2. VS再戦隠しボス(ハードモード)は超楽しい!
右はハーピアさんの見えない弦の罠だらけ。
左はソーディアスさんの確定斬撃が沢山設置されている。
中央はガムイが待ち構えている。
それならまずはソーディアスさんからだ。
ソーディアスさんの斬撃は一度何かを斬ってしまえば消えてしまう。
だから指弾を飛ばして敢えて斬撃に当てることで消滅させる。
問題はボクが限界突破出来なくなったことで、彼女とのステータスの差が開いてしまったこと。接近戦に持ち込んでも有利に戦えないんだ。劣っている分はどうにか技術で補わなければならない。
「やっ、ぱりっ、むずかっ、しいっ、ねっ!」
無駄のない美しい剣閃がボクの命を刈り取ろうとしてくるけれど、当たってやるわけにはいかない。
ステータスで劣っているから攻撃を見てから避けるのは間に合わない。
彼女の動きを想像して先読みで躱しながら隙を伺う。
せめて彼女の剣を受け止められる剣があればなぁ。
手持ちの剣だと合わせた瞬間に斬られちゃうもん。
「っ!」
二度、三度と剣がボクの体を掠り、その度に赤いものが飛び散ってしまう。
最近は安定を取りすぎていたからか怪我を負うことは殆ど無く、この痛みは久しぶりでなんだか懐かしいや。
なんて感傷に耽っている場合では無い。
このままだとボクにだけダメージが蓄積されてしまうから、どうにか攻撃しないと。
ステータス差がある相手の攻撃を避ける方は先読みで可能だとしても、攻撃を当ててしかも高いダメージを与えるのはとても難しい。
皆に怒られそうだけれど、ある程度のダメージを覚悟で仕掛けるしかない。
剣技のエキスパートであるソーディアスさんは隙なんて見せるはずがないからどうにかして隙を作らなければならない。かといって定番の肉を斬らせて骨を絶つをやろうとしても肉ごと命を斬られてしまいかねない。
振り下ろし、違う。
横薙ぎ、違う。
払い、違う。
突き、ここだ!
「自爆カウンター!」
受けた攻撃と同じ個所にダメージを与えるカウンター技。
例えば腹を剣で突かれたら、突いた相手の同じ場所にダメージを与える。
ただしダメージは半分になってしまう、相手と自分が似たような体型でなければならない、相手の方がダメージを負っていたら発動しない、このカウンターで相手が死ぬ場合は発動しない、など様々な制約があって使い勝手はとても悪い。
でも隙を作るくらいなら出来るだろう。
ソーディアスさんの突きを急所から逸らして肩で受けると彼女の肩にも半分程度のダメージが自動的に与えられる。そしてその予想外の攻撃に彼女が驚いているうちにボクはアイテムボックスから自前の剣を取り出して振り下ろす。
流石に超反応で後方に避けようとするけれど、僅かな反応の遅れが致命的だ。
「かのん!」
「まかせたなの!」
戦いの最中、ボクはかのんに特殊なバフをかけてその効果を溜めて貰っていたんだ。
それは一時的にステータスを限界突破させる効果があって、それをボクに返してもらうことで一瞬だけれど最盛期と同じ力を取り戻せる。そのバフを普通に使おうとすると攻撃禁止になっちゃうので、敢えてかのんを経由することでそのデメリットを無効化した。
効果は一瞬だけで十分。
ソーディアスさんは中途半端な逃げの体勢になっているため避けられず、ボクは彼女の体を真っ二つにして撃破した。
「やった倒した!」
「よろこんでないではやくかいふくするなの!」
「う、うん」
かのんったらせっかちさんだな。
このくらいまだ平気なのに。
「もどったらかいぎなの」
「回復するから! ほら、もう元気いっぱい!」
「まったくなの」
ここで一番厄介なのはかのんかもしれない……
「まだてきがいるなの。ゆだんはだめなの」
「もちろんだよ」
気を抜いているように見えるかもしれないけれど、油断なんて出来るはずがない。
ソーディアスさんがボクをハーピアさんが張った罠の方へ追いつめようとしていたことは気付いてたんだ。すぐそこに沢山の弦が張られていて、状態異常効果マシマシのハープの音色が聞こえてくる。
「かのん、お願いがあるんだけど」
「だめなの」
「まだ何も言ってないよ!?」
「はいしんはつづけるなの。やめたらみんながもっとしんぱいするなの」
「そうだけど、少しだけで良いからさ」
「だめなの」
「危ない事を誤魔化そうとしてるわけじゃないんだよ?」
「だめなの。ますたあのおうたをながすなの」
「ぷぎゃ!? バレてる!」
音楽には音楽に対抗。
ということで歌を歌ってハーピアさんの音色攻撃を無効化しようと思ってたんだけれど、恥ずかしいから配信を止めて欲しかった。
でもかのんが認めてくれないよ、ぐすん。
「ますたあのおうたをきけばみんながげんきになるなの」
「そんな効果は無いよ!?」
「あるなの。ここでけしたらぜったいにおこられるなの。じぶんをきずつけるよりおこられるなの。それでもよいなの?」
「あはは、そんなまさか~」
「…………」
「そこで無言は止めて!?」
絶対に冗談だと思うけれど、どうしてか怒られる姿が容易に想像出来ちゃった。
「ますたあ、くるなの。あきらめるなの」
「ぷぎゃあ……どうしてこうなっちゃうの」
「おんがくすたあとなの」
「ああもうやれば良いんでしょ!」
配信されていることは今は忘れよう。
「~~~~っ!」
「~~~~」
かのんBGM流せたの!?
歌いやすくて助かるけれど、こうなるならかのんに音波攻撃を打ち消す方法を覚えさせてBGMで消してもらえれば良かった。
さて、ここからがとても忙しいから集中しないと。
歌を音波攻撃にぶつけて消す。
見えない弦攻撃を避けながらハーピアさんの元へ向かう。
ハーピアさんを攻撃して倒す。
これらを全部同時にやらなきゃダメなんだもん。
でもハーピアさんは他の二人と比べてボクとのステータス差があまりないから、辿り着けてしまえばこっちのものだ。
ハーピアさんは森の中に陣取っている。
ただでさえ見えない弦をより見つけにくくするためなのかな。
うわ、ハープの音色が弦に反響して四方八方から迫って来る。
しかもそれぞれの音色ごとに効果が全く違う。
上からは混乱、左からはマヒ、右からは睡眠、下からは恐怖。
もちろんこれら以外にも大量の音波が迫ってきている。
全種類別々の音波だから、打ち消す方も別種類の音を発して消さなければならない。
ア〇パ〇マ〇の難易度じゃないよ!
くぅっ……進めば進む程に音の量と種類がどんどん増える。
このままじゃ音に押し潰されて大量状態異常からのゲームオーバー確定だよ。
だ、だめだ……一旦引き返……あ、あれ?
何故か音の数が減った。
ううん、違う。
これはまさか、かのんが手伝ってくれてるの?
BGMを使ってハーピアさんの音を消してくれている。
教えてないのにボクの真似をしてフォローしてくれている。
あはは、かのんったらどこまで成長するのかな。
考えたことも無かったけれど、もしかして探索者として結構強かったりして。
何はともあれ、これで余裕をもって進めるよ。
楽しくお歌を歌って奥を目指そう。
ハーピアさんはあくまでも音だけでボクを倒すつもりなのか、他の攻撃を一切してこなかった。
切り株の上に座って優雅にハープを弾く姿を目撃してもなお何も変わることはなく、あっさりと撃破出来ちゃった。
よし、これで後はガムイだけ……しまった!
歌に夢中になりすぎていてガムイの接近に気付かなかった。
ガムイは基礎パラメータが異常なほどに高く、最初に出会った時は何度も殺されちゃった。
今の限界突破出来ないボクにとって最も相性の悪い相手であり、絶対に接近されたくなかったのにそれを許しちゃった。
気付いた時には目の前に居て拳を振りかぶっている。
アレは間違いなくボクに直撃して殺されるだろう。
「身軽! ぐはっ!」
防御すらままならず、ガムイの攻撃はボクの胸に直撃して大きく吹き飛ばされる。
このままガムイは飛ばされるボクを追って連撃を仕掛けてくるだろう。それを避けることが出来ずにボクはなすがままに攻撃を受けて殺されてしまう。
間に合わなかったならば、の話だけれどね。
ガムイの攻撃を受ける直前に発動したスキル『身軽』。
これは体を異常なまでに軽くして移動スピードを上昇させる効果があるんだ。
ガムイの超威力のパンチでボクはものすごい勢いで吹き飛ばされ、ガムイも追いつくには一瞬以上の時間がかかる。その間に貯めておいた魔力貯蔵石を使って中距離転移でどうにか距離を取った。ぴなこさんの真似をさせてもらったよ。
「あぶな……かったぁ……」
「ますたあ! かいふく!」
「やってるよ……」
エリクサーで一瞬で回復したいところだけれど、ボクがここにどれだけの期間閉じ込められてどれだけ戦わせられ続けるのか分からないから節約しないと。
「よし、やるよ」
完全回復している時間は無いから、動ける程度に回復したら行動する。
じゃないとまた直ぐにガムイに襲われちゃう。
「かのん、少し離れてて」
「わかったなの」
空に飛んでガムイが移動して来る方法を目視する。
パラメータで大きく劣るガムイを倒す方法は一つ。
「セオイスギールさん、真似させてもらうよ!」
イメージするのはいかさまドラゴン。
全てを喰らう八つの属性の龍の首。
そして同時に大量の属性弾を生成する。
一般的な属性しかないけれど威力は十分だ。
「ファイア!」
それらを全てガムイに向けて放った。
ガムイの本来の攻略方法は、前衛が必死に攻撃をさばいてその隙に遠距離攻撃を与える方法なんだって。物理攻撃で倒せないような力の差になっているのに、ボクは強引に限界突破して倒しちゃった。でもあれは奇跡的に成功しただけであって次は失敗するかもしれないから今回は使えない。だから弱点である遠距離攻撃を使って近づかせずに倒すことにした。
「ファイア! ファイア! ファイア!」
うわぁ、魔法を素手で握りつぶしてる。
突撃させた龍の首も破壊されちゃった。
あれで遠距離攻撃が弱点なんて言うんだから笑っちゃうよね。
一応ダメージは与えられているみたいだけどさ。
さてと、ボクの所に接近される前にトドメをさそう。
アイテムボックスからメガホン形状の道具を取り出す。
そして空洞部分に魔力を篭めて篭めて篭めて篭めて…………
「ぷぎゃああああああああ!」
声を媒介に発射する高威力魔力砲だ。
これを喰らえばいくらガムイでもひとたまりもない。
「ぷぎゃほうなの」
「かのん!?」
そんな名前なんて認めないからね!
「まだいきてるなの。もういちどぷぎゃほうなの」
「……やりたくない」
「わがままはだめなの」
そんなこと言っても……ぷぎゃ!?
ボロボロのガムイが物凄い勢いで向かって来てる!
「ぷ、ぷぎゃああああああああ!」
ふぅ、今度こそ倒せたみたい。
びっくりしたぁ。
「おつかれさまなの」
「かのんもおつかれさま」
死にそうなケースがほとんど無かったもん。
最初にここに飛ばされた時はもうダメかと思った。
良くあの動揺している状況で倒せたと思うよ。
「またおやすみするなの?」
「ううん、今回は大丈夫」
実は隠しボスを倒すのはこれで……何回目か忘れるくらいの回数なんだ。
どうやらここでは隠しボスが一定間隔で出現するらしくて、一度倒すとしばらくの間は休憩させてもらえる。
いつもは倒し終わった後に死にかけていたからすぐに寝て回復に努め、隠しボスが出現したらかのんに起こしてもらってまた戦うっていうループを繰り返していた。
でも今回はダメージがそれほど酷くないから速攻で寝る必要は無い。
「へいきでもやすむなの」
「うん、分かってる。でもその前にやりたいことがあるんだ」
ここにかのんと一緒に隔離されたことが分かってからずっとやりたかったこと。
生き延びることを最優先にしていたから後回しにしていたこと。
配信だ。
ボクの今の気持ちや気付いたこととかを皆に伝えて参考にしてもらいたいって思ったんだ。
きっと向こうは大混乱になっているだろうから。
「改めて聞くけれど、かのんはボクの様子を配信出来ているんだよね」
「そうなの」
「じゃあ少しだけお話をしたいんだけれど」
「わかったなの」
――――――――
「ふぅ……」
なんか配信の方が疲れた気がする。
隠しボスと戦っていた方が遥かに気が楽だよ。
というか楽しい。
超楽しい。
持てる力をフル活用してギリギリの戦いをする経験なんてしばらく無かったもん。
もちろん絶対に怒られるから言えないけれどね。
「ますたあたのしそうなの」
「…………」
「ぜったいばれてるなの」
「さ、さぁ~て寝ようかな」
「ごまかしかたがへたなの」
人の気持ちなんて認めなければ事実じゃないもん!
なんて楽しんでいたからバチが当たったのかな。
それとも偶然このタイミングだったのかな。
「うわぁ、ガムイが三体も、しかも……」
隠しボスの能力が上昇しちゃった。
――――――――
あとがき
本年の更新はこれで最後になります。
新年の更新開始は少し遅れますがお待ちくださいませ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます