第7話 その少女は転生者狩り
「敵の数は20、目標地点までの距離は目算2㎞…………これくらいなら3分もありゃあ着くか」
めぐるはそう呟きながら瓦礫の山を下ると、時計塔の壁に空いた穴の縁に立って眼下の街を一瞥する。
敵は時計塔のすぐそばにまで来ている。その数は20で、全員が武装した転生者。常人ならば到底敵う筈のない相手だが、めぐるの場合は別だ。
「よーし、まずは肩慣らしから行くか」
氷牙も助けるし、転生者も全員倒す。それがめぐるのミッション。
そうと決まれば、彼女のとるべき行動はひとつだった。
「イヤッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」
とんっ、と。
めぐるは壁に空いた穴から、地上に向かって一気に飛び降りた。
◆ ◆ ◆
その光景は、地上にいた阿一郎の取り巻き達もしっかりと目にしていた。
一番最初にそれに気づいたのは、時計塔のすぐそばまで来ていたアフロの青年と赤髪の青年の2人だった。
「見ろっ‼ あの女、あそこから飛び降りたぞ! 」
「なんだアイツ、まさか自殺――」
高所から飛び降りためぐるを鼻で笑おうとするアフロの青年。
だが、その声が不意に途切れた。
理由は簡単。めぐるが時計塔から飛び降りた直後、青年の顔面にレンガの破片が直撃したからだ。
「がぅ…………⁉ 」
「大伊田ァッ⁉ くそっ、あいつ……飛び降りる直前にレンガを蹴り落としやがったんだっ‼ 許さねえっ‼ 」
顔面にレンガが直撃したことで昏倒するアフロの青年を尻目に、怒りをあらわにする赤髪の少年。
その隙にめぐるは、時計塔の外壁を両足で蹴って落下方向を変えると、眼下にあった背の高い街路樹の葉の中に突っ込んでゆく。そうして落下速度を最大限まで緩めながら地上にまで到達すると、素早く少年の背後に回り込み、彼の肩をちょんちょんとつつく。
「敵から目ぇ放してるんじゃあないゾっ☆ そんなんじゃめぐるちゃんには勝てないぜっ」
「な、いつの間に⁉ 」
それが少年の最後の言葉だった。
グワンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と、少年の首を刈り取るかのような勢いで放たれためぐるの上段回し蹴りが、少年の首筋にクリーンヒットし、彼の意識を奪い去った。
2人の転生者を瞬殺しためぐるは、阿一郎のいる酒場の方向を見据える。それほど距離は離れてはいないが、すでに阿一郎の取り巻き達がすぐそばまで来ている。
だが、それがどうした。
この程度の敵は、彼女の相手にすらならない。
「待ってろよ氷牙」
めぐるは小さな声でそう呟くと、勢いよく地面を蹴り、走り出した。
「走り出しやがった‼ いくぞケイラッタ、俺達のコンビネーションを見せてやろうぜ‼ 」
「ふひひひひひっ、僕たちであの女を倒して、2人とも手篭にしてやりますぞエイブン君っ、ふひゅひゅひゅっ‼ 」
めぐるの前方、屋根の上にそびえたつ影が二つ。
手に杖を持ちローブを纏った小太りの青年と、両手にかぎ爪を装着した眼鏡の青年だ。どうやら彼らには、めぐるを倒す策があるようだ。
「さあ招来せよわが眷属っ‼ 骸骨兵たちよ、我らに歯向かう愚かな愚民を呪い殺してしまうのですぞっ‼ 」
ケイラッタが杖を天高く掲げながらそう唱えると、めぐるの行く先に、無数の骸骨達が出現する。その数は30体を軽く超えており、その全てが剣や鎧で武装している。無数のスケルトンを使役する死霊術。それがケイラッタという男の転生特典なのだろう。
そして、スケルトンたちの配置ポイントよりやや手前にエイブンが先行し、両手に装着したかぎ爪で周囲の建造物を激しく斬りつける。すると、建物が瞬時に倒壊し、その瓦礫がめぐるに向かって降り注いできた。
「死霊使いにかぎ爪か…………だがこの程度っ‼ 」
降り注ぐ瓦礫と迫りくるスケルトンの軍勢を前に、めぐるは不敵に笑う。
そして、身体を捻りながら跳躍し、落下してくる瓦礫の隙間を潜り抜ける。
