/// 07.運動日 午後の部

いつものようにデカイ弁当を食べる昼食時間。


またもルーナとフランソワにからかわれつつも、いつも以上にクラスメートからの冷たい視線が突き刺さる。午前中に授業を続けてぶっ潰したとも見て取れる僕に……

いや潰したのサラ(サフィ)さんじゃないの?と理不尽さを感じるが文句を言ってもきっと変わらないだろう。


そして心と体を少し回復させた午後の授業。


隠密術ということで真理の授業なのだが、どうやらグラウンドではなく近くの森の入り口に集合とのことだった。


この森は魔物はほとんどいない安全な森。

いてもせいぜいゴブリンが出る程度。ゴブリン程度ならこの学園にいる生徒なら簡単に倒せるという。休みの日はここに入ってゴブリンの魔石を集め小遣いにしている生徒もいるのだとか……


そんな森の前に時間前に集まるクラスメートたち。

それにしてもそろそろ始まるのにかかわらず講師、つまり真理は姿を見せない。


「それにしても真理は遅いよね?そろそろ始まるし……」

「何言ってんだよ?」

サラ(サフィ)さんの返答に首を傾げる。そして意識を集中して耳を澄ませ……何か近くでハアハアと小さな吐息が聞こえる。僕はゆっくりと振り向き、下を見る……僕は湧き上がる恐怖に「ぐっ」と一瞬悲鳴をあげそうになって堪える。


しゃがみこんで僕の方をガン見している目を血走らせた真理がいたからだ。これは何かプレーの一環なのか……怖すぎる。


「ちょ、ちょっと!何やってんだよ!」

堪らず発した僕のその声に周りのクラスメートが騒がしくなる。


真理もまた世間から注目されている謎多き隠密であった。まあみんな英雄タケル様の嫁で盗賊ギルドをまとめるボスということだけは知っているのだが……

そして気づけば僕の後ろからは消え、正面へと移動している真理。そして突然あらわれた風に見えたクラスメートからはのどよめきが起こる。


「では、今日の授業は鬼ごっこです」

そんな唐突に始まった授業に戸惑うクラスメート。ある意味これも精神修行なのか?


結局その3分後にはみんなが阿鼻叫喚しながら逃げ惑うこととなる。


「とにかく逃げてください。私に捕まったらそこで終了です……捕まったら罰ゲームとして授業が終わるまでこの場に拘束された姿をさらすこのとなるので……」

真理のこの一言で僕は周りを気にせず猛ダッシュした。速やかに逃げないと確実に僕がターゲットにされると予想したのだ。


そして突如として悲鳴が聞こえる。

名も知らぬクラスメートの叫び声。


恐る恐る【肉体倍化】で視力を底上げして覗くと、そこには両足を上へピンと伸ばし適度に開脚されているという、かなり恥ずかしい恰好で拘束されている男子の姿があった。本気でやばそうだ。


僕は魔力を極力漏れさせないように操作する。そう言うのに敏感な真理は逃げる際に発動するであろう魔力の痕跡をもとにクラスメートたちを探すだろう。そう思ってできる限りフラットな状態で遠くへ離れる。

そして木に自力で登る。いかに普段から魔力で底上げしているのがが分かる。こういうところに気づくのも授業の一環なのだろうか?


なんとか木に登り葉の生い茂った枝に身を隠す。


「後はチャイムが鳴るまで息を潜めよう」

そう呟きながら次々に聞こえてくるクラスメートたちの悲鳴を聞き続ける。というかあっちこっちで悲鳴が聞こえる……捕まえる度にあの広場に戻ってるんだよね?もしかして知らない間に【影分身】とか発現してないよね?


そんなことを思いながらも、ここに潜んでいれば逃げ切れると安堵していた。


「ふう。あちこちで悲鳴を聞こえる状況はやっぱりちょっと怖いな」

「そうだね」

「ひっ!」

僕は背後から聞こえる声に驚き全力で木から飛び降り走り出した。もちろん魔力は全開だ。しかし気配を感じ横を向くと、真理が笑顔で並走している。


「そんなに逃げなくても……私、傷付いちゃうなうな」

「そりゃ、逃げる、よ!」

ハアハアと息を切らしながら逃げるが全く逃げれる気がしない。そしてゆっくり近づく真理が……僕を全身で抱きしめる。その拍子に体勢を崩した僕はゴロゴロと転がるのだが、そこは真理がうまくコントロールしたようで、うまいこと茂みに突っ込んで……


目の前には真理の艶っぽい顔が見える。


僕は大の字に寝かされ上から覗く真理の顔。


「仕方ない!奥の手だ!」

僕は拘束された腕から真理の体力を抜き取るように【人体操作】を……あれ?真理はまったく表情を変えず僕の顔へ寄せてくる。良く見ると僕を押さえつけていたのは太い魔道具のような装飾がされていた枷のようなものだった。


そして真理が上から覆いかぶさってくる。おかしい!触れてるところから体力を根こそぎ奪うつもりで魔力を籠めるが上手く発動できない……これは、明らかに魔道具の能力だよね?


「ふふふ。タケルくん……すごいでしょ?この魔道具。これ一つで魔力の流れを阻害して発動させなくなるんだけど……頑張って4っつも付けちゃった♪」

僕は両手両足にはまっているそれを恨めしそうに見る。


僕は攻めるのは好きだけど責められるのはちょっと弱いんだ。


「だめよ?タク(タケル)くん。授業中にここ……こんなにさせちゃって。先生で変な妄想した?」

「ぐっそれは真理が……先生がこんなことをするから……」

思わずこのシュテュエーションに身を任せてみる。


ちょっと興奮してしまう。


「そうだぞ!タケル!授業中にこんな卑猥なことしてー!」

「あっ」

「ひっ」

僕は、寝そべりながら真理の後ろから覗くサラ(サフィ)さんの顔を確認する。真理が悲鳴を上げながら僕の上から高速で逃げようとしたがその足がサラ(サフィ)さんによりつかみ取られてしまう。


数分後には真理が簀巻にされて僕の横に転ばされていた。


「あ、ありがとうサラ(サフィ)さん。じゃあこの魔道具はずしてくれるかな?もう魔力が使えないとホント不便だよね。困っちゃう」

僕はため息をつきながら強張っていた体の力を抜いた。


しかしいつまでたっても魔道具を外されることは無かった。


「サラ(サフィ)さん?何ニヤニヤしてるの?ちょっと、いやサフィさん!ダメだって!まって?今まずいから?クラスメートに見つかったらまずいから!サフィさ……あーー!」

結局、チャイムが鳴るまで僕はもてあそばれてしまった。

まあそれはそれでよかったが、男の尊厳を取り戻すため、今日の夜はサラ(サフィ)さんと真理、悠衣子と康代にも色々と見せつけなければならないと心に強く誓った今日の一日だった。

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