/// 31.火竜 in 王城

「ああ!俺がその・・・火竜だ!!!」


その言葉とともにノリノリのサフィさんが・・・全身が鱗に覆われ、装備を全てスルリと脱ぎ去ると、元の3メートルほどの火竜へと戻っていた。

会場は悲鳴と怒号でパニックになっていた。タケルは必死に「落ち着いてください!」「サフィさんは人は傷つけません!」と何度も叫んでいた。そして動かぬ火竜を見て、少しだけパニックは治まっていく。


『これで分かっただろ!こいつらは俺を倒してなんかいないんだ!俺を倒せるとしたら・・・タケルぐらいだな!別の意味でだけどな!』


なにげに下ネタをぶち込んだサフィさんは『ぐわはは』と笑い出した。会場からは「オオカワ様がいれば」「タケル様であれば」とざわざわしていたが、もうさすがに気が済んだだろうと思い声をかけるタケル。


「もう気が済んだでしょ。今度こそ帰るよ!じゃないともう絶交だよ?」

『お、おお!もう大丈夫だ!だから、な?絶交は止めようぜ』


オロオロとしだしたサフィさんに咥えられ、背中へ載せられるタケルは今度こそ脱出・・・と思っていたのだが、それを許さない者がいた。当然のことながら勇者ライディアンと大魔導士カイザードであった。

二人はタケルとサフィさんに向かって特大の魔法攻撃を放ってきた。【ライトニング】と【ブリザード】という大魔法を発動し、再び会場はパニックとなっていた。当然のようにその攻撃は【竜鱗の障壁】によって防がれる。ついでに周りにも影響が無いように全て受け止めてくれたようだ。


『危ないだろ!俺が受け止めなければ会場もぶっ壊れてたぞ!少しは周りの迷惑考えろ!』

「お、お前が言うな!」

「そうよ!」


再び放たれる【ライトニング】と【ブリザード】を同じように受け止める。乗ってるタケルは考えることをやめていた。どう考えても収集がつかない。と思っていたのだが・・・


「やめよ!この者の話を聞くのじゃ!」

『お、おお・・・』

「「「ははー!」」」

「あ、はい・・・」


声の主はやはり皇女様だったのだが、タケルは、なぜに『のじゃ』?と思って【完全鑑定】で覗き込むと、ジョブは賢者、そしてスキルに【支配】と【威圧】があることに気づいた・・・あれは威圧を乗せた声だったのか。と納得した。でも『のじゃ』はスキルとは関係ないな、とも思った。


「では、火竜が討伐されておらんのじゃな」

『そうだ!』

「あ、サフィさん・・・そろそろ元に戻りません?」

『そうだな!』


タケルがちょっと横から口を出してしまったのだが、どうも居心地が悪かったのでそれは仕方のないことであろう。収納から先ほどしまったサフィさんの衣服を取り出し、かぶせると、そのまま器用に小さくなって着込んでいく。最後に鱗も消え完全に元の人型となったサフィさんに戻ってくれた。

そしてその頃には他の女性陣もその場に集まっていた。佳苗は「あのまま私たちを置いていくつもり?」と怖い顔をしていた。


「すまぬの・・・あ、しゃべり方はこれが素じゃ・・・いい加減疲れての」

「おう!」

「姫、そのような者の話など、グッ」


話しを何とか止めようとした勇者は姫のにらみで沈黙することとなった。陛下も王妃様も頭を抱えていた。カイザードは膝をついてうなだれていた。やっぱり平穏には終わらなかったことにため息しか出ないタケルは、黙って見守ることにした。


「先ほど、タケル殿を勇者たちが火口に投げ込んだというのは本当なのじゃな?」

「ああ、しっかりと見てたぜ!ひでーことすんなって。でも一年近くたった時、火口からザバー!ってタケルが上がってきたんだ!びっくりしたぜーあん時は!」

「ザバーっと・・・なのじゃな」

「ホントはもう少ししたらこの城に飛んできて『生きていたよーん』って言って驚かそうと思ってたんだけどよ!タケルにくっついてった方が楽しそうだから今こうしてる!番(つがい)にもなれたしな!」

