコミを入れてきた涼に、ディアが割と大まじめに首を傾げる。


「え? でも涼ちゃんねるのコメント欄にはよく宇宙語が飛び交ってるよね?」

「いやメインはふつうに英語ですけど。時々、フランス語やイタリア語、ドイツ語に、韓国語も見ます。あと中国の方もコメントしてくれてますよね? 簡体字、繁体字の両方見るので二人以上は見てくださってるんだと思います。気がつくとだいぶワールドワイドなコメント欄になってますね。

 とはいえ英語はともかく、それ以外の言葉はちょっと読めないのと、多少は読めてもコメントの流れる速度の関係で頭の中で翻訳しきれないせいで、反応できてなくて申し訳ないんですけど」


:涼ちゃんはちゃんと把握してたんだ

:おお、色んな言語が大量に!

:あらゆる翻訳チキンの出番だぜー!

:全てのチキンへ今のメッセージを送るんだー!!


「なんかありとあらゆる宇宙語でコメント欄が埋まってくー!?」


:ディアちゃんにとっては全ての外国語が宇宙語なのかw

:ぐるぐる目になってるディアちゃんかわいい

:絶対この中にはマイナー言語とか視聴者の中にいないだろう国の言語とか混ざってるよな笑

:独自言語とかゲームやアニメの創作言語とかも混ざってそうw


「それはそれとして、とりあえず外国語トークで料理の手が止まってるので二人とも進めてください。ネギ魔導食べるの楽しみなので」

「そうでした」

「…………しかし、実際こうやって配信側に立ってみると、コメント見て反応するの楽しくて、メイン作業の手を止めちゃうね。二人に限らず配信者の人ってすごいや」


:そうなんだよなー

:本筋の手を止めずコメント拾って反応してって相当テクい


「ありがとうございますテツさん。

 とりあず、鴨肉の話に戻りましょうか」

「はい。それじゃあ処理の続きを――」


 テツは皮を軽くめくると、皮と肉の隙間を示す。


「こういうところに結構脂がありまして、火を入れた時に溶けてほしいので、皮目に格子状に軽く切り込みを入れておきます。

 ネギ魔導もそうですが、鴨肉の脂の旨味はすごいですからね。固ったままだと勿体ない」

「テツさん見てて思うの。私に足りないのはこういう細かいけど味をワンランク高めるテクニック!」

「趣味で料理してる人としては十分レベル高いんだけどね、ディアちゃん」


:そうなんだよな

:ディアちゃんもかなり料理上手な方だと思う

:その勉強熱心さを一ミリでも英語に向けてあげれば


「さて、次にこちら」


 テツはそう言って示すのは、横長のバーベキューコンロの網の上に並んだ、スキレットたち。


「ここに皮目を下して肉をおいていきます。

 ネギ魔導の肉から脂が大量にでるので油はしきません」


 軽く喋りながら肉の様子を伺うテツ。

 そして、じゅーじゅーと音を立てながらにじみ出てくる脂。

 テツとディアはスキレットを傾けると、その脂をスプーンですくい肉に掛けていく。


:音がやばい

:この時点でうまそう


「ドレイクほどじゃないけどネギ魔導の香りもやばいなぁ」

「これも相当なんだけど、これ以上かぁ……ドレイクの肉食べてみたかったなぁ」


:わかる

:料理人としては気になるよな

:料理人視聴者的にはモンスター肉どうなん?

:テツさんがマジうらやましい

:私もダン材料理やってみたい

:オファーすれば協力者多そうだなw

:《出部長》なるほどオファーというのもあったか

:部長さんが何か言い出してる……!?


「……っと。喋ってばっかいないでこっちを説明しなきゃ」


 ハッと顔をあげたテツは、自分がやっている作業についての解説をする。


「こうやって回し掛けをしながら火入れをして、皮目に焦げ目がついてきたところでひっくり返します。

 あんまり火を通しすぎない程度にさっと焼いたら、一度火からおろしてバットで休ませます」

「一気に火を入れると肉が縮んじゃったり、せっかくの良い色の肉が真っ白になったりしちゃうらしいので」


:ディアちゃんの補足助かる

:喋りながらやってる作業速度がすごい

:テツさんあわててたけど止まってるようで止まってないんだよな

:二人でやる速度じゃないんだよな

:バットで休ませてる肉がすでに美味しそう

:食べれなくてもいいから見習い仕事程度でも現場で手伝いたい

:わかり味ある ダン材が調理されていく過程を生で見たい

:料理人視聴者たちの本音コメがポロポロしだしてるな?


