/// 10.呼び出し

クラスメートとの初ダンジョンを終え、週末は武具の開発依頼と確認などで忙しく過ごした、

何故か知らないが何気にレベルも上がってしまった僕。


週明けの今日、午前中の座学は何事もなく終わった。


今日も一日何事もなく……のはずだったのだが、お昼休みが始まりすでに当たり前となってしまった二人も加えた五人での食事を終えると「おい!」と僕に向けて男の声が放たれた。

この子は確か……


「なーに?アデル」

フランソワの言葉に名前を思い出す。


そうだ!この男の子はアデル・クワトロというクワトロ子爵家の長男のはず。クワトロ家は確か武闘派の家だったはずだ?この子の父親であるクワトロ家の当主は護衛団長だったはずだ!合ってるよね?

その当主はガタイの良いイケメンな男だが、ベリエットに強引に誘われて訪問した兵舎の視察で僕にもぺこぺこ頭を下げていた義理堅い男だったはずだ。


それにしてもこのアデルくんはちょっとふくよかだな……確かジョブは剣士だったはずだけど、まあ子供だしこのぐらい普通かもしれないね。


「黙れフランソワ!俺はタク(タケル)に……そこの平民クソ野郎に話があるんだ!」

「ク……な、なにかな?」

一瞬クソ野郎に反応してイラっとしてしまったがここは子供の言う事だ。目立たないことに決めているのだから大人しく聞いてみよう。まずはそれからだ。


「知っているとは思うが念のため教えてやろう!俺はアデル!クワトロ子爵家の次期当主だ!いずれ父の護衛団副長を継ぎ、もちろん団長にまでに上り詰める男だ!」

「はあ」

ごめん。当主は副長だったんだね。


「はあ、じゃねーよ!お前はいつも女をはべらせて……前週のダンジョン攻略だってそこの護衛と、その、ル、ルル、ルーナしゃ、ルーナちゃんに……全部任せて隅っこで震えたたんだろ!」

「ちょっとアデル?そんなことなかったわよ!」

「ひゃ!いやその、じゃあそういうことで、いいです……」

ほお……この子、ルーナが出てきた瞬間、態度も口調もポンコツになったな?


いつも僕は鈍感だとみんなに言われているがさすがに分かったよ!こいつ……ルーナのクラス委員の座を狙ってるな!うんうん!アデルくんの目的がはっきちと分かった!これは、男として手助けしてあげねば……


「な、なにかな?」

「と、とにかく!生意気なお前には指導が必要だ!俺がきっちりとその立場を分からせてやる!今から屋上に来い!」

僕を指差しそう宣言するアデルくん。


うんうん。作戦会議ですね!分かるよ分かるよ!ライバルに手の内は見せたくないよね。僕も男の友達はぜひほしい!女たらしではないということを見せつけてやらねば!ビバ、男の友情!


「ちょっと!タク(タケル)くんに何するつもり!」

「ひゃっ!しょんな……」

「タク(タケル)様、どうなさいますか?〇りますか?」

「ひっ!」

アデルくんはルーナに詰め寄られ、そしてカルラ(加奈)の短絡的な言葉に腰が引けてしまった。このままでは男の友情が……


「だ、だめだよ!アデルくん、行こう!大丈夫、分かってるから!」

僕はアデルくんのそばまでいってウインクをした。大丈夫!僕は味方だ!


僕が早くも全て把握してフォローしたからかアデルくんはポカンとしていた。ふふふ。大丈夫だよ。僕はできる男だからね。ちゃんと実は年上ってところを見せてあげるから。大人の男というものを……ねっ!


「カルラ(加奈)、そしてルーナも、アデルくんと屋上に行ってくるから。大丈夫。ちょっとお話してくるだけだからさ!安心して待っててね!」

僕はカルラ(加奈)とルーナに別れを告げ、アデルくんの肩に腕を回して屋上に……


「なんだよなれなれしい!平民風情が!」

「おわっ!」

そうか、アデルくんは照屋さんだな。僕は肩に回した腕を払われた。取り巻きの名も知らぬクラスメートが「大丈夫ですか?アデル様」と駆け寄りもう一人の取り巻きが僕を睨みつけている。



大丈夫!僕は君たちとも仲良くなりたいんだよ!だから後で名前教えてね!

ふと見るとサラ(サフィ)さんは机に突っ伏して肩を震わせてる。あれって爆笑をこらえてる感じだよね?なんだろう。まあいいか!


そう思いながらもズンズン屋上までの道のりを進んでゆくアデルくんたちに付いて歩いて行った。意外と距離感が難しいからね男の友情。じっくりと仲を深めていこうと思う。大人の男としてね!

でもクラス委員については票を入れてってお願いされても迷うところだな。ルーナとも仲良くやっていきたいから……そこはまあ仕方ないことだから……それぐらいで壊れるなら男の友情ではないからね!


そして屋上の入り口を取り巻きが開け……


「ここが屋上だね!初めて来たよ」

「そうか……で、お前!その……ル、ルーナ、ちゃんとは、どうなんだ?」

「えっ?ああ、それなりに仲良くはやっているよ!」

僕の返答に悔しそうな顔をするアデルくん。そうだよね。ライバルと仲良くしてるのは悔しいよね……分かるよその気持ち!


「だ、大丈夫だよ!僕はアデルくんとも仲良くなりたいと思ってるから!」

「うっ、うるさい!誰が平民風情と仲良くやるもんか!」

これは、拗ねちゃってるのかな?取り巻き二人も「そうだそうだ!」と息ぴったりで連呼している。


中々難しいな。付き合っている期間が連携には重要だからね。新参は苦労するのは仕方ない!でも僕はできる男だから……きっと君たちとも良い関係を作れる自信がある!


「大丈夫だよ!ゆっくりと、時間をかけて育もう!」

「うっせー!」

顔を真っ赤にして怒り出すアデルくん。すっかり拗ねてしまった。僕は大人の男だから大丈夫!微笑みながらアデルくんたちの様子を窺っていた。これが大人の余裕というものだよ。参考にしてね!


「な、なんだよ気持ち悪い……」

「ア、アデル様!いい加減やっちゃいましょう!」

「そうですよ!無理に話す必要はありません!」

おっ!アデルくんちょっとデレてきたかな?僕の微笑みの意図に気付いたかも!取り巻きくんたちはまだ距離があるな。まあお友達ポジを奪ってしまうかもしれないライバルだからね。警戒はするよね。


僕は君たちとも仲良くやって行ける自信があるよ!目指せ男友達一挙に3人ゲット!素晴らし学園生活の幕開けだ!


「とにかく!もう俺よりも目立つんじゃねー!後……ル、ルーナしゃんと……仲良くするなよ!分かったらもう行け!お前なんか今すぐ痛いめに遭わせることもできるんだからな!」

「えっ?」

もう友情の初イベントは終わり?これじゃあまり交友は深められないじゃないか!でも最初だからこの程度でやめておいた方がいいのか?さすがの僕もここは迷うな?


そうこう考えている間も取り巻きたちが僕に「そうだそうだ!」「早く失せろ!」などと声を飛ばしている。これはきっと激励!まるで「お前これでいいのか?」「もっと来いよ!」と言っているように聞こえた。


僕は何時ぶりになるか分からない勇気を振り絞った。


「も、もっと話しないか!」

「はっ?」

「もうお前なんかに話すことなんかねーよ!」

「そうだ!アデル様の手を煩わせるな!」

折角勇気を出した僕の言葉の、アデルくん達には刺さらなかった様だ。あっけにとられたアデルくんと再度僕に罵声を浴びせる取り巻きくんたち。言葉のチョイスが違うということか……


「何を考えているか知らんが、お前が大人しくしていれば俺は許してやる!変に取り入ろうとするなよ!俺はお前なんかとは仲良くする気はない!」

なるほどね。今回は時間切れってことなか?まあいい。まだ時間はたっぷりとあるからゆっくりと友情を育んでいこう!


僕は微笑みを絶やさずに未来の親友たちに別れを告げた。


「じゃあ今日はここまでだね。……またね!」

「いいから帰れ!」

「学園からも出てけー!」

「バーカ!」

ちょっと辛辣すぎるが強い激励とすぐに理解できた僕は、大人の色気をみせ片手を上げ「じゃあね」と屋上から出た。なんとか形にはなったはずだ。今頃あの三人は今後の僕との距離の詰め方を話し合っているかもしれない……


こうして最初の友情イベントを終えた僕は、ご機嫌なまま教室に戻るとサラ(サフィ)さんを除いた3人の質問攻めにあったが、もちろん「男同士の秘密だよ」と答えておいた。


三人ともあっけにとられていたが、屋上での出来事は三人の秘密だ。これから仲良くなる親友たちの物語の第一章だからね!


その後、僕の様子を見てまた肩を震わせているサラ(サフィ)さんは無視して午後の授業を受け、何事もなく帰路についた。


「そうか、まだ『放課後買い食い行こーぜ!』イベントには早いのか……」

僕の独り言が夕日に消えていった。

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