涼 と ディア と ようやくのコラボ鴨肉


「さて、ここに涼ちゃんと一緒に血抜きをして羽の処理してきたドレイクがいます!」

「ちなみに大きすぎてキッチンに置くのも大変なのでバラしてきました」


:ハイテンションとローテンションの温度差よw

:見た目はそうだけど内面は同等だろww

:え? マジで食べるの??


 バラバラにしてあってもわかるサイズの大きさに、コメント欄が沸き立っていく。


「さてプライベートでは恒例のまずはそのまま試食タイムです!」


:恒例なんだ

:いいなー

:そのまま試食?

:生でいくの?


「いえ、さすがに生では行きません」

「そうか。良かった」


 コメントに対してシロナが返事をすると、横にいた部長が安堵する。

 その様子をしっかりカメラが捉えていた。


:草

:部長さんひと安心

:冷静に考えればそれはそう

:とかやっている間にジュージュー聞こえてくる

:もしかしてステーキか?


「予想してる人もいた通り! 一口大にカットしたのを焼いて軽く塩を振ったステーキです!」


:エプロン付けて料理している女の子っていいよね

:ドレイクのステーキ……どんな味だ?

:字面だけ見ると翼竜だけど鴨なんだよなぁ


「いやしかしすごいね」

「はい。すごいですね」


 脂が溶けだして匂いを発しだした頃、部長が驚いた顔をする。

 それに、シロナもうなずいた。


:すごい?

:なんだ?なにがおきてるんだ?

:もしかして匂いか?


「この匂い……やばいよ……」


:まって匂いだけで涼ちんの顔が

:うっそだろそのレベルの匂いとか

:まず顔がウッスラ輝いてるコトの説明よろ

:涼ちゃんは美味しいモノに出会うと顔が輝く

:《モカP》こんな芳醇な鴨の香りはじめてだ

:説明になってないんだけどどういうコト?

:モカPギルティ

:見ての通りだあるがままを受け入れろ

:?????

:《モカP》カメラの外にいるスタッフも涎垂らしそうな顔してる

:くそ現場に行ってみたい


 驚愕と困惑に満ちるコメント欄。


 それを見ながら、ディアがカメラを手招きして、フライパンを指さした。


「この光景どう?」


 お肉をひっくり返した直後のフライパンの中。

 それをカメラが映し出す。


 見るからにパリっと焼かれた皮目。

 まだ半生状態だろう下部は、溶けだした自身の脂で焼き上げられていっている。


 黄金色にも見える脂は激しく弾けながら泡立ち、サーモンピンク色だった肉を焦げ色のついた乳白色へと変えていく。


:ああああああああああ

:画面越しにもわかる

:なんて危険な絵……!

:これで匂いが強烈らしいのやばい

:正気を保てるのかみんな……!?


「よし。こんなもんかな」


 カメラがフライパンの中を映したまま、上からディアの声が降りてくる。

 火が消され、脂の合唱が落ち着いていく中、菜箸で一つ一つが回収されていく。


:肉が……肉が減っていく……

:まぁ皿に移されてるだけんなんだろうけど

:ああああああああああ

:カメラさん動いて!

:なんでずっとフライパンなの……

:せめて涼ちんかディアちゃん映して

:配信って初めてみるけどこんな拷問のようなコンテンツだったのか

:なんか誤解が生じてるぞ

:ついにフライパンが空に……

:誰か誤解を解いてやってくれ!

:この状況で俺らが何を言っても説得力ないぞ

:っていうかフライパン空になったんだからカメラ動いて!


「カメラさんこっちこっち」


 すると、またも――視聴者にとっては――上の方からディアの声が降りてきてカメラが動き出す。


「試食用ステーキ完成」


 そして、カメラが完成したステーキを映し出した。

 一口サイズのチキンステーキが綺麗に皿に並べられ、つまようじが刺さっている。


:うまそう

:ビジュアルはふつうだな旨そうだけど

:これはやばい

:あのネームドの肉とは思えないほど美味しそう


「お待たせしましたー!」


 ディアはステーキの乗った皿を手に、キッチンから出てテーブルに座っている涼、シロナ、部長のところへと持って行く。


「あ、モカPもカメラに映らないように取りに来て」


:モカP無能

:モカPギルティ

:おのれモカP

:ゆるさんモカP

:もしかしてモカPディスって涼ちゃんねるのテンプレ?

