2. [配信回] 三陸沖ダンジョン 映えるでしょ!(ドヤ顔
セオイスギールさんに着替えて貰ってから今度こそ三陸沖ダンジョンに突入だ。
何故かセオイスギールさんが着替えるのを渋るから時間かかっちゃったよ。
『救ちゃまが……見たいなら……このままで……良いよ?』
とか意味不明なことを言うから説得するのが大変だった。
「それじゃあダンジョンに入るよ!」
三陸沖ダンジョンの入り口は沿岸部の崖の一部に作られた天然の洞窟内にある。
満潮だとボクの腰付近まで海に浸かっちゃうから、引き潮の時に入った方が入りやすい。
そしてその洞窟内を進んでダンジョンに入ると……
"海!"
"海海海海海海海海!"
"海のど真ん中!"
"360度見渡す限りの水平線"
"島影すら見えないねぇ"
"ダンジョンの入り口も消えてるし"
"中に入るとダンジョンのどこかに飛ばされるパターンかな"
"すぐに出られないのは怖いわ"
"え、もしかして二人とも海の上に立ってる?"
"本当だ"
"何かのスキルなのかな"
"スキル無いといきなり海にダイブとかパニックになりそう"
「スキルじゃなくて、普通に立てる設定になってるよ」
軽く足踏みして普通の地面と同じような感覚だってことを見せてあげる。
でも実は同じなのは感触だけで、ちょっとした問題がある。
『歩きにくい……』
海なので波打っていて、その上に立っているからバランスを取るのが大変なんだ。
「ここでは海の上を歩いて、何処かにある先への道を見つける必要があるんだよ。出口も何処かにあるけれど、そっちは脱出アイテムを使った方が楽かな」
かなり広いし目印が無いから現在地も分からないし、そんな状況で出口を探すくらいならアイテムを使うべきだと思う。
「先への道は海の中で、この中のどこかに立てなくて潜れる場所があるからそこを進むの」
"ええ……この中で探すとか無理すぎね?"
"昼間だから星を目印にも出来ないし、同じ場所ぐるぐる歩いちゃいそう"
"太陽を目印にすれば……っていうのも細かい調整が難しいか"
"しかもダンジョンだから当然魔物が出てくるんだよね?"
「もちろん海の中から襲ってくるからちゃんと注意しながら歩かなければダメだよ」
波のせいで足元が悪く、目印が無いから迷いやすく、海の中から魔物が襲ってくるので随時注意しなければならない。まさに最難関ダンジョンに相応しい難易度だ。
『面倒だから……飛ぶ……』
足元のグラグラが嫌だったのか、セオイスギールさんが飛びながら探索しようとして宙に浮いた。
「やめた方が良いよ」
『どうして?』
波の上を歩かないというのはここでのルール違反らしく、ペナルティが課されるから。
"あれ、空に何かいない?"
"いるね、鳥かな"
"十匹くらいいるけれど、あれも魔物だよね"
"海の中だけじゃなくて空にも気をつけなきゃダメなのか、エグイな"
確かにそうだったらもっと難易度が高くなるけれど、幸いにも空は気にしなくて良いんだ。
空から魔物が襲ってくるのは、飛んで探索しようとした時だけ。
『倒せば……良い……ふぁいあ!』
セオイスギールさんは三属性の竜と独自属性魔法を生み出して、空から急降下して攻撃しようとしてきた鳥の魔物達に放った。投げナイフはまだ射程範囲外だから入れてないのかな。
それは無くてもたった十体の魔物なら十分どころか威力高すぎてオーバーキル。
魔物達はあっという間に消し炭になってしまった。
"ひえっ……何度見てもえぐい"
"火力おぶ火力"
"真正面から叩き潰すって感じが超男前"
"男前っていうか、男の子って感じだよなw"
"超可愛い女の子なのになw"
"あれ、また魔物が出て来たぞ"
"しかも今回は数が倍以上いるぞ"
"なんだあの巨大な鳥は!?"
"ロック鳥か!?"
"どう見てもボス級じゃないか!"
大きさだけだよ。
強さは最難関ダンジョンでは中ほどくらいかな。
『的が……大きい……当たりやすい……だけ……ふぁいあ!』
セオイスギールさんはまたしても全力で向かい来る魔物達に攻撃して消し炭と化した。巨大な鳥は少し耐えたけれど三体の龍に絡まれて魔法弾を数発撃ち込まれたら絶命した。相変わらずとんでもない威力だ。
「そのくらいで止めた方が良いと思うよ」
『どうして……?』
ここまでの流れでこの先がイメージ出来ないのか。
やっぱり力押しでずっと探索をしてきて頭を使って来なかったのが彼女の大きな弱点になっている。
『ふぁいあ……ふぁいあ……ふぁいあ!』
空の魔物は出現するたびにセオイスギールさんに倒される。
でもその度に数が増えて再出現する。
それを何度か繰り返すうちについにはセオイスギールさんでも手が付けられない状況になってしまった。
『どうしよう……』
"うわああああああああ!"
"ぎゃああああああああ!"
"無理無理無理無理無理!"
"世界の終わりかな"
"空が魔物で埋め尽くされてるー!"
"青空がほとんど見えねぇ"
"魔物で太陽の光が遮られて真っ暗とかやべぇ"
"あの大群が外に出たら世界一瞬で終わるぞ……"
"やべぇやべぇ"
"あの量は流石にちびっこでも無理じゃね!?"
確かにセオイスギールさんの攻撃は威力が高くて範囲も広い。
でもそれでも抑え切れないくらいの物量で襲い掛かられたらどうしようもない。
それにこれだけの量で襲われると彼女の超回避のスキルでも避け切れない可能性が高い。
回避型にとって苦手な面攻撃とほぼ同等な密度の攻撃になってしまうからだ。
「慌てない慌てない」
やはり想定外の逆境には弱いのか、口調はまだ淡々としているけれど表情からは焦りが隠せない。
今回のことは良い薬になったかな。
その件のお話は後にして、まずはこの状況をどうにかすることを優先しよう。
「かのん、今からボクが範囲攻撃するから避けるかボクの近くにおいで」
どうやらかのんは避けて映像を撮り続けることを選んだようだ。
あれだけ小さいカメラなら大丈夫だとは思うけれど心配だな。
ううん、違うか。かのんを信じよう。かのんはボクの頼もしいパートナーだし、これからも一緒にダンジョン探索して配信するのならばこのくらいは出来るようになってもらわないとね。
「それともう一つ、今回はエフェクト無しでお願いね」
何故ならエフェクトが無くともかなり配信映えするスキルを使うからだ。
「セオイスギールさんは降りて来て」
『…………うん』
彼女が飛んだままだと、例えボクが魔物達を一掃してもまた出現してしまう。
それにボクの攻撃に巻き込まれてしまうからね。
「それじゃあ行くよ!」
そろそろ魔物達が襲い掛かって来るだろう。
その前に特大スキルの発動準備を済まさないと。
目を閉じて魔力操作に集中する。
魔力展開。
波打つ海面に沿って広く、広く、ひたすら広く。
魔力浸透。
海水に魔力を染み込ませ、意のままに操れるようにする。
幸いにも足元の海水は魔力操作の対象として認められているから出来る芸当だ。
そして操った海水を無数の粒の形で浮かび上がらせ、それの形を槍状にしてから上空へと勢いよく打ち出した。
「逆さ槍雨」
上空から降り注ぐ雨が大海に吸収される様子を逆再生するかのように、空に向かって降らせる逆さの雨。それが数多の魔物達へと牙を剥き、ボクらの所へ辿り着かせることなく撃ち落とす。
"すっげええええええええ!"
"うおおおおおおおおおお!"
"空に雨が降ってる!?!?"
"魔物が次々と消えて行く……"
"あのでっかい魔物も連打喰らってあっさり……"
"範囲も凄いが、一粒の威力がヤバくね?"
"魔力を混ぜただけの海水だろ。何故だ"
"確かに、範囲も威力も凄い。凄いが、何より凄いのはこの景色だろ"
"救様を中心に雨が上昇する神秘性"
"空を見上げれば無数の魔物が次々と消滅してその隙間から太陽の光が差しこんでくる"
"暴力的な美しさと神秘的な美しさが混じっていて……"
"これは見惚れる"
"下手なエフェクト入れたら逆効果"
"救様も映えが分かって来たか"
"いやいやこれは誰でもそのまま見せたいって思うだろ"
"[シルバー友1] しゅごい……"
海が広がっていて沢山の鳥の魔物を撃ち落とすっていうシチュエーションだからこそ役に立つ、使いどころが限られるスキルなんだよね。
海じゃなくて普通の地面でも石や土を操って出来なくは無いんだけれど、地面だと操る物の質が場所ごとに違うから難易度が跳ね上がるんだ。その点、海だとどこを切り取っても同じものだから操りやすい。
『救ちゃま……凄い……』
セオイスギールさんも気に入ってくれたようで満足だ。
コメントの皆は……うん、大喜びしてくれてるね。
ちなみに成功したからと言ってここで油断すると酷い目に遭う。
空に打ち上がった雨粒をひとまとめにして、ボク達に当たらない遠くの海に落下させる。
こうしないと水が落ちて来てびしょ濡れになっちゃうからね。
さぁ、仕上げだよ。
空気中の水分を完全に取り除くんじゃなくて、ある程度を残しておくことで……
"虹だ!"
"超くっきり!"
"これも救様が?"
"だろうな。だって救様の顔www"
"超ドヤ顔!"
"かっっっっっっっっ"
"REC"
"久しぶりのドヤ顔たすかる"
"さっきまでの格好良い感じとのギャップがたまらんw"
"やっぱり最後は虹でしょ(キリッ"
"決まった(キリッ"
"救様ったら自分がやったことの意味を分かってるのかな"
別にドヤ顔なんてしてな……あれ、自分がやったことの意味?
何か嫌な予感がするんだけれど。
"あれほど神秘的な大魔法?大スキル使ったらもっと神々しく見えちゃう"
"文字通り『神』秘的だったよな"
"神様の御業って感じがした"
"疑似的に天候を操ってしかも反転してるんだから残当"
"つまり今まで以上に崇めたくなっちゃう"
"救様!"
"救様!"
"神様!"
"神様!"
"ぷ神様!"
"[シルバー友1] 救様!"
「ぷぎゃああああああああ! 崇めなくて良いから!」
そんなつもりで使ったわけじゃないのに。
ただ格好良いから見せたかっただけなのに。
ボクは神様なんかじゃないよー!
『救ちゃまは……かみさま?』
「違うから、ボクは普通の人だよ」
『普通……?』
「どうしてそこで疑問形になるのさ!」
たまにはオチなく終わってくれても良いと思うんだ。
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