3. [配信回] 三陸沖ダンジョン 海中探索
「というわけで、考え無しに行動するのは危険だよ」
『……分かった』
「本当に?」
『……多分』
不安だなぁ。
これまで力押しでしか攻略してこなかったから仕方ないとはいえ、最難関ダンジョンの攻略は頭を使って慎重に進めるのがとても重要なんだよ。最難関ダンジョンの魔物を安定して倒せるようになるほど実力をつけても命を落とすトラップが沢山あるんだ。
三陸沖ダンジョンの鳥トラップもそうだけど、以前紹介した高千穂ダンジョンの転移トラップなんか、ボクだって死んでしまうと思う。
だからダンジョンをしっかりと理解して攻略することがとても大事。
セオイスギールさんも頭を使う癖をつけないと死んじゃうかもしれない。今回身をもってダンジョンの危険性を理解してくれたとは思うけれど、反応が淡白で心配だよ。
『今回は……ついていく……だけにする』
「おお!」
慎重にダンジョンの様子を観察して攻略方法を勉強してくれるってことかな。
ボクの気持ちが伝わってくれてたようで良かった良かった。
"セオイスギールさん無茶しないでね"
"心配させるのは一人で十分"
"誰かさんみたいになっちゃダメだよ"
"[シルバー友1] 救様も無茶しないでね!"
"卒業してから友1のコメント増えたなw"
"毎日会えてたのが離れ離れになったんじゃしゃーない"
さて、それじゃあ攻略を続けよう。
「先への入り口の場所は知ってるから案内するね」
ちなみにその場所の見つけ方は、さっきのボクみたいに魔力を使って違和感のある場所を探したり、海中の魚や魔物の動きを見て推測するとかいくつか方法がある。強引に足元をぶち抜いて海に落ちると酷い目に遭うから絶対にやっちゃダメ。
「来る!」
不安定な波の上を歩いていたら、下から魔物の気配を感じたので軽く後方に跳んだ。すると顔の先端が鋭く長い魚が飛び出して来た。避けなければ体が串刺しにされていたに違いない。ちなみに物凄いスピードで迫って来るから海中を注視するだけじゃ気付かない初見殺しの魔物だ。
"ヒエエエエエエエ!"
"怖えええええええ!"
"カジキかな?"
"速すぎて見えません!(非探索者)"
"油断したら一瞬であの世行きか……"
"セオイスギールさんは自動で体が避けてくれるから楽そう"
"いやいやいや、スキル発動しなかったらどうすんのさ"
"スキルは保険くらいに考えるべきだって救様も言ってただろ"
その通り。
昔のボクだってエリクサーがあるからってわざわざ不必要に攻撃を受けるなんてことはしなかったんだよ。特に初見ダンジョンは少しずつ時間をかけて慎重に攻略してたんだ。
セオイスギールさんはアフリカ中の多くのダンジョンを攻略しているから時間が無くてスピード重視になっているのかもしれないけれど、それは危険すぎるって覚えて貰わないと。アフリカの探索者を急いで鍛えてセオイスギールさんの負担を減らすのも重要だね。
"これもう地雷原だろ"
"めっちゃ飛び出して来る"
"二人とも体捻るだけで軽く避けてるけれどどうやって気付いてるんだろ"
"察知系スキルなんだろうけど、気付いても平気で進めるのが凄い"
"もし察知ミスしたらと思うと怖いよな"
"当たった時のための保険かけてるんじゃね"
"遅延蘇生もあるし、そりゃあそうか"
"[シルバー友1] でも見ていて怖いよー"
皆を心配させてるみたいだから、ここは早く通り過ぎようか。
ここさえ抜けてしまえば、目的の場所までは特別危険な魔物は出てこないからね。
ということでスピードアップして一気にその場所まで移動した。
「ここからは海の中を泳いで移動するよ」
三陸沖ダンジョンは上層、中層、下層、深層という括りが無くて連続する三つのゾーンに分かれている。その二つ目のゾーンが海中迷路だ。
「セオイスギールさん、説明した通り無理そうだったら脱出アイテム使うんだよ。それと何があっても冷静にね」
『……がんばる』
もしもパニックになったら強引に彼女と一緒にアイテムで脱出しよう。
それほどにこの先は危険だから。
"泳げない人は攻略できないのか"
"いやいや、泳げる人でも重い探索者装備だと無理だろ"
"私服でも水吸って沈むしな"
"それじゃあどうするの?"
"そりゃあ……水着?"
"!?"
"!?!?"
"京香様は正しかった!?"
「正しくないから! この服でも泳げるようになってるの!」
どういう仕組みか分からないけれど、何を着ていても自由自在に泳げるような仕組みになっているんだ。
"ええー!"
"ええー!"
"ブーブー!"
"み・ず・ぎ! み・ず・ぎ!"