まるで針に糸を通すかのような繊細な一手。それをめぐるは難なくこなしてゆく。
「ほいっと」
そして、瓦礫を超えた先にいたスケルトンの頭部に手を伸ばすと、そのまま首をひねり上げて押し倒し、続いて2体目のスケルトンの頭頂部を踏みつけて粉砕する。
さらに、槍を構えて突撃してきた3体目には、首筋を正確にとらえた手刀で首と胴体を一撃で分離して無力化し、両側から飛び掛かってきた2体には、3体目から奪った槍での薙ぎ払いで対処…………と、まるで流れ作業のように軽々とスケルトンの大群を片付けていってしまう。
結果として、ケイラッタが召喚した100体近くにものぼるスケルトンの軍勢を、めぐるはものの1分足らずで全滅させてしまった。
その様子を屋根の上から見ていたケイラッタとエイブンは、恐れおののいてその場で狼狽える。
「なっ、なんだあの女っ⁉︎ 只者じゃあないぞっ⁉︎ 」
「落ち着くんだケイラッタっ、俺達が負けるはずがn」
「気づくのがおそーいっ‼︎ 」
「なばぶぅっ⁉︎ 」
「げぼっ⁉︎ 」
が、ここは戦場。狼狽えている暇はない。
めぐるの調子のいい声と共に飛んできたスケルトンの頭部がケイラッタとエイブンの顔面にクリーンヒットし、2人もあっさりと戦闘不能となる。
2人が屋根の上で倒れる音を聞き届けためぐるは、再び阿一郎のいる酒場に向かって走り出そうとする。
しかし、そこに立ちはだかる者が一人。
それはドレッドヘアの男だった。
「女、なかなかやるな」
「んあ、誰だお前」
「問答無用っ!! ボスの覇道を歩む者は誰であろうとぶっ殺すのみっ!! 竜玉招来っ!! 」
男は右手に持った宝玉を天高く掲げる。
すると男の全身が激しく光を放ち、次の瞬間にはトカゲの怪人のような姿へと変化していた。
恐らく、これがこの男の転生特典なのだろう。
その姿を目にしためぐるは、少し考えるような仕草をした後、首をかしげながらこう言った。
「トカゲ……? 」
「ドラゴンだっ!! 」
めぐるにトカゲ呼ばわりされたことにキレた竜人の男は、口から怒号と共に燃え盛る火球を吐き出した。
傍に居るだけで肌が焼け付いてしまうほどの超高温の火球が、めぐるに向かって一直線に突っ込んでくる。いくら彼女と言えども、こんなものを喰らってしまえばひとたまりもないだろう。
しかし、
「えいやっと」
「なっ!! 」
なんと、めぐるは左腕で火球を受け止めた。
めぐるの左手に触れた火球は、まるで何かに吸い込まれるかのように螺旋を描きながら掻き消える。それと同時に、火球に触れためぐるの左腕は、ボロボロと炭化して崩れ去ってゆく。
「なんだこいつ……まさかこの程度で片腕を犠牲にしたってのか……⁉︎ 」
火球を吐いた張本人である竜人の男も、この結果に驚いている模様。
彼からすればほんの牽制程度の一発だったつもりが、相手に思わぬ大打撃を与えたのだ。予想だにしない結果に勝機よりも困惑が勝ってしまい、僅かばかり動きが止まる。
その隙をついて、めぐるは駆け出した。
片腕を焼かれているにもかかわらず、その動きに鈍りはなかった。
「何ィっ⁉︎ こいつ、片腕を失っても平然としてっ…………なら今度は全身黒焦げにしてやるぜっ‼︎ 」
竜人の男はめぐるの行動に狼狽えながらも、即座に追加の火球で迎撃する。
真正面から突撃を仕掛けてくるめぐるに、竜人の男が放った灼熱の火球が命中する。命中した火球は捩じれる様に掻き消え、それと同時にめぐるの身体は炭化して崩壊する。右腕、脇腹、そして胸。命中した箇所が炭化して身体に穴が開く様は、燃えるというよりも抉られるという表現の方が正しかった。
それにも関わらず、彼女は止まらない。
「なっ…………なんでこいつ――」
致命傷を何度も受けているにもかかわらず活動を続けるめぐるを目にした竜人は、完全に委縮していた。
目の前にいる存在は、まともな人間じゃない。ここまでして死なないならば、目の前の少女は一体なんだというのだ?
「ちょっとばかし相手が悪すぎたな、トカゲ野郎」
そして。
跡形もなく燃え尽きたはずのめぐるの左拳が、竜人の男の顎を殴り砕いた。
(こいつっ…………再生している⁉︎ まさか不死身なのかっ⁉︎ )
めぐるの一撃を受けて意識を失う直前、竜人の男はその結論に至った。
しかし気づくにはあまりにも遅く、次の瞬間には男の意識は断絶していた。
「ふう~っ、なかなかに熱かったぜ」
火球を受けた箇所を手で仰ぎながらめぐるは一息つく。
それと同時に、メキョメキョメキョ、と気味の悪い音を立てながら、火球を受けて崩れ落ちたはずの胸が復元されてゆく。その光景はまるで、逆再生のビデオでも見ているかのようだった。
「よし復活っ。動かし心地も合格点だ」
めぐるは再生したばかりの左手を何度も開閉して動かし心地を確認すると、ざっと周囲を一瞥する。
いつの間の価、周囲の建物や瓦礫の影には、めぐるを取り囲むようにして何人もの転生者達が潜んでいた。全員がめぐるの戦闘能力と再生能力を目の当たりにして怖気づいてしまったのか、じっとめぐるを見つめているだけで、行動を起こそうとする気配は感じられない。
そんな彼らに、めぐるは優しく微笑みながら呼び掛ける。
「…………さ、次は誰から来るのかな? 」
直後。
圧倒的な実力差を目の当たりにして恐慌状態となった転生者達は、悲鳴を上げながら輪道めぐるに突撃した。
◆ ◆ ◆
その頃。
めぐるを追い出した阿一郎は、数人の取り巻きと鎖で縛った氷牙を連れ、酒場の2階にある宿屋の一室に移動していた。
そして、部屋に備え付けられたベッドに氷牙を投げ捨てると、阿一郎はベッドに腰を下ろして氷牙に語りかける。
「さて、そろそろ楽しむとするかな」
「っ……お前、本気かよ」
「本気だとも。せっかく異世界転生してパッとしない現実世界から逃げ出せたんだ。もう俺は我慢しない、欲望のままに生きてやるって決めてるのさ」
そう言いながらニヤリと笑う阿一郎に対して、氷牙は本気で嫌悪感を露にした。
冗談じゃない。性転換して異世界転生した挙句、よく分からない別の転生者に襲われるとか、ふざけているにも程がある。
ましてや、阿一郎達は同じようなことを繰り返している。気に入った女を攫って手篭にし、気に入らない奴はぶん殴って黙らせる。本人達は街の英雄を気取って入るが、やっていることは完全に山賊の類だ。
彼らを見ていると、不思議と怒りが湧いてくる。
「なにが異世界転生だ……王様気分も大概にしろよ。転生したのがそんなに偉いのか⁉︎ 俺はお前のモノになんか絶対ならねえからな。俺だけじゃない。お前のモノになるもんなんかここには無いんだよ! 」
氷牙がそこまで言い切った直後、目にも留まらぬ速度のパンチが阿一郎の右手から飛び出した。
あまりの速さに、氷牙は何が起きたのか理解するのが遅れ、自分の身体がベッドから落ちているという結果と、頰にはしった痛みの存在で、ようやく自分が殴られたことに気付いた。
「生意気なことほざいてんじゃあねぇぞ‼︎ 顔面にドデカいドーナツホールでも開けられてぇのかクソアマッ‼︎ 」
「ぐふっ……」
「あーなんだか苛ついてきた! つまらない問答はここいらで終いだ! さあ、俺のモノに———」
阿一郎は苛立ち気味に氷牙の言葉を遮ると、彼女に向かって手を伸ばす。
そこに、バタンと勢いよく扉を開け放ちながら、阿一郎の取り巻きと思われる、バンダナを巻いた男がやってきた。
「なんだ、もう少しでお楽しみだって時に」
「大変ですリーダー! あの紫髪の女、次々と仲間をぶっ倒しながらこっちにむかってきてやがります! 」
そばかすまみれの顔に大量の汗を浮かべながら、バンダナの男は早口気味に阿一郎に報告する。
「あの女べらぼうに強くて、俺達じゃ歯がt」
バンダナの男の声がそこで途切れる。
何故か?
彼の背後にある廊下の壁をぶち抜いて、輪道めぐるが突撃してきたからだ。
「がばっ———」
何が起きたのかを理解するよりも早く、バンダナの男は壁板の残骸と共に吹っ飛ばされながら意識を失った。
顔を歪ませる阿一郎の前に現れためぐるは、壁に開けた穴からさしこむ夕日を背に浴びながら、自信たっぷりの表情で氷さんに手を差し伸べる。
「助けに来たぜお姫様っ! 」
「誰がお姫様だ‼︎ 」
お姫様扱いされたことに異議を唱える氷牙。
一方阿一郎は、めぐるを見て何か思い当たる節があったようだ。
「お前、まさか…………っ‼︎ AMOREか⁉︎ 」
「流石にそこまで馬鹿じゃなかったか。まあこれだけ派手に暴れたんだから分かっちゃうよな」
阿一郎の言葉を、めぐるは否定しなかった。
「
「あもーれ…………? 」
聞きなれない単語に首をかしげる氷牙。
しかし、阿一郎はそれを知っているようで、AMOREという単語を耳にした途端、目に見えて焦り出す。
「くそっ……!! あの身のこなし、只者じゃないと思っていたが、まさかAMOREの犬だったとはっ……!! 」
阿一郎が焦りを見せている一方で、彼の取り巻き達は、現実を否定するかのようにめぐるを小馬鹿にする。
「大人しく投降しろ。恐喝に拉致に強盗にその他諸々…………街の住人にでも聞けば余罪がボロボロ出てくるだろうさ」
「へえ、まさか俺たちに勝てる気でいるのか? 」
「俺達はこう見えて腕っぷしには自信があるんだ。テメエみたいなチビ女なんぞ瞬殺だっての」
ポキポキと指を鳴らすめぐる。
そんな彼女の前に、阿一郎を守らんと取り巻き達が立ちはだかる。ひとりは背の高い猿顔の男。もう一人は、めぐる達をこの酒場まで連行してきた大男。
大男のほうは
それにしても、だ。
めぐるがここに到達するまでに繰り広げていた無双っぷりを目の当たりにしていた筈なのだが、大男と猿顔は随分と余裕綽々のようだ。
余程腕っぷしに自信があるのか、はたまためぐるのことを舐め腐っている馬鹿なのかは分からないが、これにはめぐるも呆れるほかなかった。
「お前ら度胸在りすぎんだろ……そんなもん持ってながらなんでこんなことやってんだ? 」
「女の癖に偉そうに説教垂れてんじゃねえぞっ!! 」
猿みたいな顔をした男が前に出てきて、天高く拳を掲げる。
すると、男の全身が激しく発光したかと思えば、次の瞬間には銀色のパワードスーツのようなものを装着していた。
目が眩むほどの金属光沢を発する装甲に目元を覆うバイザー、両肩に乗っかったバズーカ砲らしきものと、身体の随所に付いたスラスター。ファンタジーチックな周囲の背景とメカメカしいパワードスーツのアンバランスさに、めぐるは思わず苦笑してしまう。
「これが俺様の転生特典ッ!! この無敵の"
「…………見た感じ凄いゴテゴテしてるけど、ちゃんと動けんのか? 見掛け倒し臭半端ねえんだけど」
「なっ⁉ 馬鹿にすんじゃねえぞこのクソアマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! 」
めぐるのしょうもない煽りにキレた猿顔の男は、スラスターとバズーカ砲を全力で稼働させながらめぐるに突っ込んできた。
そして背後からは、雄たけびを上げながらチェーンアレイを振り回して突撃してくる大男。
「雄ララララララララララララララララララララララァアイッ!! 」
「必殺ッ!! エンドオブブレイザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! 」
