5. 中ボス戦 ケイオスツリー

「ここが最奥?」

「いや、更に奥があるみたいだから違うんじゃねーか?」


 ラストダンジョンを探索していたら、一際広い場所に出て来た。


 床は土で青空が見えている屋外のフィールド。

 広場は野球場かサッカー場くらいの広さで、壁扱いであろう周囲は赤黒い触手が蠢いていてとても気持ち悪い。


 見るからにボスが出てきそうな雰囲気なので最奥かなって思ったけれど、確かに京香さんが言う通りにまだ奥に道が見える。結界的なもので通れなくなっているからボスを倒すと先に進めるのだと思う。


『お、どうやらお出ましのようだぜ』


 キングの言う通り、地面から何かがせり上がって来る。


「あれは枝なのかな?」


 人間の腕くらいの太さの枝のようなものが生えて来て人に近い形をとった。

 大きさは高さ三メートルくらいで、所々に口のような形の穴が開いていてどうにも気味が悪い。


『先手必しょうおおおお!』


 キングが先制攻撃をしようと突撃したけれど、ボスの体から生えた枝が超高速で襲って来て迎撃されてしまった。幸いにも直撃は逃れたけれど、ギリギリ反応出来るレベルの早さなので迂闊に近づけない。


『私に任せて。ふぁい!?』


 それならばとセオイスギールさんが離れたところから遠距離攻撃を仕掛けようとしたけれど、足元から枝が飛び出してきて中断させられてしまった。

 どうにか躱したと思ったら掠っただけなのに物凄い勢いで吹き飛ばされる。キョーシャさんが直ぐに治してくれたけれど、どうやらあの枝攻撃は威力もすさまじいらしい。


 全体的にパラメータがかなり高いと見て間違いない。


「京香さん、キング」

「おう」

『やるか』


 同時攻撃を仕掛けたら果たして対処できるだろうか。

 ボク達は三人距離を取りながらボスに向かって突撃した。


 速い。


 他の人が攻撃されているのを見ているのと、自分が攻撃の対象になるのでは感覚がここまで違うだなんて。あるいは相手に合わせて速度が変わっているのかもしれない。


 地面から枝が生えてくるのが厄介なので宙を駆けながら近づこうとするものの、数えきれないほどの枝が猛スピードで迫って来て避けるのに精いっぱいだ。


「真・次元斬」

『アックストルネード!』


 京香さんとキングは襲い掛かる枝を避けずに排除しながら進もうとしているみたいだけれど、排除するのに精いっぱいで進めていない。


 かなりの強敵だけれど、残念ながらボク達は囮なんだ。


『シャドウ・キル』


 スキルで気配を消したギルさんがボスの背後からこっそりと忍び寄っていたんだ。

 そしてこれまた隠しボス撃破ボーナスで手に入れた強力な短剣を振るい、首と思わしき部分を斬り落とした。


 するとボスからのボク達への攻撃が止む、なんてことは全く無かった。

 攻撃を続けながらも斬り落とされた部分が本体と融合して元に戻ってしまう。


 ギルさんもボスに認識されて攻撃対象となったので慌てて離れた。


 コアを潰さないとダメなパターンかな。

 それとも他に勝利条件があるのか。


 ボクらも一旦距離をとって態勢を立て直すことにした。


 そうして誰もボスに攻撃を仕掛けていない状況になった時、ついにボスが自分から動いた。


『アアアアアアアア!』


 ボスの身体中の口らしきところから、爆音の金切り声が響いて来て頭がとても痛い。


 まさかこれ、状態異常!?


 状態異常はパーティーを一気に崩壊させかねないから、もちろんボクらは状態異常対策をちゃんとしている。

 主要な状態異常はほとんど効かないし、マイナーな異常がかかっても直ぐに回復できるように仕掛けてある。


 でもこの感覚は間違いなく状態異常。

 つまりこのボスはボクらの状態異常耐性を無効にするのか。


「う……動けなぷぎゃ!」


 体がマヒして動けないところに、ボスの枝が直撃して大きく吹き飛ばされた。

 滅茶苦茶痛い。

 なんて威力だ。


「ぷぎゃっ! ぷぎゃっ!」


 連続攻撃はダメ。

 防御体勢もまともに取れないからキツすぎる。


 このままじゃ……


「救!」


 この声は京香さんだ。

 ボクの体を優しく抱き抱えて、ボスの攻撃から逃がしてくれた。


『リフレッシュ、エクスヒール』

「ありがとう、ございます」


 ミタさんの回復魔法でマヒとダメージを回復してもらった。

 ボクは状態異常にかかっても自動的に回復するスキルを使っているのにその効果が無いなんて。


『恐らくはガード不能。回復魔法か回復アイテムでのみ回復可能な攻撃ですね』


 ミタさんがそう教えてくれたけれど、どうしてミタさんは無事なのかと聞いてみたらミタさんも状態異常にかかっちゃったんだって。ただ毒だったから直ぐに回復出来て問題無くて、他の人の回復をして回ってくれていた。


