第4話

あれから俺たちは反省し、もっと手軽に使える『闇の言葉シャドーワード』を練習していた。


「『我の魔力に反応せし精霊よ!水の息吹をもって敵を穿て!水球弾ウォーター』」


1mほどの水球が大木をゴブリン3体を圧殺していく。


「このぐらいかな?」

「そうだね。これなら丁度いいかも」


そんな日々を過ごしていた俺は、いよいよ住み慣れた孤児院『ゆとりのゆりかご』を出ることになった。この孤児院に就業を迎えた子供を養うほどのゆとりはなかった。

フランは当然のように一緒に冒険者になると言う。


「じゃあ、村の冒険者ギルドに登録に行って、そのまま魔物討伐に行くってことでいいな」

「そうね。私も闘士だし、タンク職としてあんたを守りきれば良いんでしょ」

「そうだな。後は俺に任せてくれればなんとかなるだろ」

「よし!じゃあ……私に続けー!」


相変わらずお姉ちゃん風を吹かせるフランにため息をつきながらついていく俺。


フランは職業(ジョブ)は闘士。防御を固める『防御プロテク』、攻撃を弾き飛ばす『反撃バッシュ』、敵の視線を集める『羨望エンビー』というタンク職に欠かせないスキルを最初から覚えていた。


なんだかずるい……


とは言え俺もなんでもできそうな『闇の言葉シャドーワード』というスキルがある。まあ恥ずかしさをこらえながら、となってしまうのは苦痛だが……

そんなことを考えていると、すでにフランはカウンターで何やら話しているので、急いでそちらに向かう。


「おいおい!ここはお前みたいなガキが遊んでいいところじゃねーよ!」


まさに来た!テンプレでからまれるやーつ!OKOK!俺もこういったのは知ってる。ここでかっこよく荒くれ者を倒して注目を集めて勇者への階段を上っていくんだろ!

そう思っておれはその声の主に向き直る。


「がはは!びっくりしたか!シャドーは今日から活動か!ケガには気を付けろよ!」

「あっ、ゲインのおっちゃん。ああ、気を付けるよ」


このごついおっちゃんはゲインさん。近所に住む冒険者で大工さん。

さすがに田舎の冒険者ギルド。結構な知り合いがいるので、こういったことも予想はしていた。


「シャドー!私おわったよー。あんたも早く登録しちゃおー!」

「あいよー」

「じゃあ私、討伐の依頼なんか見てくるから!」

「任せた!」


そしてカウンターに進むと、受付のマリさんの元へやってきた。

マリさんの本名はルイボス・マリゲリータさん。ルイボス侯爵家の四女。侯爵家はこのアリトラルトという小さな町の領主様。もちろんこの街以外にも多くの土地を治めている。


「こんにちは」

「きたわね。じゃあシャドー・テンペスト・ドラゴンくん。登録ですか?」

「………」

「ん?どうしたのシャドーくん」

「ジローです」

「いやいや。何言ってるのシャドー・テンペスト・ドラゴンくん!」

「ジローです」


マリさんがフルネームを連呼するので、俺のことをあまり知らないと思われる冒険者が噴き出しながらこちらをチラチラと窺っている。


「どうしたの?シャドーくん。一応儀式みたいなものだから、フルネームで渡すのよ?ダメだったかしら……」

「で、できれば小声でおねがいします……」

「あら。じゃあシャドー・テンペスト・ドラゴンくん」

「はい……」

「これが君の冒険者カードです。無くさないようにね」

「は、はい……」


少し緊張しながらカードを受け取った俺は、さほど小さくならなかったマリさんの言葉に、顔が少しだけ赤くなってしまうのを感じていた。


はー。なんか恥ずかしさで死ねそうだ。これは王都なんて行ったら大変だぞ……そう思ってしまった。


こうして俺は冒険者になった。

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