3. それぞれの道へ
「ただいま」
「うわああああああああん!す~ちゃんす~ちゃんす~ちゃんす~ちゃんす~ちゃああああああああん!」
ラストダンジョンから外に出ると、皆が出迎えてくれた。
ラスボス弱体化のために戦ってくれていた探索者さん達。
裏方で頑張ってくれていた探索者協会の方達。
そして応援に来てくれた多くの人達。
エリクサーを飲んで疲れは取れたけれどそれでもぐっすり寝たいなぁなんて感覚だったのに、嬉しくて一気に目が覚めちゃった。
友1さんに思いっきり泣かれちゃったり、帰還の一言をどうぞって皆に弄られたりと気恥ずかしい事もあったけれど、今は楽しくってしょうがない。
だってボクの周りには笑顔しか無いから。
笑顔で武勇伝を語り合い。
笑顔で将来を語り合う。
ラストダンジョン攻略記念の大宴会。
ボクが、ボク達が目指した理想郷がここにあった。
「あ、あの、一言頂けますか!」
「超気持ち良い! お前も飲め飲め!」
「え、私は仕事なので」
「なぁに言ってんだよ。今飲まないでいつ飲むって言うんだ! ほらほら! あ、酒無理だったら言えよな」
「いえ、大好きで……あ」
「おーっしこっちこいや! カメラマンもこいこい。そんなのどっかに置いとけば十分伝わるだろ!」
「え?え?」
あはは、押しかけて来たマスコミさんが宴会に取り込まれちゃってる。
「かんぱーい!」
「どれもこれも超うめえんだけど!」
「達成感のせいだって」
「いやこれ全部ダンジョン深層料理だろ。超高級品ばかりだぞ」
「え、マジ? タッパに入れて持って帰って良い?」
「俺はアイテム袋に入れてくわ」
「うわ、ずりぃ俺も俺も!」
あはは、確かにこの料理全部すんごく美味しいもんね。
あまりにも沢山の人がいるから野外で大宴会をやっているのだけれど、とてつもない量がひっきりなしに運ばれてくる。
給仕さん大変そうだ。
「大丈夫? 手伝おうか?」
「すす、救様!?!?!?!?」
「わわ、危ない。驚かせてごめんね」
いきなり声をかけてしまったからか、驚いて料理を落としそうになったから慌ててボクがキャッチした。
「いえ! 声をかけて頂けるなんて幸せです! 耳塞いで一生他の人の声聞きません!」
「ぷぎゃあ! そんなのダメだよ!」
「きゃああああ! 生ぷぎゃあ聞けたああああ!」
「ええ……」
これまで感謝されて居た堪れない感覚になったことは多々あるけれど、喜ばれてドン引きするのは初めてかも。この子だけ他の人と違ってメイド服を着ていて目立っていたから話しかけただけなんだけれど、選択ミスだったかな。
「ええと、それで手伝いだけど。これ何処に運べば良いのかな」
「それは私の仕事なので気にしないでください!」
あ、料理取られちゃった。
「でも長時間運び続けたら大変でしょ」
「何言ってるんですか。その大変なのが良いんですよ! これは私達にとっての最高に幸せな戦いなんです! いくら救様と言えども渡しませんよ!」
「あはは、そっか。そうだよね。それじゃあよろしく」
「はい!」
確かに忙しそうな給仕さん達全員が心からの幸せそうな笑みを浮かべている。
チラっとコックさんのところを覗いたらそっちも戦場になっていて大変そうだったけれど、とても良い笑顔で料理を作ってくれていた。
長野の山奥の廃村に、続々と人が集まって来る。
探索者が、その家族が、周辺の人々が、世界中の人々が、マスコミさんが、偉い人が、止まることなく集まり続け、宴会に飲み込まれ、上も下も無くただただ笑顔で叫び合う。
この場所に来れない人も、世界中が今日のことを祝福しているに違いない。
これで世界が本当の意味で平和になったわけではない。
ボク達はきっとまた間違えて滅びに向かう日が来るだろう。
あるいは滅びとまでいかなくても沢山の悲劇に見舞われることがあるだろう。
でも今日のこの皆の笑顔を見ていると、乗り越えられるんじゃないかなってなんとなく思えた。
――――――――
宴会は一日以上続き終わりを迎えた。
そしてボク達は各々の日常へと戻って行く。
『世話になったな』
ラストダンジョン近くに建てられた探索者協会の建物で、ボクは皆とお別れの挨拶をする。
最初に帰ろうとしたのはキング。
最後まで残るのかなと思ってたから意外だった。
「キングはこれからどうするの?」
『しばらくは人の居ないところでこいつらとのんびりするさ』
「え? ダンジョンには入らないの?」
てっきりキングのことだから大喜びでダンジョンに潜ると思ってた。
『そんなことしたら救がダンジョンに入る口実になっちまうだろ』
「ぷぎゃ!?」
そ、そそ、そんなことないよ。
キングも頑張ってるからだなんて言い訳なんてするつもりは、うん、ない、よ?
