第5話 英雄の生まれ変わり?

 「湊は、ミナトさんの生まれ変わりかもね」


 夕食を済ませ、来客用の部屋のベッドに横になる二人。ぼんやりと、そんなことを呟く想。窓からは月の光が差し込まれ、星はキラキラと輝いている。風と虫のは、まるで二人のために用意された音楽隊のようだった。


「……何、急に」

「いや、お前は優しいから。ミナトさんの特徴と合う部分も多いし、生まれ変わりかもって」

「そんな……名前だけだろ? 確かに医者にはなりたいけど、正直、金目当てだし。優しくはない。あと、俺は体が強い方だ。ミナトさんの一番の特徴である優しさは、お前の方が合う。俺はお前の方がミナトさんの生まれ変わりだと思うけどな」

「でも、僕には頭脳も勇敢さもないよ」

「ははっ、人間、追い込まれなきゃわからないからなぁ……どうだか」


いつも通りの、他愛のない会話が、二人を盛り上げていく。


「……ねぇ、もし、僕がミナトさんだったら、アズールさんを救えると思う?」


想の言葉に、湊が目を見開く。顔が見えなくても、声を発さなくても、湊から殺気が伝わってくる。


「いや、例え話だって! お前の方が湊さんと間違われていたし、ほぼ確率としてはない! けど……さ。もし、僕がミナトさんだったら、アズールさんを救ってあげたいんだ。なんだか可哀想な気がして……」


 前にも書いたが、想の中には確かな劣等感があった。それはそれは醜い、長年、蓄積された劣等感。だが、湊の言う通り、想は根が優しい人間。抱えた劣等感を湊にぶつけることはできないし、抱え込んだ劣等感を自分で削除できるほど強くもなかった。もし新たな人生をここで歩めるのなら、このモヤモヤを誰かを救うことで発散できるのなら、幸せだと考えていた。


 「……嫌、だな」


珍しく湊は、シンプルかつ、理由のない答えを出す。


「は? 嫌って、なんで?」

「だって。俺たちは、親友として今までずっと一緒だったじゃないか。俺だけ帰れって言うんだろう? 冗談じゃない」


お前を見知らぬ男に取られてたまるか。そう、枕に顔を埋め、表情を見せない湊。この時、想は思い出した。


 あぁ、そういえばこいつ、両親いなかった。

 そりゃあ、失うのは怖いよな。

 たしか、前に言っていたっけ。

 頼れるのは僕だけだ、って。

 お前にとっては、トラウマになるよな。


 見えない湊の顔を想像し、軽率な発言だったと反省する。想は、窓から見える星々を眺め、現実世界へと思いを馳せた。


「……今頃、みんなはどうしているのかな」


不安な声は、風と虫の音に掻き消された。はずだったが、湊には聞こえていたようで


「大丈夫。何かあったら、俺が守るよ」


湊はそう言い残すと、眠りについた。


「相変わらず、そういうことを普通に言えるからお前はカッコいいよな」


叶わないな、と苦笑いを溢す想。しかし、想は納得がいかなかった。


「……お前に守られ続けるのは、僕も嫌だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る