5. 愚かさを打ち砕け!

 現代兵器は強い探索者に効くのか。


 その答えはノーだ。


 銃で撃たれても避けられるし、仮に当たったとしても基礎防御力が高いから耐えられる。

 毒も無効化するし、戦車に撃たれたってミサイルに撃たれたって耐えられる。


 それが例え核ミサイルであっても。


 でも問題は核ミサイルそのものではなくて、その結果引き起こされる汚染の方。

 もちろんそれも防御出来るけれど、それはあくまでも防御スキルを使った場合のみ。


 カルヴァの体に埋め込まれた核ミサイル。

 本物よりも小さいらしいけれど、もしそれが本物相当の威力を発揮したとしても耐えることは可能だ。

 耐えた後の汚染もスキルでどうにかなる。


 しかしもしもあの波動を放たれてスキルが解除されたら、ボク達は汚染されてしまう。

 もしかしたら状態異常耐性が頑張ってくれるかもしれないけれど、楽観視は出来ない。


 必死にカルヴァを倒したのに、その後遺症で長く生きられないなんて馬鹿馬鹿しい。

 確実に対処しなければ。


『グオオオオオオオオ!』


 カルヴァは野獣のような咆哮を放ち、ボクらの方に突撃して来た。

 巨体に似合わずかなりのスピードで、回し蹴りの一撃に当たって吹き飛ばされた人キングもいる。


「そういうのは慣れてるんだよ!」


 でもだから何だって言うのだ。

 殴りかかって来るでっかい魔物なんてこっちは山ほど戦って来たんだ。


 要はガムイの超でっかい版ってだけのことだろう。

 道場で鍛えたボク達が今更この程度のラッシュに怯むはずがない。


「パリイ! からのトライアングルスラッシュ!」


 右爪の振り下ろしを弾き、体勢を崩したところにフラウス・シュレインで三角形の斬撃を描く。

 体表はとても硬くて深い傷にはならなかったけれど、ダメージは通っている。


『貰った!アッドアンブレラ!』


 ボクが退くと同時にキングがカルヴァに襲い掛かる。

 三角形の傷口の頂点から真下に降ろすように斧をブチ当てた。


 もしかして傷口が傘みたいだからアンブレラなのかな。

 ノリで決めた技でしょ。


「チャンス! インブレイヴ・ネーム!」

「ぷぎゃ!?」


 京香さん何やってるの!?


 傘の左右に京香さんとボクの名前を刻むとか、ラスボス相手に遊びすぎだよ!


 あれってつまり相合傘ってことだよね。

 小学生のいたずらじゃないんだから……

 これが世界中に配信されてるとか色々な意味で恥ずかしすぎる。


『グオオオオオオオオ!』

「ぐわ!」

『ぬお!』


 ほらぁ、カルヴァが怒って回転尻尾攻撃してきちゃったじゃん。

 二人ともカルヴァの懐付近に居たから避けられないで吹き飛ばされてる。

 あれは痛そう。

 すっぱり斬られるよりも全身の骨が折れちゃうほどの打撃ダメージの方が辛いんだよね。


『グオオオオオオオオ!』


 カルヴァはそのまま怒りのままに連続攻撃を仕掛けてくる。


 爪攻撃、踏みつぶし、回し蹴り、回転尻尾攻撃。

 巨体が暴れ回り迂闊に近づけないので近距離攻撃が難しい。

 タイミングを見計らってパリィをすれば攻撃中断からの体勢崩しに持ち込めるけれど、早すぎて合わせるのが中々難しい。

 第一形態の腕みたいに直線的な攻撃をして来るのが分かっていれば合わせやすいんだけどね。

 それにカルヴァも好き放題に暴れているように見えてパリィされないように考えて攻撃を繰り出しているっぽい。


 それなら頼りになるのはやっぱり遠距離攻撃だよね、と思いたいけれどそうもいかない。


『うお、やべやべやべやべ!』

『にげる』


 遠距離から攻撃を仕掛けようとするとそっちに突撃しちゃうんだ。

 挑発スキルなんて聞くはずも無いし、攻撃タイミングが本当に難しい。


 肉体が硬すぎてダメージを少しずつしか与えられないし、これは持久戦になりそうだなぁ……


「!?」


 そう思っていたらカルヴァが突然大きく退いた。

 これまでには無い動きだから警戒を強める。


完璧領域防御パーフェクトエリアディフレクト


 念のために例のスキルを放っておく。

 

『グルゥ……』


 カルヴァは大きく息を吸い込んだ。

 これはもしかして。


『ヴフォオオオオオオオオ!』


 やっぱりブレスだ!


 白く輝く灼熱の炎。

 それがボクらに向かって降り注いだ。


「パッドさん!?」


 それを見たパッドさんが、何故か完璧領域防御の範囲外に出ちゃった。


『対ブレス結界!』


 そうか、ボクのこの力以外で対処できるかどうかを確認したかったんだ。


『ふふ、どうやらいけそうね』


 体中からプスプスと煙があがっているけれど、パッドさんは無事だった。

 あのブレスは強制即死攻撃じゃなくて普通のやり方で耐えられる。


 それなら毎回こうして守備重視にする必要は無いね。


 それにあのブレス攻撃はもしかすると……


「かのん!」

「やっとでばんなの!」

「溜めたらダメだよ!」

「わかってるなの!」


 攻撃準備したらカルヴァに狙われちゃうからね。

 かのんに合図をしたボク達はまた向かって来たカルヴァの対応だ。

 

 フライングボディプレスからの着地バウンド捻り尻尾回転。

 駄々をこねる子供のようにひたすらに暴れ回る。

 ボクら前衛に攻撃をするフリをしてノールックで後衛に飛び掛かる。


 厄介な物理攻撃のオンパレードをどうにか避けるものの、攻撃手段が多すぎて対応しきれない。

 避けるので精いっぱいだし、避けきれずに何度も攻撃を喰らってしまって結構しんどい。


 僅かな隙をどうにか作り出してコツコツと攻撃をすること数分。

 ようやくその時がやってきた。


 カルヴァが一旦退いてブレスの準備をしたんだ。


「各自防御!」


 この瞬間、カルヴァの動きが止まるから攻撃の最大のチャンスに違いない。

 ブレスが耐えられると分かった以上、ここで防御行動をとるのは勿体なさすぎる。


 ボク達前衛は身を守らずにカルヴァに向かって突撃した。


「うおおおおおおお!」

『くらええええええ!』


 京香さんとキングが突出してカルヴァの腹に攻撃を叩き込む。

 全力攻撃が決まったけれど、傷はそれほど深くなくてまだまだ倒れそうにない。


 カルヴァがにやりと笑った気がした。

 倒しきれなかったことで、ブレスを間近で受けることになるからだ。


 しかも防御結界の外だからかなりのダメージを負ってしまうだろう。


『ヴフォオオオオオオオオ!』

「ぐうっ……!」

『ぎゃああああああああ』


 二人だけじゃない。

 ギルさんやキョーシャさんなど、前衛攻撃が出来る主だった人が全員突撃し、カルヴァのブレスの餌食となった。

 ダメージがあまりにも大きいのか、背後で・・・悲鳴が聞こえる。


 ボクはそのブレスを受けていない。

 何故ならボクはカルヴァに攻撃せずに、股の下をくぐって背後に回ったから。


 第一段階の強制即死ビームと違い、ブレスは前方広範囲に広がる。

 ということは背後が安全地帯だ。


 もちろんブレスを吐きながら後ろを向かれたらボクにも当たってしまうけれど、動きに合わせてもう一度股下を潜るなりして避ければ良い。分身を使って位置の入れ替えをしても良いしね。


「かのん!」

「やるなの!」


 こっそりと待機してもらっていたかのんと息を合わせ、カルヴァの尻尾の根元に同時攻撃をする。


「デュアル!」

「ぷぎゃらっしゅ!」


 こらああああああああ!


 デュアルって言ったら格好良い言葉を続けてくれるって信じてたのに、そりゃあ無いよ!

 初めての協力技の名前なのに、こんなのってあんまりだ!


「あまりきれてないなの。もういちどやるなの」

「もうやらないもん!」

「わがままいわないなの」

「誰のせいだと思ってるの!?」


 なんて掛け合いをしているけれど、もう一度やらないのは単なる我儘じゃない。

 ボクが右から、かのんが左から尻尾を斬りつけたのだけれど、切断するにはまだまだ足りない。

 しかもカルヴァがボク達を潰そうと尻尾を大きく動かし始めたんだ。


 だから慌てて回避して皆の所へ戻った。


「うわぁ」


 皆が黒焦げになっちゃってて思わず声が漏れちゃった。

 ボクだけダメージを受けなかったことに文句を言われる前にカルヴァの元へ向か……あれは!


