涼 と 守 と 怪しい三人
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涼 と 守 と 怪しい三人
その日、涼が朝起きて眠気と戦うようにベッドサイドにあるスマホを手にすると、Linkerにメッセージが届いていると表示があった。
「……ん? 鳴鐘さんから?」
寝ぼけ眼を擦りながら、その内容を確認する。
鳴鐘 守
《朝の忙しい時に悪いね
先日の怪しい連中の話なんだけど涼ちゃんは何人組だったかわかる?》
一時間ほど前に届いていたそれを読んで、涼の頭は眠気を脳から押し出した。
すぐにメッセージを返送する。
涼
《ボクが把握している限りでは三人でした》
少し時間が空いてしまっているのですぐには返ってこないだろうと、ベッドから起きあがり、着替えの準備をしていると、スマホからバイブ音が聞こえてきた。
用意した着替えをベッドに置いて、スマホを手に取る。
《そうか なら謝罪するわ
先日四国を追い出された連中に似ているという話をしたがその四国の連中「OHR88」というパーティは結構な人数の大パーティらしいんでね
その半分が東京に来てるんだとしても結構な人数だろ?
なので涼ちゃんを追いかけてた連中と同一である可能性は低い
余計な警戒をさせるようなコト言ってすまなかった》
その謝罪に、涼は少し思案してから返事を送った。
涼
《わざわざ情報修正の連絡ありがとうございます
可能性は低くてもそういう人たちがいると知れただけでも大きいです
ところで確認したいのですけど「OHR88」ってなんて読むんですか?》
鳴鐘 守
《おーえいちあーるエイティーエイト
あるいは、オヘンロはちじゅうはち
略してにオーハチって呼ばれるコトが多いみたいだけどな》
涼
《どっちにしろふざけてますね というかお遍路ネタだったんだ》
そんな名前を名乗っておきながら、四国から居なくなったことを喜ばれるような仕事をしていたこと含めて、大変ふざけた輩なのだろう。
鳴鐘 守
《それにオーハチは四国から出たというより解散したっぽいんだよな
まぁ解散も噂程度で事実かどうかもわからんワケだけど
ともあれオーハチの可能性が減ったとはいえ配信見ながら追いかけて来る連中だ
警戒はしといた方がいいとは思うぜ》
涼
《わかりました ありがとうございます》
鳴鐘 守
《こっちこそ朝から悪かったな
気をつけて学校行って来いよ》
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「情報はありがたいんだけど、そうなるとますますあの三人組なんだったの? ってなるな……」
小さく息を吐きながら独りごち、それから時計を見ると思ったより時間が経っていた。
「まずい。とりあえず家を出ないと」
さっさと制服に着替えて鞄を手にすると、涼は急ぎ気味に家を出るのだった。
「――というコトだったんだけど」
「ふむ。まぁどっちにしろ警戒はするしかなさそうだな」
家を出て駅前で香と合流した涼は、一緒に乗る電車の中で、今朝のやりとりを報告した。
「それはそうと寝癖がすごいぞ」
「鳴鐘さんとやりとりしてたら時間ギリギリになっちゃて」
「なるほど」
とはいえ、香も結論としては警戒する――くらいのことしか出せないようだ。
「寝癖はともかく――正直、そのオーハチって人たちであってくれた方がやりやすかったんだがなぁ……マジで正体が分からないとなると対応に困る」
「それなんだけどさ――」
「ん?」
家を出てからこっち、涼はしばらく考えていたことを口にする。
それに香は顔を
「いやまぁそれは確かに……うーん……」
「ダメかな?」
「良いか悪いかでいうと何とも答え難いんだが……」
「それにさ、今度のコラボ配信までに決着はつけておいた方がいいだろうし」
「決着つけておいた方がいいというのには異論はねぇよ」
だがなぁ――と、香は頭を掻く。
涼の提案した手段は確実性はあるが、危険性も高い。
「涼一人でそれをやらせるのはちと怖い」
「なら見届け人を呼ぶとかダメ?」
「見届け人?」
「それこそ、鳴鐘さんとか」
「…………」
その考えに、香の表情が少々変わる。
今までの渋っていた表情とは違う。白凪などとやりとりをしている時のような顔になった。
つまり、一考の余地はあるということなのだろう。
香が思考しているのを邪魔しないように、涼は窓の外で流れていく町並みを見る。
電車客向けの宣伝看板が、新しい唐揚げ粉のモノになっているのに気がつく。
「これは……朝から幸先がいい……!」
良いモノを見れたと、涼がガッツポーズしている横で、香の考えはだいぶまとまり始めていた。
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「チキンのみなさん、こんスニ。
涼ちゃんねる。今週も探索配信をしていきたいと思います」
怪しい三人組に追われた日から一週間。
涼と香はとりあえずふつうに配信をすることにした。
:こんスニ~!
:待ってた!
:I've been waiting!
:きた!実家のような棒読み感!
