4. ノーデスボーナス
「ぷぎゃああああ!」
流石に酷すぎない!?
「みぎからくるの!」
「わかってる!」
木々をなぎ倒しながら暴風のような何かが迫って来ている。
素直に逃げようとしても絶対に追いつかれるので一工夫が必要だ。
「グオオオオオオオ!」
「迫力ありすぎでしょ!」
やってきたのは狂乱状態になり大幅パワーアップしたガムイ。ボクを見つけると同時にドロップキックをしてきたので、それに乗るようにしてわざと吹き飛ばされた。
「ぷぎゃっ……きついっ……」
自分から飛んだので衝撃をかなり逃がせているはずなのに、猛烈な衝撃が体の芯まで響いて内側からバラバラに破壊されそうだ。少しでも気を抜くと意識を持ってかれてしまいそうな程の威力に、体が勝手に恐怖で硬直してしまいそうになる。
「グオオオオオオオ!」
しかもガムイはそのまま連続攻撃でトドメを刺しに来る。
吹き飛ばされたボクの上に覆いかぶさるように移動して、組んだ両手を振り下ろす。
直撃すればボクの体は木っ端みじんだろう。
「チェンジ!」
間一髪のところで遠くに出現させていた分身体と位置を入れ替えてどうにか窮地を脱した。
でもまだ安心はできない。
「ひだりとうしろからなの!」
「かんべんしてよ~!」
配信してから十数日が経過。
パワーアップした隠しボスをなんとか退けられるようになったと思ったら、更にパワーアップして人数まで増えちゃた。分身を使った位置の入れ替えでどうにか逃げきれているけれど、力の差がありすぎて倒すことどころかダメージを与える事すらままならない。ガムイなんか弱点だった魔法が効きにくくなってるんだよ。どうしろって言うのさ。
「ますたあよゆうじゃない?」
「聞かないで!」
余裕で生き延びるからボクを見ててね、なんてドヤ顔で言ってたのにこの有様。
恥ずかしくって皆に合わせる顔が無いよ。
「とにかく逃げるよ!」
「わかったなの!」
どうにかして安全なところまで逃げ切って休息したいけれど、敵が
これまで探索者をやっている中で死ぬかもしれないと思ったことが何度もあったけれど、今回が一番マズイ気がする。
皆を心配させるから封印してた蘇生からの強制パワーアップに賭けることになりそうだけれど、この状況だと仕方ないよね。生きるために仕方なくだから会議は勘弁してくださいお願いします。
「ますたあ!」
「ぷぎゃっ!?」
まさかの二十四人目!?
戦っている途中に目の前で増えるとか酷すぎるでしょ!
ハーピアさんの弦に体を巻き取られて動きを封じられてしまった。
大大大ピンチだ。
「グオオオオオオオ!」
周囲から隠しボス達が集まってくる気配がする。
十秒経たずにボクはフルボッコされて塵と化してしまうだろう。
こうなったらやるしかない!
遅延蘇生魔法をかける準備をしながら、その時が来るのを待った。
そしてボクの視界に無数の隠しボスの姿が目に入ったその瞬間。
『特別修練を終了します。ノーデスボーナスを獲得しました』
「え?」
突然例のアナウンスが流れて来て、隠しボス達が消えしまったんだ。
もちろん拘束からも解放されている。
「ますたあだいじょうぶなの」
「うん平気だよ」
死ななくて良かった。
そう安堵したと同時に、とある事実に気が付いた。
「
死ななかった時だけボーナスを貰えるということは、死ぬって想定されてたってことだよね!
「ゲームマスターさん!」
「その通り。良く生き延びたな」
呼んだらあっさり来ちゃった。
最近気軽に登場しすぎじゃない?
「序盤で敗北する想定だったのだが、しぶとすぎるだろう」
「それじゃあもし死んだとしてもペナルティは無かったの?」
「うむ」
そんなぁ!
こんなに必死に頑張ったのにそれはないよ!
「最初に説明してくれても良いのに」
「その場合は本気を出せないだろう」
「確かに」
死んでも平気だと言われたらとっくに諦めていたと思う。
そのくらい無理だって思える場面が沢山あった。
「それに楽しかったであろう。命を懸けた戦いを望んでいたのだから」
「…………ノーコメントで」
ここで『うん』なんて言ったら会議待ったなしだ。
「ますたあたのしそうだったからばれてるなの」
「ぷぎゃっ!? 違うよ! 歯ごたえのある相手と戦いたいって思ってただけだよ!」
死にそうな程に危険な戦いをやりたいなんて思ってなんかいないってば!
「歯ごたえあっただろう?」
「ありすぎだよ……」
「では楽しくなかったのか?」
「…………」
だからここで『楽しかった!』なんて言ったら会議なんだって!
