7. ダンジョンを抜けた先には

「これで終わりだよ!」


 人型どころか森にしか見えない枝だらけの視界の中で、最後の最後で出現した核に向かってステータスごり押しの神速の突きを放った。


 ほんっと面倒だったんだよ。


 これまで枝のどこを斬ってもダメージを与えられていたのに急に段階が進まなくなって、小さな実の形をした核がこっそり出現していてそれ以外を攻撃しても意味が無いって気付くまでにかなり時間がかかって、しかもその核を狙うと超スピードで逃げる上に逃げながら強制状態異常音波をバラまいてくるんだ。


 ダメージ覚悟で特攻して核を逃がさず撃破するのが有効だと判断したけれど、そうすると核を守ろうと枝が重なって防御して来るからスピード重視の攻撃だと威力が足りなくて核に届かない。


 ほんっと面倒だったんだよ。


 最終的に皆で攻撃のタイミングを調整して、ボクの特攻に合わせて出現した防御を壊してもらった。

 常に枝が攻撃して来るし、常に強制状態異常攻撃を警戒しなければならないし、とても疲れた。


 ほんっと面倒だったんだよ!


『アアアアアアアア…………』


 でも頑張ったおかげか、ようやくケイオスツリーを倒せたみたい。

 多くの枝がゴゴゴゴって音をたてながら徐々に消滅して行く。


「…………」

「…………」

『…………』

『…………』

『…………』


 勝利の雄叫びをあげる余裕なんて無くて、皆して地面にへたり込んじゃった。

 そのくらいに疲れる戦いだった。


「封印、解けてるね」

「だな」


 ケイオスツリーの背後にあった奥への道は解放されていた。

 苦労して切り開いた先に何があるのか気になるところだけれど、誰も行こうとはしない。


 だってこの先にラスボスがいる可能性があるから。


 今のこの疲弊した状態で立ち向かったところで勝てるとは思えない。

 ここで休んでから進みたいところ。


「そうだ!」


 アレを使って先の様子を確認してみよう。

 罠の確認とかに便利なアレだよ。


「分身」


 分身だけを先に進ませて、奥に何があるのかを確認する。

 ボクの探索王道パターンだ。


「どんな感じだ?」

「もうちょっと待って」


 分身を進ませているけれど、かなりゆっくりと確認しながら進ませているからまだ出口には到達していない。


「あれ、これって……」

「どうした?」

「この先で休憩できるかも。セーフティーゾーンになってるっぽい」

「マジか!」

『じゃあ行こうぜ!』

『行きましょう』

『行く行く』


 セーフティーゾーンの言葉にぐったりしていた皆が元気になった。

 ここで休んだとしてボスが復活するかもしれないし、何よりも周囲の壁の触手たちが見ていて気持ち悪いから気が休まない。この先がセーフティーでないセーフティーゾーンの可能性もあるにはあるけれど、ここで倒れているよりかは先に進みたいというのが皆の正直な気持ちなのだろう。