:配信ナシでも毎週探索とかシンドいのにタフだな涼ちん
:これが若さか
「今日は東京は調布市にある
ここの本堂裏手にある植物園――の脇にダンジョンがあります。
今居るこの公園のようなエントランスは、そのダンジョンのモノです」
:結構有名なダンジョンだな
:乱れ四季の杜か
:探索ニキたちが反応するくらいには有名なんだ
「コメント欄にも出ていますが、名前は乱れ四季の
名前の通り、同じフロアでもエリアごとに四季が違うので、装備の選択や攻略の順番などに頭を抱えるダンジョンとして有名です」
:そうか夏と冬じゃあ必要な装備も違うもんな
:ゲームじゃあサラっと流すようなギミックだけど現実だとキツいな
「出現モンスターのランクも涼ちゃんねるではお馴染みになっている武蔵国府史跡と同じくらいです。そこに低めなのも、高めなのも混じっている感じなので、風景もモンスターもバリエーション豊かです」
:そこそこ強いモンスターに乱れ四季のギミック大変だ
:That seems difficult
「その難易度もそうですが、四季の狭間では普段みれない幻想的な光景も多いので、絶景スポットとして個人的には大好きです」
:ここを幻想的と呼ぶのは涼ちんくらい
:ふつうの探索者はその狭間を楽しむ余裕はない
:探索者ニキたちが呆れてるw
「そして有名ではありますが、その難易度もあって人はそこまで多くないダンジョンですので、配信向きかもしれません」
:そこを配信向きといえるのは涼ちんだからこそだと自覚してw
:涼ちゃんはどうやって各種季節を乗り越えるんだ?
「この愛用しているコート。オールシーズンOKなので」
:違うそうじゃない……いやそうじゃなくもないか?
:オールシーズンOKってそういう意味じゃない気がしたけどそうでもないかもしれない?
:あれ?
:夏でも革のコートみたいな人はいるにはいるけど……
:そもそもタイヤや布団ではなくコートでオールシズンってあるの?
:検索するとそれなりに出てくる
「それでは皆さんに最高の絶景スポットを見てもらう為に探索を始めたいと思います」
困惑するコメント欄を余所に、涼は鳥居が連なるような階段を降りはじめた。
:マイペースだなぁ笑
:それでこそ涼ちゃんw
「個人的にこのダンジョンで、絶景スポットや寝顔探索する上で、一番注意するべきモンスターはムカデだと思います」
:寝顔探索というワードよ
:あのムカデ そこまで強くないと思うけど
「理由はあとで説明しますけど、このダンジョンに出てくるムカデたちは、ボクにとっては脅威そのものです。
出現率の高いエリアでは、コメント欄は閉じますし配信を意識できないかもしれないので、事前に謝っておきます」
:おk
:それは仕方ない
:理由はわからんがやばいのならそういう対応も必要
「さて、乱れ四季の杜のフロア1に到着です。
最初はスタートらしく春です。あちこちに桜が咲き、常に桜の花びらが雪のように舞っている光景は、これだけでも結構価値があるのではないかと思います」
:マジで綺麗じゃん
:beautiful!!
「入り口周辺は、低ランクのジェルラビっていいう、スライムのようなウサギのような奴でお馴染みの彼らしか居ませんので、無視してとっとと進みます。目的地はフロア1の秋エリアですね」
:ジェルラビはよく見るな
:いろんな配信にも出てきて可愛がられてる
:かわいがられる(意味深
まんまるいゼリーのようなボディに、ウサギの耳と尻尾を思わせる形状の触手が生えたスライムだ。
可愛らしい顔立ちをしているのもあって、探索者だけでなく一般人からも人気がある。
キャラグッズもあるのだが、モチーフがダンジョンモンスターだと知らない人も少なくない。
「このダンジョンの春エリア特有の桜色のジェルラビがいます。
チェリーラビという名前で尻尾がサクランボになっているかわいいやつです。
戦闘力は通常種と変わらないので、ザコはザコですが」
あれですね――と、涼が指で示し、ドローンのカメラがそちらに向いた。
:かわええ
:こいつらホンマかわいいな なんなん?怒
:チェリーラビもグッズ化希望!!
「さて余計な戦闘は避けつつ、いつものように進みますのでコメント欄閉じますね」
:おk
:りょ
:いつものスゴ技ですねわかります
:ninjya mode! This is what I wanted to see!!
そうして、いつものようにスニーキングスキルを発動し、自前のスニークムーブでスルスルと夏のエリアの中腹まで来た頃、涼はカメラの死角でスマホを取り出した。
そこには、香と――そして守からのメッセージが届いている。
(例の三人組らしき連中も乱れ四季の杜に入ってきた。
……ここまでは狙い通り。さて、うまく出来るかな?)
ダンジョンを探索し、絶景スポットを目指しながら、三人組へも対応をする。
(香と、鳴鐘さんの協力があるとはいえ、ちょっとドキドキするな)
そんなことを思いながら、涼はスマホをしまって、スニーキングしながらの探索を続けるのだった。
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【Idle Talk】
「え? 守、涼ちゃんねるに出るの?」
「いや出るっつーか、画面の外でちょっとした協力をするんだよ。必要とあらばカメラの前に立つのもやぶさかじゃないけどな」
「うちのパーティの宣伝しておいて」
「いやだからゲストとかじゃねーんだって」
「協力するんだから宣伝させろーってゴネれば?」
「俺のイメージがクッソ悪くなるだろうがそれだと!」
「君のイメージが悪くなってもパーティのイメージが悪くならないならそれでいいよ」
「連鎖的に悪くなると思うんですけどねぇ!」
「おみやげよろしく。深大寺そばがいい。かけで」
「店で注文してどんぶりごともってこいと?」
「え? 麺だけとかヤなんだけど。料理できないし」
「ならどうしろっていうんだよ!」
守お兄さんは、調布へ向かう前、自身のパーティメンバーとそんなやりとりをしたとかしてないとか。
☆以下
特に覚える必要もないし、今後出番があるか分からない守のパーティメンバーの名前(上で言葉を発してない人も含む)
結構な人数のパーティのメンバーだったりする
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全員共通のモチーフ有りですが、名前と字面でパッと分かった人は、ネタ元のヘビーユーザーじゃないかなと勝手に推測します
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