第三章 アルカナ・エクリプス

第22話 二年越しの王都と開幕

 天才令嬢アルセリア・オリオンドールと邂逅してから二年が経過した。


 今では身長も伸びて筋肉も少し付いてきている。


 これは、狂ったように剣と闘気の鍛錬の毎日を繰り返していたお陰だろう。


 あの天才令嬢と戦うのだ。


 生半可な鍛錬で勝てるとは思っていなかった。


「あ、見えた!」


 隣で馬車の外に顔を出していた兄が叫ぶ。


 王都の城壁が見えてきたのだろう。


 俺と兄にとっては二度目となる王都。


 今日がアルカナ・エクリプス神秘と奇跡の二日前だということで、前回以上に門から続く列が長い。


 思わず顔を顰めたくなるほどだ。


 これで俺が乗っている馬車も列に並ぶ必要があったら溜息をついていた。


 しかし貴族は並ぶ必要はない。


 貴族は並んでいる平民の横を通って、王都に入ることが出来るのだ。


 並んでいる人達からしたら面白くないだろう。


 俺は身分とか気にしない奴だが、こういう時は貴族であることに感謝していた。


「おー! 見てみなよクレイズ! 凄いよ!」


 馬車が王都に入って兄は歓声を上げる。


 兄に手を引かれ、俺も馬車の外に目を向けた。


「おぉ……」


 思わず俺は感嘆の声を零した。


 忙しなく行き交う人々……至る所にある色とりどりの装飾……。


 語彙力や芸術の才能が皆無な俺には言語化するのが難しい。


 なのでただ凄いとしか思えなかった。


「父様! 一日目は好きにしていいのですよね?」


「うん、もちろん」


「やった! じゃあクレイズ、一日目は僕と一緒にいろんなとこ回ろうよ!」


 目を輝かせた兄が誘ってくる。


 こうなることは分かり切っていたことだが……魔闘技の前日は気を抜かずに、心を落ち着かせて剣を振っていたい。


 とはいえ気を張り詰めすぎるのも良くない。


 ……まあいいか。


「いいですよ」


「よし!」


 兄は俺の承諾に喜んだ。


 ついでに俺に抱き着く。


 自然の流れだ。


 もう兄は十二歳で、だんだんと大人の体つきになってきているのが抱き着かれていると良く分かる。


 それに乗じて変態なところも治るかと思ったが、未だに変わっていない。


 相変わらずな兄に溜息をつきながら、俺は魔闘技に思いを馳せた。




***




「全てのエルドリア王国民よ。再びこの日がやって来た」


 威厳のある国王の声が王都全体に響く。


 全ての人々は立ち止まって沈黙していた。


「この五年間。国家間による戦争こそなかったが、魔物や神の気紛れによる被害はいくつもあった」


 五年という年月を短いと感じるか長いと感じるかは人による。


 しかし一日一日が重要なのは同じだ。


「それでも今日という日を迎えられたのは、我が民の弛まぬ努力によるものだ。王家としても感謝せねばならない」


 民がいるから国がある。


「さて、もう始めようか」


 静まっているはずなのにゴクリと音が聞こえた気がした。


「民よ祝え! 民よ踊れ! 民よ笑え! エルドリア王国、第十七代国王イシュタール・エルドリアが宣言する! アルカナ・エクリプス神秘と奇跡、ここに開幕ッ!」


 一拍置いて王都全体が轟いた。


 王族も貴族も平民も関係ない。


 エルドリア王国最大の祭典、


 アルカナ・エクリプス神秘と奇跡が始まった。

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