『ついに兵器が動き出したか』


 ギャングさんが呟く通りに、カルヴァの体内に埋め込まれた兵器達が稼働を始めた。

 ガトリング砲や散弾銃、戦車の砲弾などが次々と飛んで来る。

 しかも同時にカルヴァがまた突撃して肉弾戦を仕掛けて来た。


 ミサイルにまだ動きは見られない。

 でもアレがそろそろ爆発すると考えて行動しないと。


 幸いにも第二形態のカルヴァは波動をまだ使って来てない。

 でもいつまでもそうとは限らないし、第二形態で終わるとも限らない。


 いや、絶対に第三形態がある。

 そこで波動を使われる可能性はかなり高いってボクの勘が言っているんだ。


 だからここで核ミサイルを発動させて環境を汚染させてはならない。


『人類の愚かさの象徴。それをどうにかしないと先には進ませないってか』

『大抵の人は見たことも無いのに、人類全体の罪って言われてもねぇ』

『でもまぁ滅ぶ時なんて案外そんなもんじゃねーか』

『真っ当に生きている人達が馬鹿共の尻ぬぐいまでしなきゃならないとか、ままならないわ』

『そんな世の中を終わらせるために俺達がこうして戦ってるんだよ』


 海外組が戦いながら小難しい事を話し始めちゃった。


 確かに人類が滅ぶ直接的な原因の一つがこの核ミサイルなのかもしれない。

 それを否定しろっていうのは設定的にあってもおかしくない。


 でもそれならボク達相手じゃなくてダンジョンの外の人達に向かって問いかけそうな気がするんだよね。

 ボク達が戦っている間に発射されようとしている核ミサイルをどうにかして止めてみせろ、とかさ。 


 ファンタジーにはファンタジーで、リアルにはリアルでぶつかった方が構図としては綺麗だと思うし、ゲームマスターさんはそっちの方が好みな気がするんだ。


 それともここで爆発したら外の人達にも何か影響があるとか?

 そしてボク達が汚染されたら皆も汚染されちゃうから応援しろとか。

 あはは、まさかね。


 おっと、今はそんなことを考えている場合じゃないか。

 あのミサイルをどう対処しよう。


『あの……』


 全員が必死に頭を回転させて考えていたら、一人の探索者が声を挙げた。

 これまで後方支援をしてくれていたスイーパーさんだ。


『僕がアレを捨てましょうか?』

「え?」

『ブラックホールに入ると思います』

「…………」

「…………」

『…………』

『…………』

『…………』

『…………』

『…………』


 便利すぎない?


 いっそのことカルヴァを捨てちゃってよ。

 って思ったけれど、強い魔物には効果無いって以前言ってたっけ。


 あの核ミサイルはあくまでも道具の一つだから効果があるんだね。


「それじゃあ任せたよ!」

『はい!』


 アレさえなんとかなるなら、第二形態は怖くなんかない。


 攻撃が苛烈なので流石にノーダメージとはいかないし時間はかかるけれど、油断しなければこのまま押し切れそうだ。


『面倒だから先に消しちまおうぜ!』

「キング?」


 ミサイルの対処は発動するタイミングで行って、それ以外はコツコツと戦おうと思っていたらまたキングが何かをやらかそうとしている。


『お前ら! 超速モードだ!』


 パーティーメンバーに声をかけて速度上昇系のバフをかけてもらっている。

 しかもあのバフ、防御力を犠牲にしてまで速さを上昇させるものだ。


 そこまでして早くなって何をしようって言うのだろうか。


『ぴなこっつったっけか。あいつが以前使ってた方法が参考になったんでな。真似させてもらうぜ』


 ここでまさかのぴなこさんの名前が出て来るなんて。

 彼女は今、ラスボス弱体化扉の中で戦ってくれているはず。


 ぴなこさんがやっていた方法って……そうか!


