エピローグ
1. とてつもないご褒美
『ラストダンジョンが攻略されました』
ボクが『ただいま』を告げて皆に滅茶苦茶にされた少し後の事。
世界に向けた恒例のメッセージがボク達の耳に届いた。
恐らくいつも通り世界中の人々に届いているのだろう。
ラスボスカルヴァの自爆でラストダンジョンをクリア出来たのだと思ったけれど、実はまだ続きがあるのではと少しだけ疑っていた。でもこのアナウンスのおかげで本当に終わったんだなって実感してようやく安心できたよ。
でもだからといってボク達の気が緩むことは無い。
安堵はしたけれど、まだ警戒している。
だってラストダンジョンをクリアした後に何が起きるのか、ボク達はまだ何も分かっていないから。
『これより全ダンジョンの稼働を停止します』
ああ、やっぱりそうなっちゃうんだ。
ダンジョンの停止。
探索の終了。
予想されていた結末の一つとはいえ、探索者としての日々が終わることにどうしても切なさを感じてしまう。
もう危険な目に遭う必要が無くなるのだから喜びなさいって怒られそうだけれど、探索が日常そのものだったから仕方ないじゃない。
それに切なさを感じているのはボクだけじゃない。
京香さんやキング、それに他の探索者さんも似たようなことを感じていそうな表情になってるもん。
「本当に終わったんだな」
アイテムボックスが解放されたから回復アイテムを使って最低限動けるようになった京香さんがボクの隣で呟いた。これからはエリクサーを始めとしたダンジョン産アイテムを入手出来なくなるから、回復は節約したんだ。
「終わっちゃったね」
それよりも新しい未来が始まったことを喜ぼう、なんて前向きな言葉を口には出来なかった。
ここにいるのはある意味ダンジョンに魅入られた人達だから。
ああ、でもそうじゃない人もいるか。
『うっ……ううっ……皆……やったよ……終わったよ……』
多くの想いを背負ってここまで走り続けたセオイスギールさんが人目を憚らず号泣している。
彼女はようやくこれで解放されるんだね。
今はそっとしておいてあげよう。
なんてことを考えていたらふと気づいた。
「あれ、そういえばボク達ってここから出た方が良いのかな」
というよりそもそもダンジョンの『停止』ってどういう意味なのだろうか。
ダンジョンが消えて無くなるって意味ならボク達は外に出なければならないし、そうでないのならダンジョンそのものは残るけれど罠が消えて魔物が出て来なくなるって意味なのかな。
後者だと地球に土地が増えた的な意味合いになるから、少しは嬉しいのかな?
いや、少しなんてレベルじゃないかも。
「もしかして、ここって物凄い観光地になっちゃう?」
ダンジョン内の景色はどこも圧巻だけれど、ラストダンジョンの宇宙空間はその中でも格別だ。
しかも『ラストダンジョン』という付加価値がついているから観光客が押し寄せてきそう。
『チッ、そういうことか』
「キング?」
『恐らくダンジョンの場所自体は残るだろう。それこそが報酬になってやがるんだ』
「どういうこと?」
『ラストダンジョンなんて危険そうなダンジョン、誰も自分の国に設置したくなかっただろ。だが結果としてラストダンジョン跡が最高の観光資源になり、クリア後の経済効果は半端ない。それこそが勇気を出してラストダンジョンの設置を決めた者への褒美なのだろうさ』
ああ、なるほど。
確かにその可能性はありそうな気がする。
ラストダンジョンの場所を自分達で決めて良いだなんて変な話だなと思ったけれど、それもまた試されていて褒美も用意されていたってこと。
とてつもない危険を引き受ける代わりに、見返りもまたとてつもない。
「こりゃあまた日本中が救に頭があがらなくなったな」
「ぷぎゃあ!」
近くて便利だから日本が良いって思っただけなのに!
お願いだから頭を下げないで!
『諦めろ。ここに居る奴らはこれから死ぬまで英雄扱いだ』
「ぷぎゃあ……ダンジョンに隠れてようかな」
「救の大好きな奥多摩は『救が住んでいた場所』って付加価値のせいで人気殺到するぞ」
「ボクはどうすれば」
『諦めて感謝されな』
クリア後のボク達の扱いなんて分かっていたことだけれど、改めて突き付けられると気が重すぎる。せめてスキルでメンタルコントロールを……スキル?
「そういえばダンジョンが停止するのは良いとして、ボク達のスキルやパラメータはどうなるんだろう」
残るのか消えるのか。
まだこのアナウンスがなされてない。
というか、さっきのダンジョン停止以降、アナウンスが止まってるんだけどどうしたのかな。
まさかアレだけで終わりってことは無いだろうし。
と思ったタイミングで丁度アナウンスの続きが行われた。
『ダンジョンの稼働を停止しました』
ああ、停止作業を行っていたからアナウンスが止まってたんだね。
『これよりおよそ三日後、ダンジョンを再起動します』
「え?」
待って、今とんでもないことを言わなかった?
