/// 06.運動日 午前の部
さて。今日は運動日と言われる日らしい。
この学園でも実は初めての試みらしい。いわゆる実技の授業は今まで午後に毎日行っていた。しかし週末前とも言える今日、午前午後の三科目が全て実技なのだ……まあ学園長の思い付きだという。
その内容は、体術、剣術、隠密術を行う。
まあ予想のとおり我が嫁たちの授業の日である。
「まずは……体術か……」
「久しぶりに体動かせるな!腕がなるぜ!」
サラ(サフィ)さんが腕をぶんぶん回している……ほどほどにしてほしいとは思うけど。
「サラ(サフィ)さん?分かってるとは思うけど問題は起こさないでね?」
「おう!もちろんだ!」
僕は一応注意は促したということで……
そして午前中一発目の授業がはじまる。訓練場となっている広いグラウンドへ集合するクラスメートたち。各々動きやすい服装になっている。僕たち三人はあまり高すぎない運動着に着替えている。
いわゆるジャージのようなものだ。佳苗が地球産に近づけるべく何かの魔物の毛に特殊な薬剤を付けて作り出した人工素材というものだ。ベリエットが販路を確保して今爆発的に売れている。
ワンポイントとして虎が横に駆けるマークがついているのはご愛敬だ。
どうやらその虎の向きだ右を向いているパチものも出回っているようで、そちらは売れていないようだ。そりゃそうだ。そんなの着てたら偽物買ったアホですよ!って宣伝しているようなものだし……
という話は良いとして、いよいよ最初の体術の授業が始まる。
すでに講師の康代は登場して女性陣の黄色い声援を一身に受けて照れている。
真理たちもそうだが、康代もたまにギルドの訓練講師として若手冒険者の面倒を見ているのだが、それが噂を呼び新聞なんかでも特集を組まれたりするので広く知られている。
そりゃー見た目が華奢な女の子がゴリゴリマッチョな冒険者数名を相手取り、軽々制していくのだがら羨望の眼差しを受けるのは当然のことだろう。中でも康代は小さな体に細マッチョ。女性陣の人気がやばい。
例によってルーナは涎を隠すことすらしない。
「み、みんな?一旦落ち着こう?」
康代のその一言にみんなが素直に返事を返して静まり返る。ちょっと緊張した面持ちで頬を人差し指で掻いている康代は可愛い。あまりこういうのは得意じゃないからね。
そしてなんとか授業は進んでゆく。二人ペアを作りつつ素手での組手を行う。
サラ(サフィ)さんはカルラ(加奈)とペアを組んですでに始めている。必死で攻めるカルラ(加奈)を鼻歌交じりでさばいているサラ(サフィ)さん。楽しそうだ……
ルーナはフランソワと戦っている。うん。
美少女の戦闘シーンは良いよね。
そして気づく。僕は今、ボッチになっていた。あれ?おかしいな?と首を傾げる。
その時僕は気づいていなかった。
普段は冷たい視線を向けていた女性陣も奨学生なので将来有望なんだよね、とさりげなくペアを組みたそうに近づこうとしていた女性陣に、康代が殺気を飛ばしてけん制していたことを……
なにが奨学生だ!あんな弱っちい体で粋がりやがって!いっちょ俺がしばいてやる!と気合を入れて寄ってきた男性陣に、康代が怒気を飛ばして気絶させていたことを……
「あら、タク(タケル)くん、だったかな?あぶれちゃったの?」
「ま、まあ……そんなところです」
「そうなんだねーそっかそっかー」
「はは、おかしいな……僕何かしちゃったかな?心当たりは……あるといえばあるけど……」
そして僕を後ろ抱きにする康代。
「えっいやこれはまずいと……」
「いいからいいから……私が、あぶれちゃった可哀そうな生徒にやさしく手ほどきしてあげるから……」
僕は戸惑いながらも康代を振りほどこうとしたのだが……あれ?おかしいな……というか当然といえは当然かな?相手は200レベル越えの闘士だ……僕は後衛職だよ?叶う訳が……あっそこはまずいから!
「康代、先生?ちょっとそれはまずいと……」
「えっ何?授業中に変なこと考えてる?これは戦闘訓練でしょ?まじめにやらないとだめだよ?」
「えっ?ちょっとまって?これはおかしい!こんなの授業とは……いい加減にしないと怒るよ?」
僕は康代の体力をごっそり奪っておこうと、かろうじて動かせる手を康代に太ももに置いて放してくれるようお願いしてみた。いざとなれば……
「私、何かされたら変な声でちゃうかも……大きな声で……」
「ぐっ……」
そうなれば注目されるのは必然……康代め……これは今晩教育的指導が必要では……
「ほう!じゃあおっきな声で喘いでもらおうかな?」
「ひっ!」
僕は急に開放された。後ろを見るとサラ(サフィ)さんが康代の手足を後ろ抱きで拘束していた。その手足はギリギリと締まっているようだ。康代が声も出せずにパンパンとサラ(サフィ)さんの太ももを叩いている。
あれは、降参と言う意味かな?
ふとカルラ(加奈)と組手したであろう場所を向くと、すでにカルラ(加奈)が昇天したようにお尻を突き上げてうつ伏せでつっぷしていた。何があったというのだ……
その後、康代の「ふぁー!」という悲鳴がグラウンドに響きそのまま自主練となった。
結局その日の授業が大した指導もないまま終了となり次回に期待。という形となった。まあ悪いのは康代だ。この結果も仕方ないだろう。一部の女子等はふらふらになった康代を介抱するというイベントを楽しんだようだが……
授業が終わると康代はこちらも見ずに早々に退散した。
15分間の休憩時間をはさみ次の授業は剣術の授業だ。思えばまともに剣の修練なんて初めての事、ちょっと楽しみだ。そして体育委員だというクラスメートの二人が運んできたカートに入っている木剣を適当に取る。
そして授業の始まりのチャイムと共にグラウンドに悠衣子がやってきた。その姿はラフなジャージに両方の腰のベルト部分には木剣を指している。悠衣子は双剣使いだからね……それにしてもカッコいいな。
ふわふわしたセミロングの髪に優しくも天然な笑顔を見せる悠衣子。もう男性陣の奇声がすごい。そしてその奇声をクラス委員のルーナが「静かに!」と一喝して治めていたいた。だがその顔は緩みきっているが……
「ではー今日は初めての授業なのでー、どうしようかしらー?」
小首を傾げる悠衣子。
再び響く男性陣の奇声と一部の女性陣の悲鳴。
というかあのしゃべり方は……悠衣子は授業やるためにキャラ作ってきたのかな?まあゆるふわ系お嬢様剣士って特集されてたの見たことあるしね。イメージは大事。
「なんでもこのクラスには奨学生がいるってききましたー。どなたでしょうか?挙手ー」
と言いながらも僕の方をチラチラ見る悠衣子。そしてクラスメートからも僕たち三人の方に視線が集まる。なんだこのプレー。そう思いつつも手を上げる三人。あれ?二人?なんでサラ(サフィ)さんは黙って横向いてるの?
「それではー。タク(タケル)くん?それとカルラ(加奈)ちゃんでいいのかしら?」
「「あ、はい」」
「ちょうど先生2本剣を持ってるので……デモンストレーションでもしましょうねー。好きに切りかかってきていいですよー?」
「うえ?」
悠衣子はそう告げるとグラウンドの中央へと歩いて行った。歩いて行っているはずなのに一瞬気配が消えるような感覚に陥る。二人じゃ絶対剣では勝てないのは当然だけどまあデモンストレーションだし……
そう思って僕はカルラ(加奈)に目で合図をして走り出す。
僕はイメージではアニメで見たなんたらかんたら流!みたいな感じで剣を振る。カルラ(加奈)もそれに合わせてうまく木剣を叩きつける。それらは悠衣子が抜いた左手の木剣で叩き落とされる。
いや双剣は使わないんかい!
僕はちょっと意地になってせめて双剣は使わせたいと【肉体倍化】をフルで使って高速で切りかかる。そしてその切りつけた先にいた悠衣子が……消えた。完全に切ったと思ったのに……まるで陽炎のように残像を残して……
気付けば僕は手の痛みと共に木剣を落としうずくまっていた。
背後からカルラ(加奈)の「んぎゃ」という悲鳴が聞こえた。
「あらあら。だめよ?剣士が剣を手放しちゃ……」
気付けば背後にいた悠衣子が僕の首に腕を絡ませ……
「いや、この時間はは体術の授業ではないハズですが……」
「剣士も体術だって使うのよ?」
そして悠衣子が僕の胸をまさぐろうと手が動いて……「ぐえっ」っという声と共に悠衣子のであろう背中の熱が遠ざかってゆく。
「忘れてたけど俺も奨学生なんだったわ!相手してくれよー」
「え、ちょっと!サフィ、サラ(サフィ)さん?待って?いいから落ち着きましょ?話し合えば解決することもあるわ?大丈夫!先生寛大だから!今ならこの暴挙もゆるされるから!ギャー!」
こうして、悠衣子の暴走により始まったこの茶番のような授業は、再びサラ(サフィ)さんの手により悠衣子が撃沈。終了までヒクヒクと痙攣して倒れている悠衣子をルーナが看病するという時間へと変わった。
僕たちは気にせず木剣でひたすら素振りをしていた。
次の剣術の授業の時にはぜひともまともに剣術を習いたいものである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます