6. 中ボス戦 ケイオスツリー つづき

「無理無理無理無理!」


 大量の枝が襲って来て避けるのに精いっぱい。

 それなのにその合間に京香さん達の相手もしなければならない。


「真・次元斬」

「ぷぎゃあ!」


 京香さんが即死攻撃を放って来るから大きく距離を取って逃げる。

 次元斬と違って本当に次元を斬って来るから受け止められないんだもん。


 そしてバックステップ先を予測していたキングさんが狙って斧を振るってくる。


『ヒャッハー!』


 それを強引に体を捻って避けると、今度はセオイスギールさんが枝を巻き込みながら魔法ドラゴンで遠距離攻撃して来る。


 攻撃の密度が濃すぎて躱すのに必死だよ。


 しかも厄介なことに状態異常になった三人が連携しているって訳でも無いので、ちゃんと誘導しないと巻き込みながら攻撃を仕掛けてくるんだ。

 例えばセオイスギールさんの遠距離攻撃が京香さんごと飲み込んで襲ってくるとかね。


 さらに厄介なこともあって、三人から距離をとりすぎると他の探索者さんを攻撃しようとしちゃうからボクが指弾とかでタゲを取り続けなければならない。


 超大変!


 状態異常回復アイテムをかけて早く治したいけれど、この激しい攻撃の中だとそれも難しい。


 どうしようどうしようどうしよう。

 このままじゃ押し切られちゃう!


『リフレッシュオール!』


 この声はミタさんだ!

 まだ石化から回復途中で万全の状態じゃないのに強引に魔法を使って助けてくれたんだ。


 状態異常だった三人は直ぐに正気に戻って攻撃を止めてくれた。


「ミタさんありがとう!」

『いえいえ』


 にっこり笑うミタさんは本物の聖女みたいだった。


「わりぃ救!」

『俺様としたことが』

『救ちゃまごめんなさい』

「謝らないで!」


 むしろボクの攻撃がきっかけでピンク煙からの強制状態異常攻撃のコンボを引き起こしてしまったのだから、ボクの方が謝らなきゃ。でも今はそれよりもこの戦闘をどう乗り切るかの方が重要だ。


『救様! もう一度攻撃して!』

「キョーシャさん!?」

『アレは段階型ボスだ!』

「やっぱりそうなんだ!」


 勇者の特殊能力でボスの鑑定をしたのかな。

 キョーシャさんの特殊な鑑定は自分と同格以上のボス相手だとある程度弱らせないと効果が無いらしい。鑑定が出来たってことは、これまでの攻撃でダメージを与えられているのは間違いないってことだね。


 段階型ボスってことはダメージを与えるごとに攻撃方法とかが変わるってことで、中には全くの別物に変化する魔物もいる。 


 このボスがどのパターンかは分からないけれど、あの強制状態異常攻撃が何かの目安になっている気がする。


『うわ、マジか!』

「キング?」


 ケイオスツリーの枝を避けながら攻略方法を考えていたら、キングさんが焦った声を挙げた。

 何かなと思ったら、襲って来た枝を斧で斬ったら例のピンクの煙が出て来たみたい。


 どうやら口の部分以外を攻撃しても出て来るらしい。


 枝を攻撃すればダメージを与えられるけれど、状態異常攻撃のカウンターが来るのが厄介だ。


『あの煙はうちに任せて』

「パッドさん!」


 仲間の探索者さんのあの巨大な竜巻で吹き飛ばしてくれるのかな。

 でも唱える人が集中的に狙われるようになるんじゃ……


 いや、パッドさんならその辺りも考えてなんとかしてくれるはず。

 ボク達は信じて攻撃しよう。


「よし、行くよ!」


 狙いは口の部分。

 さっきは煙が広がって酷い目にあったけれど、そうなると事前に分かっていれば問題無い。

 それにやっぱりあそこが弱点な気がするんだよね。


『私だって避けながら出来る。ふぁいあ!』


 遠距離攻撃組も枝の超速攻撃に慣れて来たのか、避けながら攻撃を始めた。


『トルネードおおおお!』


 そして攻撃が命中すると煙が発生しそうになるけれど、トルネードによって即座に霧散する。

 ようやくボク達のペースになってきた。


「私も負けてられない! 真・次元斬!」


 わぁお、京香さんが近くまで接近して胴体を真っ二つにした。

 そして速攻で離脱するとトルネードで煙は蹴散らされる。


 連携も完璧だ。

 このまま押し通……!?


「警戒!」


 今度は口からシャワーのように細かい液体が飛んで来た。

 トルネードでこっちまでそれが飛んできてしまう。


『ぬお、体がうごかねぇ!』


 マヒ。

 いや、アレは脱力かも。


 あの液体が触れたところに力が入らなくなるんだ。


『大変よ。それって回復出来ないみたい!』


 なんだって。

 永久効果のある状態異常とか最悪だ。


『いや、少しずつ動くようになってきた。時間経過で徐々に治るタイプだ』


 だとしてもギリギリの戦いをしている今ではすぐに治せないのは辛すぎる。

 足に当たったりなんかしたら避けられなくて……ぷぎゃっ!?


 言ってる傍からボクの右足に当たっちゃった。

 確かに全く力が入らない。


 仕方ない、逆立ちするか。


「救、何やってるんだ!?」

「足が動かないから手で移動してるの!」


 ボク逆立ち得意で足と同じくらい自由に動けるんだから。


「器用だな……私には無理そうだ」


 そうかな。

 京香さんはパワータイプだけど器用さも結構あるから練習すれば出来ると思うよ。


「煙と液体で対処変更出来る!?」

『やってみるわ!』


 どうするのかと思ったら単純にボスに向かって強風を吹かせるだけだった。

 確かにこれなら煙だろうが液体だろうがこっちには届かないね。


「皆来るよ!」


 これで今度こそ行けるかと思ったら、また例の金切り声が来そうだった。


 絶対に状態異常になってしまうのが辛すぎる。

 どうにかして対処できないのかな。


 また京香さん達に攻撃されたら、あるいはボクが攻撃する側になったらと思うと恐ろしすぎる。


「皆さん、こっちです!」


 この声は!

 そうかその手があった!


『アアアアアアアア!』


 間に合えええええ!


 全力で声がした方に向かって飛んだ。


「いててて」


 あまりにも慌てたから誰かにぶつかっちゃった。

 キングかも、ごめんね。


 足がそこそこ動くようになってきたから、逆立ちを止めて普通に立ち上がった。


「皆大丈夫?」

「なんとかな」

『だが半分くらいは間に合わなかったようだぜ』


 こっちに向かっている途中に状態異常攻撃を喰らってしまった探索者さん達が苦しんでいた。


 ボクたちは全く問題無い。

 枝が攻撃を仕掛けて来ているけれど避ける必要も無い。


 何故ならここは安全地帯だから。


「友1さんが居てくれて助かったよ」

「あはは、頑張った」


 良く見ると特殊防御障壁の範囲が少し広くなっていた。

 強度だけじゃなくて広さもパワーアップしているんだね。


「見ろ救」

「うわぁ」


 思わずドン引きしちゃった。

 だって攻撃を喰らった探索者さんの姿があまりにも酷かったから。


 巨大化ゾンビとか、盲目減速沈黙とか、複数の状態異常にかかっていた。

 これ全員が喰らってたら壊滅待ったなしじゃないか。


 友1さんが居なければクリア出来ない気がするんだけれど、本当にそんな無茶苦茶な設定なのかな。

 今は考えるよりも治して態勢を整える方が先か。


「ミタさんお願い」

『ちょっと待って』

「え?」


 このままだと探索者さん達がケイオスツリーの枝に攻撃されてやられちゃうよ。

 ほら吹き飛ばされて……あれ?


 もう状態異常が回復して躱し始めてる。


『やっぱり期間が短いのね。いえ、一つだけ残っているのかしら』


 巨大化ゾンビの探索者さんはゾンビだけ解消されて、盲目減速沈黙の探索者さんは盲目だけ残ってるのかな。短期間の状態異常が複数追加で付与されるようになったってことなのか。

 確かにこれならギリギリなんとかなるかもしれないけれど、全員が一時的に動けなくなるのは間違いないから確実にダメージを負うよね。死なないけれどしんどそう。


「あの、そろそろ回復を」

『このくらいなら大丈夫よ。もう少し分析しましょう』

「えぇ……」


 おかしいな。

 さっきは聖女だと思ったのに、今度はちょっと怖くなってきたよ。


「救、この後どうする」

「そんなの決まってるよ」

『だな』


 このまま友1さんに守られながら遠距離攻撃で戦えば安全に倒せるだろう。


 でもボク達はこの後にこのボスよりも強いラスボスと戦わなきゃならない。

 ラスボスより弱いこのボスと真っ向から戦って勝てなきゃラスボスになんか勝てるわけが無い。


 それにボクたちが強くなるための貴重な機会でもあるんだ。

 無駄になんか出来ないよ。


「あの金切り声の時だけはここに避難。それ以外は全力勝負!」


 そして少しでも経験を積むんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る