/// 33.教会本部
「くそっ!役立たずばかりで腹が立つ!」
教会本部の聖女たる者が住まう豪華な一室。転移者であり元勇者パーティであった神官・朝倉蘭はイライラしていた。勇者パーティとして火竜討伐の誉れを一身に受け、勇者や他のメンバーにも惜しみなく提供した自らの体。そうして築いたこの聖女という地位。
それが今、足元から瓦解しつつあることに恐怖し、日々ストレスが募っていた。
勇者パーティは火竜を討伐していなかったとしてライディアンとカイザードが処刑、他の勇者パーティのメンバーもすでに何人か失脚している。幸いなことにまだ偽聖女として糾弾されるには至っていなかったが、常に居心地の悪さを感じていた。
それでなくても最近の教会は世間からの評判は悪い。聖女は大した回復魔法も使わず、お布施の額も高くなっている。そこに来ての偽聖女疑惑・・・もはや時間の問題ではと朝倉自身もそう感じていた。
勇者が失脚してからは、面倒だと止めていた慰問活層も再開してみた。
慰問活動は週に一度のペースで街へでて、お金のないスラム街やその日暮らしの病人などを訪ね、回復魔法をかけていくという奉仕活動である。そういった地道な努力が、聖女としての地位を守る活動ではあったのだ。
聖女のポストに納まってからは修行などもせずすっかりだらけてしまっていた朝倉。相変わらず中回復で使用回数も限られている。結局慰問も中途半端でガス欠となりすぐに帰ることとなる。
それでもやらないよりはマシだとここ最近はほぼ毎日続けていた。朝倉にしては頑張った方だと言えよう。ゆえにストレスが溜まりまくってしまうのだが、その矛先はやはりタケルへと向けられることになる。
「それも!これも!アイツが全ての元凶だ!大川!今すぐにでも殺してやりたい!」
ストレスから親指の爪をガリガリと噛み、頭の中で何度も火口に落とした時のことを思い出していた。
「アイツ・・・不死身か・・・どうしたら殺せる!・・・Sランク冒険者か・・・うーん、稼ぎも、いいはずよね・・・」
与えられた一室でただただ贅沢を尽くしていた朝倉は、タケルがもはや孤児院と呼んでよいか分からないぐらいの敷地を所持し、猛流組(たけるぐみ)なる組織があることなどは知らなかった。
Sランク冒険者で火竜を従え、ハーレムを築いている。というのが朝倉のタケルに対する認識であった。であればそこに付け入るスキはあるはず。と考えていた朝倉は、当然のように自身の体を使った篭絡を思いつき顔をニヤつかせていた。
クラスでもカーストトップの自分の美貌とプロポーション。勇者パーティの面々に鍛えられたテクニック。それらを駆使すれば簡単に落ちるだろう。という自意識過剰すぎるその意識が判断を鈍らせることになる。
◆◇◆◇◆
メテルを保護して一週間、その間に誕生会に向け下見を繰り返すタケル。誕生会に加えて歓迎会もという流れになったのは必然であった。いつ頃それを行おうか思案していたある日の朝。一通の手紙が届けられた。
差出人を見たタケルの顔がゆがむ。どうしてこの世界の郵便は不吉なものしか運んでこないのだろう。可愛らしいピンクのハートが多数描かれたその差出人は『聖女 朝倉』となっていた。
このままゴミ箱へ放り込もうと思ったのだが、なんとか踏みとどまって女性陣に相談することにした。佳苗が「一応は中を開けてみる?」と言えば真理が「何かあれば私がアレ殺(や)ってくるし」と笑顔で答える。サフィさんも「いいなそれ!」と言い出す始末。
「とりあえず見るだけ見てみようか・・・」
そして開かれた中身は・・・
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拝啓、大川様
以前は大変失礼いたしました。
当然今も怒っておられるでしょう。
弁解の余地もありません。
ですが、あの時は私も生きるのに必死でした。
そのことで怒りが晴れるとは到底思いませんが
ぜひお詫びをさせていただきたく存じます。
何時でも構いません。
教会本部までお越しいただけないでしょうか。
誠心誠意、私が尽くさせていただきます(ハート)
◇◇◇ 聖女 朝倉蘭 ◇◇◇
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「やっぱり燃やしとく?」
「そ、そうだね・・・」
「だめ!」
朝倉の気持ちの悪い手紙に佳苗の辛辣な言葉が放たれたのだが、それに珍しく即反応したのはメテルであった。
「どうしたの?メテル」
「これ行く!タケルと私!二人で明日いく!」
メテルはどうやらタケルと二人で教会へ行きたいらしい。しかも明日。
「メテル、何か視えてる?」
もしかしたらと思ったタケルの言葉にコクリと頷くメテル。
この一週間、タケルにべったりではあったが我儘どころか自己主張もほぼなかったメテル。そのメテルがこうも主張するのだからきっと【予知】スキルが何かを感じてのかも?と感じ取った。結局それを信じて翌日のお昼前、メテルと一緒に王都の教会本部へと足を運ぶこととなった。
◆◇◆◇◆
「では聖女様がお待ちしております部屋へ案内させていただきます」
教会本部へ到着すると、すでにタケルのことは伝わっておりいつでも対応できるようなっていたようで、すぐに案内の人がやってきた。年配のシスターでおそらく上の方の立場の人であろう。
だが、一緒に行こうと思っていたメテルは、最初に声を掛けた若いシスターにベットリとくっついて離れず、一緒に行こうとはしなかった。なぜ?
「タケル様、よくぞおいで下さいました」
目の前には修道服に身を包み、ピンクの下品な髪をなびかせ笑顔を向けている朝倉が立っていた。
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