:テンプレだし涼ちんのお墨付き

:ただしモカPいてこその涼ちゃんねるなので敬意を失してはならない

:なるほど理解したモカP無能

:了解したこのやろうモカP

:《モカP》今日はディスりも心地よい

:くっそーw

:うらやましすぎるw


「さて、それではみんなでイートタイム!

 ……なんだけど、その前に涼ちゃんねらーのみんな! サングラスは用意したかー!」


 言いながらディアがサングラスを取り出すのを、涼が不思議そうに見ている。


:確かに必要そう

:匂いだけでうっすら光ってたもんな

:ちょっと持ってくる

:すでに持ってるぜスチャ


「涼さん。不思議そうに見ているようですがあなたのせいですから」


:サングラス??

:どういうコト?

:手元にあるならした方がいいぜスチャ

:スチャ


 シロナもツッコミを入れつつ、どこからかサングラスを取り出す。

 さらには、部長さんへもサングラスが差し入れされた。


「ああ、ありがとうモカPさん。ところでコレ何に使うの?」


:いや本当になんでサングラス?

:部長さん困惑してて草スチャ

:いや部長さんだけでなく視聴者もだいぶ困惑しているが?

:困惑しないほうがおかしいスチャ


「いやなんかスチャって単語がやたら乱舞してるんだけど? それよりまだ食べれない?」


:原因である本人が首を傾げてるのほんと草スチャ

:しかし興味はグラサン<肉

:よくわからないけどとりあえず付けておくかスチャ

:《モカP》変なテンプレが生まれたけど正しいスチャ

:まぁ肉かグラサンかと言われれば肉だろ


「ええー……モカPも?」


 モカPまでもがコメントのノリにつきあいだしたので、ますます涼は困惑する。


「まぁまぁ涼ちゃん。涼ちゃんは細かいコト気にしないで。準備ができたから、あとはこれを食べればいいの」

「そういうコトなら気にしない」


:切り替えはやいなスチャ

:マジでもう気にしなくなってない?


「ええっと、それでいいのかい涼くん?」

「はい。鶏肉の前には森羅万象全てが些事なので」

「そ、そうか……」


:あれは本気で言ってる顔だスチャ

:部長さんさらに困惑した顔して草

:鶏肉に対する期待のスケールでかすぎワラタ


「さて、熱々のうちに食べましょう。部長もご一緒に」

「もちろん。香りのせいでもう気になって気になって」


 そうして、カメラに映る四人は「いただきます」と唱和した。

 それは涼以外はサングラスを掛けているという奇妙な光景だった。


:いいなー……スチャ

:これがサングラスをかけるラストチャンスだスチャ

:スチャ

:スチャ

:sutya

:スチャ

:結局グラサンつける理由がわからんスチャ

:すぐにわかるさスチャ


 コメント欄の想定通り。

 突如画面の左側から眩いほどの光が溢れ出す。


:なんだ?

:はじまったか

:かがやいてるなー


 コメント欄どころかスタッフまでもザワつきだすが、モカPは冷静にカメラさんへと指示を出した。

 ようするに、涼の顔を撮れ――である。


「うーん、良い輝き。涼ちゃん美味しい?」

「めっちゃ美味しい……。なんていうかもう、なんか……美味しい……」


:輝きながらとろけた顔してる

:グラサン……こういうコトか

:どんだけ美味しいんだよ……

:つまりどういういコト?

:涼ちゃんは美味しいモノを食べると顔が輝く

:輝き具合がおいしさのバロメーター

:つまり超美味しいってコトだ

:説明になってないし理解できないけど納得はした

:すごいなひと噛みごとに輝きがましてる

:どんだけ旨いんだ?

:みんなが涼の顔を受け入れてるのに驚いてる

:輝く顔の涼。ケルト神話のご出身で?

:涼くんそれ今すぐ教室に持ってきて

:今日学校休みでは?

:この間のテストで赤点だったから

:配信見てないでちゃんと補講受けろw


「これはすごい……! 涼くんじゃなくても、顔が輝きそうになるほど美味しい!」

「本当に……鴨であるコトは間違いないのですが、今まで食べたコトのない鴨の味がします」


:部長もシロナさんも美味しそうにしてる

:美味しいもの食べ慣れてそうな部長さんが唸ってる


「ああああ……これ、すごーい……」


:ディアちゃんのとろけた顔だ

:やば

:メシの顔になってやがる

:エッッッッ

:媚薬でも盛られてんじゃないのかってくらいの顔だ

:ここだけスクショされたら発禁されそうな艶っぽさ

:え?ディアちゃんっていつもこんな顔するの?

:想定を越えるおいしさの時だけだよ

:つまりドレイクの肉は想定を越えた味なのか

:でも鴨なんだろ?

:《モカP》鴨の持つ独特のねっとりとした甘い香りが強い

:《モカP》だけど香りとは裏腹に後味はすごいさわやか

:《モカP》なんというかすごいキレのよい鴨の味

:《モカP》だけど鴨の旨さがこれでもかと凝縮されてる

:《モカP》旨い意外の言葉がなくなるくらい旨い

:わかりやすい食レポきた!w

:モカP有能だがゆるさん

:なんで顔出し声だしNGのやつが一番詳細なんだよww

:でもダメだ説明されてもピンとこねー!

:みんな恍惚とした顔してるけどマジやばい成分はいってないよね?


 だんだん誰も気にしなくなってきているのだが、涼以外の人が感想を口にしている間も、モカPが感想をコメント欄に書き込んでいる間も、ずっと涼の顔は輝いている。その為、画面左側は基本的に白い。


 食べ終わってなお、余韻によって輝いているほどだ。


「涼ちゃん。これ、どう食べたい?」

「難しいですね……。揚げて欲しいのは間違いないんですけど」


 ディアに問われて――だけど涼の答えは歯切れが悪い。


:出たな揚げ鳥スキー

:食べ方迷うってどういうコト?

:《モカP》ただ焼いたのが美味しすぎてリクエストに困るんだ

:《モカP》どう料理してもステーキ以下になるのでは?的な

:そのレベルの味なのか

:ほんと気になる……!


「鴨の美味しさを生かしつつ、涼ちゃんのリクエストに応えつつ、出来ればスタッフのみんなにも振る舞いたい……」


:なんかディアがすごい贅沢なコト言ってたような

:その条件を満たす料理なんてあるの?


 ディアだけでなく、涼もシロナも部長も、そしてコメント欄も迷ったような空気が流れる中――


「ん? なにモカP? え、カンペじゃなくてこっそり耳打ちしたい? OK」


:お?

:なにか思いついたのか?

:ディアちゃんに耳打ちとかギルティ

:モカP有能だけど無能

:モカP許さん


「なるほどッ、それは確かにアリ! それなら鴨の風味たっぷりの料理と涼ちゃんの為の揚げ物が両立できるッ!」


:嬉しそうな声が響いたな

:何を作る気だ?


「涼ちゃんって料理できるんだよね?」

「え? うん。できるけど……」


:涼ちゃん料理できるんだ

:まさかの合作か

:共同作業と言うべきでは?


「ちょっと一人でやるには大変そうだから手伝って」

「わかりました。ボクでよければ」


 そうして、ディアは涼を伴ってキッチンへと入っていくのだった。



=====================



【Idle Talk】

 視聴していたクラスメイトたちは、自分たちの知らない涼の一面ばかりが出てきて驚いている。

 特に驚いたのは顔が輝いたコト――ではなく、鴨を食べてゆるみきった表情である。


 表情筋が……仕事している……!!


 なお、スチャコールに関してはみんな率先してノっていた。



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