答えられない質問しないで!
「ますたあはたのしそうだったからばれてるなの。にかいめなの」
「ぷぎゃっ!? かのんはちょっと静かにしてようか」
「ぶーぶーなの」
さっきから嫌な予感で背筋がゾクゾクしてるんだけど気のせいだよね。
皆のジト目と涙目が何故か脳裏に浮かび上がったけれど気のせいだよね。
お願い誰かそうだと言って。
「結局ボクは何で戦わされていたのさ」
「単に隔離されるだけだと暇であろう」
「え?」
待って待って。
まさかボクって、暇つぶしに戦わされてたの!?
「世界の様子を見ていてもつまらないだろう。それなら訓練でもしていた方がよっぽど身になる。違うか?」
「訓練だったんだ……てっきりイベントの一つかと思ってた」
「何を馬鹿なことを。クリア出来ない試練など与えない、と言ったのは誰だったかな」
「そうだけど、流石に最後の方はムリゲーすぎて勘違いだったかなって思ってたよ。本気で殺されそうって思っちゃったよ」
「はっはっはっ、さっさと敗北すれば真実に気付いたのにな」
笑い事じゃないよ、もう。
つまりまとめると、ここって隠しボス道場と同じような場所で死なない場所だったんだ。
それで皆が封印ダンジョンを攻略中は暇だから訓練させられてた。
そしてボクが訓練を突破し続けたから訓練の難易度がかなり上昇しちゃって、安全なのに絶望しながら必死に逃げてたってことだね。
「それにしても実に興味深い。どう計算しても生き延びることなど出来そうになかったのだが、まさか最後まで死なぬとはな」
運が良かっただけだと思うよ。
「しかもその影響で滅びがより遠ざかったのだから尚興味深い」
「え?」
ボクが訓練を頑張ったことで世界平和が近づいたってどういうこと?
「封印ダンジョンのクリアにはまだ相当の時間がかかる予測を立てていたのだよ。だが世界が急激に変化し、クリア目前となっている。しかも以前予測した時よりもクリア後の状態が改善される見込みになっているのだ」
「ますたあのはいしんのおかげなの」
「うむ」
「ぷぎゃっ!?」
配信ってボクが皆に向かってコメントしたやつだよね。
あれだけでそんなに変化があったんだ……
「ではそろそろ退散しようか。ゲームマスターが姿を見せすぎるのも興覚めだろう」
「え、待ってよ。ノーデスボーナスっていうのを貰えるんだよね。それ教えてよ」
「なぁに簡単なことさ」
その瞬間、周囲の風景が切り替わった。
ここまでは自然豊かなフィールドだったのに、闘技場みたいな場所に変化した。
そしてその闘技場の観客席と思われる場所に十個の巨大なクリスタルが置かれていた。
「封印ダンジョンのボス戦を観戦するより、こっちの方が良いだろう」
その声を最後にゲームマスターさんは帰っちゃったみたい。
「つまりボクも封印ダンジョンのボスと戦えるんだ。しかも全部!」
確かに見ているよりも戦ってみたい。
さっきまで戦っていた隠しボスよりも弱いだろうけれど、それでも初見の魔物と戦うのはワクワクするもん。
「ますたあうれしそうなの」
「うん、ようやく役に立てそうだからね」
「やくにたてるなの? ますたあのためのおあそびじゃないなの?」
ゲームマスターさんの言葉を信じるのならば、ここから先はボクを楽しませるためのイベント戦闘。ノーデスボーナスという報酬タイム。
でも果たして本当にそんな単純なイベントなのかな。
それにさっきまでの訓練もボクの暇つぶしみたいな言い方だったけれど本当にそうなのかな。
ここでボクが封印ダンジョンのボス達と戦うことも、無茶苦茶な訓練で鍛えさせられたことも、意味があるんじゃないかって気がしているんだ。
例えばボクがここで倒すと実際のボスが弱体化して皆が楽になる、とかね。
あくまでも想像だから違うかもしれないし本当に単なるお遊びかも知れない。
逆にボクが倒すと実際のボスが強化されるなんて意地悪な設定の可能性もある。
その答えは絶対に分からないようにしているはずだから、戦うしかないんだけどね。
単なるお遊びだと思うよりも、意味があるって思った方がやる気も出る。
「それじゃあかのん」
「わかったなの」
十個のクリスタルの中のどれかが壊れて中の魔物が出現するのだろう。
でもそれにはまだ少し時間がかかるはずだ。
「おやすみ~」
だってボク戦った直後でヘロヘロなんだもん。
体力回復の時間くらいはきっとあるよね。
アイテムボックスから取り出したベッドに横になりおやすみなさ~い。
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