第6話 守れるほど、強く
金属音がする。
花が至る所にあるような、御伽話のような、この城での金属音。異質すぎるその音で、想は目を覚ました。隣のベッドを見ると、湊の姿がない。
「はぁ!?」
昨日の話を思い出す。まさか……誘拐? いや、あいつに限ってそんなことはないはず。ならば、これは一体……。
思考を巡らせていると、ふと、思い出した。湊の、朝の日課を。
あまり信じたくはなかったが、金属音の先へ足を運ぶ。しばらくすると、二つの影が動いているのが見えた。
「湊!」
想の大声に、湊が振り向く。するともう一つの影の正体……爽やかなイケメンの男性もまたこちらを向き、金属音も止んだ。
「どうした?」
「いや、どうした? じゃねぇんだわ! 何、こんなところでまで朝練してるんだよ!」
「あっはっは! 愛されてるねぇ、
「や、やめてください、
天音、と呼ばれたその人は、想のことをじっと見つめると、深く頷き
「うん、なるほど」
と、意味不明なことを呟いた。
「ごめんね、起こしちゃって。僕が付き合ってもらっていたんだよ、朝練に。想くんだね? 僕は天音。
天音はふわりと柔らかく笑うと、剥き出しの剣をしまった。
「僕はね、湊とは親友だったんだ。あの時も、二人で一緒にいて、そうしてここに飛ばされてしまった。それから三百年、湊が死んでからもここに住んでいる。君たちの先輩、かな」
「三百年も生きているって……まさか」
「まぁ、そう思っちゃうよねぇ。蒼からも全く同じこと言われたけど、これがまた、不思議と事実なんだよね。ここでの時の流れと現実世界の時の流れ、だいぶ違うみたい。あっちの五年がこっちの百年っぽいよ?」
「じゃあ、失礼ですが天音さんのご年齢は……三十以上で?」
「あっはっは! そう思うよね! 僕もそうだと思うんだけど……」
天音の雰囲気が、少し変わる。緊張が走る。
「僕、もう人間じゃないからさ」
「だいたい三百二十くらい?」と笑う天音に、想が呆然とする。
「大丈夫だ、俺も同じ反応をした」
湊が想の肩を叩きフォローするが、想はただ、フリーズしていた。
「君たちも覚悟しておきなよ? ここに生きるということは、人でなくなるということ。適合しなきゃいけないんだ。残念だけどね」
天音はそう言うと、湊と改めて距離を取った。
「人を辞めたことに関しては後悔してないよ。でも、一番後悔しているのはやっぱり、湊を僕は救えなかったということ。僕が強ければ死ななかったと思うと、過去の自分を、どうしても呪わずにはいられないよね」
定位置に着くと、再び剣を抜く。
「だから、毎日鍛錬を欠かさない。君も、そうだろう? 誰かを守りたい。そんな目だ」
天音の言葉に賛同するように、湊もまた、何も言わずに剣を構える。
「これも、何かの縁だ。守りたいんだろう? 君も、彼を」
湊は答えない。ただ、その剣の構えが、全てを物語っていた。
「僕も、守りたかった。だからね、君には強くなって欲しい。彼を、守れるくらいには」
剣と剣が交じり合う。再び鳴り響く金属音。今度は、先ほどの数倍は早い。参加したくてもできない想は、ただそれを眺めることしかできなかった。
「僕だって、男なのに……」
己の体の弱さを呪いながら想は、膝を抱え、目を伏せた。
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