5. 封印ダンジョンボスバトル そのいち
クリスタルの一つに大きなヒビが入り、中から一匹の魔物が飛び出して闘技場に降りて来た。
「ゴーレム?」
見た目はシンプルな二足歩行の人型ゴーレムで、ボクよりも三倍くらい背が高い。
素材は金属っぽいからアイアンゴーレムとかオリハルコンゴーレムとかの仲間なのかな。
「グオオオオオオオ!」
動きはあんまり速くないね。
さっきまで速すぎる相手と戦ってたからそう感じちゃうだけかもしれないけれど、最難関ダンジョンを攻略出来るレベルなら後れを取ることは無さそう。
「フラウス・シュレインはまだ出せないんだ」
それに能力の限界突破も封印されたまま。
とりあえず他の武器でどうにかしよう。
隠しボス達と違って手持ちの武器が通用するはずだから。
シンプルにブロードソードで良いかな。
意匠に拘ってないから無骨な見た目だけれど、最難関ダンジョン深層の魔物が素材だからそれなりの武器だ。
「それなりじゃなくてすごいぶきなの」
「僕の心を読まないで! 行くよ!」
ゴーレムの右腕を切断しようと飛び掛かり、肩口を狙って振り下ろす。
「あれ?」
でも切断するどころか『カン』って金属音すら鳴らなかった。
加えた力がふっとゼロになったかのような不思議な感触。
この感触をボクは知っている。
「物理無効かぁ」
物理無効ゴーレム。
もしかしたらこの相手をしているのは京香さんかもしれないね。
「じゃあ京香さんっぽく対処してみようかな」
物理無効の相手をどうにかするために生み出した、今となっては京香さんの定番のあの技。
「次元斬!」
超細かく剣を振動させることで何故か空間を切断できるようになった特殊剣技。
斬っているのは空間だから相手に対する物理攻撃にならないという謎理論。ダンジョンは謎理論ばかりだから詳しく考えちゃダメ。
「あれ?」
次元斬でさっきと同じところを斬ろうとしたらまた手ごたえが無かった。
物理無効で無効化されたのと同じ感触だ。
「次元斬の対策もされてるのかぁ」
となると京香さんは苦労してそうだね。
それなら試しに魔法を使ってみよう。
炎の定番魔法。
「フレイムランス!」
炎の魔力で練り上げた炎の槍をゴーレムの右腕に向かって投げてみた。
「すごいいりょくなの」
「そうかな?」
このくらいなら出来る人たくさんいると思うよ。
でも過剰な威力だったとは思うかな。
だってあっさりと右腕が消滅しちゃったから。
やっぱり魔法は効くんだね。
あ、でもすぐに生えて来た。
コアを潰さないとダメなパターンかな。
「どうしよっかな」
「なにをまよってるなの?」
「せっかくだから京香さんならどうやって倒すか考えてみようかって思ってさ」
このまま魔法を使って押し切るのは簡単だけれど、京香さんの倒し方を真似出来たら喜んでもらえると思うんだ。
「きっとまほうをつかうなの」
「それが普通なんだけれど、京香さんだからなぁ」
京香さんも魔法を使えるけれど、この強さのボス相手に通じるかどうかは微妙なところ。魔法剣にしてみるとか工夫する手もあるけれど、答えは多分違う。
斬る。
相手が物理無効で次元斬すら無効にするのなら、その上で斬れば良い。
これこそが京香さんの考え方のはず。
そのためにやるべきことは次元斬を完成させること。
次元斬は名前こそ次元斬と呼んでいるけれど、次元を斬っているわけじゃない。
空間を斬っているだけなんだ。
本当に次元を斬ってこそ次元斬。
何を言っているか分からないかもしれないけれど、京香さんなら間違いなくこう考える。
理屈じゃなくて感覚で技をイメージするんだ。
剣を振動させ、空間を震わせ、次元にまで干渉するイメージを抱く。
これだ!
「真・次元斬」
振り下ろした剣が今度は何にも引っ掛かることは無かった。
斬った感触すら無かった。
でもゴーレムは綺麗に真っ二つに……
「ぷぎゃっ!?」
真っ二つどころかほとんど消滅してる!
編み出しておいてなんだけど威力強すぎだ。
練習しないと危なくて特に人がいるところじゃ使えないや。
「よし、一体目完了」
次は……おっと、もうヒビが入ってる。
これってどういうタイミングで登場するのかな。
配信されてるわけだから、ボクが先に戦っちゃうとネタバレになるよね。
ということは皆が倒したらここに出てくるのかも。
となると、さっきのが京香さんの相手だったとすると、京香さんは一番に倒したってことになる。
さっすが京香さん。
おっと魔物が出てくるからそっちに集中しないと。
次の魔物は大きな鏡。
縦長の楕円形で、縦の長さは二メートルくらいかな。
それが八枚あってボクを囲むように宙に浮いている。
「普通に攻撃しちゃダメな雰囲気だけど、やってみないと分からないよね」
警戒しながら鏡の一枚に向かって遠距離指弾を飛ばしてみる。
「やっぱりね」
ボクの攻撃がそっくりそのまま跳ね返って来た。
予想していたから特にびっくりしなかったよ。
「見た目通りの性能なんだ。なんでも反射するのかな」
ちょっと試してみよう。
反射。
反射。
うわ、鏡から剣が生えて来た。反射。
これ何も考えずに真・次元斬とか使ったら反射されて即死してたかも。
やっぱり侮っちゃいけない相手だね。
「ますたあ、あふりかのあのこだいじょうぶなの?」
「え?」
アフリカのあの子ってセオイスギールさんのことかな。
確かに彼女だと危ないね。
もしかしたらこのボスの相手は彼女なのかも。
「ちゃんと考えるようにって教えたから大丈夫だと思うよ」
ボスがここに出現しているってことは倒したってことだと思うけれど、それでも少し不安だ。
彼女は弾幕をばらまいての攻撃が好きだから、初手でそれやらかしたら全部反射されて詰んでしまいそう。
「今はどうやって倒すかを考えよう」
ボクがここで悩んでいても結果は変わらないんだ。
今は目の前の戦いに集中しよう。
とはいってもどうしよう。
全部反射する魔物。
反射タイプの魔物はこれまで何度も戦ったことがあるけれど、反射できない攻撃があるとか弱点部位があるとか反射許容量以上の攻撃をするとか攻略方法が必ずあった。
この魔物の場合は何だろう。
「八体もいるのが怪しいかな」
「どうしてなの?」
「全部反射するなら一体だけで十分でしょ」
ボクが全方向に範囲攻撃したら反射されてとんでもないことになるけれど、明らかに反射しそうな相手にそんなことをするわけがない。セオイスギールさん用のボスだからそういう罠をしかけている可能性もあるけれど、だとしても複数体存在する理由がそれだけとは思えない。
「ちょっと試してみるね」
短剣を正面の鏡に向かって投げてみる。
するともちろん短剣が跳ね返ってくるのだけれど、それを他の鏡に当たるように避けてみる。
この鏡はボクの位置を基準に位置取っているから誘導が出来るんだ。
「やっぱり予想通りだね」
当たった短剣は更に反射してボクの方に向かって来たけれど、重要なのはそっちではない。
反射した鏡の色が変わったんだ。
間違いなく意味がある。
「全部に反射させるのかな……それとも同じのに何回も当てるとか……」
「ますたあたのしそうなの」
「戦闘メインの探索者で攻略方法を考えるのが嫌いな探索者は居ないと思うよ」
しかもこの相手は自分から攻撃を仕掛けてこない。
時間経過で発狂するパターンかもしれないから安心はできないけれど、しっかりと考えて安全に倒そうとしているのだから楽しんでも怒られないでしょ。
「ということでまた色々と試すよ。今度は激しくなるから気を付けてね」
「わかったなの」
……
…………
……………………
「や、やっと終わった……」
「おつかれさまなの」
結論から言うと、一度の攻撃で全部の鏡に順番に反射させるのが撃破条件だった。
それだけなら簡単なんだけれど、反射途中からあまりにも厭らしい妨害の嵐。
三回目の反射までは何も起きなかったのに、四回目は反射すると同時に超高速レーザーを放ってきた。
五回目は反射された攻撃が分身して本物が分かりにくくなった。
六回目は全ての鏡からレーザーやら不可視のかまいたちやら大量の攻撃が飛んで来た。
七回目はデコイが大量に増えた上に鏡の動きが不規則に変化。
八回目は全部の鏡から超威力極太レーザーが放たれた。
もちろん反射に失敗したら最初からやり直しだ。
ちなみに八回目の反射攻撃を最初に攻撃した鏡に当てると撃破なんだけれど、それを失敗すると鏡が一枚増える。もちろん妨害もその分激しくなった。
最初のゴーレムと比べて難易度が違いすぎるのはなんでさ。
あのゴーレムも一撃で倒しちゃったから分からなかっただけで、実は何か隠し能力があったのかもなぁ。
いや、それよりもセオイスギールさんがどうやってこのボスを倒したのかが気になる。
まさか全方位攻撃をし続けて反射や追加攻撃を必死に避けて偶然条件を達成したとか無いよね。
ありえそうでちょっと怖い。
「とりあえずここまでかな」
「ほかのはまだなの」
クリスタルが割れたのは二つだけ。
他がまだ残っているってことは、皆苦労しているってことなのかな。
クリスタル全部割れるよね?
不安だけれど皆を信じよう。
そして一緒にラストダンジョンに挑むんだ!
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