"おまえらwww"
"気持ちは分かるけどさw"
仮に服装の影響が現実での海と同じだったら、それはそれでスキルでなんとかするから水着はあり得ないよ。
「それと、ここからは息が出来なくてお話し出来なくなるからコメントも読めないからね」
これまでは安全な時以外でコメント読むと怒られるから自重していたけれど、ここからしばらくは完全に読む余裕が無いので申し訳ないけれど海中の旅に集中させてもらうことにする。
"え? 息が出来ない?"
"それじゃあどうやって進むんだ"
"息を止めて泳げるのなんて僅かな時間だろ"
"パラメータが高くなると長くなるとか"
"ありそう"
"あるいはスキルで対処するかだな"
ふふ、呼吸について気になっているみたいだね。
それは中に入って見れば分かるよ。
「さぁ、セオイスギールさん」
『…………うん』
彼女と手を繋ぎ、海の中にダイブする。
そして飛び込んだ勢いのまま数メートル潜ってから周囲を見回す。
そこはまさにお魚天国。
大小様々なお魚たちが、群れを成して、あるいはソロで悠々自適に泳いでいるんだ。
"うわぁ……"
"綺麗……"
"魔物だけじゃなくてお魚もいるんだな"
"鮮やかなお魚さんやキラキラ輝いているお魚さんがいっぱい"
"まさに海の世界だね"
普段は見る事の出来ない海中の様子にテンションがあがり、息が続かず戻るまでがお約束。
かと思ったらセオイスギールさんは案外平然としていた。
これならこのまま進めるかな。
周囲を確認すると下の方からボクの体よりも大きなボール状の泡が上昇して来ているので、そこに向かって泳ぐ。
そしてそのボールの中に入ると空気を補充できるようになっているんだ。
「ぷはぁ。セオイスギールさん大丈夫?」
『……平気』
初めてなのにずいぶん頼もしい。
ここから先に進んで海上に出ようとすると天井にぶつかったかのような感じになって出られないんだ。
だからこの泡を伝って少しずつ空気を補充しながら進まなければならない。
そしてこの泡も中に入るとすぐに消えてしまう。息が出来なくなることが不安で焦ってしまうと直ぐにもたなくなってしまうから、冷静に落ち着いて進むことがとても大事なんだ。
「さぁ行くよ」
泡がもう消えそうなので、また海に飛び出した。
次の泡の場所を確認してから、そっちの方向に向かって泳いでいく。
基本はこうして泡から泡へと渡って行くのがここの探索方法なのだけれど、海中迷路なので途中で選択肢が出てくる。しかも外れの道はただ迷うだけじゃなくてトラップが仕掛けられている場所もあるんだ。ただでさえ動きや呼吸が制限されているのにトラップまで発動となると間違いなく焦ってしまい、これまた初見殺しだと思う。分かっていれば冷静に対処できるものがほとんどなんだけどね。
そしてもう一つ気をつけなければならないのが魔物の襲撃だ。
"サメだあああああああ!"
"アレって魔物!?"
"この条件で魔物とも戦うだなんて辛すぎる"
"と思ったらあっさりと真っ二つですかそうですか"
"もう少しじっくり戦うかと思ったら違ったな"
"流石にここは危ないし戦闘に時間かけられないから速攻撃破が基本なんじゃね?"
"俺達のSAMEが……"
"いやでもあれは鮫じゃないかもしれんぞ"
"そのこころは?"
"さめが海で泳ぐはずがない!"
"どういうことよwww"
"さてはてめぇ、サメ映画学会員だな?"
襲ってくる魔物は見た目がいかついのが多くて恐怖を煽って来る。
でも実は強さは大したことが無いから、冷静に対処することがとても重要。
普通のお魚の中に魔物が混じってたり、周囲の風景に擬態して突然姿を現したりと、お化け屋敷かのように脅かして来るから、多分この空中迷路のテーマは何度も言っているように『冷静』なんだと思う。
敵が弱いから道を覚えて慣れてしまえば綺麗な景色の中で優雅に泳げる楽しいゾーンなんだよね。
以前は気分転換に時々ここを探索してた。
おっと、珍しい魔物が上を泳いでる。
"でっっっっっっっっか!"
"何あれ!?"
"クジラか?"
"戦艦みたいな大きさだ"
"こんな海の中でアレに襲われたら……"
"でも攻撃してこないぞ"
"もしかして魔物じゃない?"
