/// 32.平和な日常ってなんだろう?

あの悪夢のような婚約の儀が終わり、暫くは若干王都民がざわついていたが、皇太子の王位継承が発表され、第一皇女が公爵へと嫁ぐもそのまま皇太子と一緒に国政をまとめ上げるという発表と、偽証罪でライディアンとカイザードの処刑も大々的に報じられた。

Sランク冒険者タケルと、実はこの国の守護者であった火竜、ことサフィの活躍により、国の乗っ取りを防ぎ国のさらなる発展も約束された。との発表もあった。その小出しに発表された情報は、宰相であるカイデルと群れの一員となったベリエットの策略であったようだ。


そんな日常?が戻ったタケルたちは、せっせと孤児たちを孤児院に集めるように働きかけると共に、冒険者ギルド経由で世話役なども大量に雇っていった。

商業ギルドの力も借りてみたのだが、そちらは金持ち相手の商売ということで、下働きといってもどこぞの貴族の次女三女などであったため、孤児院の世話には適さなかったため諦めた。

商業ギルドのギルド長となった元勇者パーティの商人・ミンティアは、その際に挨拶にきて金とその豊満な体を使った色仕掛けをしてきたのだが、一緒に旅をした時の本性を知っているので珍しくイラっとしてしまった。

その空気を正確に把握したサフィさんによって、シッシと虫でも追い払うようにけん制していたので、何事もなく帰路につくなどということもあった。


ベリエットについても、レベル1という状態からの養殖プレーを行った。サフィさんが護衛に就くのだが、指には指輪をゴテゴテにして手には魔界の短刀(死)、あとは普段着となるピンクのドレス・・・かなりの不格好な見た目である。

だが本人の要望もあり、一気にタケルたちがポータルで行ける最深部、141階層へ繰り出しタケルが多数の魔物を引き連れたいくのだが、まったく動じず動きを止めた魔物から順に手に持つナイフで「えいやっ!」と倒していった。

「何があってもタケルたちが助けてくれるであろ?」と言うのだから王族とは凄いものだと改めて思った。一気に250レベル程度になり、もう十分だろうと1週間ほどで養殖プレーは終了した。

スキルも新たに【後光】という崇めたくなるスキルと、サフィさんと同じ【魔道の極み】がパッシブで発現した。さすが王族・・・


そしてコツコツと孤児たちを集め、育成していった。これでいずれこの孤児院から巣立っていく子たちが、心優しき人を助けることのできるようになれば、健やかに穏やかに、のんびりと暮らせるようになるだろうというタケルの当初の願いが、着実に実現しようとしていた。


◆◇◆◇◆


そんな日々を送るタケルは、買い物でサフィさんと王都の最高級店『王都総合魔道センター・南出moreー瑠』へ向かってのんびりと歩いていた。


途中でソフトクリームを二つ購入してのんびりと歩く。季節は夏本番を迎え外を歩くと熱いのだろう。もちろんタケルには【精神耐性】や【耐性-火】があるので全く気にならない。同じように火竜であるサフィさんも涼しい顔である。

それでも冷たいソフトクリームは美味しい。

もうすぐ八月。佳苗の誕生日も近い。が、それだけでは終わらない。真理が5月、悠衣子が6月、加奈は7月である。知らなかったとはいえ全てスルー。なので近い内にまとめてお祝いをしようと思っていた。


ちなみにタケルは10月、サフィさんはそんなものはない!というので同じ10月に決めた。康代ちゃんは12月でベリエットが11月というのでまだ早いのだが、いっそのことすべてまとめてやってしまおう!ということに決まってしまった。

年に一度の誕生大パーティ。それに向けた下調べとしてのお出かけであった。

そしてのんびり歩くタケルの目には、一人の幼女が映り込む。


大きな通りに面して建っている建物。そこには柵のようなものがあり、何名かの悩ましい女性や、屈強な上裸男などがこちらを手招いていた。どうやら奴隷商の建物の様だ。この国では奴隷を認めてはいるようだが、奴隷でも人権があり拒否されれば何もできない。という程度の拘束力が生じる拘束具があるという。

もちろんまっとうな要望を無視するような奴隷であれば、不良品として返品されてしまうので、最初の契約内容にはある程度したがわざる得ないようだが。


その檻のような一室から、こちらに手をふる少女がいた。必死にタケルに手を振る少女。顔は無表情ではある。どうしたものか、と念のため【詳細鑑定】で覗き見る。(7歳か・・・エルフ?あっ・・・)そこには【隠蔽(いんぺい)】【予知】【範囲回復(エリアヒール)】【信託】というスキルと共に、ジョブ・聖女、となっていた。

このままじゃ、いけないよね。そう思ったタケルはその建物に吸い込むように入っていった。サフィさんは何かを察してニヤついていた。


「いらっしゃいませ。おや、英雄タケル様ではありませんか」

「うっ・・・」


すでに名前が割れている状態で奴隷商に入るこの状況に、少し心がざわついてしまうがそこは【精神耐性】が仕事をしてくれたようだ。


「そこにいる少女を・・・話を聞いていいですか?」

「おや、そういったご趣味が?いや失礼。第二皇女様も娶られたのでしたね。いまさらでした」

「ぐっ」


タケルは心の中で頑張れ【精神耐性】と見当違いな応援をしていた。


「あれは、戦争孤児で拾ったのですが・・・スキルもジョブも発現していない只の子供でして、まあそういった趣味の人には良いでしょうからつい最近ああやって目立つ位置に飾らせていたのですが・・・常に隅の方で小さく座り込んでましてね。まったく売れないのですよ」

「はあ」

「でも不思議ですね。先ほど積極的に呼び込みをしたと思ったら、今もこちらをじっと見ています。どうやらタケル様が好みだったのでしょうかね。お安くしておきますよ」

「じゃ、じゃあ貰おうかな?」


なんだか少女を金で買い取るロリコンさんの気持ちになってしまい、早口に言い訳を言いたいところなのだが、タケルはそれをぐっと飲みこんでいた。

結局100万エルザという高いのか安いのか分からない金額でその子を購入し、すぐにタケルの腕にしがみつくという状態であったためため、心配はないだろうと隷属の魔道具は移行させず外してもらい、契約はまとまった。

その際に「おや、力で屈服させるのがお好みですか?」という言葉に、執事の皮をかぶった悪魔か!と若干の殺意が湧いた。

そして予定を変更して孤児院へと戻っていった。


「で、幼女を買ってきたと?」

「いや、これには訳があってね・・・」


女性陣、特に佳苗に詰め寄られたのだが、ジョブが聖女であること、貴重なスキルを多数もっていること、恐らく【隠蔽(いんぺい)】の効果で通常の【鑑定】ではジョブなしスキルなしに見えていただろうことを説明した。


「やっぱり、聖女というのなら然るべき機関に預けた方が良いと思ったんだ」

「いや!」


タケルの説明にその少女はしがみついて首を横に振っていた。その行動に困ってしまったが、とりあえずその取扱いは保留ということで名前がない状態だったため、独断ではあるが、タケルは心のアイドルから『メテル』と名付けた。

メテルは「良い名前。好き」と言ってくれたのでまあ良いだろうと皆も納得してくれたようだ。


暫くは一緒に生活をしながら、教会のことなども話に出して興味を持ってくれれば、と思いながらも時間は過ぎ去っていった。夜は孤児院の寝室ではなく、康代に与えられている部屋に寝泊まりしていた。

佳苗の部屋は錬金術の設備が、真理の部屋には忍者関連装備があるということで、康代の部屋になったという。悠衣子、加奈、そして新しく加わったベリエットの部屋は理由は分からないが「ダメ!」と強烈に断られた。

ここには隣接して使っていない部屋もまだ5つほど残っているのだが、また家具を搬入してメテル用の部屋も用意しなくちゃ、とも思っていた。


なんだかなし崩し的にメテルも群れに加わらないか、若干自分を信用できなくなったタケルだが、そこは鉄の意思で踏ん張ろう。と心に誓った夜であった。

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