2. 城門攻防戦
「襲撃!」
ラストダンジョンの入り口は一言で表現すると『城門前広場』だった。
多くの国民が王様の声を聴くために集まる場所を想定しているのか、数千人は入れそうな程に広いその広場には魔物がうじゃうじゃと犇めいている。そしてその魔物を抜けた先には硬く閉ざされた城門。
そこを突破するのがラストダンジョン最初の試練なのだろう。
ボクらが中に入った途端に数体の猿の魔物が襲って来た。
速い。
「でもこのくらいなら!」
ボクに飛び掛かって来た猿が腕を伸ばして攻撃して来たのでフラウス・シュレインで迎え撃つ。
「スラッシュ!」
「ぐぎゃっ!」
相手の耐久力を確認するために次元斬ではなく普通の斬撃スキルで対応した。
斬れたけれど真っ二つとはいかず、切り口が荒い。
何でも斬れるはずのフラウス・シュレインで斬り切れないということは、間違いなく守備力が限界突破している。
そしてそれは守備力だけではない。こっちに突撃して来たスピードや、打ち合って見て感じた攻撃力も明らかに人間の限界を突破しているものだった。
「やっぱり全部限界突破してるみたいだよ!」
しかもそれがうじゃうじゃといるとなったら、そりゃあ斥候さんは白旗をあげるよね。
「うおおおお! 次元斬!」
『ひゃっほー! 大漁だぜ!』
白旗どころか意気揚々と突っ込んだ探索者さんが約二名。
最初だしボクも押し返しがてら行こうかな。
「フォローお願い!」
『任せて下さい』
『さっさと殲滅しちゃって』
「かのんもやりたいなの」
「が、がが、がんばって!」
後ろはパーティーメンバーに任せて京香さんとキングさんの所に向かう。
「邪魔、だよ、退いて!」
猿、鹿、犬。
動物系の魔物が多いみたいだけれど、所詮本能に任せて襲ってくるだけの相手。
例え限界突破していようが、返り討ちにするのは簡単だ。
フラウス・シュレインで確実に潰しながら前進する。
「救!」
『ようやく来たか』
「後ろのはまだ動かないみたいだから、ひとまずここら辺の魔物を一掃しよう」
様子見なのか全軍が一気に押し寄せてくることは無いみたいなので、襲い掛かって来る相手だけを掃除して態勢を整えやすくしよう。
「次元斬!」
『アックスバスター!』
「ケイオススラッシュ!」
向かってくる魔物の数はそれなりに多かったけれど、一撃で倒せる上に高速移動で一秒に一回くらいのペースで攻撃できるから三人もいればあっという間に数が減っていくね。
「うし、こんなもんか」
『はん、手ごたえが無さすぎるぜ』
「最初だしこんなもんじゃ……ぷぎゃ!?」
一掃してひと段落と思ったら、これまで倒した魔物達がもう復活しようとしていた。
ただすぐには襲撃してこない様子なので一旦戻ることにする。
『ぷ神様、いかがなさいますか?』
シンジテナイさんが相談に来たけれど、その呼び方集中出来なくなるから止めてくれないかな。
「あの再生の仕組み次第かな。誰か召喚士っぽいの見つけた人いる?」
もしいるのなら、その魔物を優先して撃破して増援を防ぎながら進むことになると思う。
でも残念ながら誰も召喚の気配を感じていない。
気付かなかっただけかもしれないけれど、最悪を想定して自動復活だと思って作戦を練ろう。
「なら囲まれながら強引に突破するしかないよね」
「私達なら平気だろ」
『だな』
魔物が減らないで補充され続けるのなら、その中を進むしかない。
きっと多数の魔物との戦い方が試されているのだと思う。
『そうなるとアレが問題よね』
攻略の相談をしていたらパッドさんもこっちに来た。
パッドさんが言うアレっていうのは城門の目の前に居座る巨大な魔物。
「レッドドラゴン」
奥多摩ダンジョン最奥ボスのレッドドラゴンとそっくりな魔物が城門を守る最後の番人として立ちはだかっているんだ。
『アレってスクイが普段狩ってるのと同じ奴か?』
「全然違うよ。同じのは見た目だけ。アレはパラメータがおかしいことになってそうだもん」
明らかに強さが底上げされていて、一撃で撃破なんてのはまず難しそうだ。
そいつを他の強い魔物に囲まれながら倒さなければならないっていう話だから、どう考えても難易度がこれまでのダンジョンとは桁違いだ。
もしかしたらボク達の今の実力に合わせた難易度になっているのかも。
『それともう一つ気になることがあるわ』
「気になること?」
『あの城門。魔物みたいなのよ』
「え?」
改めて城門を確認すると、確かに生命の息吹と高い魔力を感じられる。
「あの穴、砲門っぽいな。何か撃って来そう」
『上部のアンテナみたいなの、魔法放って来るんじゃねーか』
「なんだかとても面倒だね……」
でもそうも言ってられない。
どれだけ大変でも攻略しない選択肢はないのだから。
『あの、一つよろしいかしら』
「ミタさん」
いつのまにかミタさんもやってきた。
これでリーダー勢ぞろいだね。
『城門攻略の案が一つあります」
「どんな方法かな。教えて」
いいね。
こういうアイデアを出し合うのって一緒に攻略してる感じがする。
『単純な話なのですが、相手は城門ですので……」
リタさんのアイデアはとてもシンプルでボクたちにとても適したやり方だった。
ということで攻略方法けってーい。
「じゃあギャングさん、お願いします」
『俺ですかぁ!?』
「うん、一番の適任者でしょ」
ただ問題は、この作戦をやろうとすると魔物達が間違いなく総攻撃して来るだろうってことだ。
「友1さん、皆を守ってあげてね」
「ええええ!?」
「大丈夫だよ。今の友1さんの力なら防げるから」
「……がんばるー!」
あのレッドドラゴンがブレスを吐いて来ても耐えられる、はず。
もちろんそんな危険なことはさせないけれどね。
「前衛はひたすら倒すよ! 防ぐんじゃなくて押し返して殲滅するくらいの気持ちでやろう!」
ボク達がやるのは時間稼ぎだ。
でもそう考えると守りに入っちゃいそうだから、攻める姿勢を忘れないようにの気持ちがとても重要。
特にボク達はそっちの方が向いている人が多いから。
「来るよ!」
予想通り、準備を開始したら全ての魔物達が前進して来た。
『砲撃来ます!』
『雷撃注意!』
城門からも遠距離攻撃が飛んで来るっぽい。
「ここから先は通行止めだよ!」
二刀を持ち、目の前の空間をひたすらに斬りつける。
「スラッシュテンペスト!」
斬撃の嵐が魔物達へと降り注ぐが、多くの魔物が本能でそれを避けて進もうとする。
「バースト!」
だから斬撃の塊を
手負いの魔物なんて、ただの動く的でしかない。
『空からも来ます!』
高速移動でひたすらに魔物を駆除していたら、空からの襲撃の合図があった。
確認すると大小様々の鳥の魔物が襲って来ていた。
わざわざ跳び上がって迎撃するのは面倒だから、恥ずかしいけれどアレを使おう。
「ぷぎゃああああああああ!」
魔力を声に乗せて放つ対空砲撃で無数の鳥たちを撃ち落とす。
「ぷぎゃほうなの」
「だからその名前は認めないよ!」
「ぷぎゃああああああああなの!」
「かのん!?」
ボクを弄るために出て来たのかと思ったらまさかぷぎゃ砲まで再現するなんて。
ってぷぎゃ砲じゃなーい!
「救、ナイスぷぎゃ!」
『良いぷぎゃだったぜ!』
「二人とも酷い!」
でも軽口を叩けるって言うのは余裕がある証拠だ。
「おっとまた砲撃だ。次元斬!」
『ドンドンバンバンうるせえんだよ!
街一つ吹き飛ばすくらいの威力がある砲撃を京香さんとキングが対処してくれる。
ボクは魔物達の数をなるべく減らして他の前衛探索者さん達の負担を減らす。
今はこれでどうにかなっているけれど問題は……
『グオオオオオオオオ!』
レッドドラゴンが大きく咆哮すると、それだけでボクらはダメージを負ってしまった。
でもこれは本命攻撃の前行動に過ぎない。
『
キョーシャさんが全体全回復のスキルを使ってくれたけれど、ちょっと過保護じゃないかな。
この先もあるから魔力は大事に……あ、カマセさんとキスして回復してる。
そんな回復方法もあるんだ。
「どこ見てるんだ救!
「ぷぎゃっ!? そういうのじゃないんだって!」
全く、自分の戦いに集中してよね。
「皆、ドラゴンブレスはボクに任せて!」
あのドラゴンはボクが何度も戦ったレッドドラゴンよりも遥かに強いのは間違いない。
でも同時にボクが最も倒し慣れたドラゴンであることも間違いないんだ。
つまりボクが覚えたレッドドラゴン専用特攻技が活躍する場面だね。
『グオオオオオオオオ!』
世界そのものを溶かしてしまいそうな程に強烈な炎のブレス。
おそらくは火属性攻撃の頂点に位置する最強の一撃。
避けた筈の京香さんやキングが思わず顔を顰める程のソレが、味方であるはずの魔物を飲み込みながら真っすぐに飛んで来る。
「レッドドラゴンブレスイレイザー」
レッドドラゴンのブレスを斬り飛ばしていたらいつの間にか覚えていたスキル。
あまりにもニッチすぎて使う機会なんて無いと思ったらまさかこんなところで役に立つだなんてびっくりだ。
効果は名前の通り。
「えいっ」
ブレスを真正面から斬ると消えて無くなる。
それだけ。
「…………」
『…………』
『…………』
『…………』
あれ、おっかしいな。
魔物達の動きが止まったような気がする。
「また非常識なことやってら」
『さすがスクイ。俺様達の常識を悉く覆しやがる』
『あれは無いわね』
味方達の動きも止まったような気がする。
「皆、今は戦闘中だよ!」
まったく、集中しなきゃダメじゃないか。
『救様! 準備完了しました!』
「わかったよ! すぐにやって!」
丁度その時、ギャングさんから合図が来た。
ボクは後方に退いて遠距離組の中に混ざった。
八つの魔力ビットが巨大な円状に宙に浮き、城門の方を向いている。
円の内部には膨大な魔力エネルギーが溜まっている。
後衛の皆が速攻で溜めてくれたものだ。
『発動は嬢ちゃんに任せる。思いっきりやってくれ』
そうギャングさんが声をかけたのはセオイスギールさん。
確かにこの魔力の大半は彼女のものだから、彼女が動かすのが一番スムーズだろう。
ボクも今のうちに魔力を沢山注いでおこうっと。
『お、おい。あまりやりすぎないでくれよ。流石に壊れるかも……』
「あはは、大丈夫だよ」
なんたってあのビットはギャングさんが隠しボスを倒した時にもらった特製品なんだ。
魔力を無尽蔵に溜めて好きな角度や大きさで放つことが出来る魔道具。
そしてここには膨大な魔力の持ち主が沢山いる。
だったらやることは一つだね。
城門を破壊する王道の方法は何か。
それは槌。
もちろん本物の槌では無く、槌に見立てた魔力のレーザー。
魔力破城槌。
魔物ごと全てを破壊し尽くして城門を壊してしまおう。
まさにボクたちに相応しい攻略方法だよね。
八つのビットが回転を始め、とてつもない量の魔力エネルギーがうねりをあげる。
先程のレッドドラゴンのブレスなんて児戯に思えるくらいの魔力密度。
それの制御を可能にするビットはやっぱり異次元の存在だ。
セオイスギールさんが前に出て魔力に方向性を与えようとする。
パチパチと微かに音が鳴る中で彼女の髪がふわりと浮く姿はどこか幻想的で美しい。
そして彼女は全てを無に帰すキーワードを口にした。
『ふぁいあ!』
可愛くて少し舌っ足らずな合図とは裏腹に猛烈な衝撃を伴って魔力破城槌が飛び出した。
それは魔物達を飲み込み消滅させ、強大なレッドドラゴンでさえも塵すら残らなかった。
そしてそのまま城門へとぶつかり、何の抵抗もなく突き破った。
後に残ったのは辛うじて避けた魔物達と、プスプスと煙をあげる焦げた地面。
「皆走って!」
もしかしたらまぁるい穴が開いた城門が修復されてしまうかもしれない。
そうなる前に急いで突破するべくボク達は走り出した。
生き残った魔物達が襲って来たけれど、残党程度が止められるわけもなく、ボクたちは誰一人欠けることなく無事に城門を潜り抜けた。
ラストダンジョン、城門攻防戦、クリア。
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