"あるいはノンアクティブなのかも"
"あ~亀みたいなものか"
三陸沖ダンジョンでの最強の魔物。
戦艦クジラだ。
こちらから攻撃を仕掛けない限りは襲って来ないけれど、もし挑むならばそれ相応の覚悟が必要になる。
超強い。
最奥ボスよりも強いかもしれない。
あまりにも硬い装甲と大量の機雷。
腹部から無限に生み出されるお供の小型鮫は攻撃力もさることながら空気の泡を積極的に潰しに来る。
それでも辛抱して戦っていると水流が竜巻のように激しく変化して泳ぐのが困難になり、しまいには新たなお供のふぐ型魔物が自爆特攻して来る。
今のボクなら安定して倒せるけれど、最初に倒した時は死ぬかと思ったよ。今日はセオイスギールさんがいるから戦わないけれど、後で戦艦くじらと戦う配信をして絶対に手を出さないようにって周知しないと。
よし、さっさとここを抜けちゃおう。
クジラや海中迷路のトラップを紹介するのはもっと時間があって準備をしっかりしてからだ。
幸いにもセオイスギールさんは未だにパニックになることなく、むしろどことなく楽しそうな雰囲気で泳いでいる。問題無くゴールまで辿り着けそうだ。
「ぷはぁ!」
ゴールまで辿り着くと、その先は最後のエリア洞窟ゾーン。
このダンジョンの入り口みたいなところで、時間経過で海水の高さが変わるので注意が必要。
「今日のダンジョン紹介はここまでだよ。すぐそこの広場にセーフティーゾーンがあるんだ」
セオイスギールさんとはそこでお別れをする予定だからね。
セーフティーゾーンは広場の中心に少し高くなったところに設置されていて、そこまでは海水が上がって来ないようになっている。
「セオイスギールさん、ダンジョンは慎重に攻略しなきゃダメって分かった?」
『……うん……気を付ける』
その言葉が聞けただけで、今日の配信を企画したかいがあったよ。
「何かあったら遠慮なくボクに連絡してね。すぐに駆け付けるから」
『……ありがとう』
うんうん、良い笑顔だ。
こんなかわいらしい笑顔をもっと沢山浮かべられるような世の中にするよう頑張らなくっちゃ。
"これはメス堕ちの顔"
"救様は一体何人落とせば気が済むのか"
"全人類"
"全魔物"
"全かのんちゃん"
"[シルバー友1] 全友達"
"[シルバー姉] 全家族"
『救ちゃま……相談が……あるの』
「え?」
転移の指輪を貸して帰るように言おうと思ったら、相談を切り出されちゃった。
『救済者のこと……公開したら……ダメ?』
「……どうして?」
救済者は勇者の『救済』役であり、勇者が探索者として活動を止めた場合に能力を引き継ぐ。
この話はまだ秘密にしていようというのが、ボクとセオイスギールさんの間で決めた事だった。
理由はボクとセオイスギールさんでそれぞれ違っていた。
ボクは日本にも勇者が存在すると知られてその勇者が誰なのか探されると勇者に迷惑がかかると思って言わないでいたんだ。
セオイスギールさんは救済者の意味が知られると、自分と同じように救済者が勇者の想いを引き継ぐことが増えて苦難するかもしれないと思って黙っていたかった。
でもセオイスギールさんは公開したいと意見を変えた。
一体何故だろうか。
かのんに配信音声を一旦止めて貰ってから話を続けよう。
『責任……苦しんでいる……勇者も……いるはず……だから……救済者……いれば……気が楽に……』
勇者として世界を救わなければならない責任。
それに押し潰されそうになっている人もいるかもしれない。
その責任が怖くて勇者だと名乗り出せない人もいるかもしれない。
でも自分がダメだったとしても変わってくれる人がいると分かれば気が楽になるかもしれない。
そういうことなのかな。
それはボクも考えたことがある。
でもそうだとしても二つの理由で情報公開しても上手くいかないんじゃないかって思うんだ。
その一つは、勇者になるような人物ならきっと救済者に責任を押し付けることになると感じて新たな重荷に感じてしまうのではないかということ。セオイスギールさんに託した勇者たちも、やむにやまれぬ事情があって苦渋の決断で引き継いだって聞いている。
そしてもう一つは救済者側の話だ。
「セオイスギールさんみたいになっちゃう探索者も出てきちゃうかもしれないよ」
勇者は救済されるかもしれないけれど、救済者への救済は存在しない。
受け取ってしまった重荷を背負って戦い続けるしかないのだ。
その結果、セオイスギールさんのように危ういメンタルになってしまう可能性は十分にあると思う。
情報を公開することで引継ぎが多く発生してしまったら、責任に押し潰されそうになる救済者が沢山生まれてしまうかもしれない。
『救ちゃまがいるから大丈夫』
「ボク!?」
どうしてそうなるのさ!
それにどうしていきなり流暢になるのさ!
『救ちゃまは私を助けてくれた。苦しんでいる勇者も救済者も大丈夫』
「いやいやいや、過大評価だよ!」
ボクはそんな大それた人間じゃないよ。
『ラストダンジョンクリアするでしょ?』
「う、うん」
『それが一番の救いだから』
ああ、そうか。
ボクはセオイスギールさんを助けるためにもラストダンジョンの攻略をより積極的にやろうと誓った。でもそれはダンジョン攻略という責任を背負った勇者や救済者全員を解放するってことにもなっちゃうのか。
いやでもボクなんかの誓い程度で皆の助けになるだなんてそんな大げさな……
『…………』
うっ……そんなキラキラした目で見つめられたら誤解ですなんて言えない。
しかもこれって、世界中の勇者と救済者に感謝されるかもしれないってことだよね。
どうしてこんなことに!
ってこの展開何回目なのさ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます