第13話 最悪の事態

 「いやぁ、悪かったってぇ」


 ルドベキアが、正座をさせられながら、門の前で笑うルドベキア。

「あなたもよ、アズール。まったく、自分たちの身の危険にうとすぎるのよ」

「ごめん……」

ヴァイオレットは、盛大な溜息と共に、静かに怒る。

「もし想くんの身に何かあったらどうしていたつもり? たとえあなたたちが強いとは言え、数の暴力には苦戦したあの過去を忘れた?」

「まぁ、一理ある。が、オレたちは隊長クラスだぜ? 救援が来るまで耐えられるだろ」

「あ・な・た・は・ね!! 想くんが! 危険だったって話!!」

「いやいや、大丈夫だって」

「そう言って守れなかったおバカは誰!?」

「オレじゃなくね?」

「……ごめん」

「あーあ、アズールの傷えぐったぁ」

「いいの、事実だから。反省しなさい。あと、戒めなさい」

大の成人男性二人を叱る華奢な女性という構図は、はたから見れば、滑稽だっただろう。

 ヴァイオレットの怒りが落ち着いてきた、というところで、ルドベキアは、

「でも、あいつは湊と違って能力者だろ?」

さも当然かのように言った。

「……それは本当なの?」

ヴァイオレットの関心が、二人の行動から想について切り替わる。

「あぁ、確かにあったぞ。気づかなかった? まさか。始めから使っていたじゃないか」

「始めからって……一体、何を……」

ヴァイオレットとアズールが困惑する様子に、ルドベキアは何かを確信した。

「そうか、あいつの能力は……」


 ヴァイオレットによる叱責から唯一、まぬがれた想は、アイリスと共に、城の奥深くへと歩いていた。

「あの……良かったんですか? 僕」

「何がです?」

「本来なら、僕もお咎めをいただくかと」

「ヴァイオレット姉様は、客人を咎めるほど、怒りに身を任せる方ではございません。むしろあなたは守られるべき存在。おそらく、心配がまさっているかと」

アイリスは、微笑ましそうに話す。

「ヴァイオレット姉様にとっても、湊様……今は想様でしたね、想様は弟のようなもの。変に気負う必要はありませんし、何より想様は人間です。守られていただいた方が、こちらとしてはありがたいのです」

英雄と言われるほどですから、というアイリスに、想は笑っていたものの、その目にはやはり「守られ続けるのは嫌だ」という思いが、強く込められていた。

 「さて。本日はこちらにて休息を……」

アイリスが、いかにも『鉄壁の守り』と言わんばかりの部屋に案内した時、想の視界がぐらりと揺らいだ。

「想様?」

目の前が真っ白になる。声が出ない。力の入れ方がわからない。

「想様!」

突如、何の前触れもなく倒れた想に、アイリスが悲鳴に近い声をあげる。


 想が、目を見開いたまま、動かなくなった。


 最悪の事態が起きたのでは、とアイリスは血の気が引いていくのを実感し、すぐにアズールたちの元へと走り出した。

 想は、回らなくなった頭のまま、小さくうめき声をあげていた。

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