 どうやらどの状態異常にかかるかはランダムみたい。


「もしかしてアレにかかっちゃった人もいたの?」

「そうみたいだぜ。何人か喰らってそうな奴がいた」

「やばいね」

「やばいな」


 マヒもそうだけれど、状態異常の中には動きを封じるものがいくつかある。

 その状態でさっきのボクみたいに攻撃を喰らったら死んでしまってもおかしくない。


「さっきの攻撃をさせないように攻めよう!」

「だな」


 全体ランダム状態異常攻撃は、ボク達が攻撃の手を緩めた時にやってきた。

 それならボク達が絶えず攻撃をし続けていればやってこないかもしれない。


 そう思って元気になった探索者さんから順にボスに攻撃を仕掛けることにした。


「ケイオスツリーをフリーにさせるな!」


 いつの間にかボスの名前が決まってたみたい。


 京香さんの叫びを合図に探索者さんたちが攻撃を再開したので、ボクも混ざって来よう。


「皆気をつけろ! 様子がおかしい!」


 ケイオスツリーはボク達に反撃しながら口から白い煙のようなものを吐き出したんだ。


『させない。アルティメットトルネード!』


 パッドさんのお仲間さんが巨大な竜巻を生み出してそれを霧散させてくれた。

 ぐっじょぶだね。


 明らかに状態異常になりそうな煙だったけど、ボク達に反撃しながらでも仕掛けてくるんだ。


「それならこれでどう!?」


 魔力圧縮。

 魔力圧縮。

 魔力圧縮。


 ケイオスツリーの枝を避けながら、硬い装甲を貫ける程度の魔力弾をいくつも生成させる。

 ボクに向けた攻撃が一気に増えたけれど、まだギリギリ避けられるし京香さんとキングがフォローして何本か対処してくれている。


「超圧縮魔力弾!」


 そのまんまのネーミングだけれど、シンプルイズベストだよ。


 狙うはケイオスツリーの口っぽい部分。

 そこさえ壊せば例の状態異常攻撃を使って来れないはず。


「一つ!二つ!三つ!」


 激しく避けながらだから狙いを定めるのが大変だけれど、見事に全弾命中だ。


「やったな救。どや顔が可愛いぞ」

「ぷぎゃ!?」


 そんな顔してないもん!


 問題は破壊した部位が再生するかどうかだけど……ダメかぁ。

 でも再生するまでの間は安全なはず。


「ボクが何度も潰すから。その間に本体を倒して!」

『おう!』


 遠距離攻撃なのでギャングさんやセオイスギールさんに任せても良いけれど、ケイオスツリーの攻撃が激しすぎて彼らだと避け切れないかもしれないのでボクが適任だろう。


 魔力圧縮。

 魔力圧縮。

 魔力圧縮。


 ここからはひたすらあの口だけを狙うよ!


「超圧縮魔力弾!」


 再生した口に向けて再度攻撃を仕掛けて破壊する。

 しかし今度は破壊された瞬間に周囲に怪しい紫色の煙が広がりボク達を飲み込んだ。


「しまった!」


 まさか罠だったのかな。

 今度はどんな状態異常になるのだろうか。


 視界が悪くてケイオスツリーの攻撃が良く見えず避け辛い。


「ぐはっ!」

『っ!』

『きゃあっ!』

「皆!」


 ケイオスツリーの攻撃音と京香さん達の悲鳴が聞こえる。

 もしかしたら攻撃が当たってしまったのかもしれない。


 早くこの煙をどうにかしないと。

 でもどうしてさっきみたいにトルネードで吹き飛ばそうとしないんだろう。


 まさか!


「トルネード! 発動しない!」


 魔法もスキルも発動しない。

 どうやらこの煙が引き起こす状態異常は『封印』らしい。


 まずい。

 ボク達はスキルや魔法にかなり頼って戦っている。

 急にそれらが使えなくなるケースも想定しているけれど、これほどの強敵相手に対応するのはかなり難しい。


 実際、京香さん達は攻撃を受けてしまったわけだもん。


 それにこの煙は視界を防ぐ効果もあるから『視界封じ』の状態異常がセットでかかっているとも言える。超高速の攻撃を仕掛けてくる相手にこんなハンデは辛すぎる。


 皆、もう少し耐えて。

 ボクがどうにかするから。


「人力トルネードおおおお!」


 スキルや魔法が使えないのなら、自分の肉体だけで同じ効果を発揮させれば良い。

 剣を真正面に向けてそのまま力の限り高速回転して、強引に竜巻を発生させて煙を吹き飛ばすんだ。


「おおおおおおおお!」


 よし、煙が晴れて来たぞ!

 でも攻撃を避けながらグルグル回るの超大変!


『救様! もう大丈夫!』


 この声はミタさんかな。


 竜巻を止めて周囲を確認すると、煙が晴れた場所に全員移動していた。

 かなり血を流している人もいるけれど、命に別状は無さそうだ。


『アルティメットトルネード!』


 煙が無ければ魔法が使えるらしく、先程と同じく超巨大な竜巻で煙は吹き飛ばされた。


「危なかったぁ……」


 でもこれでどうにか全滅の危機を免れたかな。

 なんて思ってしまったのがフラグだったのかな。


『アアアアアアアア!』


 ケイオスツリーが追撃の全体ランダム状態異常攻撃をまた仕掛けて来たんだ。


 完全に後手に回ってしまっている。

 これだけの探索者がいて攻略の糸口もつかめないなんて、強すぎる。


 流石ラストダンジョンに出てくるボスだね。

 ラスボスはこれよりもっと強いんだよね。

 怖いなぁ……


 なんて現実逃避している余裕なんてもちろんない。


 今回ボクが喰らった状態異常は『火傷』みたい。

 動きを阻害する異常じゃなかったから手持ちの回復アイテムを使ってすぐに治した。


 問題は他の皆がどんな状態異常になったかだけど。


「うわぁ」


 思わず声が出ちゃった。

 だって最低最悪の状況なんだもん。


「ぐがああああああああ!」


 『狂乱』した京香さん。


『なめてんじゃねーぞ!』


 『混乱』したキング。


『……コロス』


 『洗脳』されたセオイスギールさん。


 三人がボクを倒そうと向かって来た。

 しかも回復役がマヒや睡眠や石化とかで行動が出来ず、攻撃役がアイテムで治療するのを待たなければならない。


 それまでボクがボスの攻撃を避けながら三人の攻撃を防ぎ切らなきゃダメなの?


 運が悪いにも程があるでしょ!

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