3. 世界の勇者たち
「おばあちゃん」
「こんにちは、元気にしてたかしら?」
「うん!」
ラストダンジョンから外に出るとおばあちゃんが待っていてくれた。
誰もが慌ただしく動いて熱気に満ちている中で、落ち着いていて柔らかな笑顔を浮かべているおばあちゃんを見ているだけで癒される。
「私だって本当はこの中に入って魔物達をぶっ殺したいのよ」
「おばあちゃん!?」
「うふふふ」
またボクの心を読んで敢えてぶっそうなこと言ったでしょ!
「ささ、静かなところに行きましょう」
沢山の人がボク達を見ていて静かにお話しが出来ないので、個室に移動してそこでラストダンジョン配信を見ながらお話しすることにした。
「あ、キングたちだ」
すると丁度個室に着いたタイミングでキョーシャさん、キング、セオイスギールさんがボス戦に挑むところだった。
キョーシャさんは長剣。
キングは斧。
セオイスギールさんは指輪。
キョーシャさんの長剣は人気なので大人数のパーティーで挑んでいる。
キングはソロ。
セオイスギールさんは短剣を使うけれど、ギルさんが短剣をメイン武器にしているので遠慮して魔力増幅のために装備している指輪を狙いにいったらしい。
「あ~やっぱりボスって因縁の相手的なのが出てくるんだ。しかも人数分」
「私だったら何が出てくるのかしら」
おばあちゃんの探索者時代の話ってあまり聞いたこと無いから気になるね。
ラストダンジョン攻略が終わったらいつか教えてもらおうっと。
こういうのって死亡フラグなんだっけ。
でも死亡フラグって気付けば大丈夫ってギルドメンバーに教えてもらったからこれで大丈夫なのかな。
「キョーシャさんの相手は死神?」
大鎌を持って宙にフワフワと浮かぶ典型的な見た目の死神さんはランクが低いダンジョンで見たことがあるけれど超強化されているっぽい。
いつもさわやかなイケメンスマイルのキョーシャさんが珍しく不快そうな顔をしてそいつを睨んでいる。
「アレは彼が勇者としての能力を覚醒させるきっかけになった魔物よ」
どうやらおばあちゃんはキョーシャさんの事情を知っているらしい。
でもそれ以上は説明してくれなかったからボクも聞かないでおいた。
こういうのは本人に黙って詮索するものじゃないもんね。
「カマセさんの相手は……ボク?」
京香さんが相手にしたシルバーマスクじゃなくて、顔出ししているボクだ。
カマセさんが真っ青になって怯えてるんだけど大丈夫かな。
「あれは……倒せるのかしら?」
「流石に弱体化してると思うけど……」
多分だけれど、アレは彼女を訓練場で鍛えた時のボクだ。
あの時点だとかなり強くなってたから、当時の強さを再現してたら倒すのは至難の業だと思う。
「他の探索者さんもたくさんいるし、なんとかなるよ」
それぞれの探索者さんに因縁の相手が出現しているとはいえ、戦いの構図は多対多だ。
わざわざ自分の相手と戦わなくても良いし、協力して戦うのもありだ。
信じて待とう。
「キングの相手はゴブリンキング?」
キングつながりだった。
「アレもキングが勇者としての力を覚醒させたきっかけとなった魔物ね」
おばあちゃんはキングの過去についても知ってたんだ。
キングはこれまで色々とバラされて可哀想だから、詮索しないであげよう。
「キングは昔、かなり弱い泣き虫探索者でねぇ」
「おばあちゃん!?」
詮索しないつもりだったのに話し始めちゃった!
「初心者ダンジョン攻略すら覚束なくて、ちょっとでも怪我すると泣きながら帰って来たんだってさ」
「へ、へぇ……」
しかも多分本人的に割と恥ずかしい過去だった。
どうしてキングはこんな目にばかり……
「それでもコツコツ頑張って探索者を続けられていたのは、槍杉さんの動画を見ていたからだそうよ」
「ボク?」
「傷つきながらも誰かを守ろうとする姿に憧れて、自分も槍杉さんのようになりたいって泣きながらも頑張ってた」
その話は聞いたことあるけれど、泣きながらって部分は知らなかった。
知らないままで良かった。
「そんなある日、ダンジョンの中でイレギュラーが起きて、彼はゴブリンキングに遭遇してしまったのよ」
「もしかしてその時?」
「ええ、ゴブリンキングに襲われてた探索者達を必死で助けようとして、死の間際に勇者の力に目覚めたそうよ」
明らかに実力差がある相手であっても、誰かを助けるために立ち向かう。
それは確かに勇気ある者の行動なのかもしれない。
一歩間違えれば無謀なだけなんだけど、当時のキングが何を考えてどう行動したかが分からないからなんとも言えないね。
「ちなみにその時に助けた探索者達が今の彼のパーティーメンバーよ」
「あの女性の探索者さんたち?」
「ええ。当初は泣き虫な彼を馬鹿にしていたけれど、劇的な助けられ方をしたせいで今みたいになってしまったそうよ」
彼女達はキングを揶揄うことはあるけれど馬鹿にするどころか心酔しているような感じに見えるもん。単に格好良さや強さに惚れたってわけじゃなかったからなんだ。
でも今は彼女達はキングの傍にいない。
獲物が違うから中に入れなかったのだ。
きっとどこかで心配して配信を見ているに違いない。
それともキングなら大丈夫だって信じて心配なんてしてないかも。
『はん! あんときのリベンジマッチってか。上等だ。あんときと同じ、いや、今回は圧倒してぶっ潰してやるよ!』
あはは、相変わらず威勢が良いね。
もしかしたらあの威勢も、彼女達を心配させないためにわざとやっているのかもしれないね。
後はセオイスギールさんか。
「あれ、セオイスギールさんのところ、魔物が複数いるよ」
指輪狙いの探索者さんは他に居なかったので彼女はソロ攻略中だ。
他のボスと同じように因縁の相手が一匹出て来るのかと思ったら五匹も居る。
「あれは……」
おばあちゃんが何かを言いにくそうにしている。
セオイスギールさんのこれまでの経験。
言いにくいこと。
そして彼女の辛そうな表情。
それらを合わせて考えれば答えは自ずと出てくる。
彼女が力を引き継ぐ元となった勇者達を
彼女がここに立つ理由を作った直接の原因。
アフリカ大陸のダンジョンで発生した悲劇の元凶。
「大丈夫かな」
セオイスギールさんの脳内では当時の悲劇の状況がフラッシュバックされているはずだ。
悲しみと憎しみに支配されてしまいそうになっているはずだ。
「大丈夫。槍杉さんが彼女の心を救ってくれたのだから」
「ボクは大したことしてないよ」
「ふふ、そうね。あなたにとって当然のことですものね」
「そうそう、だから皆お礼なんて言わなくて良いのに」
未だに慣れないから本当に止めて欲しい。
特に真っ赤なお金のアレ。
ボクにとってはラスボスより厄介だよ。
『……あなたたちは……過去の亡霊……私は……未来を求めている』
セオイスギールさんはそう言うと、いつもの眠そうな目に戻って自然体で立ち向かっていた。
いや、良く見るとその目には情熱の色が浮かんでいた。
昏くて深いものではなく、眩しくて明るい色が。
『……救ちゃまと……一緒の未来を!』
「ぷぎゃっ!?」
どうしてそこでボクの名前が出てくるの!?
その追加の台詞無くても決まってたじゃん!
「そうね。私達は皆それを望んでいる。槍杉さんと
「…………」
意味深な目でボクを見つめるおばあちゃん。
一体何を言いたいのかボクには分からない。
でもなんとなく気まずくて話を逸らしちゃった。
「そういえば他の勇者さんって見つかったの?」
「……ええ、一応ね」
おばあちゃんはボクの露骨な誤魔化しに乗ってくれたみたいでほっとした。
「残念ながらラストダンジョンに挑める程に成長した勇者は新たに見つからなかったわ」
「そうなんだ」
勇者の芽は世界中に蒔かれていて、それが発芽して特殊なスキルを得た探索者さんをおばあちゃんは探していた。でもとても強くなった人は居なかったらしい。
「一部の探索者が急激に強くなってしまった弊害ね。本来はもう少し時間をかけて全体の実力が底上げされて、その中で勇者の力を得た探索者が抜き出てくる想定だったのではないかしら」
「どうしてそんなことになっちゃったんだろうね」
「うふふ、どうしてかしらね」
もちろん冗談だよ。
死にながら強くなる経験を意図的に積む訓練は流石にやりすぎだったよねって今更だけど思うもん。でも皆がやりたがるから悪いんだよ。ボクだけのせいじゃないって。
「じゃあその人達が強くなるまでラスボス戦は待った方が良いのかな」
「いいえ、恐らくその時間は無いわ」
「そうなの?」
勇者さん達を集中して鍛えるだけで大きな戦力になると思ったんだけどな。
「ラストダンジョン出現に合わせて、各地のダンジョンが急激に活性化を始めた様子なの。恐らく放置しておくと世界規模で魔物が地上に溢れて来るわ」
「だからといってそっちの対処をしていたらラストダンジョンに挑める人が居なくなっちゃうんだね」
「それに活性化が治まらない可能性もあるのよ。そうなったら終わりだわ」
世界中で全ての探索者さんがひたすら魔物退治をするようになって、ラストダンジョン攻略が永遠に出来なくなる。あるいは物量で潰されてしまうかも。
「じゃあ今のメンバーで攻略するしか無いんだね」
「ええ」
キョーシャさん。
キング。
セオイスギールさん。
ギルさん。
そして友1さん。
勇者の力を持つこの五人とボク、それに勇者に匹敵する数名の探索者さんたち。
つまりはラストダンジョン突入メンバーでラスボスに挑むしか無いってこと。
「槍杉さん、任せたわ」
「うん、任せて」
勝って全てを終わらせる。
ボクはそのためにここに来たんだ。
おばあちゃんの想いも背負って戦うからね。
あ、友1さんをカウントしてた。
力を引き継ぐの忘れないようにしないと。
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