「二分くらい焼いたら二分くらい休ませる感じで。

 休ませてる間に、ディアさん提供のグレイブリーキを料理しましょうか」


:グレイブリーキはディアちゃん提供なのか

:涼ちゃんだとグレイブリーキ稼ぎ難しいからな

:ネギ魔導のブレスで発生したネギはグレイブリーキっていうんだ


「ドレイクと戦った頃はネギ魔導とタイマンするのにもヒーコラ言ってましたけど、探索者としても超人化も、ちゃんとレベルアップしてますからね!」


 エッヘンとディアが胸を逸らす。


:ドヤかわいい

:あれからそれほど立ってないのに腕上げてるのか

:涼ちゃんから刺激を受けて結構がんばってるっぽい


「そんながんばってるディアちゃんは手を止めないで手伝ってほしい。

 リーキの軸を切って、お店でちょっと仕込んできた特製オイルを掛けてアルミホイルで巻いて」

「はーい! お塩とかは?」

「オイルに味がついてるからそれだけで大丈夫」

「わかりました」

「本当はオーブンに突っ込んでローストしたいんですけど、今日は外なのでこのまま網の上に乗せます」


:太いリーキをそんなまるまる使うん?

:シンプルに豪快

:太いからホイル包んだサツマイモみたい


「リーキを網に乗せたら、また肉を焼きます。

 皮目を下にしてさっきと同じように皮の脂を溶かしつつ、溶けだした脂を肉に掛けながら焼いていきます」

「豪快に焼いてドーンでも美味しいんですけどね」

「それはもちろん。そういう豪快なおいしさを否定する気はないし、自分の大好きだけど……そっちはホラ、普段のディアーズキッチンとかでもやってるから。

 料理人としてお呼ばれしたなら手間が掛かって、お洒落に見える料理の方がいいかなって?

 そういう方が視聴者も楽しいだろうし、撮れ高も高くなりそうじゃない?」


:撮れ高気にする系料理人

:ゲストとして理解がありすぎるw

:そう言われるとそうだよね

:この感じは確かにふだんのディアーズキッチンにはない


「よし。こうして三、四分焼いたらまた火から下ろして、二分ほど。

 お店ならこの後にオーブンに入れるんですが、今回は野外なのでスタッフさんが用意してくれたキャンプ用ピザ窯で応用します。温度計付きな上に口が広いタイプなのが助かりますね」


:よくみると時間差でスタッフさんもお肉の処理や調理してるんだ

:結構な人数いるって話だもんな

:また乱入してくる配信者いるかもだし笑

:網においてあるネギの様子もスタッフさんが気にかけてるのか

:喋りながらだと見落としがあるかもだしな


「そのピザ窯の温度を百八十度くらいはキープして三分くらいかな? ネギ魔導の肉に火を入れていきます。

 オーブンでやるのと勝手が違うから、これで良いかはちょっと不安ですが」


:不安なんだw

:多少は仕方ないよなお店じゃないし

:テツさん料理選びミスったの実は後悔してない?w

:しかし手間の掛け方がすごいな

:なんか画面の左側の方がうっすらと輝いてない?

:そういやみんなサングラス用意してある?

:もちろん!

:サングラス???


「ピザ窯から出したら、温度を確認します」


 テツは鉄串を肉にさし十秒ほど待ってから引き抜き、下唇にあてる。


「なんとか大丈夫そうですね」


:確認の仕方にプロ味を感じる

:うまくいってそうで良かった


「お肉にアルミホイルを巻いてまた休ませます。本来はホイルだけ巻きますが今日は一緒に、この葉っぱを皮目と肉側と一枚ずつ入れてから包みます。

 休ませてる間に、こうするコトでこの葉っぱの香りがお肉に移ります。

 ちなみにこの葉っぱもダンジョン素材です」


:妥協しないダン材料理・・・!

:なんの葉っぱだろう?

:桜っぽかったけどダンジョンの桜?

:桜の葉?それってもしかしてブロシア?


「寝かせてる間に、ソースを作っちゃいましょう。

 ダンジョンに住む蜂のハチミツを鍋に入れます」


:さらっと流したけどハチミツもダン材かよw

:採取してきたの誰だろう?笑


「このハチミツをキャラメリゼして火から下ろしたら白ワインビネガーを加え、改めて軽く煮詰めて酸味を飛ばします。

 あ、お酢を使ったソースを煮詰める時って、結構むせやすいので気をつけてください」

「ング――……けッほっ!」


:あるあるw

:ディアちゃんが横で盛大にw

:確かにお酢が蒸発してるんだからそりゃキッツいよな笑


「ある程度、煮詰まってきたらお店で作ってきたダシ汁を加えます。これ、ネギ魔導からとったやつです。さらに混ぜながら煮詰めます。

 試作の時点ではレイク・コンソメも使いましたが、今回作りたいソースに入れるにはちょっと主張が強かったので、使うのやめました」


:ネギ魔導からとったダシ!?

:レイク・コンソメも気になるけどそっちも気になるな…!

:フレンチなネギ魔導もいいけど鴨南蛮なネギ魔導もアリでは?

:ネギ魔導の肉な?その言い方だとネギ魔導がコスプレしてるっぽいぞw


「さてだいぶ煮詰まってきたので、ここに先ほどのグレイブリーキにも振りかけた特製のオリーブオイルを加えます。

 このオリーブオイルは、涼ちゃん提供のダンジョン食材を一晩漬け込んで風味付けした、調味油となってます。

 これを加えながらかき混ぜて、乳化させ、ソースにトロみがつけば完成です」


 それからグレイブリーキを火から下ろして、まな板の上でアルミホイルを開く。


「直火でやったのでちょっと焦げ付いてますが、よっと……」


 包丁で縦に裂き、内側を確認し、テツはうなずく。


「うん。いい感じですね。

 あとはネギ魔導の肉の仕上げといきましょう」


 休ませていたネギ魔導の肉からアルミホイルを外し、香り付けに入れていた葉っぱを取り除くと、皮目を下にしてスキレットにおく。


「皮目がパリっとするように仕上げの焼きですね。強火で皮だけ焼きます」


:皮がパリパリのチキンステーキっていいよね

:いいよね

:とてもいい


 皮がきつね色になったところで火からおろし、今度はリーキに手を伸ばし――


「……テツさんそのままだあとリーキがスキレットに入らないんで、横に半分にしません?」

「そうしようか」


 スキレットにそのままだと入らなそうなリーキを半分に切ってから、断面を下にして中に入れる。


「これも強火で。スキレットに残ったネギ魔導の脂を全部すわせるような感じで焼きます」


:このネギだけでうまそう

:反則級のネギだ


「そうなの! こうやってネギ焼てるだけで私のお腹は空くし、涼ちゃんの顔は輝く!」

「あの顔はリーキじゃなくて鴨の香りに反応しているんだと思うけど」


:テツさんに一票

:まぁ鴨だよなw


「さてリーキがいい感じに焼けたので火から下ろします。

 あとはネギ魔導のローストを切り分けましょうか」


 テツはスッとネギ魔導の肉に包丁を入れて、1cmほどの厚さに切っていく。その断面を見逃すものかと、カメラがそこに寄っていった。


 カリっと音を立てる皮と、そのあとに映し出されるしっとりとした桜色の断面。


 包丁が入るたびにわずかに潰れ、透明な脂がその桜色の断面から滲んで垂れる。


:あああああああああ

:この断面は反則すぎる

:やめてくれなんだこれは


「あとは百均で買ったいい感じにお洒落な紙皿に盛ります」


:百均w

:マジでいい感じにお洒落だ

:使い捨てなのもったいないな


 斜めに重ねるようにネギ魔導のローストを並べ、そこにローストリーキも一つ乗せる。


:もう旨い!!

:なんで肉って切り身が綺麗に並んでるだけで旨そうなんだ?

:グレイブリーキのローストも柔らかくて美味しそう


 最後に上からソースをかけ、少しだけ花びらをチラした。


:ぐわあああああああああ

:何の花びら?

:うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

:画面の攻撃力が高すぎる!!!!


「まずは一品目。ローストネギ魔導完成です!」


 テツがそれをカメラに向けると、一緒に作っていたディアも皿を持ってやってくる。


「私もできた!」


:ディアちゃんは盛りつけも綺麗だ

:外でこんなもん作るな!!!うまそうすぎるだろ!!!!!!


「はよ! はよ!!」


:涼ちゃん!バンバン机を叩かないの!

:もう待ちきれなくなってるじゃんwwww

:うっすら顔も光ってまったくもうw


「それじゃあテツさん、できたものを順次サーブしましょうか」

「そうしましょう」



=====================



【Idle Talk】

 実はワールドワイドになっていた涼ちゃんねる。

 本編で触れちゃうと横道に逸れすぎて話が進まなそうなのと、言語調べたりするのシンドいのでちょっと触れてきませんでしたが。


 他の配信以上に、言葉が分からずとも内容がわかりやすい(スニーク、絶景、寝顔、狩り等)から海外の人も見やすいんだとか。

 あと、現在に生きるニンジャの動画として拡散している海外ニキたちもいる様子。




 ただ料理しているだけなのに想定の倍くらいのボリュームになってしまいました。

 分割しようかとも思ったけど分割するほど濃くもないかな――ってコトで、そのままどーんと公開です。


 今回の調理シーン&レシピは、参考にさせてもらった動画ありますので、参考文献としてそちらのアドレスを張っておきます。

『【プロはここが違う】鴨肉ローストの作り方|シェフの火入れ解説』

 https://youtu.be/4T-eIkDodwM?si=pTRdaeFgOgjh56ZF


 お腹が空きました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る