『再起動時、ダンジョン内に存在する異物はダンジョン外に排除されますのでご注意ください』
待って待って、どういうこと!?
『ふざけるな! まだ続ける気かよ!』
ダンジョン探索がまだ続けられるよやったー!
なんて思えるわけが無い。
ダンジョンから魔物が溢れてこないようにボク達は戦い続けて来た。
それがラストダンジョンクリアによって終わったのだと思っていたのに、まだ続くだなんて酷すぎる。
ボク達が必死にラストダンジョンをクリアしたのは一体何の意味があったのさ!
あまりのことにボク達全員が怒り心頭で、ゲームマスターさんに騙されたのかもしれないと思いそうになってしまった。
でもそのゲームマスターさんのことを想い描いたことで逆にボクは冷静になれた。
「皆、落ち着いて。大丈夫だよ、ゲームマスターさんはここまであくどい事はしないから」
あのゲームマスターさんはボク達の常識とは違う感性の持ち主ではあるけれど、このような酷い騙しをするような存在ではない。
あくまでもボクの感覚によるものだけれど、間違っていないとボクは信じている。
きっとこの後に何か追加の説明があるはずだ。
『引き続き、再起動後のダンジョンについて説明します』
ほら来た!
きっとここで問題無いよって教えてくれるに違いない。
『再起動前後での相違点は三点あります』
三つの違い。
うう、何が飛び出て来るのかドキドキするよぅ。
『その一。ダンジョンから魔物が溢れることは無くなります』
きたあああああああああ!
これで最悪の展開は回避された。
だって魔物が出てこないなら放置で危険はないもんね。
ダンジョン内を観光に使いたがっていた人はがっかりするだろうけれど、それは仕方ないかな。
最初にこの相違点を教えてくれたことで皆が安心してささくれ立った空気が落ち着いた。
よしよし、この調子で続きを頼むよ。
『その二。ダンジョン内で死亡した場合、ペナルティ無く入り口で蘇生復活します』
え、それってつまり隠しボス道場みたいな設定になるってこと?
安心安全に魔物と戦えるようになる。
それはつまらな……じゃなくて、意味あるのかな。
興味半分で魔物と戦えるようになる、強くなるための訓練が出来る。
このくらいのメリットしかないよね。
「よし、これ飲もう」
「京香さん!?」
京香さんがいきなりエリクサーを飲み始めた。
回復アイテムがもう手に入らないから節約しようって話をしてたのに……あ、そうか!
魔物が出現するってことはアイテムを引き続き入手することが出来るんだ。
しかも死ぬこと無く。
これってかなりおいしい変化なのでは。
「ごくごく……ぷはー! 生き返るー!」
そりゃあ死にかけてたからね。
ボクも飲もうっと。
「しかしまだ変化があるのか」
二つの変化はボク達にとって嬉しいものだった。
それはまさに報酬と呼べるものだろう。
ということは三つ目の変化もまた報酬的な物なのかもしれない。
突然ぞくり、と鳥肌が立った。
とんでもない爆弾が落とされるのではないかという予感がする。
そしてそれはボクだけじゃないみたいで、皆がとても険しい顔をして先程までとは違った意味で警戒し始めた。
そんなボク達の様子なんて全く気にする様子もなく、アナウンスは三つ目の相違点を告げた。
『その三。魔物を撃破すると魔石を落とすようになります』
…………魔石?
それってどういうものなのだろうか。
「京香……さん?」
京香さんに聞こうと思ったら、ものすんごく驚いていた。
それに京香さん以外にも何人かが驚いていた。
心当たりがあるのかな。
「魔石って何のことか分かるの?」
「救は分からないのか……いや、私も分からないのだが。魔石って言っても色々なパターンがあるからな……」
ああ、この感じはもしかして友1さん案件なのかな。
いわゆる『定番』ってやつなのかもしれない。
でもその『定番』にもいくつか種類があると。
「もしかしたら『魔石』は新たなエネルギーとなる可能性がある」
「新たなエネルギー?」
「そうだ。そしてもしもそのエネルギーが石油に代わる程のポテンシャルがあったとしたら……」
「…………ぷぎゃあ」
世界各地にダンジョンという大量のエネルギー源が存在し、エネルギー問題が無くなる。
石油で稼いでいる国々には申し訳ないけれど、世界がひっくり返る程のご褒美になるかもしれない。
可能性は高い気がする。
世界中を不安と混乱に陥らせ、多くの人々を死に至らしめたダンジョン危機。
それが世界滅亡を回避するための試練だったとして、そんなにも大きな規模の試練を乗り越えたご褒美って考えると、エネルギー問題を解消するくらいの価値があっても不思議じゃない。
「代替エネルギー程度のレベルのものではないぞ」
そしてその誰もが気になる魔石のポテンシャルについて、褒美を与えてくれた当人、つまりゲームマスターさんがいつものように突然説明に来てくれたことで確定してしまった。
あはは、今ごろ世界中が大騒ぎだろうな。
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