-第3話 聖女様就任式典-
4年に一度、女神から聖女に任命される、聖女就任式典の朝。
クリスティアは今朝も猫のダイナにおでこを肉球で押されて目を覚ました。
「やっと目を覚ましたわね」
「おはよう、ダイナ。今何時?」
「朝の7時30分」
「大変! 遅刻しちゃう!」
ダイナを持ち上げて掛け布団の上に移動させると、すぐに正装に着替える。
護衛隊としての正装は深緑色のローブで、履く靴は黒のロング丈のブーツだ。
今日は魔女協会から護衛という重要な任務を任されている。護衛隊の集合時間は午前8時。
ダイナは、忙しなく動くクリスティアを見ながらあくびをした。
「まだ30分もあるし、貴女は魔女なんだから、噴水のある広場までは箒ひとつでひとっ飛びで行けるでしょ。そんなに焦る必要無いわ」
「シャワー浴びてくるからそこで待っててちょうだい、ダイナ」
「はいはい、行ってらっしゃい」
食事と身支度を済ませたクリスティアは、箒に跨り、ダイナと共に式場前へ向かった。
「おはよう、クリスティア。だいぶギリギリに来たね。さては寝坊したな~?」
先に到着していたマチルダに声をかけられた。
「おはよう、マチルダ。図星だよ」
間もなく、今日の主役の新聖女が現れ、クリスティアたち護衛隊が囲うように護衛する。
新聖女は長身痩躯で透明感のある肌ツヤがあり、陽光を浴びた銀髪は腰まで伸びており、毛先までハリツヤがある。
クリスティアもマチルダも、新聖女の美しさにうっとりしてしまう。
しかし、護衛という自分たちの任務は忘れない。
噴水前に横に敷かれた青い絨毯の前まで新聖女がたどり着いた時には護衛隊は左右前後に新聖女を囲って、前方中央だけ開いていて、そこから各地域の領主とその妻たちが女神と新聖女を見ることが出来た。
女神が青の絨毯に舞い降りたところで、式典は始まる。
新聖女は女神からティアラを頭に載せてもらう。
それはゆっくり、慎重に。
この儀式の間だけは厳かな空気が式場を満たしていた。
新聖女は女神からティアラを載せてもらうと立ち上がり、眼前の来賓に向かってドレスの裾の端をつまんで少しだけ持ち上げて目礼した。
更には来賓代表の領主から奉納品を受け取る。
来賓からの祝福の拍手が鳴り止まないうちに式典は終わり、クリスティア達は新聖女を新居まで護衛してその日は解散となった。
クリスティアは魔女協会へ向かう途中までマチルダと一緒に飛び、途中で別れる。
「おやすみ、クリスティア」
「おやすみ、マチルダ」
マチルダの後ろ姿が小さくなり、やがて見えなくなると、クリスティアはそのまま魔女協会へ直行した。
会いに行くのだ、モリアーティ236世に。
受付の面会名簿に名前を書いてから、監視員に連れられてモリアーティ236世のいる牢獄前まで着いた。
「昨日ぶりね、モリアーティ」
「貴女が来るのを待っていたわ、クリスティア」
クリスティアは今日の式典の話をモリアーティにしてみせた。
「とってもとっても美しくて綺麗な新聖女様だったわ」
「その式典、私も行きたかったわ。神聖な式典て、ロマンがあるわよね。私も行って、雰囲気だけでも感じたかった」
監視員が「トイレに行ってくるからその間、モリアーティ236世から目を離すな」と言われたクリスティアは、ここでいよいよモリアーティとふたりきりになった。
「実はね、今夜はこれから新聖女様就任の祝祭があるんだけど、興味ある?」
言いながら、クリスティアは監視員が15メートル先で角に消えるのを確認した。
「もちろん! 私も行って良いなら行きたいわ」
「ただし、私との約束を守ってくれるなら、連れて行ってあげても良いわよ」
「約束って?」
「もちろん、今までのような悪いことをしないっていう約束よ」
「約束するわ」
クリスティアは自分が魔女として首が飛ぶ覚悟の上で解錠魔法をかけてモリアーティ236世を解放して手を繋いだ。
空になった牢獄にはクリスティアが魔法でモリアーティ236世の分身を魔法で用意して放り込んで施錠魔法を掛けた。
更にモリアーティ236世の足以外の全身が透明になる魔法をかけて、酒場までの瞬間移動魔法を発動させてふたり一緒に魔女協会から消える。
モリアーティ236世の連れ出しは見事に成功した。
それでも、モリアーティ236世の帰還期日は迫っているのだから時間とは有限なものだ。
それはモリアーティ236世自身が1番よくわかっていた。
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