「スイーパーさん、タイミングを合わせて! ボクらはキングが突撃する隙を作るよ!」


 わざとカルヴァが攻撃しやすい位置に移動して攻撃を誘導する。

 挑発もどきだけれど上手く行ったよ。


「ぷぎゃ!」


 右手で殴られて受け止めようとしたら、爪がわき腹を抉ってそのまま吹き飛ばされちゃった。


「オラオラ、こっちを無視すんな!」


 反対側では京香さんがチャージをしてわざと攻撃の対象となろうとしていた。

 動けなくなる代わりに次の攻撃の威力を激増させるチャージだけれど、それが放たれる前にカルヴァの左手が防御行動が出来ず無防備な京香さんに襲い掛かる。


「ぐはぁ……」


 即死して吹き飛ばされる彼女をミタさんが慌てて蘇生する。


 少し無茶はしたけれど、これで道は出来た。


 キングからカルヴァの胴体、核ミサイルが埋め込まれている場所への道が。


『恩に着るぜ! 縮地・極』


 縮地を超える縮地。

 ただ速さのみに特化した世界最速の移動スキル。

 スキル名が日本語なのは日本人が考案したスキルだから。


 パーティーメンバーのバフのおかげで発動可能になったそれを使い、キングは目的の場所まで移動した。このスキルのスピードならカルヴァに防御行動を起こされる前に到達できる。


 核ミサイルまで移動したキングはソレにそっと手を触れた。


『転移』


 魔力を膨大に使用する転移スキル。

 ぴなこさんはそれをアイテムにチャージした魔力を活用して発動した。


 キングはその方法を知り、今日までずっと魔力を溜めて来たのだろう。

 そして今こそそれの使い時だと思ったんだ。


 核ミサイルがいつ発動するかハラハラしながら戦うよりも、取り除いてから戦った方が安全だもんね。


 転移した核ミサイルは丁度スイーパーさんの前に出現した。


『ブラックホール』


 そしてあっさりと捨てられてしまったのだった。

 愚かさの象徴である核ミサイルがゴミとして捨てられたっていうのは、何かを暗喩しているのかな。


『ぶげら!』


 懐に入ったキングは縮地・極の反動で体が動かず、カルヴァの攻撃をまともに喰らって京香さんと同じく即死してしまった。

 それをパーティーメンバーが復活させて、なでなでしてもらっている。


 仲が良いのは素敵なことだね。


「救もぷぎゃぷぎゃするか?」

「心を読まないで!? それにぷぎゃぷぎゃって何!?」

「いつもやってたか」

「やってないもん!」


 全く京香さんったら、さっきあんなに酷い死に方したのに平気そうな顔しちゃって。

 訓練では何度も死にかけているけれど、流石にカルヴァの超威力攻撃をまともに喰らったらメンタル的にしんどいはずなのにね。


 さて、厄介なものも無くなったし、続きといこうか。


『グルゥ……』


 懲りないカルヴァが丁度またブレスを吐こうとしている。


 全力攻撃だ!


――――――――


 ズズゥン、と巨体が崩れ落ちる。


 ここに辿り着くまでにブレス十回も喰らっちゃったよ。


 ブレスを吐くたびに相打ち覚悟の突撃を繰り返した。

 途中から背後に抜けられないようにカバーして来たから、ボクも皆と一緒に正面から攻撃するしか無かった。

 いつになったら倒れるのか分からず不安に思っていたけれど、十一回目のブレスの時にようやく体に大穴が空いて倒せたんだ。


 何度も体を焼かれ、何度も物理攻撃を叩きつけられ、その都度回復をしてきたけれど流石にメンタル的にしんどくなってきた。

 これで終わってくれればと思うものの、終わるだなんて考えている人は一人もいない。


 ぐにゃり、と倒れたカルヴァの体が脈動した。

 手足、尻尾、顔が消えてまたしても一つの肉塊となる。


 その肉塊は一旦小さく収縮したかと思ったら弾けるように三つに分割された。

 そしてその一つ一つが別々に形を取った。


 ボク達から向かって左側の肉塊は、巨大な真っ白な手の形になり、それが甲を上にして開いている。

 ボク達から向かって右側の肉塊は、巨大な真っ黒の手の形になり、こちらは甲を上にしてきつく握っている。

 そして中央の肉塊は、ピエロのような巨大な一つの顔となった。


 カルヴァの右手。

 カルヴァの左手。

 カルヴァの顔。


 本能的に分かった。

 これが最後だと。


 こいつがカルヴァの第三形態にして最終形態。


 最後の戦い。

 その中で本当に最後の戦いがこれから始まる。






――――――――

あとがき

計算ミスったことに気が付きました。

ということで、本章は八話構成になります……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る