涼 と ディア と お説教コラボ
大ネギ魔道、ドレイク戦から二週間――
「――ようこそ私の厨房へ! ディアーズ・キッチン!
今日はゲストと一緒にお料理配信ですッ!」
:はじまった
:ネームド戦以降動き無かったから楽しみ
:ケガとか大丈夫? 口から血出てなかった?
:ハデに吹っ飛ばされてたよね?
「ご心配おかけしました!
でも、ケガの方は大したコトなくちゃんと完治してからの配信なので安心してください!」
:ならよかった
:ひとあんしん
:内容次第じゃ涼を殺す
「そんなワケで改めましてゲストをご紹介!」
:ネームド戦からずいぶん間あったな
:なんか怖いのいるな
:↑しっ!さわっちゃいけません!
:双方の調整とかあったんだろ
:二人ともどういう関係なんだろ
「事前の告知の通り、今日のゲストは!
涼ちゃんねるの涼ちゃんです! ぱちぱちぱちぱち!」
:知ってた
:涼ちんキター
:88888888
:コラボ早かったな
:事情次第じゃ涼を殺す
:事務所勢が個人勢に配慮とかするの?
:最低限はするだろ
:まぁそのうちゲストに呼ぶだろうとは思ってた
:内容次第じゃ涼を殺す
:あぶねーのまざってんな
「みなさんこんにちわ。ほとんどの方はじめまして。ご紹介あずかりました、涼です」
:すごい棒読みだなコイツ
:さすが涼ちん挨拶が堅いww
:実家のような安心感のある棒読みww
:こいついつもコレなん??
:そうだよ
:かわいい人だ
:こいつ男なん女なん?
:美人でかわいいけど男っぽい?
:女だったら殺す男だったらもっと殺す
:運営、あぶねーのつまみだして
「私の
「……ボク、ディアさんに推されてたんですか?」
「はい!」
:見ろディアちゃんの曇り無き眼
:ツヤツヤした笑顔だ
:涼まじシネ
:やっぱ荒れてくるかぁ
:ディアちゃんが嬉しそうなので何でもよし
「それと、今まではあまり顔出さずに存在感だけ示していたこちらの方が――私の撮影アシスタント兼マネジャーのシロナさんです」
「皆様、改めまして初めまして挨拶させてください。
カタカナでシロナと覚えていただければ。今後もあまり顔出しはする予定はありませんが、大角ディアともどもよろしくしていただければ幸いです」
:シロナさん美人だった
:出来る女と評判そう
:やっぱりあのメガネさんはシロナさんだったのか
:シロナどこかで見たことあるような
:スパイラルフレアかっこよかった
:ムチで叩いて欲しい
「さて、鶏肉料理大好きな涼ちゃんの為にすぐにでも料理に取りかかりたいところですが」
「……え? 取りかからないの? お預け?」
:草
:ガチでショック受けてる
:そこまでのことなん?w
「涼さん、配信開始前に打ち合わせしましたよね?」
「ディアさんの鶏肉料理が食べられるコトに意識が行ってて何も聞いてませんでした」
:草すぎるwww
:聞いてなかったww
「今日という日の為に、レイク・コンソメの採取に行ってきたんですけど」
「わかった。今すぐ料理に取りかかろう」
「ディアさん!?」
:とってきたんかww
:ディアちゃんさぁ……w
:レイク・コンソメ??
:ネームド戦の時も思ったけど同類かこいつらww
:だれかレイク・コンソメについておしえて
:↑ダンジョンにある金色の湖の水
:金色の水????湖の??
:それになんであんなくいついてるの?
「二人ともまずは、先日のネームド戦のお話を」
「えー」
「えー」
:シロナさんまじがんばって手綱握って!
:モカP!モカPはいませんか!涼ちんの手綱!!!
:不満顔どっちもかわいい
:モカP!はやくきてくれー!!
:モカPだれだよ
:涼ちゃんのマネさん
:それはすぐに来るべきだ
:《モカP》現場にはいます。顔出し声だしNGなだけで
:《モカP》さっきからカンペだしてるけど二人とも見てくれない
:すでに二人をどうにかしようとしていたww
:二人ともカンペみてあげてww
「ウォオッホン!」
:野太い咳払い!?
:っていうかわざとらしい
:誰の声だ?
:男いるのかよ現場
:野太いけど女っぽくなかった?どっちだ?
:そりゃあいるだろ
:スタジオ配信となればテレビ撮影とかわらんだろうし
:嫉妬の仕方がキモい
「あ……そういえば今日、現場に事務所の偉い人が来てるんでした!」
:ディアちゃんww
:今のお偉いさんの声か
:やらかしたなw
:上司怒りの咳払いwww
「私の立場が大変よろしくなくなるので、打ち合わせ通り進めてよろしいですか?」
「はい、すみませんでした」
「はい、ごめんなさいでした」
:シロナさん真顔
:ディアちゃん涼ちん反省
:二人してしょんぼりかわいい
:《モカP》ちょっと肝が冷えた
:モカPドンマイ
:涼ちゃんねるは個人勢だもんな
:事務所勢に嫌われたくはないもんなw
そんなこんなでグダグダとしたスタートを切ったコラボ配信だったが、ここからシロナが舵取りをし、ネームドと遭遇した時の話ができるようになってきた。
「そんなワケで助けてもらって以降、仲良くさせてもらってます!
ダンジョン食材の料理をためらいなく食べてくれる上に、
:ディアちゃん的にそこが大事かw
:でも一緒にダンジョンにいた理由はわかった
:意気投合してプライベートでは仲良しなのか
:ダンジョンはマジで偶然居合わせただけだったんだな
:どこまで信じていいんだか
:どうせディアちゃん来るの見計らってたんだろ
:↑おまえじゃあるまいしねーわ
:マジで運営ブロックやキックをよろ
内容としては事前にシロナとモカPで作っていたカバーストーリー通りだ。
そしてだいたいの人がそれに納得してくれたようである。
「涼ちゃんがネット文化に馴れてないところがあるので、急にバズったり炎上したりしないようにってモカPの配慮から、私が涼ちゃんねるのコメント欄に出没するのは控えてました」
:確かに涼ちんはネット文化に関してはまっさらって感じ
:モカPの配慮は正しい
:鳩はいっぱいいたけどな
「そうでなくても涼ちゃんの探索スタイルがカッコ良くて憧れてるところはあります」
「玄人でもマネしづらいので気をつけてくださいね」
「シロナさんに言われなくても分かってますって」
:そりゃあな
:あれは無理
:涼ちんスタイルは唯一無二感ある
:どんなスタイルなん?
:↑スニーキング暗殺者
:↑なんだそりゃ?
:だいたいあってるんだよなぁ
「涼さんからは何かありますか?」
「えーっと……ボクからは無いんですけど……モカPなんかある?
あるなら、さっさとカンペに書いて」
:相変わらずモカPに当たりが強い
:さっきまでカンペ無視してたのにw
:ずっと同じクールフェイスなのに急に低い声ってだけでゾクゾクする
:クセになったなら涼ちゃんねるにおいで
:今度いきます
:おれも
:わたしも
「コメント欄で洗脳の儀式が行われてるみたいですよ」
「何が洗脳の儀式になってるんですか?」
:首を傾げる涼ちゃんの横よ……
:ディアちゃんが溶けてる
:至近距離で推しの低音浴びたから…
「……ディアさん? どうしました?」
「りょうちゃんのてーおんぼいすしゅき……とろける」
「え? 呂律が回ってない!? え? 大丈夫???」
:涼ちんが本気で心配してる
:涼ちゃんのポーカフェイスが崩れた!
:大丈夫だと思うからほうっておいてあげて
:ディアちゃんにさわるなギルティ
「涼さん、モカPがカンペだしてますよ?」
「それ今どうでもよくないです?」
「よくないので読んでください。あとディアさんはとけてるだけで問題ないので、トークを進めてください」
「あ、はい」
:美人が怒ると迫力ある
:迫力負けした涼ちん
「……リスナーから何か質問あります? モカPが二つくらいまでピックアップしてくれるみたいです」
:お
:ふむ
:それなら
一気にコメント欄に質問が流れる。
それを見ていたモカPは、カンペにさらさらと質問を書いていった。その答え方も一緒に。
「えーっと、モカPがピックした質問その1。
『なんで安全地帯にネームド出たか分かる?』というコトですが、ぶっちゃけわかりません」
:面白い質問キタな
:まぁそうか
:ダンジョン庁もギルドも不明としてたしな
「ただ可能性の一つ――ボクの推測程度でよければ」
:あるのか心当たり
:推測でも聞きたいな
:素人の意見そこまで参考になるの?
:涼ちんはプロだよ
「あれ、たぶんはぐれモンスター化しかかってたんだと思います」
:あー
:そうか
:考えてみたらその可能性はあるな
:はぐれ?
:だとしたらあそこでの撃破はむしろ最善手か
:盲点だったわ
:だとしたらはマジでGJだった三人とも
:はぐれがどうやって外に出るかと考えたらそうだな
:以前の配信で涼ちんが言ってたやつか
:あのネームドが領域外に出たらと思うとゾっとするな
:領域????
:誰か専門用語の解説ぷりづ
「ボクたち探索者はダンジョン領域と呼ばれる範囲限定で超人化しています。
はぐれモンスターとは、モンスターがその領域の外――つまりダンジョンの外へと飛び出すコトです。
領域外ではボクら探索者はふつうの人間です。そしてモンスターの強さはダンジョン据え置きです」
:え
:マ?
