4. ここからが本当の勝負だ

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!』

「ぷぎゃ!?」


 ミタさんの特殊スキルで復活したボクらは、またすぐに全滅させられないように必死で頭を巡らせていた。


 でもどうにもカルヴァの様子がおかしい。

 ボク達が何もしていないのに何故か苦しみ始めているんだ。


「あれ、衣が消えた?」


 元々透明に近く見えにくかった衣が完全に見えなくなっていた。

 何でそうなったのか分からないけれど、これはチャンスだ。


『よくもやってくれやがったな!』


 一番に行動を起こしたのはキング。

 ボクはバフとかをかけ直しているから出遅れちゃった。


 キングは小さめの投げ斧を手にしていて、助走をつけて勢いよく投げ飛ばした。


『トマホーク!』


 斧があまりにも激しく縦に回転していて、まるで回転ノコギリみたいだ。

 斧はそのままカルヴァに向かって真っすぐ飛び、金属製のローブに着弾した。


「あ!」

『ひゃっほー!』


 なんと今度は威力が減衰することなくローブを破壊して穴を開けた。

 やっぱり衣が無くなっているんだ。

 それに衣が無ければボクらの攻撃が通じるらしい。


「今だ!」


 ようやく反撃のチャンスがやってきた。

 ここからが本当の勝負だよ。


「真・次元斬!って効かねーのかよ!」


 京香さんの次元斬は発動しなかったけれど、振り下ろした大剣の純粋な威力でローブが破壊しかけている。

 一撃必殺の技は無効化されるけれど、物理的な通常のダメージは与えられるってことなのかな。


 それならこれでどうだ。


「剛剣乱舞!」


 攻撃力を何倍にもするパワーアタックの連撃。

 ただし闇雲に振り回すので狙いをつけることが出来ない。


 カルヴァみたいに狙いをつける必要が無い程に大きな的には有効な大技だ。


「ぷぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


 やたらめったらに振り回した剣がローブに接触するたびに破壊され、その手ごたえが超気持ち良い。


 ある程度攻撃を続けたらローブはボロボロになり胴体が露出した。


 これで本体に攻撃を当てやすくなったね。


『そうはいかない見たいよ』


 パッドさんの言う通りだった。

 カルヴァのボロボロのローブが明るく光り出したかと思うと、一瞬で元に戻ってしまったんだ。


「自動修復機能があるのか……そりゃそうだよね」


 ラスボスなんだからこんなに簡単に装備を破壊できるわけが無いもん。

 でもローブの防御力は大したこと無いから、今度はローブを破壊した直後に本体に連続攻撃だ。


 そう思って突撃しようとしたら、いつの間にかカルヴァが元の落ち着いた雰囲気に戻っていた。

 衣は相変わらず消えているようだけれど、一方的に攻撃を受けてくれるボーナスタイムは終わっちゃったかな。


 どうにかしてカルヴァの超速攻撃を避けて攻撃しないと……来る!


「ぷぎゃ!」


 カルヴァの腕の一本がボクに向かって伸び、ボクの左腕を吹き飛ばした。


 これまでと違って腕だけで済んだ。


 何故ならボクが避けたから。


 避けられた・・・・・から。


 カルヴァの攻撃速度が少しだけ遅くなっていてギリギリ反応出来る。

 これなら即死しなくて済むぞ。


「エリクサー!」


 吹き飛んだ左腕を生やしてから、軽く息を吐いた。


 相手の攻撃はギリギリで避けられる。

 こっちの攻撃も通用する。


 どうやら勝利の芽が見えて来た。


「いくぞおおおおおおおお!」


 再度カルヴァに突撃すると、頭上から腕が振り下ろされる。

 動きが見えるようになって分かったけれど、どうやら手刀のような形にしてボク達の体を貫いていたようだ。


「もう、それ、は、見切っ、たよ!」


 避ける度に手刀が床に激突して激しく振動する。

 特別製の床なのか壊れることは無いけれど、衝撃波で吹き飛ばされそうになる。


 そんな中でも体勢を崩さずに左右の超高速ステップで手刀突きの連打を躱し続ける。

 このままでは避けるのに精いっぱいで攻撃することは出来ない。


 でもそれで良いんだ。

 ボクはいわゆる避けタンク的な役割をしているのだから。


『アルティメットマグナム!』


 攻撃役は遠距離攻撃組。


 ギャングさんが巨大な魔力の弾丸を放った。

 そしてそれに合わせてセオイスギールさんも仕掛けた。


『融合龍……ふぁいあ!』


 属性魔力龍を全て融合させて一体に束ね、それをアルティメットマグナムを追うように放った。


 するとどうなるか。


 アルティメットマグナムがローブに着弾すると大穴が空き、それが修復される前にその穴に融合龍が飛び込んだ。


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!』


 よし、効いてる!


