/// 08.ダンジョン
さて、遂に来ました野外実習の日。
「みんな!準備はいい?」
ルーナの掛け声に残りの4人も声をあげる。
「じゃあ、行こうか!」
このパーティ―のリーダーであるルーナは僕たちを連れ、冒険者ギルドで野外実習である証明書を提出してからダンジョンへ移動した。
実際にダンジョンに繰り出す学園の野外実習。
予定通り仲良くなったルーナとフランソワの2人を連れ、5人パーティでダンジョンを探索することになったのだ。
今年度中に10階層のボスを目指す。最終的に卒業までに30階層を目指すというこの学園。
もちろん僕たち三人はずっと奥まで攻略済みなのだが、二人に合わせてそれなりの戦いをしなくてはいけない。
昨日の夕方、とりあえずは適当な装備が必要だな?と子供達の工房に行って長剣と軽鎧を見繕ってもらう。最初「手ごろな長剣はある?」って聞いたら魔攻大幅増で何か数時間置きに刃から光魔法をぶっぱなせる魔剣が出てきたので丁重にお返しした。
「こんなの市場に出回ってないよね?」と一抹の不安を感じながらごく普通の一般の冒険者が使うようなやつと言うと、持ってきたのが見た目だけ普通な長剣だった。なにげに不朽が付与されてるけど……
その後、皮の軽鎧(不朽)を受け取り僕の方は一応準備は万全ということにしておこう。と諦めた。
サラ(サフィ)さんは無手、カルラ(加奈)は自前で転生したてに購入した安めの杖とローブで挑むという。
それよりも心配なことがある。
この世界のダンジョン、一度ボス部屋攻略してたら再侵入できなかったりボスが再出現しない、なんて事ないよね?と思って念のため鍛冶場にいたドワーフ、ガイエスに聞いてみる、
「一ヵ月程度、間を空ければ大丈夫だ!」と返ってきたのでホッとする。それぐらいならの期間ならダンジョンへ行ってないから大丈夫なはずだ。
そんな心配も解消されつつ、翌日の朝を迎えた。
すでに攻略済みのダンジョンではあるが二人に合わせ、僕も高いステータスでのごり押しをしないよう思いっきり手を抜いた剣術のみでつき進むことになる。
ルーナは神官として防御力を上げるパフを行いながら、フランソワが盗賊として素早い動きでスライムにゴブリンにワーウルフと定番の魔物を順調にダガーで削っていく。そこに僕が剣で、サラ(サフィ)さんは拳で、と少しお手伝いをする
杖を持ったカルラ(加奈)はたまに逃げようとした魔物に雷撃を小さく飛ばす魔法使いとして援護をしていた。戦闘後はフランソワも索敵をしながらルートを決めていく。その間にルーナが傷を負った(ふりをした)僕らの治療をしていった。
これがどうやら普通の冒険者の基本らしい。
なるほど、本来はこういう感じでダンジョンを攻略していくんだな。と僕は感心する。サラ(サフィ)さんと二人で虱潰しに歩き回って魔物を薙ぎ倒して階段を探すという作業ではないわけだ。
そのまま何事もなく順調に進んでゆく5人。
結局半日立たずにも10階層のボスまで到着する。ここであまり僕らが手を出して簡単に攻略してしまってはまずい、という事で様子を見ることにした。
……がボスゴブリンにはどうやらフランソワのダガーでの攻撃もあまり効果が無いようだ。僕もそれにならって手加減をして傷を残す程度に調整する。サラ(サフィ)さんには拳が当たらないように寸止めしてもらっていた。
たまにカルラ(加奈)にも弱い電撃で援護してもらったりもしながらの攻防を演じることとなった。
そして気づけば10分程度の時が経つ。
「これ、無理じゃないかな?」
ルーナが言った通り強すぎて倒せないから今日のところは帰還の札で戻ろうか?という雰囲気になってしまった。僕もそう思う。こういうのを何度か繰り返し程よいところで倒すのが良いかもね。
そんな時、僕の心を無視したカルラ(加奈)が「タク(タケル)様をお守りするためなら!」と叫び、少しだけ出力を上げた雷撃を繰り出した。
まあ……半分は黒焦げですよ……
どうやら火事場のバカ力的な演出のようだ。わざとらしくハアハアと肩を上下させる。サラ(サフィ)さんはそんなカルラ(加奈)を見て肩を震わせうつむいている。そのサラ(サフィ)さんの様子に二人が慰めに向かう。
いや……サラ(サフィ)さんはカルラ(加奈)を見て笑いをこらえているだけだと思う。
そんなこともあったが無事ボスは討伐できた。半分黒焦げながらも討伐の証であるボブゴブリンの耳はそぎ落とすことができた。二人は笑顔を見せていた。ちょっと罪悪感が込み上げてきた。
その後、冒険者ギルドに戻ると学園に提出する討伐証明書にサインをもらう。担当したカルドニーには昨日のうちに話は通しておいたのだが、ニヤニヤとこちらを見ているのは止めてほしい。
過程はどうあれ、無事5人は課外授業をA判定で終えることができた。
初回での10階層のボス討伐に、課外授業から戻ってきた他のクラスメートからは賞賛される4人。みんな笑顔で取り囲まれていた。そして僕は周りからの冷ややかな目に晒され、いたたまれなくなって帰りのホームルームが終了と同時に帰宅するのであった。
クラス内の美女を独り占めする女たらしという目ですね。分かります……
その後、僕は子供たちの武器工房へと再度足を運んだ。
もちろん新しい装備を新調するためだ。
「あのさ、相談があるんだけど」
「おう、なんでい!」
今日も子供達の仕事を見守っていたガイエスに相談する。
「ステータスを100分の一ぐらいに押さえる装備とかできないかな?」
「なんだよその呪いの装備のような設定……」
ですよね。不審がるガイエスのその表情は理解できる。
「いや、僕やサフィさんの力を抑えて平穏無事な学園生活を送りたいかなって……」
「ああ、そう言えば学園生活なんてやってんだったな。まあ、ない事もないが……ちょっと待てよ」
そう言ってガイエスが腰につけている自前であろう道具袋をあさる。
「おっ、これだこれだ!」
そして取り出したのは……
「いや、ガイエスさん……これはダメだよ……」
「禍々しい見た目だがデザインは変更できるぞ?」
そう言う問題ではないのだ。
「これデザイン以前にこの溢れ出る黒いオーラ何?」
「おお!分かるか?ちょっと特殊な製法で作るんだが、罪人用の腕輪を改良して武器に作り替えたもんだ。普通の罪人用の腕輪だと精々3分の1程度だが、これなら20分の1程度までは落とせるぞ?」
さすがに見た目で何やら不吉な装備であることが分かる。
「これ、見た目でバレない程度の腕輪だったりだとどのぐらいの性能まで上げられるの?」
「うーん、見た目でばれない程度なら……5分の1程度かな。まあ近場に重ねても意味ねーから、両手両足で4つ、全部でやっぱり20分の1が限界かもな」
うーん。20分の1か……まあ、無いよりマシかな?サフィさんは……その程度じゃダメかもね。
ドワーフの最高峰の技術を持つガイエスが言うのだ。これ以上は本当に無理なのだろう。取り急ぎ僕とサフィさんの分で8つ、加奈用に魔力のみ抑えるものを用意してもらうことになった。
こうして少しはましな感じになるだろうと思っていた僕。
その後、ガイエスが目を血走らせてその日のうちに作成した腕輪をサフィさんが両手両足に付けたのだが、少し力んだ拍子に全ての腕輪が砕け散った様を見て愕然とするのであった。
一番の被害者はそれを見て力尽き気絶したガイエスであろう。
まともな学園生活を送ることの難しさを再確認する一日であった。
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