:やば
:はぐれは怖いよ
:外では下級だろうとモンスターとは会いたくないもんな
涼の補足に、コメント欄がざわつきだす。
恐らくはネームド戦の話を聞きたくてやってきた、どちらのファンでもない探索者も混ざっているのだろう。
だからこそ、質問の内容と解答も相まって少々真面目で堅いコメントが増えた。
それが余計に、知らない人の不安を煽ってしまったのかもしれない。
故に、涼はリスナーを安心させる為に、はぐれなど滅多に出ないのだと口にする。
「はぐれモンスターが発生しないように、ダンジョン内のモンスターを間引くのも探索者の仕事の一つです。
ディアさんもそうですが、恐らくほかの配信者の方も、配信をしてないプライベートでは、ライセンス保有者の責任の一つとして、時々モンスターの間引きをしているハズです。
一年に一回ある更新手続きの時、その辺りの仕事をしたかどうかが考慮されますから」
:そうなのか
:知らんかった
「基本的に間引きが間に合ってないダンジョンから、はぐれは出現します。
不人気である武蔵国府史跡ダンジョンだからこその、イレギュラーだったのではないかと、ボク個人の推察ではありますが、考えています」
:はぐれとかどうでも良いから死ねば良かったんだよ涼
:いっそネームドに殺されればよかった
:はぐれなんて他の探索者がどうにかするだろうしな
真面目な解説と、それに対する真面目なコメントや感嘆に混じり、そういうコメントが増えてくる。
:なんでディアちゃんと一緒に戦ってんだよマジクソ
:ちょっと探索できて知識があるからって調子のんなよ
:レイク・コンソメとかわけわかんねぇのでディアを釣るな
みんなが画面内の状況にテンションをあげているのではなく、ややお勉強会のような空気になったからこそ、それらのコメントが悪目立ちだしたとも言える。
:ネームド倒したからなんだってんだよ
:ただのでかいカモだろあんなの
:どうせはぐれとかいうのもフカシなんだろ
ただこれまでの「死ね」とか「殺す」とかとは違うそのフレーズは、涼だけでなく、もう一人の逆鱗に触れてしまった。
「度し難いコメントが増えましたね」
「ボク個人への誹謗中傷はどうでもいいのですが、見過ごせないコメントがあったのは確かです」
シロナと涼――二人の口から、二人を知る者ですら驚くほどの低音が漏れ出た。
:あ
:ヒェ
:あー……そういうコトか
:え? なんで二人が急にキレて
「みんな先に謝っとく――」
そんな二人の様子に顔をひきつらせながらディアが告げる。
「二人は配信者やマネジャーである前に、探索者ガチ勢なの」
:ん?
:ああ
:それがキレるのに繋がるの?
:↑繋がるんだよなぁ
:そうか二人ともガチ勢寄りのなのか
:そりゃあキレる。俺も今キレてる
:マジで許すわけにはいかないコメントがあったもんな
:コメントで怒ってる人もガチ探索者?
:はい
:イエス
:そうだけど
「配信経由でカジュアルに楽しんでる人たちと、探索者としての仕事に誇りを持っているガチ勢――双方の中間にいるガチジョイ勢くらいの私から言わせてもらうと……たぶん、埋まらない溝だと思う。
だけど、明らかに地雷を踏むコメントはあったので……うん」
:ディアちゃん板挟み大変そう
:それを理解してくれているだけ君は偉い
:分かってエンジョイしてくれてるなら文句はない
:なんだよディアちゃんに偉そうな口きくな
:↑おまえよりはエライよ
:どうすんだこれ?
:地雷踏んだやつほどたぶん無自覚なんだろうなぁ
「コメントしている人たちはいつでも配信から抜けれますからね――あまり意味はないかもしれませんが……」
「ええ。そうですね。それでも、ガチ勢としては言っておかなければなりません」
「みなさん、すみませんが私と涼さんに少しお時間をください」
:低音や怖い顔を楽しめないくらい怖い
:それはそう
:つまんねぇコトにキレてないではやく料理しろ
:あ
:今、火にガソリンを注ぐコメント見えた
:あーあー
:何となく何にキレてるか分かってきた
「……みんなしばらくお説教配信になると思います。諦めて」
:モカPぃぃぃぃ!はやくきてくれぇぇぇぇ!
:最後の良心はモカPでは?
:《モカP》探索者じゃないけど探索者の矜持に理解あるつもり
:あ
:あーあ
:《モカP》なのでちょっとキレてます
:あちゃー
:これはまずい
:お、お偉いさーん!!
:また咳払いキャンセルをお願いします!!
:《モカP》ちな、そのお偉いさんも現役ガチ勢です
:ま?
:こりゃ止まらんね
:《モカP》むしろ二人に積極的GOサイン出してます
:ありゃりゃ
:でもまぁいい機会だ
:確かに配信だけ楽しんでるやつらにも知って欲しい話だ
「涼ちゃんねるのリスナーさんは以前の雑談の内容と同じ話を聞かせてしまう形になりますが……」
「少々、探索者の本来のお仕事と、ダンジョンの危険性についての講義をしたいと思います」
=====================
【Idle Talk】
コラボ配信を見ていた涼ちゃんねるリスナーの探索者ニキたちも、さすがに頭を抱えてしまっていた。
とはいえ、二人が怒っているのも理解できるので仕方ないとも思ってる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます