涼 と 部長 と モンスター退治


 昨日は更新できなかったので

 本日2話目の更新です٩( 'ω' )و


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 涼とシロナ。

 二人の少々長いお説教という名の講義は、意外にも好評だった。


 知識のない視聴者にとっては興味深かったというのと同時に、ダンジョン配信動画のファンとして、配信者が不快にならない為に必要な知見を得られるというのもあるのだろう。


 ほとんどの視聴者は真面目にその話を聞き、真面目なコメントを残していく。


「以前、はぐれと領域外戦闘を経験した身としては、はぐれなんて誰かがどうにかしてくれるなんて口が裂けても言えません」


:涼さん領域外戦闘経験者か

:生きているだけで奇跡だな


「近くにダンジョンがあったので、なんとかそこまで誘導して退治できましたが、二度とやりたくありません。

 幸いにして、町や人への被害はでなかったですけどね」


:だろうな

:まじで被害なくてよかった

:出てくるはぐれ次第では大惨事だもんな


「ただ過去にあったはぐれ事件では、ワニ系のはぐれに腕を食いちぎられた人がいました。鳥系のはぐれが、幼い子を誘拐した事件もありました。

 それを思えば、はぐれを発生させるコトも、放置するコトも、したくはありません」


:あったな

:はぐれは発生しても発生地区以外ニュースにならんしな

:もっと騒いでいいと思うんだけどな


 涼がそういう体験談やエピソードを語れば、シロナも自分の経験したエピソードを語り出す。


「自分より腕の立つベテランが目の前でイレギュラーモンスターに殺されたりすれば、他人に殺されれば良かったなんて言えませんよ。

 ましてや、亡くなられたのは、当時まだ未熟故に動けなくなってSOSを発していた私を、わざわざ助けに来てくれた人でしたからね……未だにトラウマですし、時々夢にみますよ」


:うわ

:それはきついだろうな

:あれ?シロナさんってもしかして……


 シロナもまた自分の体験談を語る。


 それらのエピソードは、配信による気楽な探索とはほど遠い殺伐として、命の危機を感じる話なのだ。


 探索者やダンジョンに興味のあるリスナーや、現役の探索者からすればかなり面白いのだろう。


 以前、涼が雑談でしていたようなダンジョンと探索者に関する話と一緒にそういうエピソードを語る為、雰囲気は少しばかり学校の授業のようになっていた。


「ボクはその経験から可能な限りはぐれは出したくないので、探索者の仕事として潜る時は敢えて不人気ダンジョンに潜っているところがあります」

「私も似たようなモノですね。イレギュラー情報があると、プライベートの時は積極的に様子を見に行っています」


 そこまで聞いて、探索者でないリスナーの多くは理解しはじめていた。


 二人が怒っていたのは、ダンジョンやはぐれを甘く見ていたり、イレギュラーで人が死ぬのを望んだりした発言に対してだ。

 探索者たちが危険を犯してでも、未然に防ごうとする災害ともいえる被害。あまりにもそれらを軽視した発言に怒ったのだ、と。


「ガチ勢と一言で言っても危機を防ぐのをメインにする人と、採取や調査などをメインにする人がいます。

 だけど、どちらも――今の世の中のなんてコトのない日常を守っているのが探索者です」

「税金の無駄だとか意味の分からない連中だとか言われようとも、命を賭ける価値のある仕事だと思ってもいます」


 どうしても兼業探索者が多いのは、作家業などと同じで安定しないからだ。

 表に出してないだけで、その理由からダンジョン配信者をやっている探索者もいるかもしれない。


 探索に必要な装備や道具を揃えるのにもお金は掛かる。

 攻略するダンジョンや、探索者への依頼が、どれだけ難易度が高かろうと、ダンジョン庁やギルドからの報酬がショボいことも良くあるくらいだ。


 それでも、続けるだけの意味や価値を見いだしている者にとっては、本当に先のコメントは許し難かったのだろう。

 なにせ、その意味や価値を踏みにじるような内容だったのだ。


「おっと、真面目な話はそろそろ終わりだとカンペが出ましたね」

「みなさん、急に怒ってこんな話をしてしまいすみませんでした」


 シロナと涼が頭を下げると、謝らないでという内容のコメントが多くついた。


 そのことに二人は大きく安堵する。

 それからすぐにシロナはモカPの出したカンペに気づいて話題を変える。


「涼さん。モカPさんがピックした質問の二つ目が出てます」

「……そういえばそんなコトしてましたね」


:確かに

:忘れてたw

:いいお説教だった

:まぁ該当者は聞いてないだろうけど


 そしてそのカンペを見たディアも興味津々に涼へと話題を振った。


「涼ちゃん。性別について聞かれてるけど?」

「うーん……」


:お

:気になるな

:ディアちゃんも気になってるの?

:え?性別非公開なの?


「あんまり言いたくないんですけど」


:すごい困り顔

:なんかマジで口にする嫌がってるな

:教室じゃさんざんいじられてるのにな

:言っちゃえ言っちゃえ!

:おっとリアルクラスメイト登場?


「うわいるんだクラスメイト……」


:いるぞー

:涼ちゃんイヤそうw

:マジでイヤそうな顔の涼くん好き

:バズってるクラスメイトの様子見に来たら説教動画だった

:クラスメイト全員見てるんじゃね?

:マジかよwww


「はぁ……仕方ない――性別、『涼』です」


:は?

:なんて?

:それなwww

:学校じゃ性別「涼」扱いされてるもんなw

:男だろうと女だろうと涼くんは可愛いそれでいい

:マジかwww

:いいのかそれww


「ボク個人は本来の性別を口にしてもいいんですけど」


:それはダメ

:絶許

:うちのクラスの夢を壊さないで!