 ようやくダメージを与えることに成功したぞ。

 このまま連続して……いけない!


「集合!」


 カルヴァから例の波動が放たれてボク達のバフが剥がれてしまう。

 このままではカルヴァの腕の攻撃を避けられなくなるから一旦後ろに下がった。


 その際に皆を集めようとしたのには訳がある。


 全てのプラス効果が解除された直後、ボクがやるべきなのは決まっていた。


完璧領域防御パーフェクトエリアディフレクト


 友1さんから受け継いだこの勇者スキルで、カルヴァの全体即死攻撃を防ぐこと。

 恐らくはあの攻撃はリセット波動とセットだから。


 来た!


 発動タイミングも遅くなっているのか、今度は攻撃の様子をしっかりと見ることが出来た。

 どうやら六つの顔の全ての目から極太のレーザーを放ったらしい。首のところでぐるぐると回りながら放っているから結果的にカルヴァを中心とした範囲攻撃になってるんだ。


 これなら上に大きく跳べば避けられるかな……いや、それはそれでレーザーの角度を変えて対処されそう。


「お願い、耐えて!」


 このスキルで防げなかったら詰んでしまう。

 いくらなんでもクリア出来ない設定にはなっていないはずだ。

 だからきっと大丈夫。


 このスキルは友1さんが頑張って鍛えてくれた最強の防御スキルなんだから、ラスボスの攻撃にすら耐えてくれるはず。


 しかしそんなボクの想いを裏切るかのように、完璧領域防御はレーザーとぶつかると消滅してしまった。




「…………助かっ……た?」




 完璧領域防御は消えてしまったが、同時にレーザーも消滅した。


 対消滅。


 もしかしてこれってそういうことなの?


 慌ててミタさんの方を見ると、完璧領域防御の範囲内に避難しきれなかった探索者さん達を復活させているところだった。

 実は彼らは間に合わないと分かると自前の防御スキルや結界でカルヴァの攻撃を防ごうとしたんだ。リタさんも遠距離から彼らの防御効果を上昇させ、パッドさんも合わせた。バフを解除された直後ではあったけれど、全力で防御に力を注いだためかなりの守備効果を発揮していたはず。だがそんな彼らもあっさりと殺されてしまった。


 つまりはあらゆる防御を無効化する即死攻撃。

 そしてそれに唯一対抗できるのが完璧領域防御。


 だからゲームマスターさんはわざわざ友1さんに接触してこのスキルを使えるようにしたんだ。

 このスキルが無いとラスボスの攻撃を防ぐことが出来ないから。


 だったらラスボスの方を調整してくれれば良かったのに!

 ボクとしては友1さんと更に仲が良くなったから嬉しいけれど、それはそれ、これはこれだ。

 ぷんぷん。


「皆、あの攻撃の時はボクのところに来て!」


 これで全滅の可能性もかなり低くなった。


 まだカルヴァが何かを隠している可能性もあるけれど、現時点で判明している範囲では十分に戦える相手だ。


『俺達はタイミングを見計らって遠距離から殺る』

『がんばる』


 ギャングさんやセオイスギールさんなどの遠距離攻撃組は変わらず後方から攻撃。


『彼らの防御は私達に任せて頂戴』


 遠距離攻撃組の防御はパッドさんパーティー。


『私達はこれまで通り』

『俺も今回は補助に回ろう』


 ミタさんパーティーとキョーシャさんは戦場を駆けまわり回復やバフのかけ直しなどを担当。


 そして残りのメンバーは接近戦だ。


 ああ、かのんだけは後方で待機してもらっている。

 本人は不服そうだけれど、この戦いは長引きそうだから温存してもらっている。

 かのんが力尽きて配信が止まっちゃうなんてことになったら悲しいからね。


『ひゃっはー!』


 早速キングが嬉々として向かって行ったけれど大丈夫かなぁ。


『ディザスタラス・ストライ……ぐぎゃ!』


 あ、腕に貫かれた。

 まったく調子に乗るから。


 でも今のカルヴァの一撃はこれまでと少し違っていた。

 スピードがやや遅くなっている代わりに、キングが避けたのを見て攻撃の軌道が変わったんだ。


 少しだとしても追尾してくるようになったのなら避けにくくて面倒だね。

 だったらアレを試してみようかな。


「パリィ」


 手刀がボクに届く丁度のタイミングでフラウス・シュレインを合わせるように当てて真横に弾く。


 出来た!


「それいいな。私もやってみよう」


 ボクがパリィに成功したのを見て、京香さんも復活したキングもやり始めた。


 遠距離攻撃組を守っているパッドさん達はどうなっているのかと気になって確認したら、なんと彼女達は攻撃を受け止めてガードしていた。手刀の威力は変わらず高いのにもう攻略したんだ、凄いや。


 ボクも負けてられないね。


「パリィ、パリィ、パリィ、パリィ、カウンタースラッシュ!」


 からの。


「ミニフレア!」


 普通のフレアは発動までに時間がかかるため、発動準備硬直を無くした小さなフレアを開発したんだ。そしてそれをカウンタースラッシュで開けたローブの僅かな隙間から放り込んだ。


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!』


 ふふん、どうだ。


 攻め手が多いから腕の攻撃対象は分散させざるを得ず、パリィだけで手いっぱいになることも無い。ボク以外にも攻撃チャンスは数多く、着実にカルヴァにダメージを与えて行く。


『なあ救、ローブをいちいち壊すの面倒じゃないか?』


 順調だって言うのにキングはどうして余計なことをしようとするのかな。


『ローブの下から中に入ろうぜ』

「でも下にはアレがあるよ」


 ローブの下は謎の細い触手がまるで門番であるかのように蠢いているんだ。

 ボクの勘ではアレに近づくのは絶対にダメ。


『なぁに、物は試しだ』

「ええ……」


 まぁキングがやりたいってなら良いけどさ。

 君のパートナー達が呆れた目で見ているよ。

 後で会議が開催されそうだけれど良いの?


『ぐげ』


 ほら言ったこっちゃない。

 近づいた途端に細い触手から放たれた極細レーザーであっという間にキングの体が細切れになっちゃった。


 あれは絶対に避けられない。

 スルーしなさいってことなんだと思う。


『な、なら顔だ。顔をぶっ潰せばあの厄介なレーザーも使えなくなるだろ』

「それもダメだと思うけどね」


 復活したキングがまた妙なことを言い出したけれど、止めなって。

 会議が長くなるだけだよ。


『はっはー! フライング・ストラグボッ』


 ほら言ったこっちゃない。

 高く跳んで斧を振りかぶったらカルヴァの目から例の極太レーザーが放たれてキングの体が蒸発しちゃった。なお、上空への攻撃だったから下に居たボク達には影響ない。


 カウンターであのレーザーが来るとか絶対に触れちゃダメなやつ。

 あっちもスルーしなさいってことなんだと思う。


『チクショー!』

「ほらほら、文句言ってないで普通に倒すよ」


 とは言っても簡単な話じゃない。

 カルヴァの攻撃がまた変化し始めたからだ。


 手刀での攻撃だけではなくて、何本かの腕が魔法を使い始めて来た。

 雷撃、氷撃、炎撃など様々な属性の即死級の魔法が降り注ぐ。

 もちろん手刀もその合間に降って来る。


 それらを躱し、パリィしながらどうにかローブに近づいて一撃を与える。


「ああ、掠っただけだった」

『任せろ』


 ボクの攻撃が浅くてローブに僅かな隙間しか開かず、強力な攻撃を叩き込めないと思ったらギルさんがフォローしてくれた。その隙間から小さな投げナイフを飛び込ませたと思ったら中で猛烈な爆発が起きたんだ。


