第9話 クレイズのスタンス

「あー……やり過ぎた……」


 アルセリアを拒絶して歩くこと数分。


 俺は冷静になり、自分のアルセリアに対する言動はやり過ぎたと頭を掻いた。


「クレイズが怒るなんて珍しいね。というか初めて見たかな?」


 呑気な顔をして隣を歩いている兄が思い出すように言う。


 確かに兄の言う通り、俺は今世で怒りをあらわにしたことは無い。


 先ほどの件が初めてだった。


「疲れてていつもより沸点が低かったみたいです」


「なるほどね。そりゃ仕方ないよ」


 兄はあっけからんとしている。


 アルセリアにあれほど侮辱されたのに何も気にしてないみたいだ。


 当事者である兄が怒らず、弟の俺が怒る。


 少しズレてる気もするが、俺が言ったことは間違っていないので気にしない。


「それで、クレイズは本当に彼女と絶縁するのかい?」


 絶縁、という二文字に俺は少し考える。


 正直言って、アルセリアと関わってから良いことは一つもない。


 おまけに、バケモノ相手に剣一本で挑むという目的が逸れてしまってもいた。


 俺が最初に興味を持って関わり始めたのは確かだ。


 しかし、ここまでとは思ってもいなかった。


「……とりあえず、あいつが心の底から謝罪するまでは関わる気はありません」


「へぇ。金輪際、関わらない訳ではないんだ?」


「まだ十四歳ですし……いくらでも変われるでしょう? それに俺の責任も少しあるので。だから今後の様子次第ですかね」


 あの時は心の底から怒りを抱いていたが、冷静になった今では憎んでいるわけではない。


 だからアルセリアがしっかりと反省して謝罪すれば、俺は許すつもりだった。


「まあそれが妥当かな。クレイズはどうだい。彼女は謝ると思う?」


 校舎から出て、学園の敷地内を歩きながら兄は聞いてくる。


 アルセリアが謝るか謝らないか。


 知り合ったのは四年前だが、付き合いは三十日にも満たないので、アルセリアの全ては知らない。


 ゆえに見当があまりつかなかった。


「……形だけ謝る気がしますね」


「というと?」


「あいつは自尊心が高いのですが……なんかそれだけではないと思うんですよね。まあ全部俺の予想ですが」


 ただ自尊心が高い奴が俺に執着してくることはない。


 少し偏見が過ぎるが、誰とも群れないで一人でいると俺は思っている。


 しかしアルセリアは違う。


 俺がアルセリアの本性を取り戻したからか、妙に執着されていた。


 そこがただの自尊心が高い奴とは違うところだ。


 だからアルセリアがどのような行動をするのか、あまり分からなかった。


「結果がどうであれ、これはいい機会なんじゃないかな。クレイズだって一人で集中する時間も必要でしょ?」


「そうですね。偶然の産物ですが……確かに良い機会ですね」


 思い返すと、学園に入学してからはアルセリアに振り回されてばかりで、自分のことに集中する時間が少なかった。


 鍛錬は一人で集中できたが、それ以外の時間についてもだ。


 俺は基本的に一人が好きな人間である。


 だから今回の件は面倒だったが、いい機会でもあった。


「それに、衝突するのも大事さ」


 独りでに兄は呟く。


 この時、俺は今回の件についてかなり楽観的に考えていた。







―――――――――――――――


思ったより短かったので前回の話に入れればよかった……。


次話はアルセリア視点です。

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