:シュレディンガーの涼でいろ!!!!

:性別不明な涼くんの夢女でいたいの!


「……とまぁクラスでもこういう扱いです」


:残当

:わかる気がするw

:そのクラスに混ざって一緒に騒ぎたいなw

:来い来い!歓迎する!

:↑アラフォーのおっさんでも?

:↑お引き取りください

:↑そんなぁ(´・ω・`)


「コメントにあった夢女について詳しく」


:あとでワブ垢にDMします


「よし」


:なんかディアちゃんが食いついてるぞw

:密談が成立しているwww

:コメント大公開で密談とは?w

:涼ちんが夢女に首をかしげておる

:気にしたら負けだぞ涼ちゃん


「まぁ、そんなワケで性別『涼』って扱いらしいです。ほんと、なんなんですかねコレ?」


:涼ちゃん本気の首傾げ

:ふざけんな!

:許されるかよそんなの!いえ!!!!!!

:ちょっと怖すぎるんだけど

:《モカP》涼ちゃんねるの方針でもあるんで受け入れてくださいな

:OK

:それはそれで楽しい

:何が性別不明だよ方針だよザケンア!!!

:これからもよろしく

:性別「涼」理解

:やばいこわい

:受け入れられるワケねぇだろ!!

:いいから言えよ!男だったらマジ殺すぞ!!!!

:《モカP》あなた個人の裁量でどうにかなるとでも?

:それをヨシとしてる連中もユルさん!!

:サクラだろうがクラスメイトだろうが死ね!!

:マジ学校殴り込む

:一線を越えだしたなしーらね


 コメント欄で暴れ回る人たちに対して、明らかにモカPが怒っている。

 それは、涼たち出演者だけでなく、リスナーたちも感じ取っていた。


「モカPの代弁を私シロナがしましょう。

 本来配信中に言うべきモノではありませんが、敢えて言わせていただきます。

 このコラボはルベライト・スタジオ所属の大角ディアが主催したモノです」

「主催の私が目立たなくなってますけどね……」


:しっ!

:ディアちゃん静かに

:こういう時は混ぜっ返さない


「ゲストである涼さんやそのマネジャーのモカPや関係者のみなさんのの安全を、主催事務所である当社は、守る義務があります」


:ここまで言って分からない奴には何言ってもダメだろうな

:ルベライトがまともな会社で好感持てる

:なんでシロナさんはそんな奴を守るんだよ!!


「ましてや涼ちゃんねるは個人配信。後ろ盾がありませんから、今回のコラボで生じる不都合――特に誹謗中傷などからは、主催である我々が守るのは当たり前です」


 シロナがそこまで告げた時、「ウオッホン!」という大きな咳払いが響く。


「ぶ、部長!?」


 ペタペタとスリッパの足音を響かせながら、部長がカメラの前に出る。


:シロナさんが驚いてる

:本物の部長さんか

:大物が出てきた


「うちのディアも、シロナも、そしてゲストの涼くんも可愛いですからね。どれだけ厳しく口にしてもナメられてしまうのでしょう」


:迫力ある人だ

:現役探索者らしいしな


「あまりにも目に余った誹謗中傷や脅迫などのコメントに関しては、当社が責任を持って、しかるべき手段をとるコトで対処します。

 ですので涼くんも、視聴中の彼の――彼の……? いや彼女……の? コホン――とにかく、涼くんのクラスメイトのみなさんも安心してください」


:確かに彼と呼ぶべきか彼女と呼ぶべきか

:真面目な部長さんだ

:呼び方に迷ったところ笑ってしまったw


「それと、今その手の発言をしているIDをブロックしたそうです。

 何人いた? ふむ四人か――お騒がせして大変申し訳ありませんが、引き続き配信を見ていただけたらと思います」


:はい

;ありがとうございます

:安心感のある人だな


 そうして頭を下げて下がろうとした部長に、ディアが待ったをかけた。


「あ! 部長もこのままいてください!」

「おや、ディアさん? どうしてですか?」

「せっかくなので、食べていってくださいよ。私の料理」


 部長は少し悩んだそぶりを見せてから、うなずく。


「それじゃあ視聴者の方が良いと言ってくれるなら」


:どうぞどうぞ

:いつもディアちゃんたちも守ってくれてありがとうございます


「ありがとう視聴者のみなさん。それじゃあ食べさせていただこうかな」

「はい。是非」


:ここからはディアの料理か

:探索情報欲しいだけだったから離れるわ

:ファン以外が居座っても迷惑だろうしな

:お邪魔しました

:お説教楽しかったぜ


 真面目な探索者の人たちが退出するためコメントを残していく。

 そんな彼らに、涼が待ったをかけた。


「待ってください探索者ニキさんたち」


:お

:どうした?

:なんだ?


「ディアさんの料理なんですが、個人的には見ていくのをオススメします。なにせこれからボクとディアさんが調理する食材は鴨肉ですから」


:ん?

:鴨肉?

:それがどうした?

:いや待って

:確かにそれはちょっと興味がそそられる

:正気か?


「そうですッ! これから私と涼ちゃんで、『大ネギ魔道、ドレイク』を料理したいと思いますッ!!」


 ディアのその宣言に、想定していた視聴者も、想定していない視聴者も、一緒になって今まで以上のザワつきを見せた。



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【Idle Talk】

 クラスメイトたち は やりとげた かお を している!


 なおモカPの正体も涼のクラスメイトたちにはバレているが、クラスメイトたちは事情を察して伏せるのに協力している。


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