 ボク達は警戒しながら先へと進んだ。


「うおお」

「わぁ、綺麗……」

『へぇ、こう来たか』

『中々良いじゃない』

『……綺麗』

『美しい』

『まぁまぁね』


 その先は広場になっているのだけれど、目を惹くのは周囲の景色だ。

 そこは宇宙空間の真ん中に立っているような景色で、多くの星が煌めいている。


 そして足元には青く美しい星が見える。


「ラストダンジョンっぽいね。救様」

「そうなの?」

「うん、そうだよ」


 友1さん的にはラストダンジョンの景色として合格らしい。


『確かにセーフティーゾーンだな。それに入り口が八つか』

『正面の入り口は明らかにラスボスルームよね』


 巨大な扉からは禍々しいような神々しいような特別なオーラが漏れていて、その先に最後の敵が待ち構えているであろうことが直感的に理解出来た。


『……他の……入り口は?』


 巨大な扉の先にラスボスがあるとすると、他の七つの入り口は何だろう。

 ラスボスへの道が封印されていてそれを解除するために他の扉を攻略するっていうのを真っ先に考えたけれど、ラスボスへの扉って普通に入れそうなんだよね。


「友1さん的には何だと思う?」

「う~ん、最強の武器防具の入手チャンスとか。これまで宝箱無かったから」

「なるほどそれはありそうだね」


 ラストダンジョンだから強力な装備やアイテムが手に入るかと思ったら全然そんなこと無かった。

 でもあの扉の先にそれらが用意されていて、強力なボスが守っているなんてのはありえるかも。


「後は、ラスボスの弱体化とかかな。先に七つの扉の先のボスを倒さないとラスボスが滅茶苦茶強いとか」

「そういうのもあるんだ」


 その可能性があるならスルーは出来ない。


「でも逆に倒すとラスボスが強化される可能性もあるかも」

「ええ……」


 それじゃあどうすれば良いのか分からないじゃないか。


「扉の先のボスを無視した分だけラスボスが復活するとか、扉の先の全てのボスとラスボスを同時に撃破しなきゃダメなんてのもあったりするね」

「うわぁ……」


 そんなにたくさんの可能性があるんじゃ方針を立てられないよ。


「どこかにヒントが書いてないかな」

「ヒントかぁ……」


 ぐったりしていたはずの皆が元気に調査に向かっているから何か見つけて来るかな。

 未知の領域でテンションが上がるのは探索者らしいよね。

 ボクだって本当は今すぐに調べ尽くしたいもん。


 でも風景がとても綺麗だから、体を休ませながら鑑賞したいと思って調査は皆に任せている。

 そう思ってまったりお話ししながら待っていたら、キングさんがいち早く戻って来た。


『スクイ。どうやら装備が手に入るらしいぞ』

「そうなの?」

『ああ、入り口の傍に装備のマークが書いてあったからきっとそうだ』


 なるほど、つまり剣のマークが書いてある扉をクリアすると強い剣が手に入るって感じなのかな。


「その装備が無いとクリア出来ないのかな」

「多分無くても大丈夫だと思うよ。入手しなくても挑める設定になってるから」

「ええ、普通の装備ってことなの。この後はラスボスしか相手がいないのに」

「そういうものなんだよ、救様。ラスボスを倒した後に入手できる装備とかもあるんだから」

「何に使うの!?」

「そういうものなんだよ」


 定番って良く分からないや。


 それじゃあ他の扉はクリアしなくても良いんだね。


『斧は俺様のだからな!』


 もちろんするけど。

 だって強い装備が手に入るって分かってスルー出来る訳ないじゃないか。

 ボク達は探索者なんだから。


 隠しボス撃破報酬で貰った武器より強いかは分からないけれど、ボクが要らなくても他の探索者さんに使ってもらえば良いわけだし、攻略する意味はあるはずだ。


 でもさっきのボス戦でとても疲れてるし、休憩しながらコツコツ攻略しようか。

 キングのように今すぐにでも特攻したい雰囲気の人をちらほら見かけるけれど、ちゃんと休まないとダメだよ。


『ちょっと良いかしら』


 今度はパッドさんが戻って来た。

 何かを見つけたのかな。


『一つだけ扉の種類が違うらしいわ』


 彼女が指さした扉の方を見ると、その扉だけは横に小さな看板のようなものが置かれていた。そこに説明が書いてあったらしい。


『あの扉の中には弱い魔物も含めて大量の魔物がひしめいているそうよ。ラスボス挑戦中にあの扉が開いて、中の魔物を倒した量に応じてラスボスが弱体化する。でも相当数を倒さないと効果は実感できないんですって』

「へぇ、そういうのもあるんだ」


 だとすると攻略パーティーを分けた方が良いのかな。

 でも効果が微妙なら貴重な戦力を分散させるのは勿体ないよね。

 無視して全員でラスボス戦に行くべきだとは思うけれど、スルーするのもそれまた勿体ない。


「他の探索者さん達もここに来れれば良いんだけどなぁ」


 弱い魔物っていうのがボクたち基準じゃなくて、初心者ダンジョンとか初級ダンジョンレベルって意味なら沢山の探索者さん達に協力してもらえそうだもんね。


『それはなんとかなりそうですぜ』

「ギャングさん。どういうこと?」


 今度はギャングさんがやってきた。

 怖い、じゃなくて良い笑顔だからかなり良い報告がありそう。


『あれを見てくれ』

「あんなのあったっけ?」


 後ろを振り返ったら、入り口近くに淡い光で囲まれた小さなゾーンが生成されていた。


『ラスボスの扉を調べてたら出現した。なんとあそこからダンジョンの入り口と行き来出来るんだ』

「え!?」

『しかも道中未クリアの探索者たちも飛べるらしいぜ』

「ええ!?!?」


 確かに攻略メンバー以外の探索者さんの姿が見える。

 じゃあその人達にあのモンスターハウス的な扉を担当してもらうことが出来るんだ。

 ラスボスがどれほど強いか分からないけれど、ほんの僅かでも弱体化されるなら是非やってもらいたい。


「ここで分かるのはこのくらいっぽいね」


 付近を調査していた探索者さん達があらかた調べ終わったのか調査をやめて、この美しい宇宙空間の風景を楽しんでいる。


 強い装備が手に入りそうな六つの扉。

 ラスボスを僅かでも弱体化出来るモンスターハウス的な扉。

 そしてラスボスが待ち受けている扉。


 やるべきことは大体分かった。

 後は誰が何を担当するかを決めるだけだね。


 それにしても入口と行き来できる上に、特にトラップが無さそうなセーフティーゾーンまで用意してくれるなんて。


 万全の状態で挑むようにって忠告されているようにしか思えない。


 きっとそれだけの相手が待っているのだろう。

 でもそれは乗り越えられない試練では無いはずだ。


 ボクたちの最後の戦い。


 それはすぐ傍まで迫っていた。

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