第21話 決意を剣に乗せて
剣を握り、剣を振る。
前世と合わせて何千万回と繰り返しているこの時間が最も心地よい。
やはり俺は剣が好きなのだ。
「クレイズ様ー、そろそろ休憩しませんかー?」
「……そうだな」
ピタリと揺れることなく剣を止め、額から首にかけて流れる汗を拭った。
心地よい疲労と熱を感じる。
強度の高い鍛錬を長時間行ったので体に熱がこもっているのだ。
「ふぅ……」
フリルからもらった水を飲む。
火照っている体に冷たい水が流れることによって、体内から冷やしてくれるような感じがした。
「元々そうですけど……最近は更に気合が入っていますねー」
「まあな」
「やっぱり生誕祭の時に戦ったからですかー?」
「もちろんそれもある」
ひと月前に開催された国王の生誕祭。
途中で黒衣の魔術師が乱入してきて、第二王女を誘拐しかける事件があった。
衝撃な事件である。
まあ俺にとっては魔術師と殺し合いをするという経験が出来て良かったのだが。
で、俺が殺したのも父に押し付けたので、第二王女を奪還したという功績が父につき、国王から恩賞が与えられたらしい。
恩賞の内容は領地がどうの税がどうのとか言っていたが、俺は興味がないので知らない。
俺が興味あるのは二年後の魔闘技……そしてあの天才令嬢だ。
「後はあれだ。魔闘技にやばい奴が出るからな。いつものままだと勝てない」
「え、クレイズ様がそんなこと言うなんて珍しいですねー。いつもは自信満々ですのにー。これは何かの前兆かもしれませんー」
「おいフワフワ侍女。最近お前が俺の部屋を掃除する時に、俺の枕に顔をうずめてるの知ってんだからな」
「え゛。そ、そんなことしてる訳がないじゃないですかー」
「誤魔化すの下手すぎだろ」
まあフリルの変態的な奇行は今に始まった事じゃないので別にどうでもいい。
そんなことより俺は二年後の魔闘技で天才令嬢に勝たなければいけないのだ。
俺は自分の実力に自信がある。
これは間違いない。
しかし、それをもってしても、あの天才令嬢に勝つには難しいと考えていた。
少なくとも前世では奴ほど魔術の才能に恵まれた人間は見たことがない。
もちろん俺は魔術が使えないので、噂や両親の話を集めた結果での話だ。
基本的に剣士が魔術師に勝つことは不可能とされている。
圧倒的な攻撃可能距離の差。
単純な火力の差。
場面に応じる臨機応変の差。
数え出したらキリがない。
全員が全員、諦めて違う道に進むだろう。
だが、俺は挑む。
常識や周りの目なんて関係ない。
全てはかつて魅せられたあの剣士に近づく為に。
目下の勝負は二年後の魔闘技。
俺は決意を滲ませながら再び剣を振り始めた。
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