第6話 新生活の始まり
午後9時。モリアーティ236世とクリスティアの部屋に、ブランケが来た。
「入るわよ~」
既にネグリジェに着替えたモリアーティとクリスティアがドアを開けて出迎えた。
ブランケはまたハーブティーのセットを持ってきた。
ブランケ曰く、今後について話し合いをしたいようだ。
「これからは、朝はゆっくり起きてくれてかまわないし、それぞれ自由に過ごしてもらって構わないわ。でもお昼前の11時になったら、果実狩りと乳絞りをしてほしいの。夕方から夜6時までは2人に仕事を覚えてもらうわ。良いかしら?」
クリスティアはモリアーティ236世と互いに顔を見合ってから、ブランケに頷いた。
「良いわ。引き受けるわ。だってこんなに良い部屋を用意してもらってるんだもの」
モリアーティが聞く。
「私たちはどういったお仕事をすれば良いの?」
「もう2人とも疲れてるだろうから、詳しい仕事内容は明日話すわ。それから、前に連れてきてたよく喋る猫はどうしたの?」
「ここに来る前に契約解消して別れたわ」
「あら、寂しいわね。――それじゃ、おやすみなさい」
ブランケは立ち上がるとティーセットをローテーブルに置いたまま、部屋を立ち去って行った。
翌日の朝8時。クリスティアはモリアーティ236世を起こして、民族衣装に着替えさせ、モリアーティの耳を魔法でうさぎの種族っぽく垂れ耳にしてからバスルームで歯を磨き、洗顔を順々に済ませると、2人とも部屋に戻る。
その途中で、2人はブランケに呼ばれた。
朝食の用意が出来たようである。
2人は食堂へブランケに連れてかれた。
長テーブルの前の椅子に2人並んで座る。
「アーノルド君は?」
クリスティアが聞いた。
「もう朝食を済ませて果実狩りに出かけたわ」
「早起きねぇ」と、モリアーティ236世は呑気に言う。
「あなた達きょうだいは、朝食はどうしてるの?」
クリスティアが聞く。
「"コーファ"という牛の乳を絞って、そこから乳製品を作っているわ。今あなた達の目の前にあるパンもそうよ。パンを作る時はたまに、狩りたての果実を練りこんだりすることもあるわ。あとはオオカミの肉と野菜でウルフシチューを作ったり、そうね……、」
ブランケが説明している間に、クリスティアとモリアーティは目の前のウルフシチューやパンを見る。
「まぁ、朝食はそんなとこかしら」
ゆっくり食べてねとブランケは優しく言って食堂を去っていった。
朝食を済ませたクリスティアとモリアーティは部屋に戻る。
一方同じ頃、魔女協会では牢屋に居るのが魔法で出来た、モリアーティ236世に見える偶像であることがバレてしまい、聖ストレイコ国は大騒ぎになっていた。
そんなニュースを知るのは、別れたはずの黒猫がクリスティアの居場所を見つけ出し、知らせにわざわざ来たからである。
勿論、猫のほうも自分の身が危ういことを分かっていたので、逃げ出してきたに違いない。
「いよいよバレたかぁ。そりゃ、あんたの身も危ないわよね。でもよく関所通れたわね」
「このダイナ、人間に化けることも出来てよ勿論、パレッタ族の民族衣装を事前に着てから関所に行ったからここまで来れたのよ」
「何か、大変な思いさせてごめんね。ダイナまで巻き込んでしまっては……どうしよう。ブランケに相談しなきゃ」
「大丈夫よ、あなた達に迷惑はかけないわ。ブランケにはわたくしから話をつけておくわ」
「それでブランケやアーノルドたちが許してくれたらいいんだけど」
夕方になり、モリアーティ236世とクリスティアはアーノルドに店の工房まで案内され、そこで弓を作る仕事を教わる。
「10本ずつ出来上がったら都度、僕に渡して。僕がお店に運ぶから」
クリスティアとモリアーティ236世はせっせと弓を作っていった。それも、器用に、丁寧に、
閉店時間になると、クリスティアとモリアーティ236世はアーノルドの案内で工房を出て、うねうねしたタイル地の通路を歩き、次の作業の準備をして、いざ再び果実狩りへ。
アーノルドが言う。
「今日もたくさん、うちの弓が売れたなぁ。まぁ、半分は生活費に消えちゃうんだけど」
クリスティアは時折空を見上げながら言う。
「いつか映画館で映画を見てみたいわ」
モリアーティ236世も果実をせっせと狩りながら言う。
「私は宝石を買いたいわ」
クリスティアが答える。
「宝石店なら、昨日行ったお洋服屋さんの7階にあるみたいね」
アーノルドが2人のほうを一瞬見ながら言う。
「モリアーティさんは宝石がお好きなんですね」
3つのカゴすべての中身が果実でいっぱいになった頃、次はお米を収穫した。
し終えたところでようやくブランケが3人のもとへやって来た。
「みんな、ありがとうね。今から夕食の調理を始めるから、クリスティアとモリアーティさんは見る?」
「「見ますわ!」」
2日目以降はモリアーティ236世とクリスティアが調理をした。
夕食はブランケとアーノルドから90点を貰った。マイナス10点なのは、シチューに肉が入ってなかったからだ。
翌日は、アーノルドと3人で狼を狩りに出かけることになった。
夕食後はクリスティアは魔導書を読んで魔法を練習。
一晩中練習したことで、翌朝はモリアーティ236世の変身と声の変更魔法が昨日までより長くなり、最長で1週間保てるようになったのである。
その日はクリスティアは魔法の使いすぎで疲れてしまい、狼の狩りに同行できず、ベッドで横になっていた。
そのため、モリアーティ236世とアーノルドだけという珍しいコンビで狼の狩りに出かけることになった。
魔女とモリアーティ 色咲鈴子(しきさき・りんこ) @peeepop202212
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます