第2話 出会い

 「いつまで歩くんだよ……」

想の口から愚痴が溢れる。それもそのはず。時計こそ見ていないものの、二人は約一時間ほど、歩き続けていた。

「もう少し。せめて、森を抜けたい」

「もう少し? もう少しである保証なんてどこにもないじゃん!」

「でも、森は危険だ。特に、ここは異世界なんだろう? 何が起こるかわからない。お前の本の通りなら、モンスターだって出てくるかも。あと、ここ、薬草がない」

「でもさぁ……」

 想と湊では、体力の差が大きい。想の身体はもう、たった一歩ですら歩くのが困難なほど、疲労が蓄積されていた。鉛のように重くなった足は、無理に引き摺られていき、すでに限界を迎えている。頬を伝う汗を、風が撫ぜる。正直ここに湊さえいなければ泣いていた。プライドだけが、今の想を支えていた。


 しかし、想も人間で、まだ高校生である。「もう無理だ」と弱音を口にしようとした時、

「……あ、出口だ」

湊が、ふと、小さく呟いた。

「本当か!?」

想の声に光が宿る。俯いていた顔を上げれば、そこには、木々の間から差し込む光が見えた。

「行こう」

湊が想の手を引き、走り出す。一気に、森を駆け抜けたその先には__


 「街だ!」


 自分たちとそう大きく変わらない、発展した街がそこにあった。

 賑わう人々。洋服を着た人もいれば、和服を着た人もいる。ドレスを身にまとう女性もいるし、タキシード姿の男性もいる。まさに多様性というべきか、どんな衣服でも受け入れられているようだ。

 それだけではない。人間と呼べない生物も、そこには存在していた。先程、森で見た妖精。空を飛んでいるドラゴン。人間のように生活している猫や犬など、様々な動物たち。魔法を使う人間。その他大勢。

 ここが、異世界であることに、間違いはないようだ。


 「湊?」


 ふと、声をかけられて振り返る。そこには絢爛豪華けんらんごうかな衣装に、妖艶ようえんな容姿をした女性が、堂々たる様子で立っていた。背中には、アゲハ蝶のような羽が生え、花の良い香りを放っている。

「……はじめまして、ですよね?」

はじめましてのはずの人物に、何故か、自分の名前を呼ばれた湊は、とっさに想を背中に隠しながら女性を威嚇する。女性は少しきょとんとすると、

「あぁ、ごめんね。知り合いにあまりにも似ていたから。てっきり帰ってきたのかと思った」

と、あからさまに笑って誤魔化した。

「見たところ、この世界の住民ではないわね。行くあてもないだろうし、これも、何かの縁。おいで。泊めてあげるわ」

その怪我も治療しなきゃ、と指をさされては、流石の湊も断れなかった。この後、行くあてはもちろんない。想の怪我も心配だ。今後のことを考えれば、良い人である可能性にかける他、良い策はなかった。

「お言葉に甘えます。ありがとうございます」

「え? あ、ありがとうございます」

思いの外、警戒心の強い湊が即答したことに、想は驚きつつも、女性の親切心に、続いて感謝を述べた。


 こうして、見ず知らずの女性の家へ招かれた二人は、しばらくこの女性にお世話になることにした。

 この女性の正体も知らぬまま……。

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