『ははっ、冗談だ。こいつらとの約束があんだよ。戦いが終わったらしばらく相手してやるってな』
キングのお仲間さん達は嬉しそうにしている。
でもよく見ると獲物を狙うような目つきになっていることにキングは気付いているのかな。
う~ん、深くは考えないようにしておこう。
『んじゃな、また遊びに来るわ』
「うん、またね」
あまりしつこく話をせずにサラっと帰るのはキングっぽい。
と思ったら。
『キングったら本当は救様ともっともっと一緒に居たいって思ってるのよ。恥ずかしいからああして逃げるように帰ろうとしているの』
「そ、そうなんだ……」
わざわざキングのお仲間さんの女性がネタバラシをしちゃった。
言わなければ分からなかったのに……やっぱりキングはそういう可哀想な役回りなんだね。
『おい、何してる。いくぞ』
『は~い』
苦笑いするボクの様子をキングは不思議そうに見て首をかしげていたけれど、何も言わずにそのまま去って行った。
『私達も帰ります』
『お世話になりました!』
キングパーティーに参加していたギャングさんとスイーパーさんも、キングについていくようにあっさりと帰っちゃった。
彼らは中南米にある地元に帰ってひっそりと仕事をしながら生活するんだって。
果たしてひっそりと出来るのかな。
特にスイーパーさんはボクと同じ匂いがするから、色々な人が放っておかない気がする。
そういえばスイーパーさんって男性として皆扱ってたけれど、本当に男性なのかな。
あの見た目はもしかすると……ううん、詮索はやめておこう。
『お世話になったわね』
『うふふ、楽しかったわ』
次にパッドさんパーティーとミタさんパーティーが同時に帰ることになった。
「こちらこそ楽しかったし、とっても頼りになったよ!」
彼女達がサポートと回復を引き受けてくれたからこそ、ボクは攻撃に集中することが出来たんだ。
アイテム制限からの省エネの立ち回りも素晴らしかったし、ラスボス戦での一番の功労者は彼女達だとボクは思っている。
『そう言ってもらえると皆喜ぶわね』
『あら、貴方のところは貴方自身がご褒美をあげれば喜ぶのではないかしら』
『それはミタだって同じじゃない』
『うふふふ』
「あ、あはは……」
いつの間にかパッドさんとミタさんのパーティーメンバーの男性達が、その、なんていうか、メロメロ?にされちゃってた。
パッドさんは敢えてそうしている気配があったけれど、ミタさんの方は時折トゲメイスを嬉々として振るっている危険な香りがあるのにそこが良いとかって言われててボクには理解出来ない世界なんだろうなと気にしないことにした。
「皆さんはこれからどうするの?」
『私は世界中を巡って男漁りかしら』
『あら良いわね。私もついていって良いかしら』
『もちろんよ。世界中の男達を骨抜きにしてやりましょう』
『うふふ。楽しみ』
「あ、あはは……」
ダンジョンの魔物よりも危険な存在が解き放たれたような気がするのだけれど、放置して良いのか少し悩む。
『それじゃあそろそろ行くわね』
『さようなら。小さな英雄さん。もっと大人っぽくなったらまた会いましょう』
「さようなら。ボクはもう大人だよ!」
『うふふふ』
『うふふふ』
え、待って。
彼女達の笑顔がラスボスに直面した時よりも怖いんだけど。
しばらく夢に出てきそうだよ……
「ぷぎゃ!」
恐怖中に突然頬に何かが触れたのでびっくりしちゃった。
これは……紙?
『世話になった。失礼する。 ギル』
ギルさんったら、寡黙なのは良いけれどさようならくらい言ってくれれば良いのに。
でもそれもまたギルさんっぽいね。
確か地元で孤児院の運営をするとかって言ってたから、いつか遊びに行ってみようっと。
これでラスボス戦に参加したメンバーの大半は帰っちゃった。
残っている中で次に帰るのは……あ、来た来た。
『やあ、俺達もそろそろ帰ろうと思う』
『ふん。世話になったわね』
「キョーシャさん。カマセさん」
海外組の中で一番付き合いが長いのがこの二人だ。
一緒にダンジョンを攻略してソーディアスさんと戦ったのも今では良い思い出だ。
「二人はこれからどうするの?」
『地元の田舎にでも帰って二人で……というわけにはいかないだろうな』
『そうね。英雄の務めを果たすのもまた英雄の義務だから』
うっ……
それってアレだよね。
皆から賞賛されて感謝を受け止める役だよね。
ボクが今一番頭を悩ませていることだ。
それを義務だと思ってちゃんとこなそうとするなんて凄いなぁ。
『救様も出来る限り勤めを果たすんだよ』
『そうそう。逃げたら皆悲しむわよ~』
「ぷぎゃ!」
が、がが、頑張る。
『こらこら、そういうことは言わないの』
『は~い』
キョーシャさんがボクの味方になってくれるから本当に助かっている。
キョーシャさんだけでも残ってボクを守ってくれないかな、なんちゃって。
「またいつでも遊びに来てね」
『もちろんだ。今度は三人で会いに来るよ』
『え?』
「え?」
三人ってどういうことだろう。
それになんでカマセさんまで驚いているのかな。
『ねぇそれってどういう…………~~~~っ!』
キョーシャさんが耳打ちしたらカマセさんが真っ赤になっちゃった。
何を言ったのかとっても気になる。
『ば、ばば、馬鹿。こ、ここ、こんなところでそんな!』
『ごめんごめん。でもそういう話だっただろ』
『そ、そうだけど……』
ぷしゅーと機関車のように音が出そうな程に真っ赤になっている。
う~ん、そんなに恥ずかしくなるようなことって言ったら……
『こらそこ! 考えるの禁止!』
「ええ~」
『ほらほら、さっさと帰るわよ!』
カマセさんがキョーシャさんを引っ張って強引に帰らせようとしている。
『そうだね。俺達を待ってくれている国の人達に早く会いに行こうか』
そう言って二人は帰った。
『…………』
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
「あ、あの、セオイスギールさん?」
海外組で最後に残ったのはセオイスギールさん。
キョーシャさん達を見送っていたら、いつの間にか隣に立っていた。
彼女はこれからどうするつもりなのだろう。
『帰りたく……ない……』
「え?」
『でも……帰らなくちゃ』
セオイスギールさんはとても切なそうな顔をしていた。
スキルが残ると分かった今、日本とアフリカのようにとても距離が離れた場所であっても短時間で移動することが出来る。
だから皆はいつでも直ぐに会えるから気軽にここを去ったわけだけれど、セオイスギールさんはそれでも不服そうだ。
「セオイスギールさんはこれからどうするの? もしよければ日本に残る?」
彼女はこれまで長い間、想いを背負って戦い続けた。
そしてラストダンジョンを攻略してダンジョンによる危険性が無くなりその想いが成就された今、戦いからは離れて自由な人生を選べるはずだ。
もしもボク達と共に過ごしたいと願うのならばそれも可能になるだろう。
『ううん……やっぱり……帰る』
寂しそうな彼女の瞳は、同時に強い決意に彩られていた。
『帰って……ダンジョンで戦って……皆を……幸せにしたい』
「それは……」
まだ背負った想いに縛られてしまっているのだろうか。
そう不安が過ったけれど杞憂だったようだ。
『皆の笑顔が……好きだから……これは……私の願い』
「そっか」
彼女はこれまで背負った責任に従って行動していた。
でもその過程で得られた救われた人の笑顔が彼女を幸せにしてくれていたんだ。
そしてその笑顔をこれからも求めて、自分が幸せになるために戦いたいと願った。
そんなことを言われたらダメだなんて言えるわけないよね。
『それに……偶には……ぶっ放して……スッキリしたい』
い、言わなくて良いよね?
『救様……色々とありがとう』
「どう致しまして」
最後に彼女は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔がとても美しくて、ボクは思わず見惚れてしまった。
「行っちゃったね」
「うん」
そうしてセオイスギールさんを見送ったら、今度はいつの間にか京香さんが隣に立っていた。
「救くんちゃんはこれからどうするの?」
「その呼び方は止めてよ~」
「ぷ神様はこれからどうするの?」
「ぷぎゃ! もっと悪化してる!」
どうしていつもいつも揶揄ってくるのさ。
「とりあえずお世話になった人に挨拶かな」
「うん、そうだね」
ギルドメンバーやおばあちゃんや友達や家族とか。
これまでお世話になった人たちとお話をしようとは思っていた。
「じゃあその後は?」
そしてその挨拶が終わった後にどうするか。
きっと世界中がボクにお礼を言いたがっているだろう。
それを頑張って耐えながら受け続けるか、それとも逃げて人の居ないところでひっそりと過ごすか、あるいはこれまで通りにダンジョン探索したり魔石の分析をしてみるか。
別れた皆はそれぞれの道を進んで行く。
京香さんはダンジョン探索の頻度を減らして探索者の育成に力を入れる道を選ぶらしい。
それならボクは。
ボクの進む道は……
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