第12話 偽りの強さ
「想、少し街を歩かないか?」
なんて言われて外に出たものの。
(……え、なんでこの人何も喋らないの?)
アズールは、想と何かを話すことはなかった。
ただ、アズールの後をついていく。すると、しばらくして、あの男性に話しかけられた。
「よぉ、アズール……と、湊?」
ルドベキアは目を丸くしてキョトンとすると、そのガタイの良い容姿からは想像できないほど柔らかく笑った。
「見つかって良かったな」
その言葉に、アズールの瞳が揺らぐ。それに気がついた想は、
「すみません、僕、湊さんじゃないんです」
ルドベキアに事の経緯を説明した。
「なるほどなぁ」
ルドベキアが、難しい顔で頷く。
「そうなると、お前自身にも何か、事情がありそうだな」
ルドベキアの目線の先には、神妙な顔で
「……あぁ。何か、代償が残っているんだ」
アズールの告白に、二人の目が見開かれる。
「じゃあ、今のお前は……」
「そこは安心して欲しい。昔みたいに、暴走はしない。ちゃんとコントロールできる。しかしなんというか……あぁ、恥ずかしいな。恐怖が強くて……」
身を震わせるアズールを見て、ルドベキアが、気の毒そうにアズールの頭を撫でる。
「そうだよなぁ。湊がいたから、お前は最強でいられたんだからなぁ」
「湊さんのおかげで?」
想の疑問に、ルドベキアが想の頭も撫でる。
「おぉ? まだ教えてもらっていなかったか。教えてやるよ。まぁ、ここでも何だ。喫茶店にでも行こう」
おすすめの店があるんだ、というルドベキアに頬を赤らめる想。
その様子を、アズールは、緑の目を濁らせて見つめていた。
「わぁ……!」
案内された喫茶店を見渡して、想の目が輝く。
「やっぱり異世界なんだなぁ!」
中世ヨーロッパ風の店内に、多種多様な住民、花の精霊の国ともあり、花による装飾がとても美しい。
「ははっ、お前はやっぱり湊なんだな」
同じ反応をしている、とルドベキア。アズールは相変わらず不機嫌だったが、先ほどよりは落ち着いた様子だった。
「……言いたいことがあるなら、言えば良い」
ルドベキアは余裕の笑みを浮かべる。が、
「別に」
アズールは、目線を二人から逸らし、店内へと入って行った。
メニュー表を見て、想は真剣な表情になっていた。
「どれも美味いぞ? まぁ、なんでも頼めや。心配しなくても金はある」
ルドベキアがイタズラっぽく言う。
「もう! ルドベキアさん! 余計に悩むこと言わないでくださいよぉ」
想の悩む姿に、ルドベキアが笑う。二人の仲が深まっていくことに不満を感じたアズールは、
「アイスコーヒーはどう? いつも飲んでいただろ、あっちでは」
ルドベキアを睨みながら、想に言った。
「確かに……じゃあ、今日はそれで」
ありがとう、と微笑む想を見て、ほらみろ、とでも言わんばかりの態度をとるアズール。
(これで無自覚なんだよなぁ)
ルドベキアは、進展しない目の前の二人に溜息をついて、苦笑いをした。
「それで、湊さんのおかげで最強だった、というのはどういうことなんです?」
想がルドベキアに問う。
「あぁ、それか。湊はな、アズールの力の制御装置に近いものになっていたんだよ」
ルドベキアは、ブラックコーヒーを
「こいつ、元々はバケモノって呼ばれるくらい強かったんだ。それこそ、癒花じゃなく、攻花隊の隊長候補にまで、この花の精霊史上最年少で登り詰めた。だが……」
ルドベキアの顔が、一気に曇る。
「……誰もが、圧倒的に勝てない相手っていうのは、怖いと思うのが生物の
__バケモノ。
「以降、アズールは本気を出さなかった。攻撃しない部隊への転入を望んだ。本当なら、誰もが憧れる攻花隊の隊長になれたのに。で、今はオレが攻花隊隊長だ。その気になれば、オレはこいつに地位を譲るさ。国のためにも、それが最適だからな。だが、それが叶わなくなった。唯一、安心して本来の力を出すための引き金がいなくなったからな」
「湊さん、ですか?」
「あぁ」
目を伏せながら、ルドベキアが頷く。
「でも、湊さんって普通の高校生ですよね? 何か特別な力が……異能力があったとか?」
「まさか! 天音じゃあるまいし、そんなものはない。天音は何故かこっちに適合して、変に精霊みたくなっちまったけど、湊はごく普通の人間、無能力者だったよ」
「じゃあ、なおさら何故……」
思考を巡らせる想に、ルドベキアは言う。
「簡単だ。愛の力だよ」
「愛っていうのは、いつの時代も、そしてどの地域でも、力を持つ。最愛の湊に「大丈夫だ、お前はバケモノじゃない」なんて暗示を、もしかけられたら? 数時間は効果があるだろう。そうやって、湊から
「本当はメンタル弱々なお人好しなんだよ」と笑うルドベキアは、少し、複雑そうな顔をしていた。
「だが、結果はアレだ。結局、大切なものは、守ることができなかった。アズール。オレの目には、今のお前は、暴走を恐れているから湊を探し、
辛口な指摘をするルドベキア。視線がアズールに集中する。アズールは冷や汗を流し、恐ろしいものを見たかのような表情で、小刻みに震えた後、唇を噛んだ。
「図星か? 親友」
ルドベキアは、やれやれ、とアズールの頭から自分の羽織を被せると
「すまんな、オレが言っておいてアレだが、今のこいつをあまり見ないでやってくれ」
傷つくからさ、と苦笑した。
本当に、この人は強いだけじゃないんだ。
それでも、アズールはルドベキアに励まされながら、抱えた恐怖や不安、せめぎ合う思い、葛藤と戦っていた。
それに対して何一つできない想は、もう氷が溶けて薄くなったコーヒーを飲み干し、味気のない自分を重ね、嫌悪した。
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