猿顔の男の両肩に乗ったバズーカ砲から放たれた極太のレーザー光線と、大男が勢いよく振り回したモーニングスターの鉄球。その2つが、左右同時にめぐるに迫りくる。
しかし、彼女は避けなかった。
ただ、両手を左右に広げて、その場に立ち続ける。
「おいめぐるっ、避けろって!! 」
「まあまあそう慌てなさんなよ氷牙ちゃん、すぐに終わるから」
氷牙の声を涼しい顔で受け流すめぐる。そこに、ビームと鉄球が同時に接触――しなかった。
ギュインッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と。
ビームと鉄球がめぐるの手に触れた瞬間、それらは同時に捻じ曲がった。
鉄球は粘土細工のようにグネグネと歪められ、ビームはまるでねずみ花火のように螺旋を描きながら拡散し、無力化される。
「嘘だろっ…………⁉ 」
「なんだとっ⁉」
目の前で起きた出来事が信じられずに動揺する取り巻き達。
しかし、既に彼らはめぐるの間合いに入ってしまっている。転生特典を過信して勇み足を踏んだ彼らの顔面に、めぐるのラリアットが直撃する。
バイザーごと顔面を粉砕された猿顔の男は一撃で昏倒するが、大男の方はラリアットをくらいながらもなんとか持ちこたえる。見た目通りタフネスは持ち合わせているようだ。
「およ、耐えたか? 」
「さっきから舐めた口ばっかり聞きやがって‼ 馬鹿にしてるのか⁉ 」
「馬鹿にしてるっつーか軽蔑してるよ。異世界転生したわりにはすっげえしょーもない
「うるせーな文句あんのかよ⁉︎ せっかくの第二の人生なんだからよォ、今度こそ悔いのないように、やりたい事やり切りたいって思ってんだよ! それの何が悪いんだよ! 」
めぐるの言葉に逆切れしながら、大男は剛腕を振りかぶる。
しかし、
「気持ちはわかる、だが共感はできないな」
「この――」
めぐるは軽やかな動きで大男のパンチを避けると、勢いよく突き出された彼の拳を手の甲で軽く小突く。
すると、
「がああああああああっ⁉」
大男は全身のあちこちから激しく出血しながら絶叫し、白目をむいて膝をついた。
何が起きたのかわからないでいる氷牙と阿一郎。
めぐるは戦闘不能となった大男の横を素通りし、阿一郎の元へと近づいてゆく。
「やりたいことを我慢しないってのはただの獣だ。理性まで前世に置き去りにすんじゃねえよ」
身体の随所から血を噴き出しながら崩れ落ちる大男に、めぐるはそう吐き捨てた。
こうして、あっという間に取り巻き達を一掃してしまっためぐるは、最後に残った阿一郎の方を向く。
「さて、後はお前だけだぜ」
「くそっ…………どいつもこいつも使えねえ奴ばかりじゃねえか‼ 」
鎖で縛られた氷牙を人質に取りながら、阿一郎は一歩後ろに下がる。
「さて、オレの可愛い氷牙ちゃんを返していただこうか。そいつはお前にゃ勿体ねえ可愛い子ちゃんだ」
「何⁉ さっきから何なのお前⁉ 」
先程からの露骨なまでのヒロイン扱いに不服な態度を露にする氷牙。助けられている立場で文句を言うのもアレなのだが、つい数時間前までは男だった身としてはこの扱いはどうしても我慢ならないのだ。
「ふん。なら力づくで奪い返してみろよ、転生者狩り」
阿一郎はめぐるの前に立ちはだかると、ファイティングポーズをとる。どうやら彼も本気を出すようだ。
「じゃ、ボス戦突入と行きますかっ‼ 」
第2ラウンド、突入。
決着が着くまで、あと僅か。
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