4. 戦準備していたら……

「えい! えい! えいや!」


 セーフティーゾーンの先、強い装備が手に入る扉は一度クリアしても再入場が可能だった。

 とはいってもボスと戦うことは出来ず、道中の雑魚とだけしか戦えない。


 道中の雑魚ももちろん限界突破したステータスを持っていて、ダンジョンそのものにギミックが無いので強い雑魚と戦う事だけに集中出来る。


 他の探索者さん達は最後の訓練がてら戦っているみたいらしいけれど、ボクは何かアイテムを落とさないかなって殲滅中。入り直す度に雑魚が復活してくれるから何度も試せてお得だね。


「う~ん、落とさないなぁ」


 探しているのはエリクサー、あるいはそれに匹敵する効果のあるアイテム。

 ここの雑魚敵は素材とかを落とすから、最難関ダンジョンと同じように極稀に希少なアイテムも落とすかと思ったんだ。


 別にラスボス戦に向けて足りてない訳じゃないけれど、いくらあってもありすぎて困るものじゃないからね。


「そうだ。どうせだから武器の確認をしておこう」


 疲労が溜まっててラスボス戦で壊れちゃったら困るからね。


 まずは恒例のフラウス・シュレイン。


「えい!」


 相変らずの切れ味で硬そうなワニの魔物をあっさりと両断した。

 もちろん次元斬は使ってない。


 隠しボス撃破報酬ということもあって、これまで沢山使ったけれど刃こぼれどころか切れ味が落ちる気配すら無い。


 次は魔剣ザンレム。


 見た目が気味が悪いからほとんど使って来なかったけれど、これも抜群の切れ味を誇る剣だ。


「えい!」


 金属のボールみたいな魔物がいたけれど、こちらも簡単に真っ二つ。

 まったく問題なく使えそう。

 双剣モードで連撃を仕掛ける時にはよろしくね。


 問題はこれ以外の武器の状態だ。

 最難関ダンジョンの深層素材で作成した無銘の武器が沢山あるんだけれど、どれを使うか決めて整理しておかないと。


 もしかしたら以前みたいに隠しボス報酬は使っちゃダメですなんて制限をかけられてしまう可能性があるから準備はとても大事。


「長剣は……これにするかな」


 特別特訓の時にかなりの量の剣がダメになっちゃったからいくつか作り直した。

 その中の一つでしっくりくるものを選んだ。


「えい!えい!」


 試しに小さなドラゴンみたいな魔物を斬ってみたけれど、一撃では倒せなかった。

 うわ、これだけで少し刃こぼれしちゃってる。

 魔物の防御力が相当高いはずだし、こうなるのが普通であってフラウス・シュレインとザンレムが特別なんだよね。


 ラスボスはもっと防御力が高いだろうし、通常の剣は使い捨てくらいの気持ちで臨んだ方が良いのかも。


「長剣以外も確認しよっと」


 普段は長剣がメインだけれど、他の武器も持っているし使えるよ。


「短剣は……一万本くらいあるかな。足りると良いけど」


 大量に投擲する使い方を考えるなら一万本程度あっという間に消費してしまうかもしれない。

 でも指弾もあるから大丈夫かな。

 短剣を増やすためだけに貴重な時間を使うのは勿体ないし。


 あるいはセオイスギールさんに全部プレゼントするのも良いかも。

 彼女はまさに短剣投擲を良く使うから。


 ちなみに短剣を投げずに使うギルさんは隠しボスを倒した時にもらった報酬と今回手に入れた武器で十分らしい。

 他の探索者さん達にも希望者には配ってあるんだけれど、それでもまだ一万本程度残っているのが現状だ。


「大剣は使わないかなぁ」


 大剣が長剣と比べて優れている点は武器そのものの攻撃力と攻撃がヒットする面が広いことだと思う。でもどっちも今のボクなら長剣で十分なんだよね。

 京香さんも防御力無視攻撃を使うようになったから本当は長剣でも良いはずなんだけれど、これまで使い慣れているからってことで大剣を使い続けているだけだし。ああ、格好良いから好きってのもあったかな。


