第3話

「も、もう!恥ずかしいのは分かるけど……ちゃんと検証しなきゃダメだよ」

「う、うるさい!俺の気持ちが分かるか!就業式でちょっともうなんか色々あったんだよ!ただでさえ名前のことで落ち込んでるのに……中二病とか、ひどすぎる……俺が何をしたっていうんだ!」


慰めようとしてくれるフランに、半ば八つ当たりをしながら地面をたたく俺。


「くっそ!せっかくラノベみたいな展開を一瞬期待したのに!なんでだよ!」

「えっ?なんて?」


フランの疑問にしばしの沈黙が流れる。


「中二病?」

「いやちがくて、その後」

「ラノベみたい?」

「ラノベって何?」

「ああ、まあ秘密」


危ない危ない……思わず地球ワードを口走ってしまった。


フランはアールグレイ・フランソワ。近所の男爵家の御令嬢だが何故か小さい頃から仲がいい。次女だからと結婚も考えずに冒険者志望という変わり者。顔は可愛いが、同い年というのにお姉さん風を吹かせるのでちょっとイラつく。まあ可愛いが。うん可愛い。

そんなことを考えていた俺にフランはつぶやいた。


「ライトノベル……」

「えっ!」


俺は思わず口が開きっぱなしになった。


「シャドーって……転生した?」

「なっ……なにをいってるのか、さっぱりわからないなー」

「ダイコンか!」

「うっせーよ!」


ダイコン呼ばわりに思わず突っ込んだ。そして失敗したといわざる得ない。


「私もさっきの就業式で思い出したの。中野明美。女子高生だったけど病気で死んじゃったの」

「なるほど、ね」

「ねえ!シャドーの前世はどういう人?なんで死んだの?」

「俺は……田中次郎……高校生だった。農家の次男で親父のトラクターに惹かれたのが人生最後の記憶だった……」


フランの顔がパアと明るくなるのを感じながら、新たな秘密ができてしまったと感じた。


◆◇◆◇◆


「さて。検証です。おそらく中二病の『闇の言葉シャドーワード』の発動条件。まずは中二臭いセリフ。そしてポーズ。最後に観客ね。誰かが見てないと発動しない。ここまで多分あってると思う」

「俺もそう思う。だが俺は前世でラノベなんて名前を聞いたことがあるだけで、読んだこともないぞ!中二臭いセリフなんてほとんど思いつかないし」

「……俺に力を!すべてをなぎ倒す漆黒のマナの僕(しもべ)達よ!だっけ?」

「ピャーーーー!!!」


見られた時のセリフをしっかりと覚えているフランに、気絶しそうになる。


「とにかく!一回最後までやっとこ!大丈夫だから!恥ずかしくないから!終わった後はきっとすスッキリできるから!」

「なんでお前張り切ってるんだよ!口調がちょっとおっさん臭いぞ!ほんとは前世おっさんじゃないのか?」


俺は、ドスっという音と共に体をくの字にまげ、地面へ膝をついた。中身を吐き出さなかっただけ褒めてほしい。


「今のは『反撃バッシュ』の応用。乙女をおっさん扱いはダメ絶対。OK?」

「お、OK」


俺の返事ににっこり微笑むフラン。


「じゃあ気を取り直してやってみようか。はいっ!どうぞ」

「ちっ!……『俺の中の邪竜よ』おっ!」


軽く呟いてポーズをとるだけで高まる何か。ってか早いな。見られただけでこうも違うのか。とりあえずこのままなんか出そう。


「『我の声にこたえその力を魅せよ!地獄の炎ヘルバースト』」


その声とポーズに呼応して内側から発せられた力の塊が、前に突き出した左手に向かって流れだす。そしてその力が手の先から抜けると、巨大な黒い炎となって目の前の大木を数十本まとめて焼き尽くしていた。


「………」

「………」


俺はフランを見る。


「逃げるか」

「そうだね」


そして俺たちは二人だけの秘密を抱え、孤児院へと戻っていった。

次の日から、危険な魔物が出現したと噂になって討伐隊が出されたという話を聞いたので、危ないところだったと額の汗をぬぐう二人であった。


森ってこわいね。

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