「・・・」


押し黙るその場の面々と、反対にざわつく会場の面々。


「誰ぞ・・・この、嘘つき勇者ライディアンとカイザードを捕らえよ!」


姫のその言葉で、騎士たちが動き出し二人を拘束しようとした、が、すでにライディアンは動き出し、タケルの胸元深くに国宝の聖剣を突き刺した。悲鳴がこだまする。

「相変わらずですね・・・」という声と共に何事もなかったように手で勇者の腕をつかむと、力なくだらりと両手が垂れさがり、聖剣はタケルの胸からずるりと落ちた。そして傷口も塞がっていく。

すでに抵抗する気もなくなった二人を、騎士たちが引きずるようにどこかへ連れていった。式典は打ち切りとなりそのまま陛下、王妃様、第二皇女様とともに場内の一室へと案内された。室内には第一王子、つまり皇太子様と、第一皇女様がいらっしゃった。


タケルは豪華なソファーへ座ると、両隣にはサフィさんと佳苗が座っていた。別のソファーと椅子に腰かける残りの女性陣。そして第二皇女ベリエット様を中心とした話し合いがもたれた。

もう仕方がないので今までの出来事を可能な範囲で説明した。もちろん夜の話しや盗賊ギルドとアウター組織の件はぼかしていたが・・・それを聞き入るベリエット様、というか会議の中心はベリエット様なのはなぜだろう。とタケルは考えていた。


「よし決めたのじゃ!サフィ殿については特に人間を襲うということもないようじゃし、これまでの功績とお詫びも込めて・・・わらわもその群れというものに入ろうぞ!」

「なんでだよ!・・・いやなんででしょうかね・・・」


つい勢いよく突っ込んでしまったタケルだが、言い直しただけましであろう。


「ベリエット!それはないだろう!」

「いいえ、パパ様!これは国の沽券に関わる事態なのじゃ!もうこのことは決定事項、決定事項なのじゃ!」


陛下の反論むなしく決定事項になるとか・・・


「大体、兄(あに)様や、姉(ねえ)様がいるのじゃ!国は予定通り兄(あに)様が継げば問題ないであろ?私もあのおっさんと結婚しなくても良くなったのじゃ!喜ばしい事じゃ!」

「そんなことを言ってもな、ベリエットが一番王の器を持っているだろう!スキルだって、その・・・なんだ・・・」


言葉を濁す陛下であったが、まあスキルの話はあまり公にはしなくないよね。皇太子ジルコ様は【支配】、第一皇女べリエール様は【威圧】を持っている。二人合わせればベリエット様の代わりにはなるだろう。


「タケル殿、鑑定もちであろ?」

「え、ええまあ・・・」


なぜバレた・・・【支配】というスキルはそういうのも感じたりするのかもしれない。そんことを考えているうちに、結局ベリエット様は降下し王族からは離れ、タケルの群れに加わるという。まだこの姫12歳なんだが・・・

まあ勇者も半年後には結婚の予定だったし、この世界では普通らしい。

群れに加わる条件として、姫としては扱わずサフィさんがトップとすることを何度も説明したが「面白そうじゃ!」と目を輝かせていた。「本当に僕でいいの?」と聞いてみても「少なくともあのクソ勇者よりは好みじゃ!」と返答されたので、説得はあきらめた。

サフィさんは「やっと新しいメスが来た!」と大喜びしていた。他の女性陣も「うんうん」と頷いていた。なんで?


残された王族の方々は頭を痛めていたようだったが、最後にはくれぐれも娘をよろしくと送り出してくれた。


その夜は「まだ手を出しませんよ?もうちょっと一緒に行動して愛が深まるまで保留です」と伝えていたが「ゾクゾクするのー」とまた嬉しそうにはしゃいでいた。サフィさんに何やら色々レクチャーは受けていたが、そこはもうあきらめていた。


こうして、長い一日が終わった。

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