 暗殺者風の技が多いギルさんにもあんな派手な攻撃手段があったんだね。


「ありがとう!」

『気にするな』


 まさに総力戦だ。

 この場に居る全ての探索者が自分がやるべきことを考えて行動し、着実にダメージを与えて行く。


 戦闘開始してからかなりの時間が経った。

 カルヴァにかなりのダメージを与えられたに違いない。


 そろそろ頃合いかな。


「京香さん! キング! アレやるよ!」

「おう!」

『よっしゃ!』


 事前に相談したわけではない。

 でも二人はボクの『アレ』という言葉だけで何をやりたいのか察してくれた。


 カルヴァを倒すにはローブを破壊して内側の本体にダメージを与えなければならない。

 そしてローブを破壊した穴の大きさによって叩き込む攻撃の内容を変えなければならない。


 でもそもそも超大穴を開けてしまえば好きな攻撃を叩き込み放題ではないだろうか。


 カルヴァの攻撃に慣れて来た今ならきっと出来るはず。


『こっちだ』

『セイントスラッシュ!』

『あ、ああ、あたしだって!』


 ギルさん、キョーシャさん、カマセさんがカルヴァの攻撃を引き付けてくれる。

 背後の遠距離攻撃組も無視は出来ないだろう。


 必然的に一歩退いたボク達への攻撃を緩ませざるを得ない。

 この状況ならいける!


「スラッシュトルネード!」

『アックストルネード!』


 京香さんとキングが武器を超高速で振り続け、斬撃の竜巻を生み出した。

 そしてそれらにボクが味付けをする。


「トルネードブースト!」


 斬撃の威力を超強化する補助スキル。

 顔に攻撃しないようにと高さが調整された斬撃トルネードが、カルヴァのローブを大きく切り裂いた。


「今だ!」


 この瞬間、カルヴァの本体を攻撃し放題。

 ローブが自動修復されるまでの間に、ボク達の全力攻撃を叩き込め!


『ふぁいあ!』

『マックスキャノン!』

『パワースロー!』

『セイントフレイム!』

「次元斬影!」


 さらっと京香さんが新技使ってる。

 次元斬の要領で溜めた力を斬撃として放つ遠距離攻撃かな。


 よし、ボクも久しぶりにアレを使っちゃおう。


全属性狂乱祭カオススクランブル!」


 皆の攻撃に合わせて最強魔法を叩き込む!


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!』


 カルヴァがひときわ大きな叫びをあげて動きを止めた。


『やったか!』

「キング……」


 友1さんに教えてもらったんだからね。

 そういうのはフラグって言うんだって。

 あ~あ、終わった後の会議がもっと酷いことになる事確定だね。


 なんて考えていたらカルヴァの全身が徐々に溶け始めた。

 そして一つの肉塊になると、ぐにょぐにょと大きく動いて変形する。


 まず生えたのが二本の極太で筋肉質な両足。

 次に生えたのが二本のこれまた極太で筋肉質な両腕。手先には短いけれど鋭いツメが装着されている。

 次に生えたのが顔。大きな目と裂けるかのように大きな口。髪は無い。

 最後に生えたのが大きな尻尾。カルヴァの高さは四メートルくらいに多少縮まっているが、極太の尻尾は持ちあがるとカルヴァの頭まで届くくらいの長さだ。

 そして最後に巨大な胴体が整形された。


 西洋竜が大きさそのままに人型を取るとこのような形になるのではないか、と思えるような見た目だった。鱗が無いから竜では無いとは思うのだけれど。


「第二ラウンドってとこか」


 ラスボスは形態変化するものだから注意してね、というのが友1さんのアドバイス。

 どうやらその通りになったようだ。


 でも一つ気になることがある。

 カルヴァ第二形態が人型ドラゴンタイプってのは分かるのだけれど、その胴体に見た目にそぐわないものが沢山埋め込まれているんだ。


『現代兵器って奴か』


 銃や戦車の砲塔、そしてミサイルみたいなものが複数。


『おいおい嘘だろ』


 そのミサイルを見たギャングさんが戦慄していた。

 そりゃあミサイルなんて出てきたらびっくりするよね、って思ったのだけれどもっと深刻な理由だった。


 ボクが単に『ミサイル』と考えていたそれの正体。

 ギャングさんはそれに心当たりがあった。




『核ミサイルだと……』




 どうやら第二段階も一筋縄では行かないようだね。

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