4. 無限ループって怖くないね
「普通の洞窟だね」
塔の屋上に設置されていたゲートを潜ると、典型的な石造りの洞窟に出て来た。
「こういうのが一番困るや」
『どうして……?』
「何が起きるか想像つかないからだろ」
「京香さんの言う通り。どんなトラップがあったり魔物が出て来るか予想できないから対処が大変なんだ」
分かりやすければ分かりやすいで、それを逆手にとって予想外のことを仕掛けてくるダンジョンがあるから思い込みは厳禁だけれどね。
「とりあえず調べながら進……ぷぎゃっ!?」
「救!」
突然お腹に強い衝撃を受けて吹き飛ばされちゃった。
「かはっ!」
そして勢い良く壁にぶつかってしまい、一瞬息が出来なかった。
『スクイ!』
『救ちゃま!』
「救様!」
皆が周囲を警戒しながらボクの方に駆け寄って来た。
派手に飛ばされたけれど、ダメージはほとんど負ってないかな。
ボクの素の防御力で十分受けきれたらしくて痛みも無い。
「なんとか大丈夫だよ。それにほら」
ボクを吹き飛ばした原因を捕まえてあるから、再度誰かが攻撃されるってことも無い。
「スライム……なのか?」
「多分ね。でも感触的に金属的な核があるんだと思う」
攻撃を受けながらもお腹を抑えて、攻撃して来た魔物を右手で掴んだ。
じたばたしている感じはあるけれど、この程度の力なら抑えつけるのは簡単だ。
『ぶくぶく……』
「あわあわなの」
ドロっとした液体が掴んだ右手に纏わりついていて、沸騰しているみたいにブクブクあわあわしている。でもボクの手には全くダメージが無いから、単にそういう見た目なのだと思う。
「とりあえず倒しちゃうね」
力をこめて握りしめればほら簡単。
核を破壊されたスライムらしき魔物はあっさりと消滅した。
「力も防御力も低いけれどスピードだけはボクでも追えなかった」
「救でもか?」
「うん。全く気付かなかったし全く見えなかった」
もしもこの魔物と同じくらいのスピードで攻撃力が高い魔物が出てきたらピンチだけれど、流石にそれは理不尽すぎるから無いと思う。仮に出て来たとしても何らかの対処方法があるに違いない。
『きゃ!』
『うお!』
『こいつめ!』
どうやらこのハイスピードバブルスライムは他にもいるらしく、他の探索者さん達もボクと同じように吹き飛ばされはじめた。
「もしかしたらこの洞窟は一点特化の魔物の住処かも知れないね」
スピードだけ、魔力だけ、力だけ、防御力だけ。
どれか一点だけが尖って高い魔物の住処。
ちゃんと相手の特性を見極めて対処しないと痛い目を見そうだ。
『さっきよりマシだな』
ボクもキングと同じ意見。
確かに注意は必要だけれど、即死ゾーンに比べたら余裕余裕。
油断は出来ないけれど、多少はゆったりとした気持ちで探索出来そう。
ずっと気を張り続けたら疲れちゃうもん。
「とりあえずまずはマッピングだね」
洞窟内ダンジョンを効率良く進むために地図は不可欠だ。
薄い魔力を先に進ませて、自動で地図を作るプリマッピングスキル。
それを使って探索前に地図を完成させようと思ったんだけど。
「全然終わらない……」
いくら魔力を進ませても終わる気配が無いんだ。
あまりにも広すぎるか、マッピングを禁止されているか。
「ちゃんと迷えってことなのかな」
さっきの塔のことを考えるとその可能性が高そう。
『それじゃあ俺がリアルマッピングします』
キングさんのところのスイーパーさんがそう申し出てくれたから、ありがたくお願いすることにした。
それじゃあ出発だ!
――――――――
『硬ってぇ!』
防御力が高すぎる剣士型スケルトンが、キングの超威力斧攻撃も跳ね返した。
『ディバインバスター!』
それならばとキョーシャさんが聖属性攻撃を試してみたけれどやっぱり効果が無い。
どうせ効かないのバレバレなんだからわざわざアンデッドの見た目にしなくても良いのに。
「真・次元斬!」
今のところかっちかちな魔物相手に効果があるのは真・次元斬だけ。
おっと違った、もう一つあったや。
『
スイーパーさんのスキルも効果があるらしくて、沢山吸ってもらっている。
『岩団子が来るぞー!』
岩団子っていうのはゴロゴロと転がって来る岩型の魔物で、とんでもない力の持ち主。
力しか強くないなら攻撃を避けてサクっと倒せば良いかなって思ってたのに、転がっている間は全部攻撃判定になっていてこっちの反撃を力づくで強引に潰しちゃう厄介な相手だ。
幸いにも一直線にしか転がって来れないしスピードも遅いから、止まるまで適当に躱してから撃破する。
『マジシャンだ! 潰せ潰せ!』
一番厄介なのが手品師みたいな服装の魔力特化型のマジシャン。
とてつもない威力の範囲魔法攻撃を放って来るから、見かけたら即殺しないとこっちが壊滅しちゃう。
『試しに一度喰らって見ようぜ』
なんて言ってボクらを酷い目に合わせたキングさんは戦いながら『会議中』だったりする。
余計な事言わなくて良かった……
と言う感じで魔物を着実に対処しながら洞窟ダンジョンを探索する。
今回はじっくりと探索出来ているから精神的に余裕がある。
でもどうにも妙な感じ。
「ここ、さっきも通らなかった?」
「そうか?」
どれだけ進んでもゴールに辿り着かないんだ。
しかも分岐がいくつもあるのに、何処を通っても行き止まりにならない。
スイーパーさんに書いてもらっている地図を確認すると複雑に入り組み過ぎている。
「でも救がつけた傷は無いんだろ?」
「うん。荷物も無くなってた」
もしかしたら元の場所に戻って来ているのではと思った僕が壁に傷をつけて床にいらない物を放置してみたんだけれど、似ている場所に出てきた時にそれらは無くなっていた。
「やっぱり複雑なだけなのかな。それとも傷や道具が消えて無くなってるとか」
「救様、地図を見せてもらえる?」
「うん」
スイーパーさんから借りた地図を友1さんに渡すと、彼女は何かを考えているようだったので、一旦そこで休憩することにした。
「いっそのこと壁を壊しちゃおうかな」
壁を突き抜けてひたすら進めば、いずれ端に辿り着くかもしれない。
あるいは案外上下に移動したらゴールが近かったりして。
ここまでの流れ的に真っ当にクリアしないと怒られそうだけど……
「救様。これ多分ループしてる」
「ループ?」
「うん、こことこことここの形が何度も出て来ている。だから多分ここを通るとここに戻って来るから……」
友1さんが別の紙に新しい地図を書き始めた。
その地図は今のものよりとてもシンプルで、いくつかの分岐先に×が書かれていた。
「この×のところを通過すると対応する場所に戻されるみたい。これを展開すると、元の地図と同じになるはずだよ」
「……本当だ!」
確かに友1さんの地図を使ってボクらが進んだ順を追っていくと、スイーパーさんが作った地図の通りになる。
「良く分かったね」
「無限ループ洞窟も定番だから」
そんな定番もあるんだ。
友1さんが来てくれて助かったよ。
ボク達だけだったら、まだしばらく彷徨い続けるところだった。
試しにループしている継ぎ目の場所に移動してみた。
「うわ。空間の捻じれを凄い巧妙に隠してる。こりゃあ気付かない訳だよ」
集中して集中して集中しまくって空間をチェックしてギリギリ違和感があるかないかってレベル。
壁の傷やアイテムが消えるのもループがバレないようにする作用が働いてたに違いない。
それに厭らしい事にループすると同じ場所なのに微妙に壁の石の凸凹具合が変わってるんだ。
絶対に迷わせてやるっていう強い意志が感じられる。
「でも分かってしまえば楽勝」
ループしていること前提でマッピングすれば今度は迷わない。
城門や塔と比べるとここは簡単だったね。
なんて思ってたボクが間違いだった。
「まだ続くのぉ!?」
無限ループ迷路を抜けた先には、トロッコ、滑る床、動く床、見えない床とか様々なフロアが待っていてゴールまでの道のりがかなり長かったんだもん。しかも全部ズル出来ないように制限かけてくるし……
ちなみに友1さんは新しいフロアに出る度に『定番! 定番!』って喜んでいた。
楽しそうで何より。
ボクもこれクリアしたらゲームやってみようかな。
ラストダンジョン、無限ループ洞窟と諸々、クリア!
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