 でも状態の確認はしておこうっと。


「ええい!あ、やりすぎた」


 鎧武者の魔物に思いっきり叩き付けたら地面に大穴が空いちゃった。

 しかも大剣が耐えきれずに壊れちゃった。

 大剣って斬るよりも叩き斬るってイメージがあるからつい力が入っちゃうんだ。


 ハンマーで殴っちゃったような結果だけれど、実はハンマー武器も持っている。

 そっちも確認してみようかな。


「そっか。ここじゃあ出せないんだった」


 ここは剣の間だから剣以外の武器は取り出せない。

 確認するにはいったん外に出ないとダメ。


 全部確認した方が良いのかな。

 ボクが持っている武器って言ったら……


「短剣、長剣、大剣、刀、細剣、手槍、小槍、大斧、手斧、小斧、大斧、鎌、鎖鎌、大鎌、モーニングスター、鞭、物理杖、魔法杖、仕込み杖、棍棒、メイス、ハンマー、トンファー、ヌンチャク、弓矢、ボウガン、パチンコ、ブーメラン、手裏剣、チャクラム、ナックル、グローブ、手甲、爪、扇、おたま、風車、けん玉、コイン、釣り竿、つるはし、釘バット、ハリセン、ピコピコハンマー、フライパン、包丁」


 多すぎ。


 冗談で作った物も結構あるけれど、それを除いたとしても全部確認するには時間がかかりすぎる。

 やっぱりボクのメイン武器の長剣が問題無しだからそれで良しとするかな。


 ちなみに銃は構造が良く分かってないから作れない。

 ギャングさんに教えてもらえれば作れるかも。


 というかギャングさんのために作ってプレゼントしておいた方が良いのかな。

 飛び道具の武器は色々な種類のものがあればあるほど便利だろうし。


 よし、戻ってギャングさんに聞いてみよう。


「その前にこれをどうにかしないと」


 さっきの大剣によるパワーアタックで空いてしまった地面の大穴。

 他の人もここで訓練しているから直しておかないと邪魔になる。


「あれ、でもそもそもどうして直らないのかな」


 これまでダンジョンをショートカットするために壁や床などを破壊したことは何度もある。

 でもその破壊した部位は直ぐに元に戻ってしまうんだ。


 それなのにここの床は直る気配が無い。


 それによくよく思い返してみると、あの程度の攻撃でこんな大穴が空くのだろうか。

 だってラストダンジョンの床だよ。

 かなり丈夫だって考えるのが普通じゃないか。


 もしかしたら何か普通でないことが起きているのかもしれない。

 ボクは警戒しながら穴の中を確認した。


「あそこにあるのって……」


 すると下の方に不自然な足場があって、その先に扉があることに気が付いた。

 もちろんこれまで報告されてない場所のもの。


 もしかして隠し通路的なものを見つけちゃったのかな。


 一体あそこには何があるのだろうか。

 探索者としてドキドキワクワクする。

 すぐに中の調査をしてみたい。


 でもボクは成長したんだ。

 ここで勝手に行動したら会議モノだってね。


 近くを飛んでいるかのんを通じて今のボクの様子は全部配信されているから迂闊なことは出来ないんだ。


 よし、一旦帰って京香さんに相談を……あれ、この音は?


 ドドドドドドドド。


 こんな感じの激しい地鳴りのような音が聞こえて来た。

 音の方向を見ると物凄い土煙が発生してこっちに向かって来ていた。


 あれってもしかして京香さんとキング?


 こっちに向かって物凄い勢いで走って来ている。


「救いいい!」

『スクイいいい!』

「ぷぎゃっ!?」


 なんか鬼気迫るような表情でボクの名前を叫んでいるから物凄く怖いんですけど。

 

 一体何があったのだろう。

 もしかしてボクが見つけたあの扉についてなのかな。

 ボクが勝手に中に入ると思って心配してやってきたとか。


 そこまでボクって信用無いのかな。

 最近は自重していると思うんだけど。


 なんて考えは全くの見当外れだった。

 京香さんとキングの用事はボクを心配したものではなく。




「抜け駆け禁止!」

『抜け駆け禁止!』




 新しい探索箇所を先に攻略されたくないとの想いによるものだった。


 あはは、そんなに慌てなくても大丈夫だって。

 落ち着かせてあげないと。


「もう、二人とも……え、ちょっ、まっ、ぷぎゃああああ!」


 猛スピードで飛び込んで来た二人はボクに衝突して巻き込みながら大穴に落ちてしまった。

 そして偶然にも、あるいは意図的になのか、勢いそのままに新たに見つけた扉の中に入ってしまったのだった。


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